◇養生の実際・梅雨 ~梅雨の体調不良と守るべき養生~

2022年06月09日

漢方坂本コラム

◇養生の実際・梅雨
~梅雨の体調不良と守るべき養生~

<目次>

梅雨に守るべき養生のポイント
・食事について
・睡眠について
・運動について

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私にとって、梅雨はとても気を張る季節です。

梅雨の時期になると、この時期特有の体調不良を起こしてしまう患者さまが、必ず増えてくるからです。

せっかく改善へと向かっていた患者さまにそれが起こると、一時的に現在の治療を後回しにしなければなりません。

また梅雨にやられて持病まで悪化してしまうこともあり、

特に偏頭痛起立性調節障害自律神経失調症パニック障害潰瘍性大腸炎などの消化器の病や、ニキビアトピー・蕁麻疹などの皮膚病に至るまで、さまざまな病がこの時期に悪化しやすくなります。

特に昨今の梅雨は晴れたり止んだりを繰り返すことが多く、気圧や気温が波打ち、安定しない傾向があります。

どのような病であっても、この梅雨をどう凌ぐのかが非常に重要な課題になっています。

ただし生活上、ちょっとした知識と工夫とで、梅雨は乗り切りやすくなります

梅雨の体調不良は、梅雨というだけで起こるものではなく、生活の不摂生が重なることで起こることが多いものです。

特に良かれと思ってやっていたことが、実は体調を悪化させているというケースもあります。

そこで今回は、梅雨に気をつけていただきたい養生のポイントを解説していきたいと思います。

梅雨に守るべき養生のポイント

まず、梅雨において最も守らなければならない体の部位はどこかというと「消化管」です

胃腸の乱れを未然に防ぐ。これだけでも、梅雨は相当乗り切りやすくなります。

実は梅雨に体調が崩れていく多くのかたが、まずは胃腸から先に崩れていくという経緯を取ります。

湿気が急激に高まる梅雨時期は、胃痛・腹痛や下痢などの排便異常が大変起きやすくなるからです。

東洋医学では、胃腸は「土」に例えられます。

ホカホカで温かく、適度な水分を含んだ柔らかい土。

健康を維持するためには、そういう状態の良い土を作っておくことが必要で、

そこから逸脱するほど胃腸は乱れ、その乱れはからだ全体へと波及していきます。

強い湿気を伴う梅雨では、身体の水分代謝が悪くなってきます。

そして胃腸の湿度が高まってくることで、その土がびちゃびちゃな泥のような状態になってきます。

梅雨になると、やや胃腸の調子が悪くなるという方は多いと思います。特に腹痛や軟便、下痢などが起こりやすくなる。これは梅雨特有の湿度が、体の中心に根腐れを起こし始めている傾向なのです。

しかもこの胃腸の乱れはお腹だけに止まりません。よりからだ全体へと、その影響は波及していきます。

胃腸というのは人体が抱える巨大な筋肉組織です。筋肉は血流を促す動力ですので、胃腸が根腐れを起こし始めるとからだ全体の血流も悪くなってきます。

さらに血流が悪くなると、その流れを調節している自律神経にも負担がかかってきます

がんばって血流を安定させようと頑張るあまり、体に過剰な緊張や興奮が起こりやすくなります。

気圧や気温の急激な変化は、ただでさえ身体の自律神経を不安定にさせます。

これと同時に胃腸に乱れがあると、さらに自律神経の不安定さが強くなり、かつ継続しやすくなってしまいます。

梅雨時期の怖さは、体の中と外の両方から同時に血流が乱れやすくなるという点にあります

つまり自律神経の乱れを継続させないためにも、とにかく胃腸を守ることが非常に大切になってくるのです。

とにかく胃腸を守る。

梅雨時期の養生のポイントは、ここに帰結します。

そのために必要な具体的な養生は、食事と睡眠と運動

毎回私がお伝えしている基本的な養生そのものですが、ただし梅雨時期では、気を付けるポイントが少々変わってきます

食事について

胃腸を守るためには、当然ながら食事の養生が重要になってきます。

とにかくゆっくりと良く噛むこと。そして、夜間遅くの食事は控えること。

これは梅雨のみならず、食事の養生の基本中の基本ですので、ベースとして必ず気を付けてください。

そして梅雨時期ではそれと同時に、必ず気を付けていただきたい点があります。

水分を摂りすぎないこと。

梅雨時期はお腹に水分が溜まりやすくなるため、いつもは大丈夫な量であったとしても、お腹をお壊すきっかけを作ってしまうことがあります。

■水分摂取の過剰に注意

夏に向かってくると、水分を多めにとりましょうと至る所でアナウンスされます。

当然、脱水予防は重要です。ただし、脱水を多量の水を飲むことで予防できるのは、胃腸が強い人だけです。

当たり前ですが、飲み水は胃腸の活動を通して体内に吸収されます。したがって胃腸の弱いかたでは、多量の水分やその冷たさによって逆に胃腸が傷つき、水分を吸収する力を弱めて軟便や下痢を起こしてしまいます

