◆漢方治療概略:「疲れ・疲労倦怠感」・前編
<目次>
「虚」の考え方と疲労
■「虚」の程度とその見極め
■「虚」の尺度をどう捉えるのか
「疲れ・疲労倦怠感」の漢方治療概略
なんか疲れちゃった。
まるでそう言っていそうなバナナを、スーパーで見つけました。
毎日毎日、消費されていく食品を眺めるているのに疲れてしまったのでしょう。
どんなに元気な人でも、疲れることは当然あります。このバナナも、疲れを見せない笑顔(ポーカーフェイス)で毎日がんばっています。
・
疲労倦怠感。
誰しもが感じることのある「疲れ」は、漢方治療では最も得意とする症状です。
〇ちょっとしたことで疲れやすい
〇夕方になると体がだるくてしんどい
〇寝ても疲れが取れない
〇眠りが浅くて寝た気がしない
このような疲労感を感じておられる方が、日々漢方治療をお求めになってご来局されます。
疲労回復薬と位置付けられている漢方薬はたくさんあります。市販されているものも多く、副作用の少ない良い薬が多く用意されています。
ただし種類が多いからこそ、どれを選んだら良いのか迷ってしまうところです。
そこで、今回はその簡単な選び方をご紹介していくとともに、漢方における疲労治療の大枠をご説明していきたいと思います。
「虚」の考え方と疲労
■「虚」の程度とその見極め
漢方には「虚実」という概念があります。
「虚」とは不足という意味、そして「実」は充実という解釈です。
かなり安直に言えば、実とは体力が充実している状態を指し、虚はその逆、体力がない状態を指します。
そしてこの虚実に従って、使える処方と使えない処方とが出てきます。
例えば体に強く負担をかける可能性のある薬は、当然「虚」の方には使えません。
また「虚」の方に使うような優しい薬を、「実」の状態に使っても効果は表れません。
したがって薬を選択していく上でこの「虚実」の見極めは大変重要です。
そして今回の「疲れ・疲労倦怠感」においては、一般的に「虚」に対する治療がしばしば行われます。
・
ただし、この虚実はそうそう簡単に割り切れるものではありません。
「虚」と「実」とに区分できるものではなく、虚と実とを両端としたグラデーションがあると解釈されています。
つまり「虚」の中にも軽いものと、重いものとがあります。その軽重によって、適応する処方が変わってきます。
この「虚」の程度をどのように把握するのかという点が、漢方家の腕の見せ所です。
定まった解釈があるというよりは、漢方家各々が学識と経験とによって見極める術を培っていくものです。
したがって先生によってその解釈は変わることを常としています。脈を診ることもあれば、腹を診ることもあります。先生方によって、見極めるポイントが異なってくるわけです。
・
見極め方にどうしてもコツを必要とする虚実ですが、ここでは極々簡単にお話していきたいと思います。
基本的にここを見てくださいという点。「虚の程度」を把握するために、ここを見るだけでも、おおよそ間違いはないだろうと思います。
■「虚」の尺度をどう捉えるのか
胃気なくば、すなわち死す。
東洋医学の大原則です。人は「食事を摂る力」をもって生きています。
食事を摂る力こそが生きる力そのものであり、生命力の表れです。
したがって、胃気(食べる力)がなくなれば、人は生きていくことができません。
「虚」はそれが深まれば深まるほど、必ず胃腸の弱りに帰結していきます。
ご老人になっても食べることができる人は、虚の程度は軽いと言えるでしょう。
虚のグラデーションを見極める際、まずはこの胃気を確認することが大原則です。
したがって胃腸の弱い人ほど、その虚の程度は深く・重くなっていきます。
・
ただし、単に「胃腸が弱い」というだけでは、胃気を正確に捉えることはできません。
食べる力、が胃気です。すなわち、たくさん食べると胃がもたれるとか、下痢をするというのは、胃気の弱さでいれば極々軽いものです。
本当に胃気が落ちると、食べる力が失われていきます。例えば、長いこと食欲がわかず、食事がおいしいと思えないとか、昔から少食で、少し食べるだけですぐ胃がもたれるとか。
そういう根本的な消化吸収能力の低さが、胃気の低下です。
ですので、胃腸に不具合があるというだけではなく、そもそも食べる力があるのかという点に着目してください。
・
そしてもう一点、基本的に食べる力が弱い方は、栄養を体に送りこむ力に弱さがあります。
したがって、身体の細い方が多いものです。
ただし正確に言えば、「筋肉の付き方」に着目してください。運動をあまりしないような細い方であったり、もしくは太っている方でも、贅肉が多く筋肉があまり付いていない方であれはそれは「実」とは言えません。
そのため虚実は、身体の見た目でおおよその判断が可能です。体格良い方は実、華奢な方は虚という短絡的な謳い文句は、あながち全てが間違いではありません。
しかし、ポイントは体の大きさというよりも「筋肉の付き方」であり、さらに同時に「食べる力」の良し悪しが介在していなければ虚実を判断することが出来ません。
細い方でも食べる力があれば、虚の程度は軽いものです。
また太っている方でも食べる力が弱ければ、虚の程度は重くなります。
すなわち虚の程度は、食べる力が弱く、かつ筋肉が薄い、という要素が介在しているかどうかで決まります。
虚が深まるほどに「食べる力が弱くなり、かつ筋肉が薄く・弱くなる」という状態に向かっていきます。
・
「食べる力」と「筋肉の付き方」。
今回は、この点をポイントにして処方運用を簡単に解説していきます。
取り上げる処方は、どこでも手に入れやすい、なるべくありふれた有名処方にします。
1.十全大補湯
2.補中益気湯
3.小建中湯
4.六君子湯
それでは解説してきましょう。
※後編に続く・・・
・
・
・