陰部湿疹・陰部掻痒症について

陰部湿疹・陰部掻痒症とは

陰部に発疹や水疱、時に膿疱などといった皮膚炎を生じる病の総称を「陰部湿疹」といいます。皮膚が腫れたり、ただれたり、乾燥して固くなったりすることもあります。各種性感染症によっても起こりますが、生理用品や下着によるかぶれや、脂漏性湿疹・アトピー性皮膚炎が原因となって起こることが多いものです。

一方で患部がやや赤いかなという程度で何ら発疹がなく、陰部にだけ強い痒み(時にチクチクとした痛みや違和感・熱感)が生じることもあり、これを「陰部掻痒症」といいます。子宮にまつわる疾患や各種性感染症、糖尿病や前立腺にまつわる病など様々な原因によって起こる可能性があります。女性では陰唇に起こることが多く、男性でも陰嚢に起こることがあります。中年以後の女性に起こることが多いと言われていますが、比較的若い方でも起こることのある病です。

●現行治療と問題点
背景に何らかの原因となる疾患がある場合には、その治療を主として行うことになります。同時に抗ヒスタミン薬(痒み止め)などの内服、また陰部に直接塗る痒み止めの外用薬などで対応することが一般的です。しかし特に原因が見つからない場合は根本治療が難しく、また痒み止めの内服や外用では効果が上がらないこともあり、こういったケースでは治療が難しい病という印象がもたれています。便通を調える・刺激の強い食事やアルコールを避けるといった生活習慣の改善も重要ですが、実際にはこういった努力を行っても改善へと向かわないという方も多いようです。

陰部湿疹・陰部掻痒症と漢方

このような陰部の不快感に対して、漢方治療が有効であることはあまり知られていないと思います。事実、漢方では陰部の症状に対する治療経験が多く積み重ねられてきた歴史があり、対応する手法がいくつも考案されてきました。子宮疾患や更年期障害、糖尿病や前立腺肥大など、背景に何らかの病が存在している場合はもちろんのこと、そういった原因疾患が特に見つからず根本治療ができないという場合であっても対応が可能です。湿疹や痒みが収まると同時に、陰部の症状自体が起こらない状態へと向かっていく傾向もあります。

●状態の見極めが肝要
ただし、漢方治療において陰部の皮膚病、特に陰部掻痒症はやや独特の治療方法を必要とする疾患です。そして膀胱炎や肛門周囲炎・帯下(おりもの)や性感染症・便秘や痔などの治療方法を総合して対応していくことが必要になる病でもあります。一律的にこの漢方薬が良いということで済まされる病ではありませんので、個々の状態を見極めた上で、適切な漢方薬を選択する治療が求められます。

※陰部湿疹(実際に陰部に湿疹があって痒いという場合)は、ここで述べる治療の他にも各種湿疹・皮膚炎にて行う治療が必要なケースもあります。詳しくは下記の項目をご参照ください。

湿疹・皮膚炎
脂漏性皮膚炎
アトピー性皮膚炎

使用されやすい漢方処方

①竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
②五淋散(ごりんさん)
 八正散(ごりんさん)
③加味逍遥散(かみしょうようさん)
④三物黄芩湯(さんもつおうごんとう)
⑤桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
 通導散(つうどうさん)
⑥八味帯下方(はちみたいげほう)
⑦芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
⑧蛇床子(じゃしょうし)の腰湯
※薬局製剤以外の処方も含む

①竜胆瀉肝湯(薛氏医案)(漢方一貫堂医学)

