子宮内膜症

子宮内膜症について

子宮内膜症とは

子宮内膜症は子宮内膜組織が本来あるべき場所以外の所に認められる疾患です。子宮内膜とは子宮の内側を覆っている膜のことです。本来子宮の内側にあるこの組織が、卵巣(チョコレート嚢腫形成)や子宮広間膜(子宮の前後面を覆う腹膜)・ダグラス窩(直腸と子宮との間の腹膜腔)・仙骨子宮靭帯などの子宮回りに発生してしまうのがこの疾患です。また比較的まれではありますが、卵管や小腸・大腸の漿膜表面・尿管・膀胱・膣・胸膜・心膜でも発生することがあります。なぜこのような場所に子宮内膜組織が発生してしまうのか、その原因は未だはっきりとわかってはいません。

●重い月経痛が特徴・不妊の原因にも
最も特徴的な症状は生活に支障が出るほどの重い月経痛です。時に性交痛や排便痛・排尿痛を起こしたり、不妊の原因になることもあります。子宮内膜症を見つけるためには生検や画像診断(確定診断には腹腔鏡による生検が必要で、エコーやMRIで診断されたものを臨床子宮内膜症という)が必要になりますので、本疾患が月経困難症の背景に隠れている場合もあります。異常発生した子宮内膜は女性ホルモンであるエストロゲンにより増殖することがわかっています。したがってエストロゲンの分泌が高まる通常の月経周期自体が負担になるため、妊娠出産回数が少ないために休むことなく月経を続けている女性が増えた近年において、発生しやすいと病であると言われています。

●現行治療とその問題点
西洋医学的には鎮痛薬やピル、ホルモン剤などの薬物療法が主に行われます。そしてそれでも症状がコントロールできない場合には手術を検討します。子宮内膜症における痛みは激烈なことが多く、NSAIDsなどの鎮痛薬では痛みを充分にコントロールできないことがあります。ピルやホルモン剤(GnRHアゴニスト)は痛みに対して有効な治療手段です。ただし低用量ピルでは血栓症のリスクが、ホルモン剤では人為的に閉経と同じ状態を導くことで更年期障害のような症状や骨量減少を起こすリスクがあり、何より妊娠を希望されている方ではこれらの治療ができません。

子宮内膜症と漢方治療

こういった一長一短のある薬物療法の中で、漢方は非常に有効性の高い治療だと言えます。まずピルやホルモン剤に見られるような副作用を起こすことがなく、妊娠を希望される方でも問題なく服用することができます。また子宮内膜症の治療と同時に、妊娠しやすい状況へと導いていくことも可能です。さらに痛みを止めとしての効能も優れていて、NSAIDs以上の効き目を発揮することが少なくありません。手術を検討する前に、一度は必ず試されてみるべきだと思います。

ただし漢方治療にも問題点があります。それは自分の状態に合った薬方を服用しなければまったく効果が現れないという点です。そして自分に合っていない漢方薬を服用すると、効果が無いばかりか、副作用が出たり、症状が悪化することさえあります。本来漢方薬は子宮内膜症という病名だけで選択できるものではありません。子宮内膜症の方が10人いれば、10人とも効果を発揮し得る薬方が異なる。極端に言えば漢方治療とはそういうものです。したがって、各個人の状態を正確に見極め、漢方薬を的確に選択できるかどうか勝負になります。

参考コラム

まずは「子宮内膜症」に対する漢方治療を解説するにあたって、参考にしていただきたいコラムをご紹介いたします。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

コラム|漢方治療の経験談「子宮筋腫・子宮内膜症治療」を通して

当薬局でもご相談の多い子宮内膜症。日々治療を経験させていただいている中で、実感として思うこと、感じたことを徒然とつぶやいたコラムです。

漢方治療の経験談「子宮筋腫・子宮内膜症治療」を通して

コラム|【漢方処方解説】桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

「瘀血(おけつ)」の名方、桂枝茯苓丸。この処方は「瘀血」と呼ばれる骨盤内臓器の充血に効果を発揮します。そこで月経痛や子宮筋腫、子宮内膜症などの治療に頻用されていますが、一方で安易に使われ過ぎている傾向もあり、飲んでも効果が無かったと言われる方も少なくありません。そこで今回は桂枝茯苓丸とは本質的にどのような薬なのかを、自身の経験と考察とを通して説明していきたいと思います。

