更年期障害について

「更年期」という言葉には、それだけでネガティブなイメージがありますが、これ自体は病の名称ではありません。閉経に伴い卵巣機能の変化がおこる「時期」のことを更年期といいます。月経という出産のメカニズムは、ある意味で生命力を全力で謳歌している状態です。これをずっと続けることは人体にとって大きな負担でしょう。50歳前後になると、そろそろ踏みっぱなしだったアクセルを緩める必要があります。前向きに捉えれば、更年期とはこういった身体への負担を軽減させようとしている時期であるとも言えます。

更年期障害とは

更年期障害はこのような体の変化が必要とされる時期に、それが上手く移行できていないことで起こります。医学的には「更年期におこる多種多様な症候群で器質的変化に相応しない自律神経失調を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群」と定義されていますが、簡単に言えば「更年期の時期に起こる不快な症状で、検査をしても何ら原因がつかめないもの」ということです。

●変化にうまく対応できていない状態
内分泌機能の変化に伴う自律神経の乱れという解釈が一般にはされていますが、この説明ではなかなか理解が難しいと思います。例えば全速力で走っていた車があるとします。その状態から、急にアクセルを離してブレーキを踏んでしまえば、走行が急にガタついてしまいます。またエンジンが焦げ付いて上手く走れていない状態からブレーキを踏んだり、ガソリン自体が不足していてエンストしそうになったりしていれば、速度を落とす時に上手く走れなくなるのは当然です。大きく見れば更年期障害とはこのような「速度をうまく落とすことができない」状態だと言えます。

更年期障害と漢方

捉えどころの難しい症状が出たり引っ込んだりする病ですので、西洋医学的治療が難しいケースの多い疾患だと思います。こういった不定愁訴に対しては、これでも飲んでみたらどうでしょうという言う感じで漢方薬が処方されるということが良くあります。実際に更年期障害は漢方治療の得意分野ですが、的確に効かせるコツを把握していないと、いくら漢方薬を服用しても症状は改善しません。

加味逍遥散・桂枝茯苓丸などが更年期障害の適応処方として有名ですが、これらの処方の方意・使い方・本質的な薬能が分かっていないとなかなか効かせることができないというのが現実です。漢方治療に習熟されている先生とそうでない先生であれば、治療成績に歴然とした差がでます。更年期障害は漢方治療にて改善しやすい病ですので、お困りの方は漢方専門の医療機関にぜひお罹りになってみてください。

使用されやすい漢方処方

①加味逍遥散(かみしょうようさん)
 逍遥散(しょうようさん)
②当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
③桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
④温経湯(うんけいとう)
⑤芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)
⑥抑肝散(よくかんさん)
⑦柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
 大柴胡湯(だいさいことう)
⑧柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
⑨柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
⑩桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
⑪連珠飲(れんじゅいん)
⑫女神散(しょしんさん)
⑬温清飲(うんせいいん)
⑭帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう)
 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
⑮桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
 通導散(つうどうさん)
※薬局製剤以外の処方も含む

①加味逍遥散(薛氏医案)・逍遥散(太平恵民和剤局方)

 更年期障害やPMSの代表方剤である。逍遥とは「うつろいゆく」という意味で、その時々で訴える症状が色々と変化する者に適応する、と解説されていることが多い。確かにそのような傾向はあるが、実際の臨床においてはこのような曖昧な目標は決め手にならない。
 逍遥散は元来、一種の消耗性の発熱性疾患に用いられていた。身体に緊張・興奮の状態が継続し、それにより血を消耗して自律神経の乱れがいつまでも解除されないような病態である。本方は血の消耗を回復することで興奮を落ち着け、緊張を去るという薬能を持つ。その本質は胃腸薬であり、芍薬・甘草・生姜・茯苓・白朮が核となり、柴胡を加えることでこの処方の骨格が完成する。興奮してイライラしやすく、夜間に手足がほてる者。緊張すると胃腸を壊す者。胃腸の弱りは血の不足を招く。よって鉄欠乏性貧血などを伴う者もいる。
 加味逍遥散は逍遥散に牡丹皮・山梔子の血熱を冷ます生薬を加えた方剤。空間的に中心に位置する胃腸の弱りは空間外部に血行を停滞させる。特に頭部の煩熱が強く、のぼせてイライラが強いという更年期障害では加味逍遥散が用いられる。ただし更年期障害ではのぼせやほてりなど上部の熱感をそれほど伴わない方もいる。その場合には山梔子・牡丹皮は抜かなければならない。逍遥散を用いるべきである。
加味逍遥散:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):柴胡(さいこ):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):薄荷(はっか): 牡丹皮(ぼたんぴ):山梔子(さんしし):

