□便秘症 ~自力で排便できるようになるために~

2022年03月01日

漢方坂本コラム

□便秘症
~自力で排便できるようになるために~

<目次>

正しい漢方薬の選択

正しい養生の実践とそのコツ

■食事の量と内容・さらに食べ方
■適度な運動の大切さ

自力で排便できるようになるために

便秘にお悩みの方はかなり多いという印象があります。

20代から60・70代に至るまで、比較的幅広い年齢層の方が苦しまれています。

そして皆さんが口を揃えておっしゃるのが、下剤を飲まなくても排便できるよう、体質改善を図りたいということです。

市販の下剤をかれこれ何年も飲み続けているという状況であれば、このまま一生飲み続けなければいけないのかと、不安を感じるのは当然のことだと思います。

便秘症はたしかに漢方治療によって改善していく方が多い病です。

改善というのは先に申し上げた通り、漢方薬を含めたあらゆる下剤を服用しなくても自力で便が出るようになる、という状況を指しています。

ただし、そうなるためにはいくつかの条件をクリアーしなければなりません

少々時間のかかる治療になる傾向はあるものの、一生下剤を飲み続けるということを避けるためにも、是非チャレンジしていただきたいと思います。

正しい漢方薬の選択

クリアーしなければいけない条件というのは、大きく分けて2つあります。

まずは「正しい漢方薬」を選択できているかどうかです。

単に便が出るというだけではダメです。腹痛や残便感などの不快感ができるだけ少ないということが一つ。

さらに、そもそも便が出ない理由に対してアプローチできているかも大切です。そこに効果を発揮することができなければ、ただ便を出させているだけになってしまい根本治療にはなっていきません。

便秘というのは、人それぞれ全く異なる理由で起こっているものです。

消化管平滑筋の活動力には個人差がありますし、身体の疲労や自律神経の問題が関わっている場合もあります。

また消化管だけの問題で起こっているとも限りません。例えば子宮などの婦人科的な問題が、東洋医学的に視た場合に関与していることもあります。

したがってこれらを総合的に観ることが大切になってきます。大黄や芒硝、センナといった典型的な下剤を使えば良いという問題では決してありません。

私見では、蒼朮・枳実・厚朴・芍薬・甘草・山椒・当帰・半夏・杏仁あたりへと考えを巡らせることがポイントだと考えています。

また正しい漢方薬を選択できた場合、便が心地よく開通し始めるのは勿論のこと、もう一つ重要な効果を発揮します。

便秘症にお悩みの方は、今まで生活の中でどんなに努力を行っても排便がスムーズにいかないという方が沢山いらっしゃいます。

しかし自分にあった漢方薬を服用し始めると、これらの努力の効果が表れるようになります。

そして、そういう効果の表れる努力を行っていくと、最終的には漢方薬の必要のない、自らの力だけで排便できる状態へと向かっていきます。

だからこそ、自力で便を出せるようになるためには、自分にあった漢方薬を服用することが必要になるのです。

正しい養生の実践とそのコツ

さて、クリアーしなければいけない他の条件は何かというと、今述べた生活上の努力、つまり「養生の実践」です。

あらゆる薬を使わず、自然と排便を促すことの出来る体を作っていくためには、この養生が絶対条件になります。

ただし、自らの努力だけではどうにもならない便秘症は確かにあり、その場合は漢方薬でそれを矯正していきます。

そして自分にとって正しい漢方薬を服用しながら努力が身になるようにする。そうやって努力さえ続けていけば便がちゃんと出るという状態へと導くのが治療の完成形です。

■食事の量と内容・さらに食べ方

便通を良くしていくための養生には、大きく分けて2つのことが必要です。

一つは食事です。

当然のことですが、便の材料は食事ですので、食生活をきちんと改めることが重要になってきます。

まず、食事をちゃんと食べることです。大麦や雑穀米などの繊維質の豊富なものや、ヨーグルトなどを取ることも重要です。

そして量も大切です。毎日が忙しかったり、ダイエットのために食事を十分にとっていないというのは、人為的に便秘症を作っているようなものです。

ただし、ただ沢山食べれば良いかというと、決してそうではありません。

毎日お腹いっぱいまで食べるようにしたところで、正直に言って便通を良くすることは難しいと思います。

実は食べ方が重要です。よく噛むこと

これだけ?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これが馬鹿にできない、とても大切なことなのです。

