◇養生の実際
~食養生を指導させていただいた全ての方へ~
<目次>
胃腸を傷つけないための食養生
食事の内容について
食事の食べ方について
食養生のまとめ
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私は治療上、食事の養生をかなり重視する方だと思います。
その理由は、経験に基づくものが全てです。
本気で病を改善しようとする時、
食生活の改善をしていただかなければ、どうしても完治へと向かわないという方がいらっしゃいます。
全ての方がそうだとは言えませんが、食事の不摂生によって胃腸が傷つき、それによって病の根幹を成している方が、少なからずいらっしゃるという事実があるのです。
ただし、この食養生、
伝え方次第では、間違えた方向へと向かってしまうこともあります。
返って体調を悪くさせてしまうこともある。正しく養生を伝えることの難しさを、日々臨床で痛いほど感じます。
これからもできるだけ丁寧に、正確に伝える努力を惜しまないことを肝に銘じつつも、
ここでもう一度、「私が本当に伝えたい食養生」を、あらためて説明したいと思うのです。
どうか、正しく、本質が、伝わりますように。
皆さまの体調が良い方向へと向かっていただけるように、祈りを込めて、説明していきたいと思います。
胃腸を傷つけないための食養生
まずは、大前提をお話します。
良い胃腸とは、どのような状態であるのか。
漢方における良い胃腸の定義を、まずはお伝えしたいと思います。
東洋医学では、消化機能を「土」に例えます。
すなわち良い胃腸とは、良い「土」と同じです。
良い土とは、大きく健康的な野菜がすくすくと育つ、そんな土です。
具体的に言えば、柔らかく、土の中に手を入れると、ずぶずぶっと深く入っていく。
そして中がほんのりと湿っていて、かつ温かい。そんな土が、良い土です。
そういう柔らかさと温かさ、そして適度な湿り気を帯びた胃腸を作り上げることが、東洋医学的に見た正しい胃腸の具体像です。
では、そういう胃腸とは、どのようにして作られるのでしょうか。
まず大切なのは、当然のことですが、土にまく栄養、つまり食事の内容です。
食事の内容について
良い土であるためには、栄養が必要です。
その栄養を培っているのは、日々、私たちが口に入れている食事です。
食事による栄養は、それを吸収することであらゆる臓器を健やかに保っていますが、
とくに消化管は、食事を直接を受け入れている場所。
したがって良い胃腸であるためには、まずは食事の内容を見直さなければなりません。
こう言うとすぐに、何を食べれば良いのか、という考えになりがちですが、
それは間違いです。良い食事とは、偏りのない、バランスの取れた食事を指しています。
お米も、野菜も、たんぱく質も、ビタミンも、まんべんなく食べることが望ましい。
そしてこれは、そんなに難しいことではないと思います。
現代日本は食事にあふれています。和食を中心に普通に食べていれば、そこまで気を付けることなく達成できるはずです。
問題は、食べない方がよいものがある、ということです。
特に胃腸に弱りのある方では、避けた方が良いものです。
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結論からいうと、
油と、お菓子と、お酒、そして冷たいものです。
これらは、胃腸が健やかな方では問題ありません。
しかし、胃腸の弱りのある方では、少量であっても強く胃腸を傷つける原因になります。
脂質は立派な栄養素です。一方で脂質の過剰は、消化管に負担をかける最たるものです。
水は、消化管において非常に吸収しやすい素材ですが、
油は違います。消化するためには、胆のうや膵臓など、さまざまな臓器が頑張って働かなければなりません。
お酒も同じです。膵臓や肝臓が頑張らなければならず、大きな負担になってしまいます。
またお菓子もお同じ。多くのお菓子がバターなどの油をふんだんに含んでいます。
例えばチョコはバターの塊ですし、生クリームもさわれば分かります。ぬめぬめとした泡状の油です。
クッキーだってあぶらとり紙の上に置いておけば、油が滲みてきます。菓子パンや総菜パンも、たくさんのバターを含んだものは避けるべきです。
さらにこれらは、身体に慢性的な炎症を生じさせる原因にもなり得ます。