逍遥散:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):柴胡(さいこ):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):薄荷(はっか):

②当帰芍薬散(金匱要略)

 婦人科系疾患に広く運用される名方。本疾患においても適応処方として紹介されることが多い。しかし実際には更年期障害において適応の幅はそれほど広くない。当帰芍薬散はそのまま使用すると、のぼせやほてりなどのいわゆるホットフラッシュを悪化させることがある。そのため芍薬を増量したり、他剤を合方する必要がある。苓桂朮甘湯などの桂枝・甘草剤と合わせることが多い。ただしそれでも上半身の熱感が強いものには積極的に用いるべきではない。本来はのぼせの逆で、顔を青くさせる傾向のある者に適応する方剤であり、更年期障害でもそのようなタイプの方に適応する。
 締め付けられるような頭痛や頭重感があり、時にめまいを起こし、身体の浮腫みが強く特に顔や足が浮腫む、イライラよりも抑うつ感を伴う者に適応しやすい。精神症状がメインの者では半夏厚朴湯を合方する。
当帰芍薬散:「構成」
当帰(とうき)・川芎(せんきゅう):芍薬(しゃくやく):茯苓(ぶくりょう):蒼朮(そうじゅつ):沢瀉(たくしゃ):

③桂枝茯苓丸(金匱要略)

 婦人科領域に用いる駆瘀血剤として有名。「瘀血(おけつ)」を去る薬方として頻用されている。ただし当帰芍薬散同様、処方運用においてはコツが必要で、特に更年期障害ではそのまま使用してもあまり効果的とは言えない。
 まず本方にはのぼせやほてりなどの上部の熱感を抑える効能が確かにあるが、甘草を加えた方が効き目が良い。特にほてりと同時に動悸をうつ者では方中に桂枝・甘草の薬対を作るべきである。原南陽は本方に甘草と生姜とを加え「甲字湯」と名付けて運用している。さらに便秘の傾向があれば、気持ちよく通じがつく程度に大黄を加えなければならない。便がすっきり出るようになると共に、のぼせが軽減してくる。また本方には基本的に冷えを取る薬能は無い。むしろ芍薬・牡丹皮をもって手足の煩熱を取る薬方である。したがって冷えのぼせ(下半身が冷えると同時にのぼせる者)に対しては用いない。浅田宗伯が指摘しているように、もし上熱下寒(冷えのぼせ)の傾向があるなら温経湯を考えるべきである。
桂枝茯苓丸:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):茯苓(ぶくりょう):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):

④温経湯(金匱要略)

 桂枝茯苓丸と同じく、婦人科領域の名方である。その名の通り、下腹部の経脈を温める方剤。浅田宗伯はその運用の目標を「胞門(ほうもん:子宮部)虚寒」と提示している。下腹部を温めるという点では当帰芍薬散に近い。ただし彼方は茯苓・蒼朮・沢瀉などの利水薬をもって浮腫みを取る薬能を持ち、本方は人参・甘草・麦門冬・阿膠などの滋潤薬を内包し「血燥」ともいえる乾燥状態に潤いを持たせる薬能を持つ。口唇乾燥し、夜間に手足煩熱して皮膚乾燥して荒れやすく、上半身のぼせるも腰から下は冷え、下腹部が張ってガス腹になる者。出典の『金匱要略』において年五十ほどの婦人でかつて流産などを経験し下腹部に瘀血を残す者とある。更年期障害への適応を示唆しているようで興味深い。本方の駆瘀血作用は弱い。したがって瘀血が明らかであれば桂枝茯苓丸や桃核承気湯を合方する。その他下痢傾向が強い者は茯苓・白朮を、月経前のイライラが強いものには柴胡をといった加減が行われる。
温経湯:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):人参(にんじん):麦門冬(ばくもんどう):阿膠(あきょう):半夏(はんげ):生姜(しょうきょう):呉茱萸(ごしゅゆ):牡丹皮(ぼたんぴ):

⑤芎帰調血飲(万病回春)芎帰調血飲第一加減(漢方一貫堂医学)

