■症例:便秘

日常の中で当たり前にできていたものが、できなくなる。
病とはいつだってそういうものである。

本人の苦しみは他の人と比較することはできない。
比べるものは常に昔と今の自分であり、そういう意味で苦しみに客観的な大小はないと言える。

確かに病には軽重がある。しかしそれは医療者からの目線である。
たかが疲れ、とは決して言えないし、単なる便秘とも、決して言えないのである。

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70代男性。
紳士と呼ぶにふさわしい人柄である。

2か月前の夏から、便通が悪くなった。同時に体がだるくなり、なかなか寝付けなくなった。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)のエキス顆粒剤を飲んだ。効いている感じがしない。
加味逍遥散(かみしょうようさん)を出されて飲んだ。むしろ調子が悪い。

ここ1週間ほどは、食欲もあまりないという。

病院では色々と検査をした。胃カメラも入れたし、大腸の内視鏡も入れた。しかし問題なく年相応の状態であるという。

年齢的な問題が強く関わっているという説明を受けた。
歳を取れば、疲労も便秘も、確かに起こりやすくなってくる。

こう話す患者さんは、肩がガクッと落ちていた。それがより一層、小柄な体形を際立たせていた。

とにかく便が出ないことが苦しい。
腹が張り、ガスが溜まる。細くガスが抜けると少し楽になるが、基本的に常に張っているという。

「お腹がぼこぼこと動く感覚がありませんか?」と聞くと、ある、という。

「カイロか何かでお腹を温めるとどうですか?」と聞くと、楽だ、という。

「食欲はいつからないのですか?」と聞くと、腹の張りが強くなってからだという。

この時点で方針が固まる。

いわゆる刺激性下剤・塩類下剤は到底使えない。
散寒・温補を必要とする寒性便秘であるが、重要なのはその順序。まず散寒し(冷えを取り)、のち補を施す(体力を補う)。

方針は正しかった。最初に出した薬は3日分だった。迅速な変化を予測したからだ。

この患者さまはそれ以来、便が快通するようになった。
そして食欲も戻った。一時季節の変わり目で便通が不安定になることもあったが、前のように苦しむことはなくなったと喜んでくれた。

予測できなかったのは、その後に検討していた補薬(体力の回復薬)が必要なかったことだ。

便通が回復してからというもの、疲労感も自然に消えていったようである。

聞けば、患者さんは合気道の先生だという。
なるほど、体調さえ戻ればお年を召していても姿勢が良い。同年代の方に比べて体はしっかりされているのだ。

こういう方ならば気息が調うのは早い。体力を回復させる力は充分あった。

加齢などとは程遠い、患者さま本来の姿である。

■病名別解説:「便秘