蕁麻疹・寒冷蕁麻疹

慢性蕁麻疹・寒冷蕁麻疹について

蕁麻疹(じんましん)とは

蕁麻疹とは、痒みとともに一過性の膨疹(真皮上層に限局性の浮腫をともなうもの)を生じる皮膚の病です。通常強い痒みを伴い、広い範囲に見た目の明らかな発疹を起こします。数分から数日以内に治癒していくものを急性蕁麻疹といい、食事などによって起こるアレルギー型と、物理的刺激(圧迫や寒さ)や精神的刺激(ストレスなど)によって起こる非アレルギー型に分けれます。中には一か月以上に及ぶものもあり、これを慢性蕁麻疹といいます。慢性蕁麻疹は自己免疫疾患に付随して起こることもありますが、多くが特発性、つまり原因不明です。

●治りにくい蕁麻疹と漢方治療
西洋医学では抗ヒスタミン薬と呼ばれる痒み止めを使います。これで跡形もなく改善する一時的な蕁麻疹であればまったく問題ありません。しかし抗ヒスタミン薬にてなかなか改善へと向かわず、一か月以上に及んだり再発を繰り返すようになると治療が難しくなってきます。重症例ではステロイドのような強力な炎症止めを内服することもあります。しかし当然副作用が危惧されるため、あくまで重症例のみに使用します。中には血管性浮腫といって皮膚より深い部分に腫れが起こる場合もあります。血管性浮腫は顔面や唇・のど・舌・気道に起こることがあり、気道が塞がって呼吸が妨げられると命に関わります。このような状態になる前に、つまり抗ヒスタミン薬が効かないという時点で、漢方治療を検討するべきだと思います。漢方に造詣の深い治療者であれば、蕁麻疹は比較的容易に解決できる疾患です。

また西洋医学では治りにくい蕁麻疹に寒冷蕁麻疹があります。寒さや冷えといった寒冷刺激を受けると膨疹が発症するという蕁麻疹です。抗ヒスタミン薬を使ってもなかなか完治しない蕁麻疹ですが、これも漢方治療によって改善しやすい疾患です。

蕁麻疹は、強い痒みが生じると同時に、見た目にも不快感の強い病ですので、お困りの方はなるべく早めに漢方専門の医療機関におかかりになることを強くお勧めします。

参考症例

まずは「蕁麻疹」に対する漢方治療の実例をご紹介いたします。以下の症例は当薬局にて実際に経験させて頂いたものです。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

症例|皮膚科での漢方治療が効かなかった蕁麻疹

40代女性、一カ月前から起こる蕁麻疹の強い痒みが起こり、皮膚科を受診された患者さま。病院にて適切な漢方薬を服用したのにも関わらず効果が表れませんでした。漢方薬を効かせるために必要な配慮。経験の中で積み重ねられたコツ。効果を発揮するための漢方治療を具体例を示しながら紹介いたします。

■症例:蕁麻疹(じんましん)

参考コラム

次に「蕁麻疹・寒冷蕁麻疹」に対する漢方治療を解説するにあたって、参考にしていただきたいコラムをご紹介いたします。参考症例同様に、本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

コラム|蕁麻疹(じんましん)~なぜ繰り返すのか?漢方から紐解くその理由

激しい痒みが起こる蕁麻疹。一時的なものであればそれほど問題なく改善するものですが、繰り返してしまう治りきらない蕁麻疹となると非常に厄介です。このような蕁麻疹に対して漢方治療は確かに有効です。しかし何故効果を発揮することができるのでしょうか?漢方薬が具体的にどうやって蕁麻疹を治しているのか、そして漢方では慢性経過する蕁麻疹をどのように捉えているのか、これらの点について詳しく解説していきます。

