アレルギー性鼻炎・血管運動性鼻炎

通年性アレルギー性鼻炎・血管運動性鼻炎について

通年性アレルギー性鼻炎とは

鼻水・くしゃみ・鼻づまりなどを起こす鼻炎は風邪などの一時的な影響で起こるものではそれほど問題になりませんが、通年的に起こるとなるとやっかいです。特にご自身の生活環境の中にアレルゲンがある場合、例えば室内のチリやホコリ・ダニ・ハウスダスト・ペットの毛やフケなどによって鼻炎が起こる場合は、原因を取り除こうにも取り切ることが難しく、いつまでたっても治らないという状態になります。西洋医学では抗ヒスタミン薬が使用されることが一般的で、時に鼻づまりが酷いようなら抗ロイトコリエン薬(オノンカプセル)が用いられます。鼻水などの症状を抑えるという意味では非常に効果的なのですが、服用しないと止まらないという状態がいつまでも続き、連用することでむしろ鼻腔が乾燥して奥の方にまで炎症が進んでいく(副鼻腔炎)こともあり、未だに問題点を抱えているとうのが現実です。

血管運動性鼻炎とは

また病院にて検査してもアレルギー反応がないのに、アレルギー性鼻炎と同じような症状(くしゃみ・鼻水・鼻づまり)が起こる病を血管運動性鼻炎といいます。寒い所から急に温かい場所へ移動した時や、熱いものを食べた時、また気圧の急激な変化などによって症状が現れる傾向があります。血管活動を調節している自律神経の働きが乱れて起こると考えられていて、ステロイド系の点鼻スプレーや抗コリン作用の強いポララミンやペリアクチンといった内服薬が使われます。ただしこれも西洋医学では根本治療が難しい疾患です。アレルギー性鼻炎治療と同じように、西洋薬の副作用・連用の問題があること、さらに発症するシチュエーションを避けるように指示されることもありますが、自然現象によって起こりますので避けようがありません。

アレルギー性鼻炎・血管運動性鼻炎と漢方

その点、漢方治療は鼻炎を生じやすい体質自体を改善していくという傾向があります。そしてアレルギー性鼻炎のみならず、血管運動性鼻炎においても根本治療が可能です。そもそも普通に家に存在している程度の微弱な刺激で鼻炎が起きてしまうのは、敏感に反応してしまっている体の方に原因があります。また血管運動性鼻炎にしても、自律神経の乱れという体質側の原因によって起こるものです。これらは西洋医学的には異なる種類の鼻炎ですが、漢方の視点で見れば、微弱な刺激に過剰に反応してしまっているという体側の同じ原因によって発生する病です。したがってどちらの病であるかは、漢方においてはあまり関係がありません。正しく鼻炎治療が行われれば、両者ともに改善が可能です。

●根本治療が可能:微弱な刺激に反応しにくい体を作る
これらの鼻炎に用いられる漢方薬には、身体が受けた刺激に対して即座に対応し、素の状態に速やかに戻るという、体がもともと持っている力を強める効能があります。したがって漢方薬によってこの力を強めていけば、症状が収まるのと同時に、微弱な刺激に反応するまでもない体、鼻炎が起こらない体にリセットされていきます。また一度リセットされると、漢方薬の服用を止めてもすぐには再発するということはありません。

●的確に選択できれば即効性が高い
また漢方薬は効果が穏やかで即効性が弱いというイメージがありますが、鼻炎に用いる漢方薬に関しては決してそのようなことはありません。的確に漢方薬を選択できていれば、即効性をもって改善していく傾向があります。ただし鼻炎といっても人によってその状態は様々です。もともとの力の弱い方では程度が楽になった後、しばらく服用を続けなければいけない場合もあります。この辺りは個人個人で治療方法が異なる所ですので、漢方治療にご興味のある方は一度お尋ね頂ければと思います。

参考症例

まずは「鼻炎」に対する漢方治療の実例をご紹介いたします。以下の症例は当薬局にて実際に経験させて頂いたものです。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。(参考症例は今後も追加予定です。)

