多汗症・臭汗症・わきが・すそがについて

発汗異常は漢方治療をお求めになる方が非常に多い疾患です。発汗自体は人体にとって正常な反応です。しかしそこに不快感を伴う場合は、体が正常な発汗を行なえていない可能性があります。自律神経の乱れによって起こっている場合や、西洋医学的に原因がわからないといった場合では、治療が難しいと判断されることが多いと思います。東洋医学では古くから症状としての汗に注目してきた歴史がありますので、その治療方法にも一日の長があると言えそうです。

汗は汗線から分泌されます。そして汗線には2種類あります。エクリン線とアポクリン線です。エクリン線から分泌される汗はほぼ100%水分です。交感神経に支配されて全身性または局所性の発汗を行います。一方でアポクリン線は腋(わき)や性器部などに集まっています。出される汗は脂質に富み、脂ぎって粘稠度が高いのが特徴です。多汗症はエクリン線からの発汗異常として発現しやすく、反対にアポクリン線の分泌過多は腋臭症を発生させます。

「多汗症」について

多汗症とは発汗が過剰となったものです。からだ全体から発汗するびまん性のものと、わき・手のひら・おでこ・足の裏など部分的に発汗する局所性のものがあります。多汗症は様々な原因で起こります。風邪などの感染症や甲状腺機能異常、更年期に伴うものや、リンパ腫などの悪性腫瘍によっても起こります。このように原因となる病が明らかであれば、その治療を行います。しかし多汗症は特発性といって原因不明のものが大半です。

大量発汗のきっかけとして多いのが温度と緊張です。暑い部屋に入ったり夏になったりすると大量に発汗していつまでも止まらない、また緊張する場面になると頭や首・手のひらや脇から汗が滝のように出て止まらないといった具合です。本来、温度や緊張によって汗をかくというのは正常なことです。したがって病かどうかは程度の問題で、本人の不快感や感覚によります。そのため医療機関にかかっても気の持ちようとして片付けられてしまうことも多々あるようです。しかし明らかにぼたぼたと滴るように汗をかいて、衣服がびしょびしょになってしまうような汗のかき方は、やはり治療が必要です。また緊張した時に一瞬じわっと汗をかく程度ならば誰でも起こることですが、頭から汗が流れて止まらなかったり、手汗のために書類がびしょびしょになって字が書けないというようなことが繰り返し起こる場合は、やはり治療が必要です。

多汗症と漢方
原因不明と言われる多汗症でも、漢方薬では打つ手があります。汗をかくこと自体は正常なことですので、汗をかかなくするわけではありません。異常な発汗の程度を軽くするという感覚です。うまく処方が適応すると、最初に受ける変化としては、汗をかいても引きやすくなった、汗をだらだらとかき続けることがなくなったと感じられるようです。そして服用を続けるうちに「そういえば大量にかいてた汗が今はあまり気にならない」という感覚を受けるようです。

「臭汗症」について

臭汗症は体臭が過剰または異常になった状態を指します。そのうち腋(わき)部の臭いがきついものを腋臭症(えきしゅうしょう)といいます。一般的にはワキガと呼ばれたりします。それに対して陰部の臭汗症はスソガと呼ばれたりします。

汗は皮膚に常在している細菌よって分解されると特有の匂いを発します。一般的に言われる汗臭さ(酸っぱいような匂い)は誰でも起こることで、これはエクリン線から分泌された汗が分解されて発する臭いだと言われています。これとは別に脂質に富んだアポクリン線からの分泌液が常在菌によって分解されると、本来の汗臭さとは明らかに異なった独特の匂いを発するようになります。これがワキガやスソガと言われる匂いの原因です。

臭汗症と漢方
良く体を洗い皮膚を清潔に保つこと、制汗剤の使用、脱毛などによってこの匂いは軽減します。またアポクリン線を取る手術も一つの方法です。しかしそれでも匂いが治まらないという方もいます。漢方薬と食事の節制によって体質改善を図ると、匂いの程度が軽くなっていきます。例えば一日に何回も使っていた制汗剤が数回ですむようになった、周りの人の反応が無くなり気にならなくなった、などの感想を実際に患者様が教えてくれます。