【漢方処方解説】桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

使用されやすい漢方処方

①折衝飲(せっしょういん)
②桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
③通導散(つうどうさん)
④少腹逐瘀湯(しょうふくちくおとう)
⑤芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
 生化湯(しょうかとう)
⑥当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
⑦当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)
⑧大柴胡湯(だいさいことう)
 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
⑨田七人参(でんしちにんじん)
※薬局製剤以外の処方も含む

①折衝飲(産論)

 「子宮部の瘀血による痛み」に対して高い効果を発揮する方剤。当帰芍薬散や桂枝茯苓丸・桃核承気湯などでも止まらない月経痛にしばしば著効する。通常、強い駆瘀血(化瘀)作用は大黄などの下剤を用いて「下法」を行うことで実現させるが、本方は下法を用いず、延胡索や牛膝などの鎮痛薬をもってそれを実現させているところが最大の特徴である。子宮筋腫や子宮内膜症などに運用され、特に子宮内膜症に対しては理にかなった生薬構成を持っている。鎮痛薬としての効能のみならず、その高い駆瘀血性から長服すれば瘀血を生じにくい体質へと導く。瘀血の迅速な消退を主眼としているため、薬能を緩和させる甘草は入っていない。補の薬能が薄い分、出血過多にて貧血が介在している場合には耗血することがあるため注意を要する。
折衝飲:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):延胡索(えんごさく):牛膝(ごしつ):紅花(こうか):

②桂枝茯苓丸(金匱要略)

 婦人科領域に用いる駆瘀血剤として有名。「瘀血(おけつ)」を去る薬方として月経痛に頻用されるが、子宮内膜症にはやや不十分で、効果を発現するためにはコツがいる処方である。
 まず第一に、そもそも桂枝茯苓丸には痛みを止める配慮が弱い。したがって本方を痛みに運用する場合には痛み止めへの配慮が必要になる。まず必要になるのが甘草。芍薬・甘草の薬対を作ることで子宮筋の緊張を緩和する。原南陽は本方に甘草と生姜とを加え「甲字湯」と名付けて運用している。その他、香附子や大黄などを適宜配合する場合もあれば、鎮痛作用のある他剤に合方して用いる場合も多い。
 もともと本方は流産時の出血多量や、胎児死亡、後産の出ない場合や止まらない場合に、腹中に止まる「癥瘕(ちょうか:かたまり)」を下す薬として作られた。つまり本来は痛み止めではない点、そして一時的に生じた病態に適応する薬方である点(体質治療を目的とはしていない点)は知っておく必要がある。本方適応者の体質として「体力があり中間証から実証の体質者で、足がひえてのぼせ、イライラして気逆の傾向がある者」などと説明されることが多いものの、習熟した漢方家であるほど、これをそのまま鵜呑みにして運用しない。体質治療に応用するならば、本方にそれなりの配慮を行う必要がある。単剤で用いるよりは駆瘀血剤として他剤と合方されることが多い。
桂枝茯苓丸:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):茯苓(ぶくりょう):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):

③通導散(万病回春)

 もと「折傷(せっしょう)」つまり骨折や打撲、内臓損傷などの治療薬として作られた方剤。「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血液循環障害に広く用いられるようになった。子宮内膜症においても駆瘀血剤の一つとして運用される。桂枝茯苓丸が比較的穏やかな駆瘀血作用をもつ薬であるのに対して、本方は強力な駆瘀血剤に属する薬方である。「下法(げほう:大便の通じを促すことで鬱血を去る手法)」によって瘀血を駆逐する点が特徴。牡丹皮・桃仁を加えて運用されることが多い。同じく下法にて瘀血を去る薬に桃核承気湯がある。桃核承気湯が比較的新しい瘀血に対応する薬方であるのに比べて、通導散はやや陳旧性のある瘀血に適応すると言われている。どちらにしても強い駆瘀血剤として単方もしくは他剤と合方して運用される。
通導散:「構成」
当帰(とうき):枳殻(きこく):厚朴(こうぼく):陳皮(ちんぴ):木通(もくつう):紅花(こうか):蘇木(そぼく):甘草(かんぞう):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