症例|秋から春先まで続くお子様の鼻炎

通年性鼻炎に悩む15歳の男の子。特に毎年秋から春先まで鼻水と鼻づまりが続いてしまう。心配になられたお父さまからのご相談でした。実際にお子さまをみさせて頂いて分かった鼻炎の根本原因。人それぞれ治療方針が異なる鼻炎治療、その具体例を紹介いたします。

■症例:通年性鼻炎

参考コラム

次に「鼻炎」の漢方治療を解説するにあたって、参考にしていただきたいコラムをご紹介いたします。以下の内容は当薬局にて実際に経験させて頂いたことを根拠にしております。参考症例同様に、本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

コラム|慢性上咽頭炎 ~Bスポット治療と漢方薬・その違いと併用の意義~

のどに痰が絡む・のどの奥が痛い・のどの奥に詰まりを感じるなど、「のどの奥に何か異常がある」という感覚。「慢性上咽頭炎」においてよく起こる症状です。この病では上咽頭の炎症に直接アプローチする「Bスポット治療」がしばしば行われますが、なかなか完治しないという方からのご相談が多く寄せられます。なぜ完治しにくいのか、そして漢方治療を行う意義はあるのか。鼻炎との関連も含めて、上咽頭炎にまつわる漢方治療の実際をご紹介いたします。

□慢性上咽頭炎 ~Bスポット治療と漢方薬・その違いと併用の意義~

コラム|血管運動性鼻炎 ~漢方の基本だけでは難しい・独自の考え方と使い方~

抗アレルギー薬の効かない鼻炎、血管運動性鼻炎。一度かかってしまうと西洋薬では対応することが難しいため、当薬局でもご相談の多い疾患です。ただし教科書的な漢方薬の運用では効かないことが多く、漢方家それぞれがその治療方法を詳らかにしていかなければなりません。漢方理論の再考の具体例を示してみたいと思います。

□血管運動性鼻炎 ~漢方の基本だけでは難しい・独自の考え方と使い方~

使用されやすい漢方処方

①小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
②桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)
③葛根湯(かっこんとう)
④香蘇散(こうそさん)
⑤川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)
⑥苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)
⑦麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
⑧銀翹散(ぎんぎょうさん)
⑨辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)
⑩柴蘇飲(さいそいん)
※薬局製剤以外の処方も含む

①小青竜湯(傷寒論)

 鼻炎の治療薬として有名。サラサラとした鼻水が、蛇口を開けっ放しにしたようにザーザーと流れ出るような鼻炎に効果を及ぼすことがある。ただし実際には本方が適応する病態はそれほど多くはない。また使用するにしても加減を含めたコツが必要となる処方である。
 本方は体内の水が外に張り出す勢いの強い状況で用いる薬である。そして張り出す勢いは強いが、熱証と言われるまで炎症が強まっていかないという状況で用いる。正確に言えば、勢い強く水を出すが熱証までいかせることができないという病態。心下に水気が有るからである。心下の水気とは、諸説あるが身体内に蓄積している多量の水を差す。水が多量なためにいつまでも熱を持たず、寒水のまま外にあふれ出す。目の周りが浮腫んで腫れ、くしゃみが止まらず、いつまでもビービーとひっきりなしに鼻水を出す者。サラサラの水がポタポタと垂れるので常にティッシュで受け止めていないと間に合わない者。ただし炎症が奥に進まず、副鼻腔炎などの気配を見せない者。また心機能に問題があったり胃腸が弱い者では加減を行うか使用を避ける必要がある。
小青竜湯:「構成」
麻黄(まおう):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):半夏(はんげ):細辛(さいしん):乾姜(かんきょう):五味子(ごみし):

②桂枝麻黄各半湯(傷寒論)

 桂枝湯と麻黄湯とを各等分で合わせた処方。出典の『傷寒論』には桂枝二麻黄一湯という処方もある。これは桂枝湯2の分量に対して、麻黄湯1で合わせたものである。つまり桂枝湯と麻黄湯との合方は病態によってその量を調節するべきもの。この運用手法が鼻炎治療においても非常に重要である。
 鼻炎では「発表(はっぴょう)」が核となる。「発表」とは鼻炎治療の即効性を決める重要な薬能だが、この力が強い麻黄剤は、桂枝湯類を以て薄めることで発表の薬能を調節する。「麻黄」は多く用いれば即効性が強いというわけでは決してない。その方の状態に合った量である場合が、最も迅速に効果を発揮する。麻黄湯を用いる場合はもちろんのこと、葛根湯や小青竜湯、麻黄附子細辛湯などもこの手法をもって薬力を調節する。
桂枝麻黄各半湯:「構成」
麻黄(まおう):杏仁(きょうにん):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