本来、東洋医学ではその方の病態を見極めるために、汗のかき方をかなり重視します。したがってその治療方法にも多くの手法が存在します。多汗症や臭汗症はこういった治療方法の中から選択されるのが一般的です。ただし、汗に対する有名方剤を一律的に使っても効果は表れません。例えば「汗出」という症状に適応する防己黄耆湯は止汗剤として有名です。しかし防己黄耆湯は単剤で多汗症や臭汗症に使ってもあまり効きません。大切なのは「東洋医学的に汗が出る・汗が止まらないという症状が何故起こるのか」という点をしっかり読み取った上で治療できるかどうか、です。

使用されやすい漢方処方

①防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)
②五苓散(ごれいさん)
③九味檳榔湯(くみびんろうとう)
④桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)
⑤茯苓桂枝五味甘草湯(ぶくりょうけいしごみかんぞうとう)
⑥玉屏風散(ぎょうくへいふうさん)
⑦補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
⑧柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
⑨四逆散(しぎゃくさん)
 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
 大柴胡湯(だいさいことう)
⑩三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)
⑪当帰六黄湯(とうきりくおうとう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①防己黄耆湯(金匱要略)

 「汗出」という症状に適応することから、止汗剤として有名。多汗症に頻用されている傾向がある。黄耆剤に属し、柔らかく湿り気を帯びる皮膚感を持つ体質者に適応する方剤。ただし防已黄耆湯で適応となる「汗出」とは一種の風邪のような状態のときに起こる発汗である。したがって多汗症に一律的に用いて良いものではない。分量の調節なども含めて、効かせるにはコツがいる。
防己黄耆湯:「構成」
防已(ぼうい):黄耆(おうぎ):蒼朮(そうじゅつ):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):

②五苓散(傷寒論)

 水分代謝異常に使う代表方剤。夏場の多汗症に用いる機会が多い。口渇・小便不利が最大目標となる本方は、夏場に汗をかいた後のどが渇いて水を大量に飲みたがり、飲んでもしばらくするとまたのどが渇く、同時に全身の汗が止まらないという場合に良い。適合すると小便の出が良くなると同時に汗が止まる。適応すれば即効性がある。夏バテ予防に人参剤と合方して服用するのも良い。
五苓散:「構成」
茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):沢瀉(たくしゃ):猪苓(ちょれい):桂枝(けいし):

③九味檳榔湯(勿誤薬室方函口訣)

 水分代謝を改善する方剤として夏場に用いる機会がある。夏になると膝から下が冷え、足が抜けるようにだるく、時につりやすく、顔・手・足が腫れて浮腫みやすい、階段や坂道ですぐに息が切れる、寝る時に足を高く上げないとせつない等の症状を持つ者の多汗症に著効する。東洋医学的には「飲病(いんびょう)」という病態に属し、飲んだ水が身体に貯留する状態を指す。古くは脚気様症候群といって心臓の弱りに用いた。大黄を抜き、呉茱萸と茯苓を加え、五苓散を合わせることが多い。細野史郎先生の論文及び山本巌先生の解説に詳しい。
九味檳榔湯:「構成」
檳榔時(びんろうじ):厚朴(こうぼく):桂皮(けいひ):陳皮(ちんぴ):紫蘇葉(しそよう):木香(もっこう):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大黄(だいおう):

④桂枝加黄耆湯(金匱要略)

 「黄汗」と呼ばれる病態に用いる。緊張性発汗や寝汗、臭汗症に用いる機会が多い。労気、つまり疲労を伴う自律神経失調に適合する方剤で、特有の虚状があるかどうかが運用の決めてとなる。竜骨や牡蛎を加えて用いられることが多い。竜骨は頭を休め、気を落ち着かせる。牡蛎は粘稠な汗をサラッとさせる。驚き易く、じわっと汗をかきやすい者に良い。ただしエキス顆粒剤では効力が弱く、充分に効能を発揮することができない。
桂枝加黄耆湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):黄耆(おうぎ):

⑤茯苓桂枝五味甘草湯(金匱要略)

 本来「面翕然として酔状の如く」つまり顔面が酔ったように赤くなるという状態に用いる方剤。のぼせや頭痛、頭汗に応用される。急激に暑い部屋に入ったり、緊張した時に頭から汗が止まらないという方に良い。桂枝・甘草の薬対を持つ方剤は総じて「気上衝」に適応する。上衝とは自律神経興奮状態の一種で、下腹部から突き上げるような動悸やのぼせ等の症状を伴う。
茯苓桂枝五味甘草湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):桂枝(けいし):五味子(ごみし):甘草(かんぞう):