膵炎や肝炎、胆嚢炎や胃炎はもちろんのこと、ニキビやアトピー性皮膚炎や乾癬、副鼻腔炎や上咽頭炎、リウマチなどの関節炎、潰瘍性大腸炎やクローン病など、さまざまな病の炎症を助長させる原因になることは、臨床上明らかな事実です。
そしてもう一つ、冷たいものの飲食も、なるべく避けるべきです。
冷たい水やかき氷・アイスはもちろんこと、果物も胃腸を冷やすことの多い食べ物です。
いくら常温の果物といっても、机の上に置いてあるミカンを服の中に入れてお腹に付けたら冷たいですよね。
食べるというのはそれと同じことです。胃腸に直接入れ込む分、それ以上の冷刺激を胃腸に与えてしまいます。
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油と酒、お菓子と冷たいもの。
胃腸の不具合が病の原因になっている方や、胃腸の弱い方では、
これらは避けた方が良いものの四大要素です。
胃腸という土壌に、
酒や油をどんどん垂れ流し、雹のようにゴツゴツとした氷を降らせることを想像してみてください。
土はべとつき、固まり、冷えて、傷つきます。
ガソリンがぶちまけられた土壌のように、嫌な臭気を帯びて腐り、
しんしんと冷えた土のように、カチコチに固まり亀裂が走った地面になります。
良い野菜が育つ土に、なるはずがないのです。
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ただし、現代の食生活の中で、油を完全に取り除くのはおそらく不可能です。
適度な油はもちろん問題ありません。むしろ大切な栄養素の一つですので完全にとらないというのは、少々やり過ぎです。
焼く際に使う油や、煮た際に出る油などは、適度にとっていただいても何ら問題はないと思います。
だたし、「油もの」は止めた方が良い。そして、避けることができるはずです。
例えば唐揚げやてんぷら、カツ、油分の多いカレー、ラーメンやフライドチキンなど。こういったものを避けることはできるはずです。
良い油を使えは良いのでは?という考えもあるかと思いますが、
良い油であっても、油は油です。オリーブオイルをがぶ飲みすれば、消化管は簡単に傷つきます。
まずは、これらの量をなるべく減らすこと。
お菓子や油ものやお酒や果物でお腹を満たすことはせず、
和食を中心とした食生活に、変えていくことがとても大切です。
食事の食べ方について
さて、ここからが本題です。
「食べてはいけないものがある」という説明をすると、
「食べない」という養生が生まれます。ここで、絶対に勘違いしてほしくないことがあるのです。
健康のためには必ず、食事は食べなければならないものです。
食べてはいけないものがあったとしても、それは食事をとるな、ということでは決してありません。
それらを避けつつ、ちゃんと食べる、ということが非常に重要です。
極端に食事を減らすこと、これが最も危険なことなのです。
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いくら食事の内容に気を使っていたとしても、
以下のような「食べ方」をしてしまうと、ダメージが蓄積し、胃腸は必ず傷ついていきます。
胃腸は「土」であり、「畑」です。
柔らかく、温かく、適度に湿り気を帯びたフカフカな畑にしておかなければなりません。
この畑を壊してしまう「食べ方」が、大きく分けて2つあります。
なだれや大洪水のように食事が胃に入ってくる食べ方と、
逆に日照りのようにまったく雨が降らない、つまり量が極端に少ない食べ方が、胃腸に等しくダメージを与えるのです。
お腹が減った勢いで早食いをし、気づいたらお腹いっぱいまで食べていて、満足する。
そういう食べ方は、なだれと一緒です。せっかく培った畑を、大洪水で押し流すようなものです。
また食事を極端に制限することは、逆に畑を干からびさせます。
日照りが続いてまったく雨がふらない土。土は乾いて固くなり、地面に亀裂が入って柔らかさを極端に失います。
つまり、食べ過ぎも、食べなさすぎも、同様に良くないのです。
大切なのは、自分の胃腸にあった食事量を、断続的、かつ定期的に、規則正しく食べることです。
そして、なるべく寝る前には食べないこと。
胃腸は寝ている間にしか回復しません。したがって、食べてすぐ寝ると、胃腸は寝ている間ずっと動き続けます。胃腸だけが徹夜で働き続けているようなものです。
つまり、食べる時と、食べない時とが極端で、
食べる場合は早食いで、お腹いっぱいまで食べる傾向があり、間食(おかしのつまみ食い)が多く、夜遅くに食べている方、
また食べない場合は、一日中口に全くものを入れなかったり、極端に食事量を減らしてしまう方、
これが胃腸を傷つける食べ方の典型例なのです。
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そういう食生活を改善していくためには、
以下のようなイメージで、食事をとってみてください。
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「胃腸に、しとしとと、温かく穏やかな雨が、優しくふり注ぐイメージ」
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土に断続的かつ定期的な慈雨が、ふり注ぐイメージです。畑に優しく、心地よい雨がしみこみ、土が柔らかく温かく、適度に湿ってくるような食べ方です。
具体的には、まず「ゆっくりと、良く噛む」ことから始めてください。
一回口にものを運ぶたびに、箸を置くのはとても上品です。
ゆっくりとよく噛んで、口の中のものが無くなったら箸を持つ。
お気に入りの箸置きを買って、ぜひ実践してみてください。
そして、ゆっくりと良く噛んで食べるようにすると、
自然と満腹感が得られ、腹八分目で食べられるようになります。
早食いをしていると、絶対にお腹いっぱいまで食べてしまいます。お腹いっぱいだと、後から気が付く食べ方だからです。
さらに時間をかけて食事をとるようにすると、自然と間食をしなくても済むようになります。
時間をかけない食事のとり方は、一時的な満腹感しか得られません。
ゆっくりと食事に時間をかけるからこそ、満足感が長く続くようになるのです。
そして、多くの方が、どうしても夜に多めの食事をとるという習慣を持っています。
一日にうちで夜が一番多い。そういう食事のとり方では、寝ている間に胃腸がどうしても回復できなくなってしまいます。
夕食と睡眠とにちゃんと時間をあけること。そして、できれば朝・夕、もしくは朝・昼・夕と、量にバラツキなく食事をとることが大切です。
「断続的かつ、規則的に、しとしとと優しくふり注ぐ雨。」
覚えておいてください。そういう食事のとり方が、胃腸を健やかに保つためのコツなのです。
食養生のまとめ
うんざりするくらい、長く説明してしまいました。
無理だよ、めんどくさいよと、誰だって思うとおもいます。私だって、これを言われたらうんざりすると思います。でも、本当に、病を治すためにはとても大切なことなのです。
ここで、今まで伝えた養生のポイントをまとめてみます。
できる限りで構いません。まずは意識していただくことが何よりも大切です。
そして、そのうちそれが習慣になれば、苦も無くできるようになります。
そういう自信が私にはあります。勝手に自信を持っているわけではありません。今までの患者さまが、みな口を揃えて、苦しいのは最初のうちだけだった、慣れたと、私に教えてくれるからです。
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まずは「避けるべき食事内容」です。
・油もの
・お菓子
・お酒
・冷たいもの
次に「行うべき食事のとり方」です。
〇断続的かつ規則的に、ゆっくりしとしとと、優しく胃にふり注ぐような食べ方。
具体的には
・ゆっくりよく噛むこと。
・腹八分目を心がけること。
・お菓子などの間食を控えること。
・夜寝る前や夜遅くには食事をとらないこと。
・その上で、ちゃんと一日数回、規則的に食事をとること。
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胃腸はからだ全体に影響を及ぼす要所です。
病を得た時、胃腸から立て直すという手法が、もっとも現実的かつ効率的な治療方法になることがとても多いのです。
何も気にせず食べられるという状態が、もっとも健康的で好ましい状態であることは確かです。
そうなれるように、胃腸を整えること。
自分に合った、そして生活上可能な食生活を、一緒に模索していきましょう。
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