➂葛根湯(傷寒論)

 日本、特に古方派と呼ばれる漢方家は鼻部の治療に好んで葛根湯を用いた。鼻炎でも鼻の詰まりが強い者。小青竜湯の適応にくらべて鼻水がやや粘稠にて、ねばつく鼻水を出す者に良い。夜間に鼻が詰まって眠れないという者に頓服的に本方を服用させると、即効性をもって鼻が開通することが多い。
 小青竜湯が熱証までいかない鼻炎に用いるのに対して、本方は熱化する鼻炎に用いる。桂枝麻黄各半湯はその間である。葛根は夏場に食べるクズの根。清熱作用があり鼻腔の熱化を予防する。熱の増悪は鼻腔から副鼻腔へと波及し、副鼻腔炎を起こすことがある。本方はその流れの中で運用されることが多い。ただし状況に従って的確な加減を施す必要がある。炎症が盛んならば石膏を、化膿傾向があるなら桔梗を、排膿を促すにはさらに川芎・枳実・蒼朮・附子などを加える。葛根湯を鼻の疾患に応用する場合、葛根湯加川芎辛夷の加減が有名である。痰の排出や鼻腔の開通を強めた加減であるが、花輪壽彦先生はこの加減を用いるよりも、むしろ葛根湯だけの方が効き目が良いことがあると指摘されている。
葛根湯:「構成」
葛根(かっこん):麻黄(まおう):桂枝(けいし):生姜(しょうきょう):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):

④香蘇散(太平恵民和剤局方)

 もともと気剤として心療内科・精神科の疾患に頻用される本方は、異物を排出しようとする体の反応を助ける「発表」の薬能を持つことから、鼻炎にも用いられることがある。最大の特徴は薬能が穏やかで優しいことである。胃の弱い方やお年寄りの方、また妊娠中の方であっても安心して服用することができる。ただし薬能を充分に引き出すためには、紫蘇葉と生姜との質・分量が重要で、これらの生薬は本方の即効性を決める。したがって鼻炎のように即効性が求められる病では、これらを適宜調節する必要がある。また鼻炎からややこじれた印象のある病態に、小柴胡湯と合わせて用いる手段もある。
香蘇散:「構成」
香附子(こうぶし):陳皮(ちんぴ):甘草(かんぞう):紫蘇葉(しそよう):生姜(しょうきょう):

⑤川芎茶調散(太平恵民和剤局方)

 もともと感冒治療薬として世に出た本方は、風邪と同じように鼻汁・鼻閉などを生じる鼻炎症状にも効果を発揮する。穏やかな発表作用を持つことから使いやすい処方である。辛夷や細辛を加えて用いられることが多い。
 経験的に鼻炎では桂枝を主として使うべきものと、川芎や香附子を主として用いるべきものとがあるように思う。両者ともに血行を促す薬能を持つが、その促し方が異なる。その見極めを間違えると本方はあまり効果を発揮しない。全体に弛緩の傾向があり血管の緊張度の低い者には桂枝が、逆に緊張感が強く血管が強く収縮して外にまで血行が行き届きにくい者には川芎や香附子が適応する、という印象がある。
川芎茶調散:「構成」
川芎(せんきゅう):香附子(こうぶし):白芷(びゃくし):羌活(きょうかつ):荊芥(けいがい):防風(ぼうふう):薄荷(はっか):甘草(かんぞう):細茶(さいちゃ):

⑥苓甘姜味辛夏仁湯(金匱要略)

 身体の水分循環異常である「飲病」に用いられる方剤。特に喘息や鼻炎などにおいて、「寒飲(かんいん)」と呼ばれる質がサラサラの分泌物を排出しようとする炎症に用いられる。本方は本来、小青竜湯による「発表」過剰によって陥ってしまった興奮状態を沈静化させるために作られた処方。したがって「発表」の薬能は備えていない。鼻炎では発表の薬能が必要であるため、本方単独ではあまり効果が薄い。そのため実際には乾姜・細辛剤として他方と合わせて用いられることが多い。
苓甘姜味辛夏仁湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):甘草(かんぞう):乾姜(かんきょう):五味子(ごみし):細辛(さいしん):半夏(はんげ):杏仁(きょうにん):