④少腹逐瘀湯(医林改錯)

 中国清代の王清任によって書かれた『医林改錯』は、臓腑解剖という手法を以て東洋医学的治療を導き出そうとした一風変わった書物である。そして多くの駆瘀血剤を創立させた書籍としても有名。その中でも本方は「少腹」つまり下腹部の瘀血を駆逐する目的で作られた。温経と止痛を主とすることから月経困難症や子宮内膜症に応用されることが多い。特に蒲黄・五霊脂の薬対は失笑散(しっしょうさん)であり、瘀血による痛みに対しての鎮痛剤。延胡索と没薬を加えることでさらに鎮痛作用を強めている。中医学にて頻用される傾向があるものの、日本ではそれほど知名度がない。しかし折衝飲と並び、子宮内膜症においては知っておくべき処方である。
少腹逐瘀湯:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):芍薬(しゃくやく):蒲黄(ほおう):五霊脂(ごれいし):没薬(もつやく):延胡索(えんごさく):肉桂(にくけい):小茴香(しょうういきょう):乾姜(かんきょう):

⑤芎帰調血飲第一加減(漢方一貫堂医学)生化湯(勿誤薬室方函口訣)

 産後におこる骨盤内の充血を去る芎帰調血飲に、血行循環を改善する駆瘀血薬を配合したのが本方である。骨盤内臓器の充血を去る目的で月経痛や冷え性・腰痛など、産後に関わらず広く応用される。温性を持つ駆瘀血剤として子宮内膜症にも応用される。平素より下半身が冷え、膀胱炎や痔を患いやすく、時として気持ちを病み不安定になりやすい者。多種類の生薬にて構成される処方ではあるが、その基本骨格を理解すれば様々な疾患に応用することができる。同じく産後、特に分娩後の下腹部痛に用いられる方剤に生化湯がある。芎帰調血飲第一加減を一等切れ味するどくしたような処方で、頓服的な痛み止めとして月経痛に運用できる。
芎帰調血飲第一加減:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):川芎(せんきゅう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):烏薬(うやく):香附子(こうぶし):益母草(やくもそう):延胡索(えんごさく):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):紅花(こうか):桂枝(けいし):牛膝(ごしつ):枳殻(きこく):木香(もっこう):大棗(たいそう):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

生化湯:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):桃仁(とうにん):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

⑥当帰四逆加呉茱萸生姜湯(傷寒論)

 末端冷え性に用いられる機会が多い。その実は桂枝湯を内包し、血を復して血流を促し、冷えに対する身体の過緊張状態を緩和させる薬方である。強力な痛みを生じる月経困難症に用いられる。適応した時の鎮痛効果は非常に高く、一服にて痛みを消失させる場合も多い。月経時に足先から下腹部まで急激に冷え、冷気が下半身を伝って下腹部に内攻し、激しい痛みと同時に身体が緊張状態に陥り、胃痛や吐き気・下痢、頭痛にまで諸症状が波及する気配のある者。呉茱萸・生姜を除いたものを当帰四逆湯というが、これも痛み止めとして有効である。ただし内攻する気配のある者は呉茱萸・生姜が必要。
 冷えの関与する強力な月経痛に用いられる本方であるが、あくまで活血が主体であり化瘀(瘀血をのぞく薬能)が弱い。子宮内膜症においては瘀血をさばかなければいけないケースが多く、本方に駆瘀血剤を合わせることが多い。中でも桃核承気湯との相性が良い。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯:「構成」
当帰(とうき):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):細辛(さいしん):木通(もくつう):生姜(しょうきょう):呉茱萸(ごしゅゆ):

⑦当帰建中湯(金匱要略)

 「虚労(きょろう)」という一種の疲労状態を回復する小建中湯に当帰を加えたもの。出典の『金匱要略』では産後の疲労に伴う腹痛への適応を提示している。子宮内膜症にて疲労感が強い者に用いる場がある。出血過多より貧血を伴う者にも良い。疲労倦怠感と伴に月経時に腹に刺すような痛みや絞るような痛みがあり、痛みが腰や背にまで及ぶ者。血を充実させ、血行を促すというのが本方の主眼である。
 これに黄耆を加えたものを帰耆建中湯という。江戸時代の外科医、花岡青洲によって作られた処方で、膿瘍自潰後の肉芽の新生を早め、外科手術後の傷跡や全身状態を回復させる目的で使用していた。当帰建中湯に比べて虚を補う力が強く、月経血がいつまでもダラダラと続いて止まず、出血中に疲労感が強く、すぐに体がだるくなるという者に良い。
当帰建中湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):当帰(とうき):