 下腹部に発生した強い湿熱を解除する方剤。子宮・膣・陰唇の充血や炎症、水疱や膿疱などに対して効果を発揮する。性感染症や陰部湿疹、また陰部掻痒症に広く用いられる。患部が腫れて熱感があり、痒みが強く冷やすと緩和する者。濃く粘稠でやや黄色を帯びたおりものを出す者。普段からアルコールや辛い物・油物などを多く摂取している者など。外陰部の炎症のみならず、膀胱炎や尿道炎に対しても効果を発揮する下腹部の炎症止めである。
 『薛氏医案』の処方は清熱利水が主であり、炎症をとにかく抑えるという場で用いられやすい。一方で『漢方一貫堂医学』の竜胆瀉肝湯は薛氏医案の方剤を改良したもので、解毒証体質と言われる炎症を生じやすい体質治療に用いられる方剤。湿熱とともに炎症がやや慢性化し、血熱を絡める病態に運用しやすい。
竜胆瀉肝湯(薛氏医案):「構成」
竜胆(りゅうたん):山梔子(さんしし):黄芩(おうごん):木通(もくつう):沢瀉(たくしゃ):車前子(しゃぜんし):)当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう)
竜胆瀉肝湯(漢方一貫堂医学):「構成」
竜胆(りゅうたん):山梔子(さんしし):黄芩(おうごん):木通(もくつう):沢瀉(たくしゃ):車前子(しゃぜんし):)当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう):芍薬(しゃくやく):川芎(せんきゅう):黄連(おうれん):黄柏(おうばく):連翹(れんぎょう):薄荷(はっか):防風(ぼうふう):

②五淋散・八正散(万病回春)

 「淋証(りんしょう)」に用いる代表方剤。「淋証」とは頻尿や排尿痛を起こす排尿障害を包括した病で、主に膀胱炎や尿道炎を指す。陰部の湿熱を去る方剤として陰部湿疹・陰部掻痒症に応用する。『和剤局方』にて載る本方は黄芩が入っていない。清熱の配慮が強くほどこされた『万病回春』掲載の本方が用いられやすい。また同じく『万病回春』に掲載されている八正散は、五淋散に比べてより熱が沈瀝した状態に用いる方剤。大黄を以て熱を去る点が特徴で、より熱感の強い場合に運用される機会が多い。ともに淋証の適応方剤ではあるが、湿熱の絡んだ陰部湿疹・陰部掻痒症に用いて良い場合がある。
五淋散:「構成」
山梔子(さんしし):黄芩(おうごん):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):茯苓(ぶくりょう):当帰(とうき):さらに・地黄(じおう):沢瀉(たくしゃ):木通(もくつう):滑石(かっせき):車前子(しゃぜんし):
八正散:「構成」
山梔子(さんしし):大黄(だいおう):桃仁(とうにん):瞿麦(くばく):扁蓄(へんちく):木通(もくつう):車前子(しゃぜんし):滑石(かっせき):甘草(かんぞう):燈心草(とうしんそう):

③加味逍遥散(薛氏医案)

 本来内分泌系・自律神経系の乱れに対応する方剤であるが、湿熱・血熱を清熱する方剤として膀胱や生殖器の炎症に用いることができる。『薛氏』の竜胆瀉肝湯とは虚・実の別がある。本方は竜胆瀉肝湯に比べればやや胃腸の弱りを介在させる虚の者に用いる機会が多い。月経前にイライラしやすく、胸が張って浮腫み、のぼせやすく便秘の傾向がある者。このようなPMS(月経前症候群)を発生させると同時に外陰部に湿疹を生じたり、痒みを起こすという者に著効することがある。
加味逍遥散:「構成」
山梔子(さんしし):牡丹皮(ぼたんぴ):柴胡(さいこ):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):当帰(とうき):薄荷(はっか):

④三物黄芩湯(金匱要略)

 もともと産後の「煩熱(はんねつ)」と呼ばれる手掌の熱感に用いられる方剤。血熱といってやや沈瀝した深い熱に対して対応すると同時に、湿熱性の痒みを緩和させる薬能を持つため、陰部湿疹および陰部掻痒症にておいて運用する機会がある。陰部の皮膚病は湿熱と血熱との両者を介在させることが多い。本方は加味逍遥散や竜胆瀉肝湯などに合わせて用いることで、やや深くこびりついた熱状を緩和させる際に役立つ方剤である。
三物黄芩湯:「構成」
地黄(じおう):黄芩(おうごん):苦参(くじん):

