起立性調節障害(OD)について

朝目覚めると体調が悪く、起きるのがつらい。頑張って学校に行っても、立ちくらみや動悸・頭痛などが酷くて保健室で横になっていることが多い。一日中体調が悪いわけではなく、元気な時もある。特に夜間に元気になる。しかし朝になると決まって体調がわるい。これらは起立性調節障害における典型的な症状です。

起立性調節障害(OD)とは

お子様に起こるこのような起立性調節障害は、おそらく大人であってもつらいというレベルで体調不良を起こします。決して怠けたりさぼったりしているわけではないのですが、そのように勘違いされてしまうこともあります。このような病があるということを知っておくことが先ずは重要です。起立性調節障害において見られる症状には以下のようなものがあります。

〇朝起きられない
〇起きても体がだるくて動かすのがつらい
〇やる気が起きない
〇全身倦怠感
〇立ちくらみ
〇立っていると気分が悪くなる
〇失神する
〇頭痛・頭が重い
〇動悸・胸苦しい
〇吐き気・胃のむかむか
〇食欲不振・特に朝
〇夜になかなか寝付けない
〇イライラ・集中力低下

小学生・中学生の思春期前後のお子様にこれらの体調不良が継続し、病院で検査を受けても該当する異常を認めない場合、多くは「起立性調節障害」と診断されます。根本的な原因はわかっていません。思春期に起こりやすい自律神経機能の失調と考えられていますが、時に高校生や大学生まで続くこととがあります。血圧の低下がみられる場合では昇圧剤にて治療を行うことが一般的です。ただし昇圧剤を服用しても頭痛や動悸などが充分に改善できない例が散見され、さらに血圧の低下がないタイプのものや、逆に一過性の血圧上昇を示すタイプもあり、定まった治療方法がなく、未だ模索されている段階です。

起立性調節障害と漢方

今日は学校にいけるのか、体調不良がこの先ずっと続くのではないか、朝になると毎日心配になると思います。このように心配されている方々には、まずは安心していただきたいと思います。起立性調節障害は治療によって治る病です。的確に治療することができれば、朝元気に起きて学校に行けるようになります。

「起立性調節障害は漢方薬によって治る」と様々なサイトで解説されています。ネットに書かれている内容は私たち専門家から見ると疑問に思うところが多いものです。しかしこの情報については本当です。昇圧剤などの西洋医学的治療によって充分に改善しないという場合であっても、漢方治療によって良くなるケースが多いと思います。

●成長する力を促す治療
そもそも起立性調節障害は単に血圧だけ上げれば良いという問題ではありません。漢方の視点から見ると、起立性調節障害を持つお子様では成長期に必要な力が引き出されておらず、それが根本的な原因となって病を形成しています。もともとの力が無いのではありません。「引き出されていない」のです。この状況を的確につかんで漢方薬を選択し服用してもらうと、自分が本来成長し得る力を存分に発揮できるようになります。そしてある時期まとまった治療を行っておけば、起きれるようになる・頭痛や動悸や立ちくらみが消えるというだけでなく、身長がぐんと伸び、気持ちが安定し、その先の10代・20代に体の負担を残すことなく充実した生活を送れるようになります。

逆に言えば起立性調節障害を持つお子様は、自分が本来できるはずの成長を起こせていないということです。身長が伸び切らないまま成長期が終わる、体が作り切れいないまま成長期が終わるということは、体の弱さを持ったまま大人になるということでもあります。私見では起立性調節障害では漢方治療を必ず行った方が良いと思っています。その理由は、成長期という一生に一度しかないこの大切な時期に、体の成長を充分に促す治療を行った方が良いと思うからです。

ただし、漢方治療を行えば何でも良いのかというと、そういうわけではありません。起立性調節障害を改善していくためには、漢方薬の使い方にコツがいります。そしてそのコツを心得た運用を行うと、実際に改善に向かうだけでなく、即効性をもって改善していく傾向が出てきます。

