胃酸過多症について

胃酸過多症とは

胃酸過多症は精神過労や過度なストレスによって起こることが多い疾患です。胃もたれや胸やけ・酸っぱい水が上がる・空腹時の痛み・ゲップ・胃の痛み・口臭などの症状を伴います。

胃酸過多症と漢方

曲直瀬玄朔の医学指南篇の脾胃指南十二に、「脾胃の働きは心の動きによって左右するもので、楽しい思いをもてば胃腸の働きが良くなり、不愉快な思いをすれば胃腸の働きが悪くなるばかりでなく、病気になる」とあるように、胃酸過多症はそのような不愉快な感情が起こす病であると言えます。

●漢方治療を考慮するべきケース
近年西洋医学において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H₂RA)、さらにH.phlori除菌治療という非常に効果的な治療方法が出てきたことで、以前より胃酸過多症に悩まれる方は少なくなってきています。

ただしこれらの西洋薬の効果が表れにくい方、ピロリ菌がいないのに症状のある方、ピロリ菌除菌のための抗生剤に副作用がある方、除菌後も胃部の不快感が改善されていない方などが実際におり、そのような方には漢方治療が適していて、即効性をもって著効することが少なくありません。

使用されやすい漢方処方

①安中散(あんちゅうさん)
②生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)
③清熱解鬱湯(せいねつげうつとう)
④柴陥湯(さいかんとう)
⑤黄連湯(おうれんとう)
⑥茯苓飲(ぶくりょういん)
⑦六君子湯(りっくんしとう)
⑧半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
⑨熊胆(ゆうたん)
※薬局製剤以外の処方も含む

①安中散(勿誤薬室方函口訣)

 安中散の「中」は体の中心部である胃腸をあらわし、胃腸を安らかにするという意味合いがある。胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっぷ、食欲不振、吐き気などを伴う者。やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にある者に適応するというのが通説である。しかし実際にはこのような体型に関わらず使用できる。基本的には冷えによって胃痛するタイプの胃酸過多症に用いる。黄連や茯苓・芍薬などを加えることがある。
安中散:「構成」
桂皮(けいひ):延胡索(えんごさく):牡蛎(ぼれい):茴香(ういきょう): 甘草(かんぞう):縮砂(しゅくしゃ):良姜(りょうきょう):

②生姜瀉心湯(傷寒論)

 神経を使う事により、胃と腸が障害された状態の胃酸過多症に守備範囲が広く用いられる。胸焼けはもちろんだが、げっぷ・腸鳴・下痢・口臭・口内炎・みぞおちの痞え・便が軟便にて気持ち良くでない・もやもやするなどに良い。特に口臭や食事の匂いがあがってくるなどの症状に効果が高い。食欲があって、痛みよりむしろ重苦しさとむかつきに用いる。
生姜瀉心湯:「構成」
半夏(はんげ):生姜(しょうきょう):乾姜(かんきょう):黄芩(おうごん): 竹節人参(にんじん):大棗(たいそう):甘草(かんぞう):黄連(おおれん):

③清熱解鬱湯(万病回春)

 「嘈雑(そうざつ)」つまり「胸やけ」に用いる名方。出典に「心痛(みぞおちの痛み)稍久しき者は胃中に鬱熱あるなり」とあるように、熱感を伴うような激しい胃痛・胸焼けなどの症状に著効する。山梔子・黄連を配剤している点が特徴で、四逆散や柴胡疎肝湯にこれらの生薬を加えて胃痛を治する工夫は古くからなされてきたことである。
清熱解鬱湯:「構成」
山梔子(さんしし):黄連(おうれん):川芎(せんきゅう):香附子(こうぶし):枳殻(きこく):陳皮(ちんぴ):蒼朮(そうじゅつ):乾姜(かんきょう):生姜(しょうきょう):甘草(かんぞう):

④柴陥湯(勿誤薬室方函)

 胃炎や胃酸過多症、胃・十二指腸潰瘍による胃痛・胸やけに応用する。出典では痰咳の胸痛(気管支炎や肺炎)への運用を提示するなどその応用範囲は広い。胃部疾患に応用する場合、煎じ薬にて用いると栝楼仁が胃にさわる。エキス顆粒剤での服用が丁度よい。
柴陥湯:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):黄芩(おうごん):人参(にんじん):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):黄連(おうれん):栝楼仁(かろうにん):