⑤桂枝茯苓丸(金匱要略)桃核承気湯(傷寒論)通導散(万病回春)

 すべて「瘀血(おけつ)」に対応する駆瘀血剤である。子宮・膣・外陰部などの骨盤内臓器は毛細血管を豊富に含む臓器であり、この部の血行障害は「瘀血」と呼ばれる血液の詰まりを生じやすい。これらの方剤は瘀血を除くことで血行を促し、陰部に起こる痒み・痛みなどの不快感を改善する方剤である。特に陰部掻痒症においては瘀血を基盤に血熱を生じていることが多い。これらの方剤にて清血熱・化瘀という手法を以て対応すると、迅速に陰部の不快感が改善することがある。
 桂枝茯苓丸は瘀血に対応する代表方剤である。その効能は比較的穏やか。したがって本方を用いる際にはいくつかの配慮が必要で、これをそのまま単独で用いてもあまり効果がない。特に陰部掻痒症においては血熱を冷ます薬能が弱い。大黄や山梔子などの配慮が必要になる。
 一方で桃核承気湯や通導散は「下法(げほう)」と呼ばれる清熱作用を有し、比較的強い清熱作用を持ち合わせる薬方である。下法とは大便の通じをつけることで迅速に瘀血を散らして血熱を冷ます手法。桃核承気湯は比較的新しい瘀血を散らし、通導散は陳旧性の瘀血を瀉下する効果が強い。各々に適した病態があり、それを見極めながら運用することが肝要である。
桂枝茯苓丸:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):茯苓(ぶくりょう):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):
桃核承気湯:「構成」
桂枝(けいし):甘草(かんぞう):桃仁(とうにん):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):
通導散:「構成」
当帰(とうき):枳殻(きこく):厚朴(こうぼく):陳皮(ちんぴ):木通(もくつう):紅花(こうか):蘇木(そぼく):甘草(かんぞう):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

⑥八味帯下方(勿誤薬室方函口訣)

 江戸末期の名医・浅田宗伯は「帯下(たいげ:おりもの)」の治療に欠くべからざる方として本方を上げている。江戸時代は梅毒が流行し、本方もその梅毒治療の中で運用されていたものと考えられる。薬能の基本は活血・敗毒であり、下腹部の血行を促すとともに、湿熱性の邪毒を排除する薬能を持つ。この薬能を陰部湿疹や陰部掻痒症に対して応用し効果を上げることがある。すでに炎症が陳旧化し、炎症の勢いが弱まるも血行循環が改善せず、未だに外陰部の不快感が取れないといった場で運用する機会が多い。
 本方の構成は明らかに当帰芍薬散が原型となっている。当帰芍薬散で活血を行うも、陳旧化する炎症を助長することなく排毒へと向かわせようとする意図が垣間みえる。言い換えれば当帰芍薬散自体にも陰部症状を改善する効能があるということ。各症状に従って山梔子または黄耆といった加減を施すことで対応する。
八味帯下方:「構成」
山帰来・土茯苓(さんきらい・どぶくりょう):当帰(とうき):川芎(せんきゅう):茯苓(ぶくりょう):木通(もくつう):陳皮(ちんぴ):金銀花(きんぎんか):大黄(だいおう):

⑦芎帰調血飲第一加減(漢方一貫堂医学)

 本方は明代に書かれた『万病回春』において、産後一切の諸病に適応する方剤として紹介されている芎帰調血飲の加減方。「瘀血」に対する配慮が成されることで、出産後に起こる諸症状に広く対応できる方剤である。下腹部から下半身にかけての血行障害を広く改善する薬能を備え、特に冷え症などの寒証に属する瘀血に運用する。陰部湿疹や陰部掻痒症では、出産後に悪化する者がいる。本方にて改善を図ると、昔からの持病としてあった陰部症状がきれいになくなったと喜ばれることがある。炎症の勢い弱く、冷えると陰部の湿疹や不快感が悪化するという者。体質改善を図る薬であると同時に、的確に用いれば比較的迅速に効果を発揮することも多い。
芎帰調血飲第一加減:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):川芎(せんきゅう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):烏薬(うやく):香附子(こうぶし):益母草(やくもそう):延胡索(えんごさく):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):紅花(こうか):桂枝(けいし):牛膝(ごしつ):枳殻(きこく):木香(もっこう):大棗(たいそう):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