□蕁麻疹(じんましん)~なぜ繰り返すのか?漢方から紐解くその理由~

コラム|寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・前編~

寒冷刺激を受けることで発生する蕁麻疹を寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)といいます。繰り返し起こってしまう場合、抗アレルギー薬などでは根治しにくく、その一方で漢方治療によって改善するケースの多い疾患です。しかしなぜ漢方治療によって根治が可能なのでしょうか。実は漢方には西洋医学にはないアプローチの手法があります。お困りの方が多い寒冷蕁麻疹、その漢方治療の実際を前編・後編にわたって詳しく解説していきます。

□寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・前編~

コラム|寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・後編~

寒冷蕁麻疹にて核になる治療、「発表法(はっぴょうほう)」。甘草麻黄湯を基本とした処方群によって行われるこの手法は、正確に適応すると迅速な効果を発揮します。ただし発表法を用いて実際に効かせるためにはコツが必要であり、さらに発表法自体の弱点を良く知った上で運用しなければ体に害が及ぶこともあります。お困りの方が多い寒冷蕁麻疹、その漢方治療の実際を解説する後編です。具体的な処方運用の妙について詳しく解説していきます。

□寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・後編~

コラム|漢方治療の経験談「蕁麻疹と寒冷蕁麻疹治療」を通して

当薬局でもご相談の多い蕁麻疹と寒冷蕁麻疹。日々治療を経験させていただいている中で、実感として思うこと、感じたことを徒然とつぶやいたコラムです。

漢方治療の経験談「蕁麻疹と寒冷蕁麻疹治療」を通して

使用されやすい漢方処方

①消風散(しょうふうさん)
②黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
③竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
④大柴胡湯(だいさいことう)
⑤越婢湯(えっぴとう)
⑥大青龍湯(だいせいりゅうとう)
⑦香蘇散(こうそさん)
⑧麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①消風散(外科正宗)

 「風湿」と呼ばれる病態に適応し、皮膚に水がせり出し、強い痒みを生じる皮膚病に用いられる。蕁麻疹では第一選択薬として用いられることが多い。ただしこの処方は単独では充血性の炎症を抑える効果が弱い。黄連解毒湯などの黄連剤を合わせることが多い。
消風散:「構成」
石膏(せっこう):知母(ちも):荊芥(けいがい):蝉退(せんたい):防風(ぼうふう):木通(もくつう):苦参(くじん):蒼朮(そうじゅつ):胡麻(ごま):牛蒡子(ごぼうし):当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう):

②黄連解毒湯(肘後備急方)

 清熱薬として有名な本方は、各種皮膚病の強い炎症状態に広く応用される。消風散は炎症を抑える効果が弱いため、本方と合方されることが多い。血管拡張性の炎症、つまり患部の赤味や充血が強い炎症に適応する。血管内から滲出液が強くせり出す膨疹、つまり腫れが強い場合は石膏を加える必要がある。また蕁麻疹では苦参や白癬皮といった痒み止めを加える。
黄連解毒湯:「構成」
黄連(おうれん):黄芩(おうごん):黄柏(おうばく):山梔子(さんしし):

③竜胆瀉肝湯(薛氏医案)(漢方一貫堂医学)

 炎症の甚だしい蕁麻疹はしばしば「湿熱(しつねつ)」という病態を形成する。本方は湿熱治療の代表方剤。もともと陰部湿疹などの下半身の皮膚疾患に用いられること多い。仕事などのストレスによって発症を繰り返すタイプの蕁麻疹にも良く用いられる。一貫堂の竜胆瀉肝湯は薛氏医案の方剤を改良したもので、解毒証体質と言われる炎症を生じやすい体質治療に用いられる方剤。やはり湿熱性の炎症に用いる。
竜胆瀉肝湯(薛氏医案):「構成」
竜胆(りゅうたん):山梔子(さんしし):黄芩(おうごん):木通(もくつう):沢瀉(たくしゃ):車前子(しゃぜんし):)当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう)

