◇養生の実際・秋に起こりやすい症状
〜咽(のど)の痛みとその予防〜
<目次>
・秋に起こりやすい「咽の痛み」
・秋の「咽痛」の特徴
・秋の「咽痛」の厄介さ・放っておいた先の苦しみ
・朝起きて咽が痛かったら・とるべき対応策3つ
1、熱い湯を飲む
2、大根ハチミツ
3、咽(のど)の痛みに効く漢方薬
①桔梗湯(ききょうとう)
②銀翹散(ぎんぎょうさん)
・爽やかな秋を爽やかに感じるために
秋に起こりやすい「咽の痛み」
すっかり秋めいてきました。
空気が変わりましたね。
空が高くなり、風が涼しく感じられるようになりました。
昨日から台風が発生したようですので、またジメジメとした空気が戻ってきそうです。
でも今後はおそらく、一時的な暑さを繰り返しながらも、徐々に涼しくなってくるのでしょう。
かくいう私も秋が好きです。最も気持ち良い季節の到来です。
ただそんな時期だからこそ、あらかじめご紹介しておきたいことがあります。
「咽(のど)の痛み」について。
秋に起こりやすい体調不良の一つです。
秋の「咽痛」の特徴
誰にでも起こり得て、放っておくといつまでも長引いて悪化してしまう。
それが秋の「咽痛(いんつう)」です。でも、なぜ秋に多くなるのでしょう。
秋の咽痛の特徴は、朝感じることにあります。
・朝起きたときに、なんか咽がいがらっぽい。
・朝、咽がヒリヒリして唾を飲み込むとビリっと痛む。
こんな症状を感じられたことのある方、多いと思います。そしてこれが秋の咽痛の典型例です。
この症状が起こる理由は、秋特有の寒暖差にあります。
日中暖かく、夜間に急激に寒くなる。
この「急激に」という所がポイントで、夜間の冷え込みによって、咽頭部の血行が急激に悪くなるため、咽痛が生じやすくなります。
のど(咽頭)は呼吸と伴に常時外気と触れている部分です。そのため扁桃というリンパ球の集合組織が免疫機能を常に発揮しています。
その機能を維持しているのは血行です。したがって急激に冷たい空気にさらされてしまうと、咽頭部に血行不良が起こり、咽の免疫機能が一時的に乱れてしまうのです。
そして、その結果「炎症」が起こります。
昼になったら自然と治ったという程度の朝の咽痛であっても、実は咽の粘膜に「炎症」が起きています。小さな火が灯っている印象です。
人は日中活動を行う中で、自然と朝よりも血行が良くなっていきます。ですので小さな火であれば、勝手に消火されます。特に治療は必要ありません。
しかし、日中活動していても咽のイガイガや痛みが治らないという方は要注意です。
そのまま咽頭炎が悪化し、せっかくの気持ち良い秋が台無しになってしまいます。
秋の「咽痛」の厄介さ・放っておいた先の苦しみ
秋に夜間の冷え込みによって咽を痛め、そのまま放っておくとどうなるのか。
簡単に言えば咽の火が燃え盛ります。そして炎が咽全体に広がっていきます。
特に鼻腔・副鼻腔・扁桃・気道などにもともと慢性的な炎症を持っている方。
そういう方々は言われるまでもなく、小さな咽痛がその後とんでもないことを引き起こす怖さを知っておられると思います。
副鼻腔炎の悪化や扁桃腺炎など、ひどいと全身の発熱を伴って、いわゆる風邪を引いたような状態になってしまいます。
本格的な冬に入る前から、風邪を引くなんてまっぴら御免です。
そうならないためには、どうしたら良いのか。
実はこの予防が、なかなかに難しいのです。
まず第一に、空気を吸わないようにすることはどうしても出来ないという点。空気が冷えてしまえば冷たい空気を吸わざるを得ない。一つの方法として「マスクをして寝る」というのがありますが、これをやるとすごく不快でした。私は寝ている間、完全にマスクを投げ捨てます。
次に寝ている間は当たり前ですが空気の変化に気が付かないという点。夜間に寒いなと思って布団をかけ直したこと、ありますよね。実はこの時、すでに体は相当冷えています。冷えていたとしても寝ている間は気が付かない。だから相当冷えてしまってからやっと目が冷めます。
予防法として裏技的なものが未だ見い出せないのですが、とにかく油断しない、というのが一番だと思います。