使用されやすい漢方処方

①苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
②茯苓沢瀉湯(ぶくりょうたくしゃとう)
③五苓散(ごれいさん)
④小建中湯(しょうけんちゅうとう)
⑤補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
⑥半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
⑦四君子湯(しくんしとう)
 六君子湯(りっくんしとう)
⑧柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
⑨桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①苓桂朮甘湯(傷寒論)

 立ちくらみや動悸・息切れの治療薬として有名。山本巌先生の言葉を借りれば「フクロ―型」の体質をもつ者に適応する。朝が弱く起きるのが困難で、午前中の体調は悪いが、夜間になるとエンジンがかかりはじめ、午前中の体調不良が嘘のように無くなる者。夜間元気になる分、なかなか寝付けず、そのためさらに朝が弱く布団の中にだらだらといたがる者。朝礼で脳貧血を起こし倒れるような者。立ちくらみやめまいを起こしやすく色白で浮腫みの傾向がある者。本方はこういった体質的傾向のある方に適応するため、起立性調節障害の第一選択薬として運用されることが多い。
 にも関わらずこの処方を服用しても効果が認められない方もいる。ただしそれは、この処方の適応ではないという以前に、本方の使い方を間違えているというケースが多い。まず第一に本方はエキス顆粒剤では効果が弱い。特に起立性調節障害では通常量の服用では薬能が不足している感がある。効果を発揮するためには用量を増やすか煎じ薬にて服用するなどの配慮が必要である。また本方は血行を安定させると同時に、身体の緊張を去り、水分代謝を促して浮腫みを去る方剤である。これらの薬方はそれぞれの生薬の分量によって成立しており、そのバランスを病態に合わせながら治療しなければ効果が発揮されにくい。総じて漢方薬は一律的に服用するのみではその薬能を充分に引き出すことができない。したがって加減や合方を含めた臨機応変な運用が求められる。
苓桂朮甘湯:「構成」
桂枝(けいし):甘草(かんぞう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):

②茯苓沢瀉湯(金匱要略)

 苓桂朮甘湯のように茯苓・桂枝・甘草という構成を骨格に持つ処方群を苓桂剤という。苓桂剤には自律神経を安定させて血流を促し、内在的な浮腫みを改善する薬能がある。本方は苓桂朮甘湯の変方として、さらに利水の効果を強めた処方。起立性調節障害において起こる頭痛や体の重だるさに対して、苓桂朮甘湯では改善しないという場合に本方を用いて良い場合がある。また本方は茯苓甘草湯の変方でもある。茯苓甘草湯は「厥して心下悸す」という動悸とそれに伴う手指の急激な冷えに用いる方剤。一種の過緊張状態を緩和させる方剤であり、交感神経の急激な立ち上がりを予防・改善する。故に本方は起立性調節障害における過緊張状態、例えば動悸とともに息苦しくなりそのまま失神しそうになる、走ったり階段を上ると呼吸が苦しくなる、ストレスを受けると緊張して青ざめ胸苦しくなるといった症状を持つ場合に運用する機会がある。
 苓桂剤は苓桂朮甘湯を基本に本方や茯苓甘草湯などがあるが、これらの構成生薬には1つ2つの違いしかない。しかしこの1つ2つの違いが非常に重要であり、その効果・使い方も全く異なってくる。この理解と的確な運用が実際に効果を発揮するためには大切である。
茯苓沢瀉湯:「構成」
桂枝(けいし):甘草(かんぞう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):生姜(しょうきょう):沢瀉(たくしゃ):

③五苓散(傷寒論)

 本方は漢方の利水剤として頻用される処方。起立性調節障害にて用いる場がある。本方は他の苓桂剤に比べて一種独特の病態に適応する。「口渇・小便不利」が適応の2大目標。喉が渇いて水を飲みたがり、飲んでもまたすぐに喉が渇き始める。水分の過剰摂取によって水下痢し、同時に小便の回数や量が少ない。消化管からの水分吸収の不具合により、水分の過剰と脱水、つまり水の偏在が急激に進んだ状態に適応する。起立性調節障害ではこのような急激な水の偏在が起こっているケースがあり、本方をもって一時的に水の偏在を治癒させると即効性をもって体調が良くなることがある。朝起きると頭が重く頭痛し、顔や足が腫れて体が重くだるいという者。スポーツを頑張っているうちに朝起きられなくなった、夏場にバテて以来調子が悪い、などといったケースに本方の適応が多い。
五苓散:「構成」
桂枝(けいし):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):沢瀉(たくしゃ):猪苓(ちょれい):