そうなると、せっかく飲んだ水が吸収されなくなります。したがって逆に脱水が強まっていきます

梅雨になると胃腸が弱る方が水分を摂りすぎたために、さらに胃腸を壊して脱水を起こしやすい素地を作ってしまうことが、かなり散見されるのです。

梅雨時期に水分を摂取するときは、なるべく一気飲みは避ける。ちびちびと、ゆっくり飲むようにしてください

またお茶やコーヒーなどの嗜好品も、この時期は避けた方が良いかもしれません。梅雨時期の胃腸は水分に敏感です。いつもなら大丈夫な水分量でも、胃腸に負担をかけることがあります。

また水分の温度にも気を付けてください。冷たい水は、この時期容易に胃腸を傷つけます

果物も避けた方がよいでしょう。温かい湯かぬるいくらいの水を、ちびちびと飲むよう心掛けてください。

睡眠について

胃腸は、寝ている間にしかその疲労を回復できません。

日中いくら食養生に努めていても、睡眠不足があれば胃腸は疲労を蓄積させていきます。

また人間は太陽の動きと相関して作られています。日中ではなく、夜間に寝ることではじめて疲労を回復することができます。

したがって夜12時には熟睡している状況を作りましょう。遅くとも11時には布団に入り、十分な睡眠をとるよう心掛けてください。

■夜間の体の冷えに注意

さらに、梅雨時期から真夏にかけて、睡眠中に必ず気を付けていただきたいことがあります。

それは、寝ている間に体を冷やさないことです。今時期は未だ夜間に冷えることも多く、また真夏になると冷房で冷やされることも多くなります。

寝ている間に寒くて目を覚まし、布団をかけなおして寝ることは誰しもが経験する所です。

しかし人間は寝ている間に体を冷やされると、起きている時とは違って内臓まで冷え込んでしまいます。

実は、寒いと思って目を覚ました時点で、体の芯はかなり冷えています。その後、いくら布団をかけても胃腸の冷えは残ってしまいます。

例えば朝に腹痛・下痢を起こしやすいという方は、夜間に体を冷やしていないかを是非振り返ってみてください。

また夜間の冷えを繰り返していくと、夏バテを起こす要因になります。気温が高まると食欲がなくなり、水っぽいものしか食べられなくなってしまいます。

これは特に潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群などの胃腸の病を抱えておられる方に、声を大にしてお伝えしたいことです。

これらの病は梅雨に悪化します。落ち着いていた症状が、夜間の冷えや水分摂取の過剰によって悪化するということが良く起こります。

また睡眠中に体、特にお腹から下半身をすべて冷やさないようにすることが大切です

お腹だけ温めていても、足が冷えると胃腸は冷えます。短パンで寝ているという方は要注意です。特に太ももからスネまでをきちんと冷やさないようにして寝るようにしてください。

運動について

身体を温め、血流を促す最大の臓器は筋肉です。

人間は筋肉があるからこそ、気圧や気温の変化に左右されずに、天候から身を守ることができます。

すなわち、急激な気温や気圧の変化に左右されない体を作っていくためには、どうしても筋肉の鎧が必要になります

私は体調不良を抱える方の多くに筋肉トレーニングを勧めていますが、その理由は体のさまざまな活動を安定させるための一番確実な方法が、筋肉をちゃんと活動させることだからです。

梅雨に体調を乱しやすいかた、特に自律神経の乱れや頭痛・耳鳴り・めまいを起こしやすいかたでは、そもそも筋肉活動が足りていないというケースを散見します

そこでもう一度、適度な運動を意識してみてください。まずは然るべき筋トレを、毎日行うことから始めてみましょう。

筋肉は一朝一夕では作られません。毎日継続して、積み重ねていくことが必要です。

だからこそ、無理なく毎日積み重ねることが大切です。筋肉は絶対に裏切りません。結果として必ず血流状態を安定させることができるものです。

梅雨時期に体調が悪い時に、筋トレをすればすぐに良くなるというもではありませんが、

毎日の積み重ねとして運動を意識しておく。そして徐々に天候に左右されない体を作り上げていってください

昨今の天候の波は非常に強力です。運動をちゃんと行っているかたでも一時的に調子を崩すことはあります。

それでも体の素地が出来ていれば、回復が早くなります。筋肉は裏切らないということを、是非とも日常に生かしていただきたいと思います。



〇参考コラム
□梅雨の病 ~梅雨に起こりやすい症状と効果的な漢方薬~

【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら