漢方学習のススメ

漢方治療の心得 33 ~臨床のセンス~

東洋医学を勉強している時に、最初にぶつかる壁は「言葉」だと思います。陰陽や表裏といった、東洋医学独特の言葉は、考え方を構成する大切な要素であると同時に、大変曖昧な概念です。今回は東洋医学の言葉を理解するためにはどうしたら良いのかを、私の考えではありますが、少しお話ししていきたいと思います。

何百年も継承され続けた医学である所以

数多ある漢方処方、そのうち3つ以上の生薬で構成されたものの中で、最も基本となる処方を3つ挙げろと言われれば、何か。桂枝湯と四逆湯、そして麻黄湯。桂枝湯と四逆湯が、一本の軸を作る。そして麻黄湯が分岐を作る。漢方処方には例えばこういう繋がりがあって、幹から派生する枝のように、そこから無限の広がりを作り上げていきます。

処方の先に見えるもの

どんな患者さまでも、たとえ本人が病と闘う気持ちを失っていたとしても、治ろうとしていない体などありません。薬は、その治ろうとしている体が、欲しているものを、救わんと欲することを、ただ形にするだけ。漢方家にとっての薬は、患者さまに伝えるべき言葉、そのものです。

悟りの実験

新しい知識を入れる一方で、本当に大切な知識を見失うことがあります。患者さまから多くの情報を得れば得るほど、情報の波にのまれてしまうことがあります。本当に大切な「当たり前のこと」を、患者さまと共にで見つけていくことが、上手な漢方治療を導く最大のコツだと、私は感じます。

漢方治療の心得 32 ~体質の見極め~

体質というものを理解しながら治療することが、漢方では大切です。時に気・血や陰・陽と言った見立て以上に、治療効果を左右する「武器」になります。人の病態を5つに分類した森道伯の漢方一貫堂医学は、明らかに体質に根差す治療を推奨しています。また湯本求真は、基本処方の組み合わせを駆使してやはり体質治療を試みています。

花火散るが如く

誰にでも『傷寒論』は読める。しかし『傷寒論』を完全に読み解いた人は、今までの歴史上、一人もいない。なぜ少陰病に、大承気湯が書かれているのか。例えばなぜ陽明病に、麻黄湯が書かれているのか。『傷寒論』の骨格、六経病とは一体何なのか。『傷寒論』の著者、張仲景(ちょうちゅうけい)。燃え尽きる命を、多く目にしてきた聖医。

真冬のひとり言

どんなに優れた漢方家でも、最初の処方だけで改善するとは思っていません。もちろん改善するための最適解たる処方を出すのですが、名医であればあるほど、その薬が効かなかった時のことを、常に考え続けています。そして二診目の時点で、その処方を変えるのか、変えないのか。治療は道のりである、ということです。

漢方治療の心得 31 ~有限の医学~

江戸の名医、和田東郭の名言。無駄の無い処方運用こそが、術を上達させるという口訣。漢方の聖典『傷寒論』。そこに収載されている処方は、すべてシンプルです。簡潔な処方を、的確に運用すること。今、私たちに求められることは当にこれで、それこそがおそらく、有限の資源である生薬の枯渇を回避するための正しい向き合い方です。

人と腹と

漢方では古くから「腹」の重要性に着目し続けてきました。『傷寒論(しょうかんろん)』に記載されている「腹」という文字の多さや、江戸時代に隆盛を極めた腹診、稲葉文礼(いなばぶんれい)の名著『腹証奇覧(ふくしょうきらん)』の存在。漢方において「腹」とは見るべき体の要であり、生命活動を支える土台として、考えられてきました。

漢方とアート 10 ~生きた色~

漢方家は人を観ます。人を観て、症状を把握します。そして、その症状を消し去る方剤を出すことで、病を改善へと導いていくわけですが、その時、私たちが把握する症状は、そもそも非常に曖昧で相対的なものです。患者さまが訴える症状は、患者さまの人柄やその時々の状況、さらに我々受け手の状況によって、常に不安定に揺れ動いているものです。