④小建中湯(金匱要略)

 一種の疲労状態である「虚労(きょろう)」に適応する主方。「虚労」とは人が疲労へと向かう流れの中で発生する病態であり、起立性調節障害においてはこの病の流れに属しているものが非常に多い。身体細く、肌が乾燥気味。冬に唇が乾燥しやすく、口回りをしきりに舐めたがる。お腹を冷やしたり冷たい物を飲むとすぐに腹痛・下痢する。手足がほてりやすく、手のひらでお腹を触ると気持ち良いという。このような症状は、消化管の弱りのために食事から栄養を取り入れる力の弱い状態がもとになって発生する。本方は腹を温めて緊張を去り、血行を促して血の力を充実させる薬能を持つ。上手く運用すると起きられない・体がだるいといった症状が即効性をもって消失し、さらに疲労しやすい体質自体が改善されてくる傾向がある。ただし運用においては固定した処方として用いるのではなく、状況に応じて人参剤や利水剤との合方や加減が必要。
小建中湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):膠飴(こうい):

⑤補中益気湯(内外傷弁惑論)

 疲労を去り、体力を回復させる代表的な補気剤。起立性調節障害において比較的頻用されている傾向がある。本方には「昇提(しょうてい)」という薬能がある。立ったまま身体を維持できず、重力に負けて地に伏せるような状態を、ぐっと上に持ちあげるような薬能である。また胃腸機能を回復する薬能があり、疲労感とともに食欲がないといった状態を回復することもできる。起立性調節障害において使いやすい方剤である。
 ただし私見では、この方剤のみで完治にまでいたることは難しいケースが多い。一時的な疲労感であれば即座に改善し得る薬能を持つものの、起立性調節障害のように長期的に疲労状態を継続させ、さらに自律神経症状を介在させているような場合では、本方の薬能では軽すぎるという印象がある。
補中益気湯:「構成」
黄耆(おうぎ):当帰(とうき):人参(にんじん):甘草(かんぞう):白朮(びゃくじゅつ):陳皮(ちんぴ):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):柴胡(さいこ):升麻(しょうま):

⑥半夏白朮天麻湯(脾胃論)

 胃腸の弱い方のめまいの治療薬として有名。虚弱体質で胃腸が弱いお子様の起立性調節障害に運用の場がある。補気・去痰利水というのが本方の薬能にて、頭が重い・体が重だるいといった水分代謝の異常を伴う起立性調節障害において用いられやすい。ただしどちらかと言えば長期的に服用することで体質を改善していく薬方。故に即効性を求める場合には他に良い処方がある。起立性調節障害を持つお子様では、登校が滞りこのままでいくと出席日数が足りない、またテストや大切な試合があってどうしても出席しなければならないという方が多い。このようになるべく迅速な効果が求められるケースでは、本方の薬能は緩い。薬能の急・緩を適宜選択しながら治療を行う必要がある。
半夏白朮天麻湯:「構成」
半夏(はんげ):生姜(しょうきょう):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):白朮(びゃくじゅつ):蒼朮(そうじゅつ):沢瀉(たくしゃ):天麻(てんま):麦芽(ばくが):神麹(しんぎく):黄耆(おうぎ):人参(にんじん):黄柏(おうばく):乾姜(かんきょう):

⑦四君子湯(和剤局方)六君子湯(医学正伝)