⑦麻黄附子細辛湯(傷寒論)

 鼻炎治療において非常に有効な方剤である。アレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎に広く用いることが可能で、かつこの方剤ではないと止まらないという鼻炎がある。本方は『傷寒論』において「少陰病(しょういんびょう)」という病態に適応する方剤として提示されている。「少陰病」とは陰証、つまり身体の新陳代謝が衰え、病と闘う力を失いつつある病態と解釈されている。朝起きると寒気を覚え、くしゃみや水鼻が止まらず、日中でも冷気を受けるとゾクゾクとしてすぐに鼻炎を生じるという者。本方を用いる際には分量が重要である。
 ただし本方は陰証に拘泥すると運用の幅を狭める。麻黄・附子・細辛はともに利水剤であり、アレルギー性炎症において生じる分泌物を即効性をもって乾かす薬能を持つ。したがって鼻炎治療のファーストチョイスとして常に考えておくべき方剤である。鼻炎の炎症が進行して鼻腔に乾燥感がある者には不適。また胃の弱りを持つ者や心臓の弱りを持つ者にも不適である。他剤を合方することで薬力をコントロールする必要がある。
麻黄附子細辛湯:「構成」
麻黄(まおう):附子(ぶし):細辛(さいしん):

⑧銀翹散(温病条弁)

 鼻炎では小青竜湯や麻黄附子細辛湯が適応となる「風寒型」の者と、本方が適応するような「風熱型」とに大きく分かれる。鼻炎は熱化が強まると鼻水の質がべとつきはじめ、鼻水よりも鼻づまりが強くなる。また酷いと鼻腔が乾燥して熱を持ち、咽が腫れて痛んだり、副鼻腔炎へと移行することがある。これを「風熱型」という。この場合は発表よりも「清熱」を主体とする処方を用いる必要がある。本方は「風熱型」の主方。風寒・風熱のどちらに移行していきやすいかを発症初期の段階から見極め、風熱型の初期の段階で本方を服用しておくと炎症が強まらずに済む。
 本方の出典である『温病条弁』は日本においてはあまり研究が進んでこなかった背景があり、古人は風熱型の鼻炎に葛根湯加減を頻用した。葛根湯の加減でも確かに風熱に対応することができるが、やや無理やりな感があり、下手をすると血行を促し過ぎることで炎症が悪化し、鼻の熱感や乾燥感が強くなる。特に現代においては抗ヒスタミン薬によって鼻水を無理やり止める治療を続ける傾向があるため、鼻腔の乾燥や、深部への炎症を招きやすい。本方は発表を行いつつも、いかに炎症や乾燥を助長せず清熱へと導くかという考え方のもと作られた方剤。故にこのようなケースで非常に使い勝手が良い。
銀翹散:「構成」
金銀花(きんぎんか):連翹(れんぎょう):薄荷(はっか):荊芥(けいがい):竹葉(ちくよう):香豉(こうし):牛蒡子(ごぼうし)甘草(かんぞう):

⑨辛夷清肺湯(勿誤薬室方函口訣)

 鼻腔・副鼻腔に起こる強い炎症をしずめる代表的な清熱剤。鼻炎の炎症が甚だしく、副鼻腔炎へと派生している場合では本方の運用が必要になる。副鼻腔炎の急性炎症期、鼻の中に熱感や乾燥感がある場合に用いる。また炎症によって鼻茸(ポリープ)が生じ、鼻の孔を塞ぐように大きくなる勢いのもの。さらに後鼻漏にて黄色・緑色を呈する粘稠な痰を出す者に用いられる機会がある。
 本方は強力な清熱作用を持つ薬であるが、熱の程度によって清熱作用を強める必要がある。また本方には排膿作用がなく、そのため痰の排出を促さなければならない副鼻腔炎では排膿散及湯のような排膿薬を合わせる必要がある。鼻部の清熱剤には、本方の他にも加減涼膈散や清上防風湯などがある。これらの方剤にはそれぞれの特徴があり、病態を見極めた上で適宜選択する。
辛夷清肺湯:「構成」
辛夷(しんい):石膏(せっこう):知母(ちも):黄芩(おうごん):山梔子(さんしし):百合(びゃくごう):麦門冬(ばくもんどう):枇杷葉(びわよう):升麻(しょうま):