 本方は明代に書かれた『万病回春』において、産後一切の諸病に適応する方剤として紹介されている。日本では後世方派を中心に頻用され、更年期障害や月経前症候群、月経困難症などの婦人科系疾患に広く運用されるようになった。もともと婦人科系疾患に頻用される当帰・川芎・地黄といった活血・補血薬は、胃腸の弱い者では胃に負担が来ることがある。本方は産後に体力を失い胃腸機能を弱めたものでも、活血・補血薬が負担なく吸収されるよう工夫されている点が最大の特徴。そのため誰でも安心して服用することができ、故に産後一切の諸病という。腰回りから下半身が冷え、情緒が敏感になり、鬱々として悲愴な気持ちになる者。『万病回春』では数々の加減方を提示し、日本では一貫堂という流派が「瘀血(おけつ)」に配慮した芎帰調血飲第一加減を頻用している。更年期障害のように上半身にほてりを生じる病態では第一加減の方が使いやすい。
芎帰調血飲:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):地黄(じおう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):烏薬(うやく):香附子(こうぶし):益母草(やくもそう):牡丹皮(ぼたんぴ):大棗(たいそう):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

芎帰調血飲第一加減:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):川芎(せんきゅう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):烏薬(うやく):香附子(こうぶし):益母草(やくもそう):延胡索(えんごさく):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):紅花(こうか):桂枝(けいし):牛膝(ごしつ):枳殻(きこく):木香(もっこう):大棗(たいそう):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

⑥抑肝散(保嬰撮要)

 本方は自律神経失調や脳神経疾患(脳血管障害後遺症やパーキンソン病、アルツハイマー)などへの適応で有名であるが、更年期障害などの婦人科系疾患においても運用の場がある。和田東郭の口訣が有名で、「多怒・不眠・性急」とその適応を端的に示している。ほてりよりも手足が冷え震える傾向があり、寝つきが悪くイライラしやすい者。逍遥散が顔を赤くして起こるという者に適応するのに対して、本方は青筋を立てて怒るというような者によい。浅田宗伯は四逆散の変方と捉えている。四逆散は中医学でいうところの「肝気鬱結(かんきうっけつ)」に適応する基本方剤。いわゆる癇(肝)の虫を収める薬方である。更年期障害にてほてりの強い者では黄連が必要。東郭は本方にはかならず芍薬を加えて用いていた。
抑肝散:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):甘草(かんぞう):柴胡(さいこ):釣藤鈎(ちょうとうこう):

⑦柴胡桂枝湯(金匱要略)大柴胡湯(傷寒論)

 柴胡桂枝湯は「心腹卒中痛」、大柴胡湯は「心下急」と言われるみぞおちや臍回りの腹痛に適応する方剤。通常は胃もたれや胃痛などの消化器系の疾患に応用される場合が多い。「肝気鬱結(かんきうつけつ)」という一種の自律神経の緊張・興奮状態を緩和させる薬能がることから、更年期障害にもしばしば応用される。湯本求真はこれらの方剤に当帰芍薬散や桂枝茯苓丸を加えて用いた。クラシックではあるが確かに更年期障害に著効することが多い。香附子や黄連などを加えることで、広く婦人科系疾患に運用される配剤である。
柴胡桂枝湯:「構成」
柴胡(さいこ): 半夏(はんげ): 桂枝(けいし):黄今(おうごん): 人参(にんじん): 芍薬(しゃくやく): 生姜(しょうきょう): 大棗(たいそう): 甘草(かんぞう):

大柴胡湯:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):黄芩(おうごん):芍薬(しゃくやく):枳実(きじつ):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):大黄(だいおう):

⑧柴胡桂枝乾姜湯(傷寒論)