 お子様の体調不良では人参剤を用いる機会が多い。補気薬として有名な人参は、胃腸機能を鼓舞するとともに血を充実させる薬能を持つ。成長期という心身が急速に育つ時期では、その需要に対してエネルギーの供給が追い付かなくなりやすい。人参剤はその供給を益すことで充分な成長を促す薬能を持つ。
 人参剤の主方が四君子湯である。構成生薬が少なくシンプルな処方であるが、その分切れ味の鋭い効果を発揮する大剤である。貧血傾向などがあり、虚の程度が重い場合に用いる機会がある。また四君子湯に半夏・陳皮を加えたものを六君子湯という。四君子湯が広く全身にわたる虚に用いられる一方で、六君子湯はより胃腸薬としての性質が強い。疲労と同時に食欲不振や消化機能の弱りが全面に押し出されている起立性調節障害では、まず胃腸の鼓舞から始めなければならず、そのようなケースで運用されやすい方剤である。
四君子湯:「構成」
人参(にんじん):甘草(かんぞう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):
六君子湯:「構成」
人参(にんじん):甘草(かんぞう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):陳皮(ちんぴ):半夏(はんげ):

⑧柴胡桂枝湯(傷寒論)

 「虚労(きょろう)」と呼ばれる疲労状態の基本方剤である桂枝湯と、胃薬である小柴胡湯との合方。主に自律神経の緊張を緩和させながら体力を養う薬能を持つ。小建中湯などと同じように胃腸機能の弱い起立性調節障害において運用する場がある。ただし小建中湯と本方との鑑別が必要。疲労状態が主であれば小建中湯、ストレスがかかると胃が痛むなどの自律神経症状を伴う場合は柴胡桂枝湯。また低年齢であれば小建中湯が、より高年齢に近づくほどに柴胡桂枝湯が適応となりやすい。これらは鑑別における一般的な見解だが、実際の臨床においては使い分けが難しいことも多い。総じて小柴胡湯のような柴胡・黄芩剤には清熱作用がある。思春期におけるニキビなど皮膚に炎症が生じているケースでは、小建中湯ではそれを悪化させることがあるため、その予防の意味で柴胡桂枝湯を用いるという手段もある。
柴胡桂枝湯:「構成」
柴胡(さいこ):黄芩(おうごん):半夏(はんげ):人参(にんじん):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):

⑨桂枝加竜骨牡蛎湯(金匱要略)

 疲労感を呈する「虚労(きょろう)」に適応する方剤の1つ。人は疲れると興奮の勢いが弱まり、リラックスへと向かうことで疲労を回復するための準備を整える。しかし一部の疲労は逆に興奮を継続させる。夢ばかり見て熟睡できず、ソワソワして落ち着きが無くなり、興奮してのぼせフワフワするようなめまいを生じたりする。本方はこのような自律神経症状を伴う起立性調節障害に適応し、興奮を落ち着けるとともに熟睡感を導き、体力を回復させて朝の寝起きを改善する薬方である。
 総じて起立性調節障害では、自律神経を安定させること・内在的な浮腫みを去ること・血行を安定させること・血を充実させること・消化機能を高めることが重要である。またこれらの失調はそれぞれが単独で起こるのではなく、すべて関連して病態を形成する。治療においてはその関わり方を見極めることが非常に重要で、それを把握した上でさらに最適な治療の順序を導きだすこともまた必要である。
桂枝加竜骨牡蛎湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):竜骨(りゅうこつ):牡蛎(ぼれい):

臨床の実際

<起立性調節障害における漢方治療>

起立性調節障害には様々なタイプがあります。起立時に血圧が急激に低下して脳貧血を起こすタイプ、そして立っているうちに血圧が低下してくるタイプ、また血圧は下がらないが頻脈を認めるタイプや、血圧に異常を認めないタイプ、またむしろ起立時に血圧が上がるタイプもあります。その他未だにわかっていないサブタイプも存在している可能性があります。そして自律神経が関与していると考えられているものの、ではなぜ自律神経が乱れてしまっているのか、その原因はわかっていません。

このような不明な部分の多い疾患に対して、漢方ではどのような捉え方をもって治療するのでしょうか。少なくとも起立性調節障害に効くとされている漢方薬をはじから使っているだけでは、改善へと向かうことはできません。また血圧や脈拍を追いかけ、それだけで薬方を決めようと思っても難しいと思います。漢方にはそれを見るための独特の視点があります。

