□晩春の風邪 〜用意しておきたい漢方薬とその使い方〜

2023年05月01日

漢方坂本コラム

ゴールデンウィークの大型連休。

すでに連休が始まっている方も、これから始まる方も、

去年に比べて、今年の連休は活動の幅が広がりそうですね。

落ち着いてきているとはいえ、まだまだ油断はできません。

感染予防対策は忘れずに行っていきましょう。

厳しい寒暖差・気圧差が続いた4月。

桜が散れば安定して温かくなっていく例年とは違い、

体調を崩される方が多くいらっしゃいました。

先に書いたコラム通りではありますが、思った以上に乱れたという印象。

自律神経と血流が大きく乱れ、胃腸症状や頭痛・めまい・耳鳴りなど、多くの症状が大きく乱れました。

中でも少し気になるのが、風邪をひく患者さまが多かったことです。

咽の痛みから始まり、咳が止まらなくなるという方がたくさんいました。

おそらく急激に気温が下がることがきっかけだったと思います。

そして温かくなってからも咳が止まらず、なかなか治りません。

おそらく、GW中も風邪を引いてしまう方がいるのではないかなと。

そこで今日のコラムでは、咽風邪を引いてしまった時に試して欲しい薬をいくつか紹介したいと思います。

全て有名処方で、ドラックストアで市販されていると思います。

また病院にて保険薬として出してもらうことも可能です。

せっかくのGWに体調を崩してしまったとしても、ご自身でも治すことができるよう、簡単な使い方を解説していきます。

■桔梗湯(ききょうとう)

朝起きたら咽が痛い。そういう時にすぐに飲んで欲しい、漢方の代表的な咽の痛み止めです。

咽が痛くなったらすぐに飲む。これがポイントです。

2.3日経ってしまうと効きません。ときに咳が出る方にと説明されていますが、発熱とか咳まで行くと効きません。違う薬が必要になります。

お湯に溶かして飲む。これもポイントです。湯に溶かして、咽を温めるように、ゆっくりと飲み下してください。

少々の痛みならすぐに良くなります。甘くて飲みやすいと思います。

すぐに飲むことが重要なので、前もってご家庭に置いておくと便利です。

私見では、こういう薬こそが良い薬だと思います。

風邪を引いても 、咽痛から先へは行かせない。そういう風邪の予防薬として強くお勧めしたい薬です。

■麦門冬湯(ばくもんどうとう)

大逆上気たいぎゃくじょうき」と呼ばれるなかなか止まらない咳き込みに効果を発揮する有名な咳止めです。

話しをしている時、空気を吸い込んだ時、何かをきっかけに咳が止まらなくなり、コンコン・ケンケン、最後には顔を赤くしてオエーッと胃が持ち上がるような咳になってしまうという状況を「大逆上気」といいます。

本方は咽の過敏さを緩和させることで咳き込みを止めます。

効く時には比較的即効性があります。お湯に溶かして服用することがポイントで、咽を潤すように、ゆっくりと飲み下すようにしないと効果が現れません。

咳き込みに痰が絡まないことを目標にします。乾燥性の咳で、痰はあっても少量、もしくは痰が乾いてなかなか切れず、最後に痰が切れてくれると咳が治まるという状態です。

この4月の咳は、麦門冬湯で治るものがとても多かったです。

半夏厚朴湯を合わせたり、石膏を加えたりといった加減が必要な時もありますが、基本的には乾燥性の咳には麦門冬湯だけでも良い効果を発揮します。

■五虎湯(ごことう)

麻杏甘石湯まきょうかんせきとうという咳止めに、炎症を抑える桑白皮そうはくひという生薬を加えたものがこの五虎湯です。

使い方は麻杏甘石湯とほぼ一緒です。急性の強い咳に効果を発揮します。

基本的に痰が絡まない空咳で、少しの刺激で発作的に咳が生じ、止まらなくなるという咳を目標にします。

麦門冬湯との違いは、発症からの時間と症状の強さです。

五虎湯は急性期、一方麦門冬湯は亜急性から慢性経過したもの。また五虎湯が適応する咳の方が、麦門冬湯に比べて敏感かつ激しく強い、という印象があります。

総じて言うと、少し興奮性の強い咳です。気管支の炎症に勢いがあり、そのために肺の興奮が強いという状態に適応します。

麻杏甘石湯の原典には「汗出で喘」と説明されていますが、要するに汗が滲むほどの勢いと興奮とが肺にある、という強い発作に対して作られた薬です。

人によっては冷蔵庫を開けて冷たい空気を吸うと、胸が気持ち良いと言うかたもいます。

ただ、もともと喘息があるとか、元気なお子様とか、そういう方でないとあまりこの状態は起こらないかなと。

麦門冬湯の方が使いやすく優しい。五虎湯もしばしば市販されていますが、家庭に常備するなら、麦門冬湯の方が良いかもしれません。

■小柴胡湯(しょうさいことう)+排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)

今年の春は空咳を起こす方が多かった印象です。

ただ咳には痰がらみのものも少なくありません。咽の痛みから始まった風邪が、日を追うごとに痰が発生して、黄色い痰をたくさん出して咳をするというパターンもかなりあります。

そういう方は咳を伴う前に鼻炎や副鼻腔炎を発症されたりします。漢方においては、このような痰がらみの咳と空咳とでは治療方法が大きく異なります

先に挙げた麦門冬湯や五虎湯は空咳への流れを持つ処方で、痰がらみの咳では病態の流れが違うため、これらとは別の処方を使う必要があります。

ただし、市販薬や保険薬ではこの痰咳に対する良薬がなぜか少ないのです。

柴陥湯さいかんとう清肺湯せいはいとう竹茹温胆湯ちくじょうんたんとうなどで切り回すしかないのですが、これらはなかなか癖のある薬で運用に長けた先生方でないと使えない、つまりあまり使いやすい薬とはいえません。

もう少し簡単に使える薬はないかなと考えたところ、「小柴胡湯に排膿散及湯を加える」というのが良いのではないかなと思います。

比較的誰でも服用できる安全性があり、かつ効果も出やすい配剤です。

副鼻腔炎を併発されている方であれば、ここに辛夷清肺湯を混ぜても良いかもしれません。

ただ痰がらみの咳は、通常治療にコツが必要です。

長引くようであれば、漢方専門の医療機関におかかりになった方が良いでしょう。

■藿香正気散(かっこうしょうきさん)

これから向かう梅雨の季節。湿気の季節になりますね。

東洋医学において、湿気は人体に影響を及ぼす大きな要素の一つです。

そのため梅雨に起こる風邪は、常道とは異なる一風変わった病態を形成していきます。

咽の痛みから始まり、体のだるさを強く感じ、鼻水・鼻詰まりや後鼻漏・痰咳を生じるも、これらが非常に長引きやすいという特徴があります。

長引く、だるく重い疲労感を伴う風邪です。そういう時には、この藿香正気散が大変優れた効果を発揮します。

梅雨には梅雨の風邪の治し方があり、それは以前のコラムでも解説いたしました。

詳しくはそちらを参照していただければ幸いです。すでに昨日の甲府は湿度が高かったです。今後、梅雨特有の治療がいよいよ始まってくるかなと、予感させるようなGWです。

□梅雨の病 ~梅雨に起こりやすい症状と効果的な漢方薬~



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