 以前は肺結核に頻用されていた名方であるが、現在では自律神経失調や更年期障害に応用されるようになった。特に更年期障害ではなくてはならない方剤であり、ある独特な病態に対してピンポイントで効いていく印象がある。
 体が弱く虚の強い者、柴胡加竜骨牡蛎湯の虚証タイプ、このように解説されることが多い。しかし実際の運用においてはこれらでは不十分である。本方は継続した興奮・緊張状態にさらされたために一種の消耗を呈し、そのために交感神経の高まりを解除できなくなってしまった、という病態に適応する。継続する興奮は身体にくすぶり続ける熱であり、熱は津液(身体の水分)を燻蒸し消耗を招く。故に動悸して胸苦しく、のぼせて頭から汗をかき、寝汗をかいて口が乾くといった症状が目標となる。また興奮・緊張が継続する原因は内部の冷えである。冷えているためにいつまでも熱を起こそうとしてしまうのである。故に急に体が熱くなりのぼせ、汗をかいた後にぞくぞくと寒気をおぼえる。往来寒熱の一形態である。
 複雑な病態を呈するようであるが、本方の適応は外見に分かりやすい。津液消耗のため枯燥感がり、肉がそげて細く、皮膚や髪が乾燥して潤いがない。興奮・緊張の気があるため神経が過敏で、雰囲気に鋭さがある。一時的にそうなるというより、このような体質的傾向をもつ者が多い。一見中医学で言う所の「陰虚」に見えるが、陰虚のようにほてりなどの熱症状は持続しない。基本冷え症でほてりは急激かつ断続的、さらに熱感をおぼえた後、汗をかいて冷える。逍遥散との鑑別も必要とするが、逍遥散のように胃腸に配慮することが本方の目的ではない。したがって胃もたれ・下痢などの改善には不向きである。胃腸が弱くて食欲がなく、疲労倦怠感が強く、雰囲気も弱々しいといった、いわゆる「虚」の者に適応する方剤ではない。本方の「虚」は津液の枯渇と、腹に納めることの出来ない陽気の浮きとで観る。
柴胡桂枝乾姜湯:「構成」
柴胡(さいこ): 黄芩(おうごん):牡蛎(ぼれい):括呂根(かろこん):桂皮(けいひ):甘草(かんぞう):乾姜(かんきょう):

⑨柴胡加竜骨牡蛎湯(傷寒論)

 自律神経の過敏・興奮状態に適応する処方。自分でもどうしてしまったんだろうと感じるほどに、心身ともに強い過敏状態に陥ってしまったときに用いる方剤である。一つのことが気になりだすと止まらず、焦り、不安になっていてもたってもいられなくなる。少しのことで驚きやすく、動悸して息苦しい。小さな物音が気になって眠れない。甚だしいと手足に力が入って上手く動かせず、胸脇部が苦しく体をよじって伸ばしたくなると訴える。頭痛・耳鳴り・めまい・動悸・不眠・不安感・焦燥感・イライラなど様々な症状を出現させる病態に適応する。上手く使うには合方も含めてコツがいる処方である。体各充実した者に適応するという解説もあるが、私見では体格は関係ない。とにかく「胸満煩驚(きょうまんはんきょう)」という病態に陥っているかどうかが運用のカギとなる。更年期障害においても運用の場があり、特に桂枝茯苓丸と合わせることが多い。
柴胡加竜骨牡蛎湯:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):人参(にんじん):黄芩(おうごん):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):桂皮(けいひ):茯苓(ぶくりょう):竜骨(りゅうこつ):牡蛎(ぼれい):大黄(だいおう):

⑩桂枝加竜骨牡蛎湯(傷寒論)

 柴胡加竜骨牡蛎湯と同じように自律神経の過敏・興奮状態に適応する処方。動悸や胸苦しさ・耳鳴りやフワフワ浮くようなめまい・不安感と焦りが強くじっとしていられない・寝つきが悪くて眠りが浅く夢を見やすいなど。適応症候だけを並べれば柴胡加竜骨牡蛎湯と類似しているが、両者では運用に明らかな違いがある。
 本方適応の主眼は「虚労(きょろう)」である。自律神経の乱れを伴う一種の疲労状態で、本方は虚を補い疲労を回復させながら自律神経の安定を図る。柴胡加竜骨牡蛎湯の主眼は「胸満煩驚」である。あくまで強い自律神経の過敏さに適応する。両者の違いを虚・実と解説するものも多いが、体格の大小や正気の虚実によってのみ判断できるものではない。桂枝加竜骨牡蛎湯の虚は「虚労」の虚であり、柴胡加竜骨牡蛎湯の実は過敏・興奮状態の極まりを指す。桂枝加竜骨牡蛎湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):竜骨(りゅうこつ):牡蛎(ぼれい):

⑪連珠飲(内科秘録)