1.漢方の視点から見た起立性調節障害

起立性調節障害は血流の問題に起因しています。人は立った時に血行を促し血液を上に昇らせる必要があります。これは自律神経の中の交感神経が働くことで行われますが、起立性調節障害ではこのとっさの動きに対して、速やかに血流を促すという行為が上手く行われていません。この原因は血液を流そうとする力が弱いためです。ですので昇圧剤をもって治療すれば血流が強くなり、改善へと向かいます。しかし実際の臨床では昇圧剤を服用しても改善しきれないケースを散見します。それはなぜでしょうか。

●血流の低下と緊張
人は血行が弱い時に、逆にそれを強めようとする反応を自然に起こします。緊張感が弱く、血管が弛緩し、求められる血流を発揮できていない場合に、ただ弛緩しているだけではなく、それを緊張させるように体が自然と働くわけです。つまり血行が弱いからこそ、その血行を強めようとする緊張感が身体に継続しています。そして起立性調節障害ではこの緊張感が中途半端に継続することで、むしろその緊張により血流が邪魔をされて、血行を強めるまでに時間がかかり、なかなか昇圧できなくなります。

私見では起立性調節障害ではこのような病態が発生しているのではないかと考えています。緊張感が弱いために、いつまでも中途半端な緊張を継続してしまっているという状態です。つまり血行が弱いのではなく、血行が不安定になります。だから血行を促すと同時に、継続する緊張を緩めなければ血行は安定せず、いつまでも血流が良くなりません。

漢方では血行を促すと同時に、緊張を緩めるという手法があります。ただ血流を促すだけではなく、血行を促そうと頑張り続ける緊張を緩和させるという、一見逆方向にも見える薬能が一つの処方内に内包されているわけです。すなわち漢方薬は血行のバランスを取る薬能を発揮します。緊張させつつ、弛緩させる。熱を取りながら温める。ほとんどの漢方薬にはこのような両者のバランスを取る薬能が内包されています。人間自体がそのように活動する、だからその活動に合った形で薬方が形成されているわけです。

●具体的治療法
頻用されている処方の一つに「苓桂朮甘湯」があります。この処方はまさに血行を促す薬能と緊張を緩和させる薬能とを内包した方剤です。また身体にある種の緊張が継続している場合、血行の不安定さと同時に水分代謝の異常が出てきます。したがって起立性調節障害では浮腫みの症状が顕在化していなかったとしても、内在的な浮腫みのために頭痛や身体の重だるさを呈しています。苓桂朮甘湯はそういった内在的な浮腫みを去る薬方でもあり、服用すると浮腫みが去り、身体が軽くなって起きやすくなるという効能を発揮します。ただしエキス顆粒剤ではその効能が弱い印象です。分量を増やすか煎じ薬にて対応する必要があります。

またこの処方には数種の加減方が存在します。茯苓甘草湯や茯苓沢瀉湯・苓桂甘棗湯、また広く見れば五苓散などもそれに含まれます。これらはどの程度血行を促すか、そしてどの程度緊張を緩和させるかというバランスの上に成り立つ処方群です。起立性調節障害における血行低下と継続する緊張とのバランスは人それぞれです。したがってただ一律的に使用しているだけでは効果が充分に発揮されません。病態に合わせてどの処方を使うのか、そしてどの程度の分量にて調節していくのかという細かな配慮を行いながら治療を行わなければ効果が発揮されません。

2.成長期と漢方

人の一生において、成長期とは人体の構築が加速する時期です。通常何十年経っても徐々にしか変化が起きない成人以降とは異なり、短期間にとんでもない速さで体が大きくなる唯一の時期です。体が充実し、精神が安定した大人になるためには、それを構築するための材料やエネルギーが必要です。したがって成長期ではこれらの需要が急激に高まります。

成長期を充実させるためには、この需要に対して常に供給を満たさなければなりません。したがって起立性調節障害においては「供給の不足」が多くのケースで絡んできます。

●「供給」を満たせない理由:血の消耗
供給の不足には大きく2つの病態が考えられます。まず需要を満たすためには、欲している部分に材料やエネルギーが到達しなければなりません。そしてこれらを運ぶものは血液です。つまり血液が充実して流れていないと需要に対して充分な供給を行うことができません。近年、お子様の生活状況をうかがってみると、大人以上に大変な毎日を送られている子が沢山います。夜遅くまで塾やスポーツクラブに通っている、沢山の宿題で毎日遅くまで頑張らないといけない、またスマホを見ていて睡眠を削ってしまっているなどの、体の消耗を促す生活習慣が当たり前のようになっています。仕方ないこととはいえ、こういった生活習慣は血を消耗します。がんばる、ということはそれだけ血を消耗するということであり、そして成長期は身体の構築に血が使われている分、さらに血の消耗から血行障害を起こしている子が沢山おられます。