⑩柴蘇飲(本朝経験方)

 小柴胡湯と香蘇散との合方。鼻・耳の詰まりを取る薬として耳鼻科領域の病に広く用いることができる。どちらかと言えば花粉症のようにアレルギー性の炎症に効果を発揮しやすい。粘稠な痰を伴うような炎症の強い病態には不向きである。本方の特徴は「やわらかさ」である。点鼻薬などの常用によりややこじれた鼻炎・副鼻腔炎では、清熱や排膿などハッキリとした薬能を持つ方剤では対応しきれないことがある。そういう時は去湿・去痰・清熱・滋潤を包括してやわらかく行う本方のような処方の方が、かえって効果を発揮しやすい。また胃腸におだやかで胃の弱い方でも安心して服用でき、さらに鼻炎から副鼻腔炎、さらに耳が塞がるといった耳閉感に対しても広く効果を発揮する。優しい薬にはそれなりの使い方がある。
柴蘇飲:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):人参(にんじん):黄芩(おうごん):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):香附子(こうぶし):紫蘇葉(しそよう):陳皮(ちんぴ):

臨床の実際

漢方による鼻炎治療のポイント

漢方治療による鼻炎治療を解説する際に、一般的には「風寒(ふうかん)」とか「風熱(ふうねつ)」といった概念が頻用されています。これらの解説は他のサイトや本などで詳しく見ることができます。そこで、ここではあえて違う角度から解説していきたいと思います。実際に効果を発揮するためには、「風寒」と「風熱」とを的確に区別することも重要なのですが、実はそれ以上に大切なことがあります。「発表(はっぴょう)」という漢方特有の治療手法の理解です。

鼻炎と「発表」

●「発表」とは
「発表」とは何か。まずはアレルギー性鼻炎を例に説明します。外から異物が身体に入ってこようとした時、人体はそれを外に出そうと抵抗します。ハウスダストやダニ・ペットの毛などが鼻腔に侵襲した時に出る鼻水は、人体がこれらに抵抗して外に出そうとした結果発生するものです。この異物を外に出そうとする力を強め、助ける手法を漢方では「発表」といいます。鼻炎だけでなく、皮膚病や感染症の初期など広く用いることのできる手法です。

異物を外に出そうとする力を強めてしまうと、鼻炎などの症状が悪化してしまうのではないかと思われがちです。しかし「発表」を行うと鼻炎は止まります。なぜかというと「発表」によっていつまでも異物を外に出そうとしている反応がスムーズに進行し、終息へと導かれるからです。

●鼻炎が起こる人と起こらない人の違い
そもそも、なぜ日常的に存在している微弱な刺激に反応して鼻炎が起きてしまうのでしょうか。異物に反応せず鼻炎が起きない人とは何が違うのでしょうか。鼻炎が起こる人は、異物を外に出そうとする力が強いために鼻炎を起こしているわけではありません。むしろその逆です。異物を外に出そうとする力が弱いために、いつまでも鼻炎を続けてしまうのです。

外に出そうとする力が本当に強い人は、一発のくしゃみでその働きを全うできます。しかしいつまでもくしゃみが続き、鼻水を垂らしてしまう人は、外に出そうとする力が弱いためにいつまでも鼻炎が続いてしまうのです。外に出そうとする力が弱いということは、外からの刺激に対して緩慢な対応しかできない、ということです。つまり寒暖差などに反応して鼻炎が起きてしまう血管運動性鼻炎も、緩慢に対応し続けてしまうこの弱さが根本的な原因になっています。