 浮腫を去り自律神経の乱れを調える苓桂朮甘湯と、血を補う基本方剤である四物湯との合方。更年期にてのぼせが強く、めまいがあり、のぼせは発作性にくる者で、カーッとして汗をかき顔や上半身が熱くなったかと思うとスーッと収まり寒気をおぼえるもの。気温や気持ちの変化にてジワーッと汗が噴き出るという者に用いる。更年期障害において確かに著効することがある。
 貧血の傾向がある者に用いる機会がある。ただしこの処方の中で貧血に対応しているのは四物湯ではなく、苓桂朮甘湯である。四物湯は血虚に適応する基本方剤であるが、血虚は貧血ではない。血虚は血液が量的に不足している状態ではなく、あくまで流れが悪い状態で、それによって血の力(身体に栄養を与えたり傷を治したりする力。内分泌機能の一部を包括している可能性がある)が衰えた状態を指す。顔色や口唇に血色が乏しく、立ちくらみをして血の気が引きやすく、動くと動悸がして、すぐに脱力感に襲われるという、いわゆる貧血の者はむしろ気虚である。四物湯の薬性は気虚には重く、胃腸を乱して気虚を悪化させることもある。したがって貧血が明らかであれば、本方ではなく苓桂朮甘湯に人参剤を合わせて用いるべきである。
更年期は血流が変化し血の力が弱まる。これは血虚であり更年期では確かに四物湯を運用する機会が多い。しかし平素より貧血のある者では四物湯の重さに耐えられないことがある。故に四物湯を苓桂朮甘湯にて薄めて服用しやすくした。本方を創立した本間棗軒の意図はそんな所にあったのではないかと想像する。
連珠飲:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):桂枝(けいし):甘草(かんぞう):

⑫女神散(勿誤薬室方函口訣)

 本来は「軍中七気(戦場における興奮状態にて情緒が乱れたもの)」を治療するための方剤であったが、浅田宗伯が婦人血症に用いて特験ありとして世に広めた。肝っ玉の強い女性が月経前に顔を赤くしてのぼせ、イライラして便秘し、興奮して眠れないといった状態に適応する。同じのぼせ・イライラでも加味逍遥散には吹けば動く動揺感があり、本方では動かざる山のような堂々とした印象がある。本方は心火を瀉す黄連を主薬とする。更年期障害では黄連を以て鎮めるべき興奮状態があり、他にも三黄瀉心湯や大柴胡湯加黄連、甘草瀉心湯などを運用するべき時がある。運用の場は大柴胡湯合桂枝茯苓丸に近い。しかし彼方は肝を主とし、本方は心を主とする。
女神散:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):桂枝(けいし):黄連(おうれん):黄芩(おうごん):檳榔子(びんろうじ):人参(にんじん):甘草(かんぞう):白朮(びゃくじゅつ):木香(もっこう):香附子(こうぶし):丁子(ちょうじ):大黄(だいおう):

⑬温清飲(万病回春)

 血の力を高め血流を促す四物湯と、充血をのぞき熱を冷ます黄連解毒湯との合方。子宮出血の治剤として世に出た本方は、婦人科領域や皮膚科領域などに広く運用されるようになった。更年期障害においても、強いのぼせやイライラ・不眠などを鎮める清熱剤として用いる機会が多い。黄連解毒湯単独よりも四物湯を配することでより更年期への本質的な対応ができるという点でも用いやすい。本方には多くの加減が存在し、他の方剤の基本骨格としても重要な意味を持つ。特に森道伯先生が創立された「一貫堂医学」は、本方を基本に多様な方剤を運用することで、様々な体質治療への展開を提示している。
温清飲:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):黄連(おうれん):黄芩(おうごん):黄柏(おうばく):山梔子(さんしし):

⑭帰耆建中湯(金匱要略)十全大補湯(太平恵民和剤局方)補中益気湯(内外傷弁惑論)

 女性にとって更年期は家庭と仕事との両立で大変な時期でもある。更年期障害はその背景に慢性的な疲労が関与していることが多い。したがってこれらの「補剤」を運用することも念頭に置くべきである。これらのうち、基本となる方剤は帰耆建中湯であり、十全大補湯はそれを重くしたもの、補中益気湯はそれを軽くしたものである。補の効果を強めた・弱めたではない。あくまで薬の軽・重の差である。重く脂っぽい薬は胃に負担が来る。故に胃腸の弱い者では十全大補湯よりも補中益気湯の方が使いやすい。軽い薬は流れるが定着しない。故に肌肉に潤いがなく枯燥した者では十全大補湯の方が染み込みやすい。ただし枯燥から熱を持った者(陰虚)では桂枝がさわる。八珍湯(十全大補湯去桂枝黄耆)を用いる。
帰耆建中湯:「構成」
黄耆(おうぎ):当帰(とうき):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