⑥玉屏風散(丹渓心法)

 自汗・盗汗(寝汗)の代表的な基本方剤。多汗症・臭汗症に応用される。中医学では本方の適応を「表虚不固」と示し、外部から身体を守る皮膚機能が弱り、汗を止めておけなくなったものと説明している。風邪をひきやすい・疲れやすいなどの虚状を呈するものの多汗症に適応する。黄耆剤として他剤と合方する時に便利な処方である。
玉屏風散:「構成」
黄耆(おうぎ):白朮(びゃくじゅつ):防風(ぼうふう):

⑦補中益気湯(内外証弁惑論)

 疲労感を伴う多汗症に用いられる。胃腸機能を回復し、疲労を去り、筋肉の緊張程度を高めて、ガクッと落ちた気力・体力を回復させる方剤。疲労と共にダラダラとかく汗を止める作用がある。虚を補う方剤として有名であるが、見た目頑強にして体力のある人でも、疲労が抜けない時はある。本方はこういう方にて汗をダラダラと流すような者にむしろ著効しやすい。
補中益気湯:「構成」
人参(にんじん):黄耆(おうぎ):当帰(とうき):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):陳皮(ちんぴ):白朮(びゃくじゅつ):柴胡(さいこ):升麻(しょうま):

⑧柴胡加竜骨牡蛎湯(傷寒論)

 「胸満煩驚」という自律神経の過敏・興奮状態が最大の目標。一つのことが気になりだすと止まらず、焦り不安になっていてもたってもいられなくなり、手のひらや額にダラダラと汗をかく。少しのことで驚きやすく、動悸して息苦しい。体がおもだるく、小さな物音が気になって眠れない。甚だしいと手足に力が入って上手く動かせず、胸脇部が苦しく体をよじって伸ばしたくなるという。頭痛・耳鳴り・めまい・動悸・不眠・不安感・焦燥感・イライラなど様々な症状を出現させる病態に適応する。上手く使うには合方も含めてコツがいる処方である。体力充実した者に適応するという解説もあるが、私見では体力は関係ない。とにかく「胸満煩驚」という病態に陥っているかどうかが運用のカギである。
柴胡加竜骨牡蛎湯:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):人参(にんじん):黄芩(おうごん):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):桂皮(けいひ):茯苓(ぶくりょう):竜骨(りゅうこつ):牡蛎(ぼれい):大黄(だいおう):

⑨四逆散(傷寒論)柴胡桂枝湯(傷寒論)大柴胡湯(傷寒論)

 緊張性発汗に用いる場がある。四逆散は「肝鬱(かんうつ)」と呼ばれる自律神経の緊張状態に適応する。緊張して手から汗を滴らせる、同時に腹痛や頭痛を起こす、イライラしてふさぎ込むなどの症状を目標に用いられやすい。柴胡桂枝湯と大柴胡湯は四逆散の変方とみなせる。運用には虚実の差がある。
四逆散:「構成」
柴胡(さいこ):芍薬(しゃくやく): 甘草(かんぞう):枳実(きじつ):

柴胡桂枝湯:「構成」
柴胡(さいこ): 半夏(はんげ): 桂枝(けいし):黄今(おうごん): 人参(にんじん): 芍薬(しゃくやく): 生姜(しょうきょう): 大棗(たいそう): 甘草(かんぞう):

大柴胡湯:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):黄芩(おうごん):芍薬(しゃくやく):枳実(きじつ):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):大黄(だいおう):

⑩三黄瀉心湯(金匱要略)

 出典には「瀉心湯」と記載され、吐血や鼻血の止血薬として紹介されている。現代では交感神経の興奮状態を沈静させる薬として運用することが多い。多汗症や臭汗症では黄連剤によって改善するべきものがある。赤ら顔でイライラが強いなどの症状に対して用いるが、多くが他剤との合方として用いられる。
三黄瀉心湯:「構成」
黄連(おうれん):黄芩(おうごん):黄柏(おうばく):