⑧蛇床子の腰湯

 蛇床子(じゃしょうし)はセリ科のオカゼリの成熟果実。陰部の痒みを止める効能を持つことから、民間療法にて腰湯として使われ、陰嚢湿疹・外陰部湿疹など陰部の痒みを止める手法として利用されてきた。湿疹や痒みに対しては、蛇床子や苦参など、外用として効果を及ぼすものも多い。
蛇床子腰湯:「構成」
蛇床子(じゃしょうし):苦参(くじん):当帰(とうき):威霊仙(いれいせん):

臨床の実際

陰部湿疹と陰部掻痒症とは伴に皮膚の病に属しますが、一般的な皮膚病に比べてやや独特な病態に対応する手法が求められます。また両者は基本的に異なる治療法をもって対応します。この特殊な病態と双方の違いを解説するためには、まずは皮膚病一般で行われている漢方治療のおおもとを説明する必要があります。

●皮膚病治療の基本と東洋医学的解釈
皮膚病はその病の経過を大きく見ると、まずは「炎症」から始まり、その後「組織の修復」へと向かっていきます。例えば誰しもが馴染みの深い虫刺されでは、まずは「炎症」が起こります。そして後に炎症が引くとともに赤味が引き、掻きむしった痕(あと)が治癒していくのは、体が「組織の修復」という活動を行った結果として生じます。「組織の修復」は具体的に言えば血行状態が改善することで実現します。そのため「組織の修復」=「血行循環の改善」と言い換えても良いと思います。

これを東洋医学の視点から見ると、炎症を大きく「熱」と解釈し、「血行循環の改善」を大きく「活血(または化瘀)」と解釈します。つまり炎症の段階では「熱」を引かせ、血行改善の段階では「活血(化瘀)」という手法をもって対応することが一般的です。

陰部湿疹と陰部掻痒症とでは、各々で皮膚症状の段階が異なります。したがって治療手法も区別して行わなければなりません。

<陰部湿疹と漢方治療>

皮膚病における熱証は、皮下より皮膚面へと、外方向に向かっていきます。そして実際に皮膚面を焼き、それによって湿疹や水疱・膿疱などが起こる状態であれば、その軽浮する熱を消し散らすという手法を用います。これを「消法(しょうほう)」といいます。陰部湿疹では、実際に陰部の皮膚面に湿疹が起こっていますので、この「消法」をもって対応することが一般的です。荊防敗毒散や消風散、そしてこれらに黄連解毒湯や石膏剤を合わせて治療を行います。

●陰部湿疹と「湿熱」
ただし陰部に起こる湿疹は「湿熱」と呼ばれるやや沈瀝して固着する熱証を介在させることが多いものです。これは下腹部に起こる炎症全般において言えることで、陰部湿疹のみならず、膀胱炎や肛門周囲炎においてもその傾向があります。おそらく、顔や手足の皮膚に比べて、膣や尿道・直腸といった粘膜を豊富に含む臓器に直結する皮膚面であるためにこのような湿熱が生じやすいのではないかと考えられます。

湿熱が介在する場合には単純な「消法」を行うだけでは熱(炎症)が収まりません。湿熱解除の手法を以て対応する必要があります。頻用される処方は竜胆瀉肝湯や五淋散・八正散、また加味逍遥散などです。「湿熱」はその部に止まり、沈着し固着するという性質がありますので、他の皮膚炎に比べて長引きやすい傾向があります。したがって湿熱が介在する場合には、それ相応の対応をしなければ改善に向かいません。基本的には各種湿疹の治療法と同じではありますが、陰部湿疹ではこういったやや独特な清熱法を念頭において対応しなければなりません。

