慢性胃炎・萎縮性胃炎

慢性胃炎・萎縮性胃炎について

慢性胃炎・萎縮性胃炎とは

慢性胃炎は胃もたれや胃の膨満感、胃痛や食欲不振などを慢性的に繰り返す病です。特に食事の不摂生や睡眠不足によって起こります。中には症状が全く無いのにも関わらず、胃カメラなどの検査によって指摘される方もいます。そのため放置されやすい病といえるでしょう。

慢性胃炎は放っておくと胃粘膜が薄くなって胃酸や胃粘液を分泌できない状態となります。これを萎縮性胃炎といいます。胃癌などのリスクが高まりますので、早期発見が重要です。

慢性胃炎・萎縮性胃炎と漢方

胃部疾患の中でも特に慢性胃炎・萎縮性胃炎の方は、西洋医学的治療がうまくいかないケースを散見します。人は年齢とともに胃粘膜が薄くなります。特に平素から胃の働きが悪い方はこれが早く進行していきます。慢性胃炎や萎縮性胃炎はもともとの体質や避けることのできない老化現象によって起こりますので、西洋医学的治療を行っても本質的な改善がされなければ症状が継続してしまうからだと考えられます。

したがって慢性胃炎・萎縮性胃炎はそれが発見されたとしても根本的な対応が難しいタイプの病です。胃酸過多や胃粘膜の減少といった胃壁の問題だけでなく、胃そのものの活動状態の弱りに起因していることが多いためです。漢方薬は胃酸や胃粘膜に直接的に働くというよりも、胃の血行状態を調節し、胃活動を調える働きがあります。そのため西洋薬にて改善できなかった方でも胃炎を根治できる可能性が高く、試す価値のある治療法だと言えます。

参考症例

まずは漢方治療の実例をご紹介いたします。以下の症例は当薬局にて実際に経験させて頂いたものです。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

症例|ストレスを我慢し続けて起こった胃痛

32歳、男性。跡取りとして家業を継いだ患者さま。世代交代の中で起こるストレスから胃痛を発症しました。今現在起こっている胃痛に対して、いかに漢方薬をもって対応していくのか。以前同じ境遇を経験した私にとって思い入れの深い症例から、その一例をご紹介いたします。

■症例:胃痛・胃もたれ

症例|手術後から始まった激しい胃痛

44歳、女性。子宮筋腫手術後に腸壁に癒着が起こり、再手術にて癒着を剥がすも、その後から起こり始めた胃痛・頭痛・腹痛・下痢。腸閉塞を度々起こし、その不安から痛みに怯える日々送られていました。本気で治す治療において何が必要なのか。その具体例を、患者さまとの経験を通してご紹介いたします。

■症例:頭痛・胃痛・下痢

参考コラム

次に「慢性胃炎・委縮性胃炎」に対する漢方治療を解説するにあたって、参考にしていただきたいコラムをご紹介いたします。参考症例同様に、本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

コラム|漢方治療の経験談「胃もたれ・胃痛治療」を通して

当薬局でもご相談の多い「胃もたれ・胃痛」。日々治療を経験させていただいている中で、実感として思うこと、感じたことを徒然とつぶやいたコラムです。

漢方治療の経験談「胃もたれ・胃痛治療」を通して

コラム|◆漢方治療概略:「胃痛・みぞおちの痛み」

胃痛・みぞおちの痛みに使われる漢方薬にはたくさんの種類があります。ドラッグストアなどで選ぼうを思っても、「どれを試したら良いのか分からない」という声をしばしば拝聴します。そこで、そのような方々に参考にしていただけるよう、漢方治療の概略がいりゃく(細部をはぶいたおおよそのあらまし)を解説していきたいと思います。

◆漢方治療概略:「胃痛・みぞおちの痛み」

使用されやすい漢方処方

①香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)
②半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
③人参湯(にんじんとう)
④桂枝去桂加茯苓白朮湯(けいしきょけいかぶくりょうびゃくじゅつとう)
⑤桂枝湯(けいしとう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①香砂六君子湯(薛氏医案)

 胃腸虚弱な体質の者で、胃部が痞えて食欲わかず疲れやすい者に用いる。本方は主として慢性疲労・気の滅入り・胃下垂・胃アトニー・消化不良・食欲不振に用いる。普段健康な人でも一時的に胃腸が弱り体力を失うことがある。本方は広く体力増強剤として、体がしんどくだるいと云う者によい。胃だけでは無く風邪をひきにくくなったり、皮膚に潤いが出たりする。消化管が丈夫になると、肌が変わり免疫が強化する。
香砂六君子湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):人参(にんじん):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):白朮(びゃくじゅつ):生姜(しょうきょう):半夏(はんげ):陳皮(ちんぴ):香附子(こうぶし):砂仁(さじん)

②半夏瀉心湯(傷寒論)