⑩当帰六黄湯(蘭室秘蔵)

 もと盗汗(ねあせ)の治療薬。「陰虚(いんきょ)」と呼ばれる病態に適応する。「陰虚」とは身体の水分が枯渇し、それ故相対的に熱が高まりやすくなった状態をいう。身体がカーッと熱くなりやすく、夜間に頭や手足のひらがほてって寝汗をかくもの。これを陰虚火動(いんきょかどう)という。ただし陰虚火動は日中でも起こる。つまり本方は寝汗のみならず、日中にかく汗を引かせる効能もある。曲直瀬道三や浅田宗伯も指摘するところであり、昼・夜の区別なく陰虚火動を目標に本方を運用する。私見では更年期におけるホットフラッシュ様の汗に適応するケースがある。
当帰六黄湯:「構成」
黄連(おうれん):黄芩(おうごん):黄柏(おうばく):黄耆(おうぎ):当帰(とうき):熟地黄(じゅくじおう):生地黄(しょうじおう):

臨床の実際

多汗症や臭汗症で問題となるものの多くは、神経過敏や自律神経失調を介在させています。漢方による多汗症治療は、まさにこの自律神経の乱れを調えるという点にあります。緊張によって頭や胸・ワキや手のひらなどに局所的な発汗が起こりやすいという方は、明らかに自律神経を乱しています。また夏になるとからだ全体から汗が出て止まなくなるという、一見自律神経とは関係がないように見える症状でさえ、自律神経の興奮状態が関与しています。人体の発汗は自律神経によって支配されているからです。

自律神経の乱れと発汗異常

自律神経失調というと精神的な病、というようなイメージが付きまといますが、それは違います。自律神経の乱れは、あくまで体の乱れであって脳の乱れではありません。つまり体のある部分の活動が失調しているために、体の緊張・興奮状態が解除されず発汗異常が継続している方が、多汗症や臭汗症には多いのです。

ただし一口に自律神経を安定させるといっても、自律神経の乱れ方は千差万別です。そして安定のさせ方についても100人いれば100通りの手法があるといっても過言ではありません。つまりその方の状態に合わせて薬方の種類・分量を調節することが絶対条件となります。そのあたりの選択の仕方が実際の効果発現に大きく影響してきます。

●効果を発揮するための薬味の選択
例えば、辛いものは体を温めて汗を出させます。反対に酸っぱいものは体を引き締めて汗を止めます。そのため、多くの止汗剤の中に芍薬や五味子といった酸味を持つ生薬が配合されています。しかし人によっては汗を出させるはずの辛味を入れなければ、汗が止まらない方もいます。不思議に思うかも知れませんが、これにも理由があります。

身体に冷えがある人は、ただ冷えているだけではありません。冷えと同時に、体はそれを温めようと頑張り続けています。いつまでも体を温めようとして興奮してしまっているのです。こういう方は冷えをあまり訴えません。体が微弱な興奮状態を継続しているため、むしろ暑がりだったりします。しかし体の中を漢方薬で温めるとホッと落ち着き、不思議と興奮が治まって体表の熱感が取れ、汗がひきます。こういう細部の見極めに基づいた処方選択が、効果発現のためには非常に重要になります。

●効果を発揮するための分量調節
また処方の選択だけでなく、その分量の調節も非常に重要になってきます。例えば、止汗剤として有名な防己黄耆湯はエキス顆粒剤で使う場合、2倍量・3倍量で使用して初めて効果が出はじめます。そういう時は常用量で使用しても効果は出ません。防己黄耆湯が効かないのではなく、効かない使い方をしてしまっているのです。一方で、三黄瀉心湯などの清熱薬はごく少量で使って初めて良い効果が出ることもあります。冷たい水に手を入れて、その後水から抜くと、手がホカホカと温まってきます。これと同じ理屈で、少量の清熱薬は逆に体を温めることで、緊張や興奮を落ちつける効果を発現します。

●自律神経と漢方
自律神経は変化を常としています。そして漢方薬は一律的に決まった効能を持っているわけではなく、その使い方によって可変的・流動的な薬能を発現します。変化を常とする自律神経を安定させるには、こういった細かな見極めと選択・調節が必要になります。日常的な自律神経活動である発汗を調節する場合では特に、こういった配慮が重要になってきます。

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