●脂漏性湿疹・アトピー性皮膚炎が関与する陰部湿疹
一方で陰部湿疹は他の皮膚病が原因となって発生しているケースもあります。特にマラセチア菌というカビ菌が繁殖する「脂漏性湿疹」が関与している場合や、「アトピー性皮膚炎」が関与している場合もあります。これらが原因となる場合では、各種湿疹治療の範疇の中で進められていきますので、本項目及び以下の項目を参考にしていただければと思います。

また生理用品や下着にすれることによって湿疹が起きてしまうような、皮膚の過敏さに対応する手段は、湿疹治療の「本治(ほんち:皮膚が過敏に反応する体質自体を治す手法)」によって改善していくことが可能です。以下の皮膚炎治療の項目を参考にしてください。

湿疹・皮膚炎
脂漏性皮膚炎
アトピー性皮膚炎

<陰部掻痒症と漢方治療>

●漢方から見た陰部掻痒症:「血熱」と「血行障害」
前述のように皮膚病はその経過段階にしたがって「熱」から「血行障害」へと移行してきます。このうち陰部に明らかな湿疹が伴っている場合は「熱」の治療を主体とします。いわゆる陰部湿疹はこの状態にあたります。一方で明らかな発疹なく見た目の変化が乏しい場合では「血行循環の改善」がメインになってきます。陰部掻痒症は、どちらかといえばこの状態に属しています。

ただし陰部掻痒症においては「血行障害」の段階であっても、未だ熱が残存しているとう病態が多く存在します。「熱」は始め皮膚の上へと浮くようにして発生しますが、その熱が長く残存すると皮膚下の血中へと沈降していきます。このようなイメージから漢方ではこの熱を「血熱」と呼びます。陰部掻痒症では「血行障害」とともに皮膚下に深く固着している「血熱」を併存させているケースが多く、これらに対応する治療が必要になることが少なくありません。

「血行障害」と「血熱」とを介在させている病では「消法」が効きません。「消法」は皮膚面に現れてくる軽浮する熱を消し散らす手法です。陰部掻痒症のように皮膚面に熱が浮かず、皮膚下に沈瀝している場合では、荊防敗毒散や十味敗毒湯をいくら用いても熱が消えません。また深く沈瀝する「血熱」は血行を促すと激しく燃えることがあります。つまり「血熱」に対して血行を促す治療を積極的に行うと「血熱」を悪化させることがある、ということです。したがって陰部掻痒症では「血熱」を解除するための独特な手法が必要であり、さらに「血熱」と「血行障害」とのどちらが主となっているかを区別した上で治療を行う必要があります。

1.「血熱」を主としている場合

陰部の痒みが強く、いてもたってもいられず、患部に熱感があり、冷やすと気持ち良い。このような明らかな熱症状が起こっている場合は「熱」に属します。特に「血熱」の場合は夕方から夜間に悪化する傾向があります。血熱を冷ますには、大黄・山梔子・牡丹皮・赤芍・生地黄・紫根などの生薬をも用います。そして血熱の強さや併存する他の熱証に配慮しながら、薬方を選択していきます。

●「湿熱」の併存
血熱は皮膚の下に固着して残りやすい熱です。そしてこれと同じようにべったりとくっつきなかなか取れない熱証があります。「湿熱」です。陰部湿疹においても関与しやすいこの熱型は、陰部掻痒症においても関与している場合があります。そして陰部掻痒症ではこの「湿熱」が「血熱」に付随し、さらに固着して取れにくくなるため、慢性経過する方が非常に多くなります。特に夜間のみならず日中も痒みが強いという方、平素よりアルコールや刺激の多い食事を繰り返している方ではこの「湿熱」が強く介在している傾向があります。この場合、五淋散や八正散・竜胆瀉肝湯などを用いることが一般的です。さらに三物黄芩湯などを合わせて治療を行います。これらの治療は広く湿熱を解除していく傾向がありますので、膀胱炎になりやすいなどの症状も同時に改善されてくる傾向があります。