●「供給」を満たせない理由:消化機能の弱り
そしてこのような消耗は消化機能の弱りに帰結します。漢方では血を作る場所は消化管であると考えられています。食べたものが血となり全身を流れるわけです。したがって消化・吸収する力の弱い子は、血の消耗を起こしやすくなります。起立性調節障害を持つお子様では、食欲にムラがある・朝ごはんが食べられないといった症状を持つ子が非常に多いのですが、このような胃腸の弱さはこの病を生じるそもそもの原因として絡んでいます。それならばたくさん食べなければいけない、と解釈されるかもしれませんが、実はそうではありません。需要に対する供給は食べれば即ち行われるというわけでないからです。胃や腸、そして胆嚢・膵臓、さらに肝臓といった消化管全体が食事を体内へと移行させる活動を充分に行った結果として、初めて血液が充実し、体内に材料やエネルギーが満たされます。すなわち沢山食べることよりも先に、まずは消化管を強くすることが必要で、そうしなければせっかく食べた食事を体内でエネルギーにすることができません。

近年の生活環境から陥りやすい血の消耗と、消耗しやすい体の根底にある消化管の弱り。この2つの理由が漢方の視点から見た起立性調節障害の原因です。これらは放っておいてどうにかなるという問題ではなく、先述のように治療をせずに成長期を過ごしてしまうと、その後の人生に禍根を残すことにも繋がっていきます。

●具体的治療
消化管の弱りを是正し、同時に血の消耗を回復する。漢方ではこのような薬能を持つ処方が多く存在しています。小建中湯や補中益気湯、六君子湯・四君子湯・半夏白朮天麻湯など、これらはすべて胃腸を鼓舞し血液を充実させる薬能を持つ処方です。消化管がどのように、そしてどの程度弱っているのか、また血がどのように、そしてどの程度消耗しているかは人によって異なります。多くの種類の処方があるということは、それだけ様々な病態があるということであり、それに合わせた処方を選択しないと効果が現れません。

これらの運用においては「虚労(きょろう)」という概念の理解が非常に重要になります。「虚労」とは疲労感を伴う一種の病の流れであり、人がどのように消耗し疲労していくのか示唆する概念です。小建中湯をはじめ、上にあげた処方群もその流れの中で捉えることで運用が的確になります。そして的確な運用とそうでない運用とでは効果の即効性が最も変化します。起立性調節障害では学校に通学できないために、友達と一緒に遊べない、勉強が進まない、登校日数が足りなくなるなどのお悩みを抱える方が多くいらっしゃいます。なるべく即効性の高い治療を行わなければこういった悩みを解決することができません。

3.ずっと継続服用しなければいけないのか?

起立性調節障害を治療する場合に気になるご質問の一つが、長期服用しなければいけないのか?ということだと思います。結論から申し上げれば、成長期の間、ずっと服用を続けるということはしなくても良いと思います。

起立性調節障害を持つ多くのお子様は、もともと力が無いのではなく「引き出されていない」という状態です。したがって治療によってそのブレーキが取れれば、その後は自分の力で成長する力を継続していくことができます。当薬局にて一番多い治療経過は次のようなパターンです。はじめ約3か月ほどの集中した治療を行い、それによって不快な症状を消す。その後、1、2か月ほどかけて漢方薬の服用を徐々に減らし、薬を飲まなくても問題のない体調にしていきます。お子様によっては、その後一時的に症状をぶり返す方もいますが、一度まとまった治療をしておくと、数日でもとの状態に戻ることができます。中には「虚」の程度が強く、長く服用する必要のあるお子様もいますが、多くのケースでこのような治療にてコントロールが可能だという印象です。

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