⑧柴胡桂枝湯(傷寒論)大柴胡湯(傷寒論)

 柴胡桂枝湯・大柴胡湯などの柴胡剤は、通常消化器系や心療内科経の疾患に用いられることが多い。しかし内分泌の働きが関与する婦人科系疾患に対しても無くてはならない方剤である。日本では古くから婦人科系疾患に応用する意義を提示している。例えば浅田宗伯は柴胡桂枝湯に大黄を加えて無月経に用い、尾台榕堂は同方を婦人の「血の道」に良いと言い、湯本求真は体質改善薬としてこれらの方剤に当帰芍薬散や桂枝茯苓丸を合わせて用いていた。月経にまつわる諸症状には、当帰や川芎などが配合された血剤を用いたくなるものの、そこからは一見離れた柴胡剤や利水剤にて著効を得ることも少なくない。しっておくべき手段である。
柴胡桂枝湯:「構成」
柴胡(さいこ): 半夏(はんげ): 桂枝(けいし):黄今(おうごん): 人参(にんじん): 芍薬(しゃくやく): 生姜(しょうきょう): 大棗(たいそう): 甘草(かんぞう):

大柴胡湯:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):黄芩(おうごん):芍薬(しゃくやく):枳実(きじつ):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):大黄(だいおう):

⑨田七人参

 「散瘀止血(さんおしけつ)」の聖薬である。ウコギ科のサンシチニンジンの根で、各種出血に非常に優れた効果を発揮する。止血薬は血を止めるため血の瘀滞を残すことがある。しかし田七人参は瘀血を散らす「散瘀」の効能も備えており、瘀をとどめる弊害がない。瘀を消すため止痛効果もあり、打撲の腫れや痛み、さらに月経痛に用いられることが多い。総じて子宮内膜症や不正性器出血などの婦人科疾患においては要薬である。高価であることが難点。

臨床の実際

●子宮内膜症と「瘀血」
子宮内膜症は東洋医学では「瘀血(おけつ)」という病態に属していると考えることが一般的です。実際に各駆瘀血剤を使用することで痛みが取れ、大量の月経血量が落ち着いてくるということがしばしば起こります。腹腔内に子宮内膜組織が生着した後、それがホルモンの働きを介して出血を起こして炎症反応を生じ、続いてフィブリン沈着と癒着が生じて、最終的には瘢痕化が起こってくる、というのが子宮内膜症の臨床像です。山本巌先生は「ファイブローシス・線維化というのは全部瘀血だと思う」という見解を述べられておりますので、そこから考えてみても子宮内膜症は瘀血に合致していると言えるでしょう。

●「瘀血」:あいまいな概念
しかし漢方にて良く用いられるこの「瘀血」という病態は、非常にあいまいな概念です。漢方が説明される際に頻用されている分、この概念が実はあいまいであるということはハッキリとお伝えしておく必要があります。山本先生も一つの明確な病態として瘀血を扱わず、あくまで一種の臨床仮説として捉えておられます。駆瘀血剤という手段があり、その手段によって改善していく病態があるという現実から導き出された仮想病態であって、今のところはそれ以上でもそれ以下でもないというのが正直なところです。

このように瘀血は手段が先行して培われてきた概念ですので、ここでは瘀血という病態を説明するよりも、あくまで子宮内膜症をどのように治療していくのかということを解説していきたいと思います。

<子宮内膜症治療の実際>
活血化瘀剤の運用と注意点

子宮内膜症は駆瘀血剤を上手に使うことが求められる疾患です。経験的に瘀血への配慮が薄いと下腹部や腰回りの痛みが取れないからです。ポイントは上手に使うという所で、ただ闇雲に駆瘀血剤を使うだけではダメで、その方の状態にあった駆瘀血剤を選択していく必要があります。