竜胆瀉肝湯(漢方一貫堂医学):「構成」
竜胆(りゅうたん):山梔子(さんしし):黄芩(おうごん):木通(もくつう):沢瀉(たくしゃ):車前子(しゃぜんし):)当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう):芍薬(しゃくやく):川芎(せんきゅう):黄連(おうれん):黄柏(おうばく):連翹(れんぎょう):薄荷(はっか):防風(ぼうふう):

④大柴胡湯(傷寒論)

 繰り返す蕁麻疹に有効な場合がある。精神的刺激(ストレス)や酒・油物の飲食によって悪化するものに適応しやすい。蕁麻疹では茵蔯蒿や山梔子・黄連などを加味されることが多い。本方は胃薬でもある。体格・肉好きの良さに関わらず、「心下急」と言われる鳩尾(みぞおち)の緊張状態を目標とする。
大柴胡湯:「構成」
柴胡(さいこ):黄芩(おうごん):半夏(はんげ):枳実(きじつ):芍薬(しゃくやく):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):大黄(だいおう):

⑤越婢湯(金匱要略)

 麻黄・甘草という利水剤に石膏を配する本方は、滲出性炎症を改善する薬能を持ち、蕁麻疹に単剤もしくは合方としてしばしば用いられる。本来は「風水」と呼ばれる全身的かつ急激な炎症による腫れに適応する。現在では限局された患部の滲出性炎症を抑える薬として用いられることが多い。
越婢湯:「構成」
麻黄(まおう)・甘草(かんぞう):石膏(せっこう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう)

⑥大青龍湯(金匱要略)

 麻黄・甘草・石膏という浮腫に適応する薬対を持つ処方の一つ。突発的に生じる滲出性炎症に適応し、山本巌先生は「蕁麻疹で寝床の中に入るといてもたってもいられないくらい痒くなって、ワーッと出てくるのがあるんです。毎晩寝床に入ると痒くなってきて、かきむしるとバーッと膨疹が出てくる。そういうのに大青龍湯を使います。」と説明している。越婢湯は「風水」にて外の水が皮毛に張り出し、大青龍湯は「溢飲(いついん)」にて内の水が外に張り出す。
大青龍湯:「構成」
麻黄(まおう)・甘草(かんぞう):石膏(せっこう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):桂枝(けいし):杏仁(きょうにん):

⑦香蘇散(太平恵民和剤局方)

 紫蘇葉を用いることで改善する蕁麻疹がある。これを方中に備えた香蘇散は、食事性蕁麻疹に有効とされ、魚介類によって起こった蕁麻疹に用いる機会がある。ただし紫蘇葉を大量に用いなければ効果はない。また炎症が強ければ清熱薬を選択するべきである。
香蘇散:「構成」
紫蘇葉(しそよう):生姜(しょうきょう):陳皮(ちんぴ):香附子(こうぶし):甘草(かんぞう):

⑧麻黄附子細辛湯(傷寒論)

 寒冷蕁麻疹の第一選択薬。寒さや冷えを感じた後に発症する蕁麻疹に適応し、膨疹は淡赤色から白色で充血が弱い。麻黄・附子・細辛はともに温薬で、身体の血行を促す。長く服用することで寒冷刺激を受けても蕁麻疹が発症しにくい体質へと導く本治薬でもある。桂枝麻黄各半湯や桂姜棗草黄辛附湯もこの類に属し、寒冷蕁麻疹に用いられる。
麻黄附子細辛湯:「構成」
麻黄(まおう):附子(ぶし):細辛(さいしん):

臨床の実際

蕁麻疹は皮膚(真皮上層)にできる「浮腫」です。正確には炎症によって毛細血管および静脈の血管透過性が高まり、血管が拡張して、血管から液体成分が滲出したものです。西洋医学ではこれを滲出性炎症といいます。

炎症が強ければ浮腫に熱が伴います。則ち赤味が濃く充血し、腫れの勢いが強く全体に広がる傾向があり、痒みが甚だしくなります。逆に炎症がそれほど強くなければ熱感は少なくなってきます。膨疹が白色に近く、掻いたところに膨疹が浮き出る程度で腫れもそれほど強く起こりません。そして時に寒冷刺激が発症のきっかけとなります。

