【はじめに】
いかに安定した血流を維持し続けるか。
先のコラムでも説明しました。これが養生の根幹になります。
人が病を得ないために、最も大切にするべきポイントであり、
個々に与えられたポテンシャル、その生命活動を十全に発揮するための条件になります。
これは年齢・性別にかかわりません。
またすでに病を得ている方では、特に重要であると考えます。
人体は血が流れているから生き、その流れが止まれば死ぬ。
安定した血流こそが命であり、そうできることこそが、
万人に共通した養生であると考えます。
そして、それを発揮するために必要になるのが、
「運動」と「食事」と「睡眠」。
養生の基本の三本柱です。
今回のコラムでは、何故これらが大切であり、基本になるのか、
その要点だけを端的に、ご説明していきます。
養生の基本「食事」
身体の血流を促す最大の動力は「筋肉」。
つまり、血流を維持・安定させていくためには筋肉の活動、すなわち運動が大切であると説明しました。
ただし筋肉活動というと、運動のことばかりを考えがちですが、
同時に大切なことがあります。それが「食事」です。
そもそも舌から肛門までの消化管は、すべて消化管平滑筋という筋肉で構成されています。
これらは自律神経が勝手に動かしている筋肉で、自分で動かすことが出来ないため普段は「動き」として意識していないと思います。
しかし消化管は約9メートルもある巨大な筋肉組織です。
すなわち、筋肉活動と血流という意味で、消化管は人体の中枢を担っていると言っても過言ではありません。
つまり消化管平滑筋をいかに負担なく動かすか、
そして順調な動きをいかに継続させるか、
これが人体の血流安定の要になります。
そのため「食事」が大切なのです。食べるということは、人体にとって無くてはならない運動の一つです。
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食事を気を付ける、となると、
まず皆さんが思うことは、何を食べて・何を食べないか、だと思います。
脂っこいものを控えて、お酒を控えて、
できるだけ甘いもの・お菓子を控えるというのは、その通りだと思います。
ただしそれ以上に気を付けなければいけないことがあります。
それが、食事の「食べ方」です。
消化管は筋肉です。すなわち活動のさせ方によっては、いくら食事内容に気を付けていたとしても、胃腸はダメージを負います。
まずは、ゆっくりと良く噛むことが非常に重要です。
良く噛むとは、胃にゆっくりと食事を下ろしていくということです。
充分に食事をかみ砕き、唾液を混和させる。さらにゆっくりと飲み込む。これが大切です。
人は早食いであれば満腹まで食べます。短時間で急激に胃腸に塊が入るという状況、これが胃腸活動に大きな負担をかけます。
また消化管は自分で動かせない筋肉ですが、動かせる部分が二つだけあります。
肛門と、舌です。ゆっくり良く噛むとは、舌を動かす、消化管を鍛えることにもつながります。
さらに冷たい刺激は内臓の血行を一時的に弱めます。ゆっくり良く噛むとは、口の中で食事を温めるということでもあります。
すなわちゆっくり良く噛むという行為は、養生の基本中の基本です。
飲み物を飲む際にも、ごくごくとは飲まず、ゆっくりちびちびと飲むべきだと思います。
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次に食事の摂り方で重要なのは、ちゃんと食べることです。
一日3回、もしくは2回、ちゃんと食べる。
絶食や断食は、私は例外的状況を除いてあまりお勧めしません。
なぜならば消化管は筋肉だからです。筋肉でれば当然、使っていなければ弱ります。
なので食べるということ自体が重要なのです。先に申し上げた通り、ゆっくり良く噛んで、腹八分目でちゃんと食べましょう。
だいたいの所、早食いでお腹いっぱいまで食べたくなるのはお腹が空いている時です。
つまり食べない時間が長すぎると、人は必ず早食いを起こします。
定期的にちゃんと食べる。からっからにお腹が空く前に、ゆっくり良く噛んで食べる。
集中力を下げ、パフォーマンスを下げる血糖値スパイクは、食べたり食べなかったりの差によって生まれます。
胃腸への負担が身体に起こす影響は絶大です。食べ方次第で、その方の日々の能力は大きく差が開きます。
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最後にもう一点、食事の摂り方で気を付けなければならないことがあります。
それは、夜遅くに食べないことです。
あらゆる筋肉は、寝ている間に修復が進みます。
すなわち食べてすぐ寝ると、寝ている間に胃腸が働いていますので、消化管にとっては徹夜も同然です。
寝る前3・4時間は食べないこと。
水分なら良いと思います。ただしガブガブ飲むことは避けてください。
量にもよりますが、お酒を飲んで寝ることもあまりお勧めはできません。
飲酒によって眠る方の睡眠は、精神病患者さんの同じ波形を取るとうデータもあるそうです。
なので毎日多くのお酒を飲むことは、避けていただいた方が良い。
あくまで日中の運動による体の疲れ、これを利用した自然な睡眠が好ましいでしょう。
筋肉の状態は、活動と休息とによって維持されています。
胃腸が十分に休息を取れているかどうか。これが身体の血流に大きな差を生みます。
朝起きて「腹が減った、お母さんメシ」と起きるお子さま、あの状態が健康なのです。
諸説ありますが、朝・昼・夕とちゃんと食べられることが、私は良い状態だと思います。
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胃気なくば死す。
名医・李東垣の言葉です。
人は食べられる事こそが生命力だということ。
そのために食事を養生として気を付けることは、当然の着想です。
消化管は筋肉であるということ。
そのことを理解すると、当たり前の養生が見えてきます。
何を食べるか・食べないかの前に、
「食べ方」です。
それが乱れれば、どんなものを食べても、食べなくても、健康からは遠く離れていきます。
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養生の基本4に続く・・・
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