●アレルギー性鼻炎と血管運動性鼻炎、両者に有効な「発表」
どちらにしても鼻炎を起こす人には、程度の差こそあれこのような弱さが必ず介在しています。アレルギー性鼻炎であろうが血管運動性鼻炎であろうが、どちらにしても原因は一緒なのです。刺激に対して緩慢にしか反応できない身体の弱さ、それが漢方の視点から見た鼻炎の正体です。そしてこのような弱さを鼓舞する手法、それが「発表」です。「発表」とは異物を外に出す力を強める働きと説明しましたが、より本質を言えば、刺激への対応を迅速に進め、この反応をスムーズに終息させる働きのことを指しています。そのため異物ではなく、寒暖差などの刺激によって起こる血管運動性鼻炎であっても、「発表」を用いることで鼻炎が迅速に終息していくのです。

鼻炎持ちの方では、朝や夜に症状が出るものの、日中活動している時はそれほど気にならないという方がおられます。またスポーツなどの運動をしている時は、鼻炎が起こらなくなるということもあります。これは身体を動かすことで、体の内から外に向かって血行が高まるからです。「発表」とは身体をこのような状態へと導く手法です。いつまでも高まりきらない血行を充分に高めてあげることで、刺激に迅速に対応できる体、微弱な刺激では反応するまでもない体、つまり鼻水が出る必要のない体の状態へと導くわけです。

「発表」の応用と注意点

このように「発表」は人体の刺激に対応する力を助ける薬能を持っているため、継続的に服用していくことで鼻炎が起こりにくい体質へと向かわせていく働きがあります。通常「発表」は一時的な薬能を発揮させるための手法です。そして体力を発散(消耗)させる薬能でもあるため連用するべきではありません。そのため鼻炎が終息したら「本治(ほんち)」といって体力を回復させる治療に切り替えます。これが漢方の基本です。しかし鼻炎ではその必要はありません。薬力を抑えた「発表」を継続していくことで鼻炎が起こらない体質へと向かっていきます。

アレルギー性鼻炎では、全身が発熱するわけでもなく、ただ鼻腔に炎症が続いている程度の反応が継続します。つまり「発表」の力はそれほど強くなくても充分に効果を発揮できます。したがって薬力を抑えた「発表」を継続していけば、体力を消耗する心配はありません。また本治法は身体を底上げする薬能を発揮させる分、鼻炎を即効性をもって止めるということが難しい手法です。一方で発表法は高い即効性をもって鼻炎を抑えることが可能です。通年性アレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎では、なんらかの刺激により常に鼻炎が起きている状態になります。そのため症状を真っ先に抑えつつ、そのまま体質改善へと向かわせる手法を行った方が、効き目も実感しやすく、かつ体質改善を含めた治療自体の期間も短くてすむ傾向があります。途中で本治薬に切り替えるというやり方よりも、薬力を調節した「発表」をもって、実際に迅速に鼻炎を止めつつ体質改善を図る方が、ずっと効率的な治療手法だといえます。

●発表を行わない方が良い場合
とはいえ、当然「発表」を行うべきではないケースもあります。発表には通常「麻黄」という生薬を用いますが、この麻黄は胃もたれや心臓への負担を起こすことがあります。したがっていくら薬力を弱く調節しても麻黄にて負担が起こるレベルの胃腸の弱りや心臓の弱りを持つ方では、麻黄剤を用いるべきではありません。

また炎症が強く、鼻炎から副鼻腔炎や鼻茸(ポリープ)へと症状が鼻の奥深くに波及してくるようになると「発表」が使いにくくなってきます。発表は基本的に血流を促す効果がありますので、何の配慮もなく発表を行うと炎症を悪化させることがあります。炎症が深まるにつれて、治療方法としては「発表」から「清法」・「和法」(時に「下法」)の段階に移行していきます。鼻炎では圧倒的に「発表」を用いる機会が多いといっても、やはり段階を見極めて治療方法を区別していく必要があります。

●鼻炎治療のポイント
総じて漢方による鼻炎治療において実際に効果を実感できるかどうかは、「発表」をいかに上手くできているか、というところにポイントがあります。そして一言で「発表」といっても、選択するべき処方や、その調節の仕方によっても効果が歴然と変わってきます。漢方でいうところの「風寒証」に対して、それ相応の漢方薬を使っても効かないということは良くあることです。その理由は「発表」のやり方が正しくないからです。「発表」は用いる薬方の種類だけでなく、薬の量や他剤との組み合わせによってその薬力を様々に変化させます。そのあたりの運用が的確に行われていないと鼻炎は止まりません。

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