⑤黄連湯(傷寒論)

 胃炎・胃酸過多症・逆流性食道炎を治療する上で知っておくべき処方の1つ。これでなければ効かないという方がたまにおられる。消化管に起こる自律神経の乱れを桂枝・甘草の組み合わせにて対応させている点が特徴。その因は腹中の冷えであることが多い。生姜瀉心湯や桂枝人参湯との鑑別が必要。
黄連湯:「構成」
黄連(おうれん):乾姜(かんきょう):人参(にんじん):半夏(はんげ):大棗(たいそう):甘草(かんぞう):桂枝(けいし)

⑥茯苓飲(金匱要略)

 胃酸過多症に用いるが「心胸間に虚気満ち」というのが最大の目標にて、胃部にガスが充満していて苦しいという状態に適応する。昭和時代に良く用いられた処方で、大塚敬節先生は半夏厚朴湯と黄連を合わせて用い、山本巌先生は半夏を加えて用いた。
茯苓飲:「構成」
茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):人参(にんじん):陳皮(ちんぴ):枳実(きじつ):生姜(しょうきょう)

⑦六君子湯(医学正伝)

 胃腸虚弱者にて平素より食の細いものに用いる。少し食べ過ぎただけで胃のもたれを感じ、食欲わかず、胃にちゃぷちゃぷと音がするといった者に適応しやすい。ややもすれば貧血などを伴う者。虚弱体質の改善を目標とするが、証に合えば即効性がある。
六君子湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):人参(にんじん):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):白朮(びゃくじゅつ):生姜(しょうきょう):半夏(はんげ):陳皮(ちんぴ):

⑧半夏厚朴湯(金匱要略)

 「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)」という喉に何かが詰まったように感じるという精神症状に用いる薬方として有名。ただしこの処方は胃薬でもある。胃炎や胃酸過多症において特有の精神不安状態に伴う吐き気やむかつきに良い。
半夏厚朴湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):半夏(はんげ):生姜(しょうきょう):厚朴(こうぼく):蘇葉(そよう)

⑨熊胆(民間薬)

 いわゆる「クマノイ」。胃痛や胸やけに極めて即効性の高い効果を発揮する民間薬として有名。その効果は実際に高く、また頓服薬として用いれば誰でも安心して服用することができる点も優れている。民間薬といえども後世に残すべき非常に良い薬である。ただし高価で流通が少ないことが難点。

臨床の実際

胸やけのことを漢方では「嘈雑(そうざつ)」といいます。嘈雑は昔から研究されてきた症状の1つで、多くの適応処方があります。前述のように近年では治癒効果の高い西洋薬が開発されているため漢方の出番は少なくなってきた印象があります。しかしそれらの治療が上手くいかなかった場合の選択として、漢方薬は大変有意義であると思います。

胃酸過多症と漢方

一般的に漢方薬による嘈雑への効果は比較的早く、例えば2週間服用しても効果を感じなければ、薬方が合っていない可能性が高いと言えます。ただし奥に潜む疾患の程度にもよるため、西洋医学的な診断は行うべきです。

●寒熱の弁別が肝要
薬方選択としては黄連・山梔子などの清熱薬で取るべき嘈雑か、乾姜・良姜・呉茱萸などの温薬にて取るべき嘈雑かの弁別が必要で、さらにこれらを同時に配合してバランスを取ることもあります。

長期的に胃酸過多症を患っている方は、冷え性であっても胃に熱を持っている場合があります。寒・熱の弁別を外すと効かないばかりか悪化することもありますので、漢方の専門家に相談することをお勧めします。

●胃酸過多症と食養生
症状を改善し、かつ薬を服用しなくても再発しない状態を目指すのであれば食事の節制は必須です。酒・油もの・甘いもの・お菓子類などは胃酸過多を容易に導きます。

一方でストレスは胃酸過多症の大きな原因ですが、実際にすべてのストレスを回避することは不可能です。経験上、ストレスを感じても症状が起きない・起きにくいという状態を目指すことが現実的で、適切な薬方の選択と食事の養生とができればこの状態に至ることが可能です。

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