 過食などの食事の不摂生により胃と腸が障害された状態の慢性胃炎に守備範囲が広く用いられる。げっぷ・胸やけ・腸鳴・下痢・口臭・口内炎・みぞおちの痞え・便が軟便にて気持ち良くでないなどに良い。食欲があって、痛みよりむしろ重苦しさとむかつきに用いる。
半夏瀉心湯:「構成」
半夏(はんげ):乾姜(かんきょう):黄芩(おうごん): 竹節人参(にんじん):大棗(たいそう):甘草(かんぞう):黄連(おおれん):

③人参湯(傷寒論)

 胃腸の冷えに対する代表方剤。冷たいものの過食や冷たい外気に当たることによって胃痛や腹痛・下痢しやすい体質の者に用いる。慢性胃炎の中でも寒証に属している者。胃の冷えは長引くと無酸(胃酸分泌減少)を招く。萎縮性胃炎の中にもこのタイプの方がおられる。
人参湯:「構成」
人参(にんじん):甘草(かんぞう):乾姜(かんきょう):白朮(びゃくじゅつ):

④桂枝去桂加茯苓白朮湯(傷寒論)

 「心下満微痛」という胃部の不快感を目標に用いる処方。胃腸機能の是正に用いる。あまり有名とは言えないが、古来より議論されてきた処方で、実は胃腸機能を回復する多くの処方の原型。臨床の上手い先生ほどこのような処方の運用に長けている印象がある。
桂枝去桂加茯苓白朮湯:「構成」
芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):

⑤桂枝湯(傷寒論)

 もと感染症の薬として立方された本方は、すべての処方の創始と称されるほどの基本処方。胃気を高め、虚労を去り、身体の気血循環を促す薬能がある。基本処方故に軽視されがちであるが、この処方理解の深さが臨床の腕を左右する。萎縮性胃炎など、加齢に伴う諸疾患に広く応用されるべき処方である。
桂枝湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

臨床の実際

慢性胃炎・萎縮性胃炎は、ピロリ菌除菌などの効果的な西洋医学的治療が無効となるケースがあり、胃部疾患の中でもその傾向が強いように思います。特にご高齢の方など胃炎を慢性化させている方にその傾向が強く、当薬局でもご相談の多い疾患です。

胃炎と漢方

漢方において胃部は全身の循環を反映する重要部位です。そのため胃の不調に適応する処方が数多く存在します。一口に胃症状といっても多くの病態が関与していますので、漢方ではそれらの病態を細かく弁別し、正確に把握した上で薬方を選択する必要があります。

●「胃気」を調えることの重要性
西洋医学による革新的な検査技術の発達により、胃部疾患に胃酸過剰や胃粘膜減少といった要素が発見されて以来、多くのケースで胃壁状態を中心として疾患が判断されるようになりました。そしてプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H₂RA)などの服用により多くの胃部疾患が改善へと向かう一方で、慢性胃炎や萎縮性胃炎はこれらの薬物治療を行っても改善へと向かわないケースが散見されます。

なぜ改善へと向かわないのか、その理由は胃の活動状態と血流とに主たる原因があると考えれらます。慢性胃炎や萎縮性胃炎は加齢と強く関わる疾患です。加齢とともに誰しもが若い時ほど食べることができなくなりますが、これは胃活動自体が弱ってくるからです。そして胃活動が弱り、胃の血行状態が悪くなると、胃壁を守るための胃粘膜はどんどん薄くなっていきます。つまり胃の血流と活動が悪い状態のままでは、いくら西洋薬によって胃酸を抑え胃粘膜を保護したとしても、胃壁を正常な状態へと向かわせることができなくなってしまいます。

漢方では古くから胃の活動を「胃気」と称し、胃活動を調節することの重要性を示唆してきました。六君子湯(りっくんしとう)や安中散(あんちゅうさん)といった漢方の胃薬は、胃気を通じて胃活動を促し、胃部の血行を促す薬能を発揮します。これらは胃酸や胃粘膜という胃壁中心の治療法とは違う視点からアプローチできる治療です。だからこそ西洋薬にて効果が発揮されにくい慢性胃炎や萎縮性胃炎においても漢方治療が効果を発揮するのです。

ただし一言に「胃気」を促すといっても、胃活動がどのように悪くなっているのかを見極めない限り、正しく「胃気」を促すことができません。漢方において「胃」は身体の中心に位置する重要部位です。そのため「胃気」を和す手法が非常に多く編み出されてきました。上記で紹介した方剤はすべて胃気を和す処方ですが、ごく一部にしかすぎません。多くの手法を知り、かつどの手法をもって適応するのかを正しく見極めること、それが実際に効果を発揮するための絶対条件になります。

●「虚」の段階の見極め
様々な病態が関与しやすい慢性胃炎・萎縮性胃炎ではありますが、最も多くみられる病態は「虚」に属するものです。この場合の虚とは慢性的な胃活動の弱りを表します。そして虚には段階があり、その程度によって適応処方が異なってきます。

たとえば虚を補う有名な処方に六君子湯がありますが、六君子湯にて改善できなければ、より虚の状態に適応する薬方を使う必要があります。すなわち治療においてはこのような「虚」の程度の見極めが肝要で、この程度に合わせて的確に処方を選択しなければ効果は表れません。

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