十全大補湯:「構成」
黄耆(おうぎ):当帰(とうき):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):人参(にんじん):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):川芎(せんきゅう):地黄(じおう):

補中益気湯:「構成」
黄耆(おうぎ):当帰(とうき):人参(にんじん):甘草(かんぞう):白朮(びゃくじゅつ):陳皮(ちんぴ):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):柴胡(さいこ):升麻(しょうま):

⑮桃核承気湯(傷寒論)通導散(万病回春)

 更年期障害において「瘀血」を除く薬と言えば桂枝茯苓丸が有名であるが、桂枝茯苓丸の駆瘀血作用はマイルドである。「瘀血」には程度があり、その程度に合わせて化瘀の強さを調節しないと瘀血は取れない。桃核承気湯や通導散は比較的強い駆瘀血作用をもった処方で、「下法(げほう)」と呼ばれる手法によってそれを実現する。下法とは大便の通じをつけることで瘀血を除く手法。のぼせや不眠・イライラなどと同時に、便秘がちで大便がなかなか出ないという者では、通じを気持ちよくつけることでこれらの症状が綺麗に消失することがある。
桃核承気湯:「構成」
桂枝(けいし):甘草(かんぞう):桃仁(とうにん):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

通導散:「構成」
当帰(とうき):枳殻(きこく):厚朴(こうぼく):陳皮(ちんぴ):木通(もくつう):紅花(こうか):蘇木(そぼく):甘草(かんぞう):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

臨床の実際

更年期障害は多種多様な症状を発現します。よく表れる症状には以下のようなものがあります。
・のぼせ
・ほてり
・発汗(発汗の後、直ちにぞくぞくと冷感を覚えることもある)
・抑うつ
・不眠
以上が更年期障害の5大症状です。その他にも、
・動悸、息苦しさ、胸苦しさ
・頭痛
・めまい感
・イライラ
・不安感、焦り
・湿疹、皮膚の乾燥、外陰部の痒み
・便秘、下痢
・腹部の張り
・食欲不振
・疲労倦怠感、脱力感
など・・・

漢方薬はどのようにして更年期障害を改善するのか?

更年期障害は内分泌機能と自律神経が互いに関連して乱れることによって発現すると言われていますが、具体的にどう関連してどのように乱れているか、ということに関してはほとんど説明がされていません。なぜかというと、分からないからです。

自律神経は自分の意志で動かすことのできない全ての動きを調節している壮大なネットワークで、スーパーコンピュータのような複雑な働きを持っています。徐々にその詳細が明らかになってきてはいるものの、その細部の調節となると未だ分かっていないことが多く、西洋薬によって対応しきれないというのが現実です。

抗不安薬などの脳に効かせる薬で対応することもありますが、それは強引に電源をシャットダウンさせるようなものですので、やや荒っぽい治療だと言えます。より身体に負担が少なく、多様な症状を包括して治療するという点で、漢方治療が注目されています。

●結局のところ漢方薬が行っていること
注目されてはいますが、更年期障害に対して漢方薬はなぜ効果を発揮することができるのでしょうか。東洋医学では、気や血や水などの概念を駆使して治療にあたります。これらの概念は適応する処方を導き出すための手法としては大切ですが、その一方で東洋医学を知る人でなければ暗号のようなものでしょう。気や血や水という概念を使うのはわかったけど、じゃあ漢方薬は実際に何をしているの?という疑問にもし一言で答えるならば、漢方薬は血流を変化させることで改善へと導いています。

●自律神経と内分泌とを繋ぐ「血流」
自律神経は血管平滑筋を緊張させたり弛緩させたりすることで、血流をコントロールしています。そして内分泌物質は血流に乗って運ばれることで初めて働くことができます。したがって自律神経と内分泌とは血行循環を介して関連していると考えることができます。

たとえば内分泌量が減少すると、血液中の内分泌の働きが弱まります。ある意味では血液の力が変化するといっても良いでしょう。血液の力が弱まれば、少ない分泌量でも働きたい部分にちゃんと到達できるようにするため、自律神経が働いて血行を強めようとします。内分泌量の減少と自律神経の緊張とは、このような機構でつながっていると考えることができます。実験的に確かめられているわけではありませんが、少なくとも両者が血行循環を介して関連していることは確かです。

