□下痢 ~梅雨時期の下痢に効く漢方薬1~

2020年07月11日

漢方坂本コラム

■「梅雨時期の下痢」に効く漢方薬

梅雨に入ると人は「下痢」を起こしやすくなります。また下痢までいかないものの「軟便・泥状便」がずっと続いてしまう方もいます。

このような梅雨時期の下痢は、放っておくとやっかいです。自然に治るだろうと思っていてもなかなか治らず、さらにそのまま放置すると食欲不振や夏バテが起こってしまいます。また梅雨の不調をきっかけとして、通年的に便秘や下痢を繰り返すようになってしまう方もいます。

そういう状況にならないようにして頂くためにも、今回は梅雨時期の下痢の治し方をご紹介したいと思います。

今回ご紹介する漢方薬は、とにかくすぐに対応して頂けるよう、ドラッグストアさんに置いてありそうな処方を選んでみました。そして出来るだけ副作用なく安全に服用できるものをご紹介致します。また簡単な使い分けも解説いたします。解説を読めばおそらく、誰にでも容易に鑑別することができると思います。

梅雨のみならず、夏場はお腹を壊す方が多くなります。山や海に遊びに行く時の常備薬として、手元に置いておくと便利だと思います。

■これだけ知っていれば大丈夫・下痢の見極め

梅雨時期に下痢をしていたら、まずこう考えてください。お腹が「湿気ている」か「冷えている」か、どちらか又は両方のために下痢をしているのだと。

梅雨時期の下痢では、とにかく「湿気」と「冷え」とが絡みます。実は他にも色々ありますが、基本的にはお腹が湿気た時と、お腹が冷えた時に下痢が起こります。

結論から申し上げると、梅雨に起こる下痢は「湿気」か「冷え」かを見極めて薬を使えばそれでOKです。その見極めも比較的簡単です。詳しくみていきましょう。

1、「湿気」により起こる下痢の特徴

湿気により下痢しているケースを簡単に解説します。

まずは下痢の特徴です。軟便ですが「すっきり出ない」、そんな下痢をしていたら湿気を疑ってください。

細い便が出たり、気持ちよく出切らないという場合。少しずつしか出ず、また行きたなる、人によってはなかなか出ないので便秘と表現する方もいます。漢方ではこの状態を「便不爽(べんふそう)」といいますが、梅雨時期にこれらがあったら、十中八九お腹が湿気にやられている証拠です。

時にお腹が張って苦しいという症状や、おならを出そうと思ったら軟便が出てしまうというような便失禁を起こすこともあります。お腹の中に湿気が溜まると、水が貯留してお腹が重くなります。そして水は小さな穴からでも漏れ出てしまうので、肛門をぎゅっと閉めておかないといられなくなります。水特有の重さと漏れ易さに対して、肛門が常に緊張しているような状態が湿気による下痢の特徴です。そしてこのような下痢に対しては、非常に有効かつ代表的な方剤があります。

平胃散(へいいさん)」です。「去湿(きょしつ)」という効果を持つ薬で、お腹の中に溜まった湿気を乾かす薬能を発揮します。軟便・下痢を形のある便にしていくというイメージです。お腹の重さが取れて、形のある便がスッキリと出るようになります。

多湿を特徴とする本国では、昔からよく用いられていた日本人になじみ深い処方です。日本漢方の後世方派にとっては、なくてはならない重要処方でもあります。

2、「冷え」により起こる下痢の特徴

次に冷えによって下痢している場合を簡単に解説します。

まずは下痢の特徴ですが、とにかく「腹痛」を伴います。お腹がぎゅっと痛くなって、トイレに駆け込み下痢をする。冷えだけで起こる下痢ならば、通常は一回ですっきり出切ります。そして出切ってしまえば痛みはなくなり、お腹もスッキリします。

冷たい飲食物を食べた後に腹痛・下痢を起こしやすい方、また夜間に体を冷やし朝起きた後に腹痛・下痢を起こしやすいという方は、ほぼ「冷え」による下痢で間違いありません。そういう下痢を度々起こすという方は、ぜひ「人参湯(にんじんとう):別名・理中湯(りちゅうとう)」という方剤を覚えておいてください。

「温裏(おんり)」と呼ばれるお腹を温める効果を発揮する処方です。比較的容易に手に入りやすい処方で、顆粒剤(粉薬)がドラックストアにも置いてあります。飲む時にコツがあります。必ず熱い湯に溶かして服用するようにしてください。温かい状態でお腹に入れることが非常に重要で、そうすることで即効性が高くなります。

■梅雨の下痢治療の基本「二つの処方を組み合わせる」

梅雨に起こる下痢は、お腹の「湿気」と「冷え」を取れば治るというのが定石です。ただし「冷え」が単独で絡んでいるというケースは比較的まれで、ほとんどのケースで大なり小なりの「湿気」が絡んでいます。

したがって治療はまず「平胃散」を基本とします。そして、腹痛が強いようならそこに「人参湯」を足していきます。つまり両方の処方を手元に置いといて、症状にしたがって両者を調節する。これが梅雨時期の下痢に対する基本的かつ効果的な治療方法です。

例えば腹痛はなく、ただ便が軟便ですっきり出ず、何回もトイレに行きたくなるというのであれば「平胃散」だけで充分です。

一方、お腹が痛くなって下痢し、かつ便がスッキリ出ないという場合は、「平胃散」一包と「人参湯」一包とを混ぜ、お湯に溶かして服用してください。

平胃散を基本として、お腹の痛みの程度に従って人参湯を濃くしていくようなイメージです。梅雨時期に起こる下痢であれば、これでかなりのケースに対応することが出来ると思います。

ちなみにこれは、漢方の先生方が実際に良く使う治療方法です。漢方処方の基本的な運用法の一つですが、効果が出やすく信頼性の高い手法だと感じます。

この二つの処方は下痢のみならず、お腹の張りや胃痛などにも効果を発揮します。「湿気」にやられたら「平胃散」「冷え」にやられたら「人参湯」というメモと伴に、常備薬として家に備えておくと便利だと思います。

注)ちなにみ、この手法は「発熱」している場合では使えません。腹痛が起こって下痢し、さらにスッキリしないという場合でも、便の匂いがキツイとか、肛門に灼熱感があるとか、全身に発熱があるといったケースでは効果がないということを覚えておいてください。その場合は漢方でいう所の「熱痢(ねつり)」や「痢疾(りしつ)」という病態で、いわゆる感染症による下痢に属します。つまりノロウイルスによる下痢や、腐ったものを食べた時に起こす下痢です。漢方では黄芩湯(おうごんとう)などの熱痢に使う処方もあるにはあるのですが、この場合はお勧めできません。そういう時は迷わず病院に行きましょう。うかつに下痢を止めてはいけない場合もあるからです。下痢治療の基本として知っておいてください。



次回に続く・・□下痢 ~梅雨時期の下痢に効く漢方薬2~

■病名別解説:「下痢

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