漢方治療の心得

漢方治療の心得 39 ~歴史への冒涜~

伝統を守るとは、時に今までの物を壊し、新たに開拓する行為無くしては成し遂げることができません。過去への強い固定観念と、しきたりを守ろうとする先哲たちとの勝負。それこそが、漢方の歴史の一員になるということ、そして漢方治療に精通するための道のり、その第一歩目に立つということです。

漢方治療の心得 38 ~知識の質~

実際の臨床には、机上の学びでは決して得られない四次元の知識があり、それらを知るか知らないかで、腕に大きな違いが生まれるのだと感じています。全ての処方を頭に描いたとしても、これだと積極的に選択できない場合もあります。決め手に欠けるというケース。実際の臨床においては、それが当たり前なのです。

漢方治療の心得 37 ~グラデーション~

「虚」という概念は、そもそも人を「虚」と分類することに意味があるわけではありません。「虚」と「実」という二つの端、その間に広がるグラデーション、その濃淡を把握する技術を求められているのが東洋医学です。虚中に実があり、実中に虚があって当然なのです。つまり東洋医学における全ての尺度に絶対的なものなどない、ということ。

漢方治療の心得 36 ~情報発信~

東洋医学を医学として成り立たたせるためには、客観的かつ再現性を持った根拠を提示する、よりエビデンスレベルの高い水準が求められて然るべきです。ただし同時に、東洋医学は医療でなければなりません。医療であるということは、人が治せるということ。症状を消失させ、病による生活の質の低下から救済するということです。

漢方治療の心得 35 ~最大5%~

医学において時代が変わるということは、闘うべき土俵が変わるということ。知識を古典から学び、基礎を得、素養・教養を育み、治療に臨む。但しその知識や基礎は、あくまで過去のもの。今、目の前に起こっていることではありません。だからこそ自分で解答を見つけ、時には基本を覆し、先人の意見に異を唱えながら、漢方は成長し続けてきました。

漢方治療の心得 34 ~名医誕生の正体~

治療には合理的で整合性の取れた考え方が必要です。ただし、得てして正しい治療は、合理性や整合性だけで作り上げることはできません。理由はない、説明もできない、しかしそうだと直感的に思える視点が、時に必要です。それが核として、時に要素として、思考の中に組み込まれた時に、本当に正しい治療が行えるという実感が、私にはあります。

漢方治療の心得 33 ~臨床のセンス~

東洋医学を勉強している時に、最初にぶつかる壁は「言葉」だと思います。陰陽や表裏といった、東洋医学独特の言葉は、考え方を構成する大切な要素であると同時に、大変曖昧な概念です。今回は東洋医学の言葉を理解するためにはどうしたら良いのかを、私の考えではありますが、少しお話ししていきたいと思います。

漢方治療の心得 32 ~体質の見極め~

体質というものを理解しながら治療することが、漢方では大切です。時に気・血や陰・陽と言った見立て以上に、治療効果を左右する「武器」になります。人の病態を5つに分類した森道伯の漢方一貫堂医学は、明らかに体質に根差す治療を推奨しています。また湯本求真は、基本処方の組み合わせを駆使してやはり体質治療を試みています。

漢方治療の心得 31 ~有限の医学~

江戸の名医、和田東郭の名言。無駄の無い処方運用こそが、術を上達させるという口訣。漢方の聖典『傷寒論』。そこに収載されている処方は、すべてシンプルです。簡潔な処方を、的確に運用すること。今、私たちに求められることは当にこれで、それこそがおそらく、有限の資源である生薬の枯渇を回避するための正しい向き合い方です。

漢方治療の心得 30 ~上手と下手~

昔、臨床を始めて間もない頃、風邪をひいた友人から、何の漢方薬を飲んだらいいのかと相談を受けた。ならばと意気込み、自分が漢方薬を出すから飲んでみてくれないかと、もちかけてみた。友人は、それを快く承諾。今回のコラムは、その一部始終です。理論・理屈で切り回そうとする頭でっかちな自分には、ガツンと響く、そんな経験だった。