早食いをして飲み込むように食べると、胃での消化に時間がかかります。胃に食事が滞留している時間が長いほど、その下にある大腸内の便もその場で留まってしまいます。

ちょうどストローと同じ要領で、上が塞がれると(詰まると)、下から水が出なくなるのと一緒です。

要するにガツガツとかっこむように胃にものを詰めるような、腹が膨れるような食べ方をしてしまうと、どんなに食べ物の質を気をつけていたとしても大腸に便が詰まり、出なくなってしまいます。

ゆっくりと、よく噛むこと。時間をかけて食べながら、十分な量を取りつつも、胃が膨れるような大食を行わないこと

そうやって消化管という筋肉のくだをつねにスムーズに動くように配慮すること。これが便秘症改善のためにはとても大切になってきます。

■適度な運動の大切さ

もう一つは運動です。

運動不足が便秘を誘発することは事実です。座りっぱなしの仕事や車での移動が多い方などは、それだけで便通が付きにくくなるものです。

下半身の筋肉を鍛えること。特に女性においては骨盤底筋こつばんていきん」を鍛えることが大切です。

大腸や子宮、膀胱といった骨盤内臓器を下で支えているのが骨盤底筋です。この筋肉活動が弱ると、骨盤内の血流が悪くなります。

逆にこの筋肉がちゃんと活動できていると、骨盤内の血行が良くなります。血流によって維持している大腸平滑筋や肛門括約筋も活動しやすくなり、便意を自然と向かえることのできる状態へと向かっていきます。

そして、ここからは少し裏技的な運動になるのですが。

朝起きた時に「逆立ち」をする習慣をつけると便通がつきやすくなります。

壁に向かって体を支える壁倒立かべとうりつです。これはお年を召している方にはあまりお勧めできませんので、若く体力のある方ならば、怪我に十分注意しながら試してみてください。

また、ある「呼吸法」によって便通が付くことがあります。

これも少々コツがいりますので、試してみて調子が良いようならラッキーだと思ってください。

まず、呼吸法を行う前に用意があります。

地面に対して垂直に立つ。体にかかる重力を意識して、地軸に対して真っすぐに立ってみてください。

そして胃の力を抜く。みぞおちの力を抜き、そのままヘソから下腹部にかけて、下へ下へと力を抜いてきます。

さらに肛門まで力を抜いて、胃から肛門まで脱力した一本の管が通っているようにイメージします。

この準備がととのった上で、次は呼吸です。

まず深く吸う。強く、深く。苦しくない程度に、大きく息を吸う。

そして、肺が大きく膨らんだ所で、力を抜く。

すると、自然と息が出てきます。脱力しながら、自然と息を吐く(出していく)というのが重要です。

吸った後は脱力するだけ。背を曲げないように気を付けて、口から食道・胃・腸・肛門の一本の管が、重力に対して垂直に脱力していくイメージを持ちます。

そして吐いたあとは、脱力したまま静止。全身の力を抜いて、しばらく立っています。

すると腹にたまった便が、脱力した管を通って重力によって落ちていきます。そういうイメージを持つことが大切です。

そのまま待っていると、実際に便が降りてきて、肛門の方へと下がってきます。

そして自然と便意を催してくる。この呼吸法を何回か、ゆっくりと繰り替えしてみてください。

多分、コツがいると思います。私自身が排便の際にやっている呼吸法なのです。胃と腹の力を抜くことと、深く吸い、脱力して吐くという呼吸筋を活用した自律神経のリラックス方法とをミックスしたようなやり方だと自分では思っています。

独自の方法ですがけっこう効果的で、これによって便意を催しやすくなるという方が、ちらほらといらっしゃいます。

たかが排便。されど排便。

便通は健康のバロメーターの中でも、かなり重要なものだと私は考えています。

食事を摂るという行為は生命活動そのものです。そして排便はその表れの一つでもあります。

自分に合った正しい漢方薬を服用し、かつ日常の中でどういう生活を行うと排便しやすくなるのかを知ること。

この2つの条件がそろえば、自力で排便できるようになるまで、あとは時間の問題だけ。

的確に便秘症を治していくためのコツさえつかめば、治らないとあきらめていた方であったとしても、可能性を捨てない治療を行えると私は考えています。



■病名別解説:「便秘

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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