このように皮膚に起こる「浮腫」を中心に、「熱」の方向へ傾く病態と「寒」の方向へ傾く病態がある。蕁麻疹の標治(ひょうち:起きている症状をとにかく抑える治療)はこの理解が基本です。

蕁麻疹の具体的治療

●「風湿」から「湿熱」へ
基本は消風散です。「風湿」と呼ばれる湿潤傾向のある痒みを抑える処方です。しかし炎症を抑える効能が弱いため黄連解毒湯は基本的に加えます。十味敗毒湯や荊防敗毒散よりも消風散がベターです。これらには利水作用があまりないからです。浅田宗伯も膨疹に十味敗毒湯を用いる時には除湿丸を兼用しています。消風散合黄連解毒湯、それに石膏や黄連の分量の調節、これで大部分の蕁麻疹に対応することができます。

しかし当然ながらそれでも治まらない蕁麻疹があります。「風湿」は炎症が強まると「湿熱」に移行します。竜胆瀉肝湯を用います。湿熱は熱が強い場合と湿が強い場合とがあります。湿が強いと、本人は熱感を訴えるも実際に触ってみるとそれほど熱くないという状態になります。これを「身熱不揚(しんねつふよう)」といい、この場合は「温病」の手法を用います。「湿熱」はお酒や油もの・甘い物の飲食によって悪化します。これらの食事は火に油を注いでいるようなものです。強い炎症反応を起こす蕁麻疹を繰り返さないようにするためには、食事の節制が必須です。炎症を消風散の加減や竜胆瀉肝湯で抑えた後、蕁麻疹を繰り返さないようにするために消化管の湿熱を去る方剤を使うこともあります。半夏瀉心湯や芩連平胃散などを使います。

●「風湿(風水)」から「寒湿」へ
「湿熱」に属する蕁麻疹は刺激に敏感で出やすく、一旦出ると引きにくいという傾向があります。逆にいつも出ているわけではないが、出る時は勢いが強いという蕁麻疹もあります。引くけれども出る時にはバーッと勢いよく出て全身が痒くなり、掻きむしると膨疹がどんどん広がっていくというパターンです。こういう蕁麻疹に越婢湯や大青龍湯が劇的に著効することがあります。麻黄・甘草・石膏の薬対を適応させるべき蕁麻疹です。

麻黄・甘草は「浮腫」の治療薬です。蕁麻疹で起こる浮腫は、体が受けた刺激を体外に排除しようとする反応によって起こります。刺激の排除が済めばこの反応は治まります。しかし刺激の排除がスムーズにいかないと、この反応が出つづけて排除しきるまで蕁麻疹はおさまりません。麻黄・甘草の薬対は外に出そうとする反応を助けて、スムーズに終息へと導きます。炎症を抑えるというよりは、炎症反応を強く起こさないですむような状態へと導く治療です。

寒冷蕁麻疹は冷たい刺激によって一時的に血行が悪くなり、それがいつまでも回復しないために刺激を外に出しきれないという病態です。したがって麻黄・甘草の薬対に、血行を促す生薬が配合された処方を用います。代表的な方剤は麻黄桂枝各半湯や麻黄附子細辛湯です。これらの処方は炎症を起こさないですむような状態へと導きます。したがって長く服用すると、寒冷蕁麻疹を起こさない体にしていくことが可能です。

炎症の強い順に「湿熱」・「風湿」・「寒湿」と病態が分けられます。ただし蕁麻疹は基本的に炎症を強く起こし、強い痒みを伴います。したがって臨床的には「風湿」と「湿熱」の段階が最も頻発します。症状によってどの方剤を用い、どの程度の清熱薬を使うかを見極めることが重要です。そういう正確な見極めが、漢方薬の即効性を決めるからです。

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