●「瘀血」治療の要薬:桃仁
駆瘀血剤には瘀血を駆逐する薬能(これを逐瘀とか化瘀と呼びます)に強弱の段階があります。まず駆瘀血に一般的に用いれる生薬は桃仁です。桃仁はモモの成熟した種子であり、比較的穏やかな作用をもった化瘀薬です。やや流れの滞った血液をサラリとさせて流れやすくさせるようなイメージです。桃仁を主体として化瘀を行う方剤には桂枝茯苓丸や当紅四物湯があります。一般的に用いられやすい方剤ではありますが、桃仁はそれほど強い駆瘀血作用を持っているわけではありません。子宮内膜症では薬能が不十分であることが多く、私はこれらの処方を単独ではあまり用いません。

●「下法」の運用
より強い駆瘀血作用を発揮させるための手段として、大黄や芒硝などの下剤が配合された処方を組み合わせるという方法があります。「下法(げほう)」と呼ばれる手法で、大便の通じを毎日しっかりつけてあげることで、滞った血液の流れを積極的に促します。大便の通じをつけることで血行が促されるという理屈は西洋医学的に解釈しにくい考え方ですが、おそらく大腸平滑筋の活動が促されることで、骨盤内の血行が良くなり、しいては全身の血行循環の改善につながるのではないかと思います。実際に下法を用いると骨盤内臓器の血行循環が即効性をもって改善することがあり、便秘している方はもちろん、特に便秘していない方でも毎日通じが気持ちよくつくように工夫すると改善のスピードが速まることがあります。

具体的には桂枝茯苓丸に大黄甘草湯や大黄牡丹皮湯を配合します。またもともと下法をもって化瘀をはかる処方に桃核承気湯や通導散があります。このうち特に通導散は強い駆瘀血作用をもった方剤です。ただし化瘀の要薬である桃仁が入っていませんので、通導散に桂枝茯苓丸を加えた方が良いと思います。(※より強い駆瘀血作用を発揮する生薬として、水蛭(ヒル)や虻虫(アブ)などの動物性生薬が使われることもあります。)

●「下法」の注意点
子宮内膜症ではこのような駆瘀血剤を状態に合わせて正確に選択することが大切になってきます。下法は化瘀を行う上で重要な手段ではありますが、一律的に用いて良いものではなく、例えば出血過多により貧血の傾向がある方(虚の強い方)では体調を悪化させることがあります。その場合は使用を避けるか、分量を加減する必要があります。このあたりの匙加減は各医療機関によって使用している薬の質も違いますので、先生方の経験によるところが大きいと思います。そして瘀血を駆逐するためには、こういった匙加減が非常に重要になってきます。

●「活血」の重要性
また子宮内膜症では瘀血を化瘀するばかりではなく、血行を促すための「活血」も必要です。化瘀は「滞った血(瘀)を変化させて消す(化す)」という意味が主体ですが、活血は「血を活する」つまりより積極的に血流を促すという意味があります。化瘀と活血は薬能としての本質は別ですが、瘀血に対しては瘀を消し血を活するという両者の薬能が必要です。したがって一般的には2つを合わせて活血化瘀と呼ばれます。化瘀の仕方に色々あるように、活血の仕方にも色々あります。当帰・川芎剤と桂枝・芍薬剤とでは血流の促し方が異なりますし、呉茱萸を用いるべき時や、柴胡が必要な時もあります。

●「活血」と「化瘀」とのバランスを調える
これらの点を踏まえて、子宮内膜症にて活血化瘀を行う場合に最もバランスが良い処方は折衝飲だと思います。当帰・川芎・桂枝・芍薬によって強力に活血し、同時に桃仁・牡丹皮によって瘀を消し、さらに延胡索や牛膝といった鎮痛効果のある生薬を加えたこの処方は、子宮内膜症における強い月経痛に対して理にかなった構成を持っていて、実際の臨床においても子宮内膜症にしばしば著効します。その他、当帰四逆加呉茱萸生姜湯に桃核承気湯を合わせたものや、芎帰調血飲第一加減、大柴胡湯に桂枝茯苓丸を合わせたものなども効果的な方剤です。どのような処方を使用するにしても、効果を発揮させるためには的確に活血と化瘀とを選択することが必須で、さらに両者のバランスを誤らないことも非常に重要な要素になります。

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