●「瘀血」から「血熱」へ
骨盤内の血行障害は、子宮や外陰部・膀胱や大腸・肛門などの血行状態を悪化させます。この部は毛細血管という目に見せない細かい血管が縦横無尽に張り巡らされている所で、そのため血行障害が起こるとこの部の血管が詰まりやすくなります。漢方ではこの詰まりを「瘀血(おけつ)」と呼びます。細い血管で構成されている骨盤内は、特にこの瘀血が発生しやすい部位と考えられています。

東洋医学では血液は熱と栄養とを巡らせている物と考えられていますので、骨盤内の血行障害(瘀血)はこの部に熱を蓄積させます。その結果、陰部の血熱となって陰部掻痒症を発生させることがあります。この場合、血熱を冷ますと同時に、瘀血を去る治療を行うことで、陰部の不快感が嘘のように消えるということがしばしば起こります。ただし瘀血による血熱の解除にはいくつかの手法があり、それを的確に調節しながら行う必要があります。

桂枝茯苓丸は瘀血の解除に頻用される方剤です。血熱を冷ます効果もあるため陰部掻痒症に頻用されている傾向があります。しかしこの方剤は比較的緩徐な効能を持つ薬方で、強い血熱に対しては加減や合方といったそれなりの配慮を行う必要があります。より強く清熱を施しつつ瘀血を去るためには「下法(げほう)」と呼ばれる手法が必要です。大便の通じをつけると同時に熱を瀉下するという方法で、大黄や芒硝と呼ばれる下剤を用いながら治療を行います。桃核承気湯や通導散がこれに当たり、的を射ると素早く効果を発揮する薬方でもあります。しかし人によっては腹痛や下痢などの副作用を起こす可能性もありますので、状態を見極めて運用することが絶対条件になります。

2.「血行障害」を主としている場合

患部の熱感はそれほどなく、寒い場所などで冷やすと悪化し、お風呂などで体を温めると患部の不快感が緩和されるといった場合では、血熱を冷ますよりも積極的に血行を促した方が良い場合があります。「活血」すべき病態に属し、各種活血剤を以てこれに対応します。ただし陰部掻痒症ではこの状態であっても完全に血熱が取れておらず、奥底で熱がくすぶっているケースがあります。したがって、活血を施しつつも、熱が助長されない程度に血熱を冷ます治療を同時に行うなどの配慮を状態を見極めながら行っていく必要があります。

●「活血薬」の運用
当帰・川芎・桂枝などを配合する方剤を用います。八味帯下方や芎帰調血飲第一加減を用いることが一般的です。このうち八味帯下方は本来「帯下(たいげ:おりもの)」の治療に用いられる方剤を陰部掻痒症に応用したもので、活血を同時に排毒を行うことで外陰部の熱毒を冷ます効能があります。また芎帰調血飲第一加減は骨盤内に起こるうっ血を広く改善する薬として用いられ、寒証に属する瘀血を去るための要薬でもあります。膀胱炎にないやすい・寒いと如実にお小水が近くなる・腰痛・月経痛・痔疾など、膀胱・子宮・大腸にまつわる血行障害を同時に改善していく傾向もあります。

●「虚」への対応
また血行を促すためには、血の流れを積極的に促すだけでなく、血を充実させることも重要です。特に身体疲労の傾向があり、貧血があったり食欲が無かったりといった「虚」の傾向を持つ方では、先に血を充実させなければいくら血行を促そうと思っても流れません。当帰建中湯・十全大補湯・補中益気湯、また苓桂朮甘湯合当帰芍薬散などを運用するべき機会があり、これらによって血を充実させることで陰部の不快感を改善していきます。

「虚」に対応する場合に最も重要なことは、その虚の段階を見極めるということです。「虚」という状態には段階があり、何が・どこまで虚を呈しているかという差によって薬方が異なります。そしてそれが的確に適合していなければいくら補剤を用いても血を充実させることはできません。そのあたりの見極めは、各先生方によって考えが異なるところでもあり、「虚を補う」という手法は知識と経験とによって初めて培われるものでもあります。

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