●更年期、体に何が起こっているのか?
このような機構が正しいとするならば、更年期における自律神経の乱れは以下のように説明できます。まず更年期では今まで活発に分泌していた内分泌物質(エストロゲン)の分泌量が低下してきます。その時これが穏やかに変化するのであれば、自律神経も穏やかに対応することができます。しかし、血流が悪いために内分泌の働きが充分に行われていない方であれば、内分泌は急激にその働きを弱め、自律神経も急激に対応しようとして乱れてしまいます。

このとき漢方薬で血行循環を促すと、自律神経がそれほど頑張らなくても内分泌物質を身体各部に到達させることができるようになります。つまり血流を改善することで自律神経の乱れが落ち着いてくるのです。更年期障害による自律神経の乱れは、例えばこのような仕組みで調えることができているのではないかと考えられます。

●漢方薬と血流
辛いものを食べると体が温まる、これは辛味の刺激で血行が良くなるからです。このような単純な現象を利用することで漢方薬は作られています。そして各個人によって血行循環状態が異なりますので、何の刺激で改善するのかも違うわけです。人の顔がすべて違うように、血液の流れ方もまったく異なります。それを見極めるために気血水や五臓・八綱(陰陽・虚実・表裏・寒熱)といった概念があるといっても過言ではないでしょう。

更年期障害の分類と適応方剤

更年期障害のおおもとの原因には血行障害がある、そして更年期に内分泌の分泌量が減ると、それに対応するため自律神経が緊張・興奮状態へと陥り解除できなくなる、これを更年期障害の全体像として捉えます。そして人によってどの程度の強さで緊張・興奮状態を継続させているか、それを見極めることが更年期障害治療の第一歩になります。

●強い緊張・興奮状態を起こしている場合
もし緊張・興奮状態がかなり強い状態で継続してしまっている場合。緊張と興奮が見た目にも明らかで、顔がのぼせて発汗し、ドクドクと頭痛がして卒倒するようなめまいを起こし、イライラしたり焦ったり、不眠になったりします。このような時は身体上部にせり上がる血流を落ち着かせなければいけません。漢方では熱証とよばれる状態に当たり、苦みを持つ生薬(黄連・黄芩・山梔子など)を服用すると充血が解除されて、興奮がおさまります。

有名な加味逍遥散はこのような状態に用いる処方です。その他にも黄連解毒湯や三黄瀉心湯、女神散、温清飲などもこれに当たります。瘀血が関与するのであれば通導散や桃核承気湯です。柴胡加竜骨牡蛎湯の加減や大柴胡湯合桂枝茯苓丸を用いることもあります。

●緊張・興奮を起こすも高めることが出来ていない場合
一方、自律神経的に緊張・興奮状態が続いているものの、その程度は熱証を起こすほどでもない、という方もいます。気持ちが沈み、抑うつ的になり、
動悸やめまいや耳鳴りを起こしても、そこにあまり力がないという状態です。もともと血行循環の弱さが際立っている方では、更年期に自律神経がいくら頑張っても充分に血行を促すことができなくなります。そして緊張・興奮が中途半端な状態で継続してしまうことになります。

こういう場合では、漢方薬を以て血行を促す力を助けてあげると、助けを得た体はそれほど頑張らなくてもよくなり、継続していた緊張・興奮を解除することができるようになります。お風呂に入って血行が良くなると、身体から力が抜けてリラックスするような感覚です。良く用いられる処方は四物湯加減、桂枝湯加減の類であり、当帰芍薬散加減や抑肝散加減、逍遥散加減や柴胡桂枝乾姜湯、桂枝加竜骨牡蛎湯や連珠飲、半夏厚朴湯や芎帰調血飲第一加減など、そしてさらに虚が明らかになると小建中湯類や十全大補湯、補中益気湯や真武湯などの補剤が適応になります。

大まかに更年期障害の概要を説明しましたが、更年期障害はさらに細かく弁別することで適応処方が決定していきます。血液循環という視点から病態を捉えようとすること自体も一つの考え方に過ぎません。ただし漢方に習熟している先生ほど、何らかのシンプルな考え方が根底にあることは確かです。そしてそういう先生であれば、更年期障害は高い確実性をもって治療することが可能な病です。

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コラム「漢方と自律神経」

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