夜冷えそうだなと思ったら、寝る時寝室が暖かくても油断しない。半袖・短パンではなく長袖・長ズボンを着て、一枚毛布を多くかけて冷え込みに備えてください。
それでも朝、咽がイガイガしたという方がいらっしゃったら、次の対応策を是非知っておいてください。
朝起きて咽が痛かったら・とるべき対応策3つ
1、熱い湯を飲む
朝起きたときに咽がイガついた時、まずはやって欲しいことは「熱い湯を飲む」です。
簡単過ぎて「それだけ?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも馬鹿にできない。うまくいくと即効で咽の痛みが消えていきます。
夜間に冷えた咽の血行を熱刺激で回復させるということ。例えるならば、氷を掴んでかじかんだ指をお湯に入れて温めるというだけのことです。
でも指は温まりますよね。血行が回復すれば指の痛みも消えていきます。
当然の現象ですがそれが現実です。そして咽の痛みも、冷えて起こったのであれば温めれば治っていきます。
ですので一度試して頂くことをおすすめいたします。ただしこれは極初期、軽い痛みやイガイガ感のときに通用するやり方です。
2、大根ハチミツ
以前にも紹介したことのある民間療法です。熱い湯では引かないという咽の痛みであればこれを試してみてください。
甘いし美味しいし、何よりも簡単です。お子様からお年寄りまで、誰でも問題なく使える方法でもあります。
以前患者さまに教えて頂いたやり方で、他の患者さまにもお伝えしたら「良い」とご好評を頂いております。
こういう知恵って本当に素晴らしいと思います。他にも良い方法があったら、是非教えて頂きたいです。
3、咽(のど)の痛みに効く漢方薬
熱い湯を飲む、大根ハチミツをなめる、それでは効かないという方も当然いらっしゃるわけで、そうなれば次の手段として漢方薬です。手前みそですが、病院で出されるうがい薬やトローチよりも効果的であることが多いと感じます。
ここでは簡単に処方を紹介します。手にとりやすいものから、炎症の程度に分けてご紹介していきましょう。
①桔梗湯(ききょうとう)
咽痛に効く代表的な漢方薬です。桔梗(ききょう)・甘草(かんぞう)という2つの生薬から構成された基本処方ですが、とても効果的でこれは良い薬です。
桔梗湯が効く咽痛はとにかく初期の炎症であること。朝起きたときに咽が痛いと思ったら、熱い湯に溶かして咽を潤すようにゆっくりと飲み下してください。甘くて飲みやすく、かつ即効性があります。老若男女、誰でも服用することができる薬です。
ドラッグストアに置いてありますし、保険の漢方薬として病院でも出してもらえます。手に入れやすい処方ですので、この時期ご家庭に備えて頂くと重宝すると思います。
②銀翹散(ぎんぎょうさん)
ちょっとマニアックな薬かもしれませんが、これもまた有名処方で漢方家にとっては馴染みの深い処方です。使うべき場は桔梗湯を飲んでも治らなかった時、つまり咽の炎症がより強くなってしまっているケースです。
この処方、実は単に咽が冷えたという場合に用いるケースとは若干異なっています。咽が冷えて、その後炎症が強くなってしまったという場合でも勿論使うことができるのですが、本来は「温病(うんびょう)」、つまり温熱性の外気にやられてしまった場合に発生してくる病に使うべき処方です。
先に述べたように、秋のはじめは未だ温帯低気圧が発生したりと、生ぬるい空気が舞うこともあります。急に冷え込むと思ったらまた暑くなったり、急に空気が乾燥したと思ったらまた湿気が強くなったり。そんな不安的な気候の波が生じやすい季節でもあります。
そのような時に発生しやすい病態が「温病」です。そのため、この銀翹散を使う機会が今時期はとても多くなります。
銀翹散は漢方の中でもちょっと特殊な処方で、歴史上比較的最近になって編み出された手法です。また加減法がとても多い処方でもあり、銀翹散に生薬を加えたり他の方剤と組み合わせることによって、非常に多くの咽痛に配慮できる優れた処方でもあります。
爽やかな秋を爽やかに感じるために
気持ちの良い季節、秋。
今回は秋口におこりやすい症状である「咽の痛み」について解説してみました。
気持ち良い季節である一方で、秋に潜む体調不良はその他にもまだまだあります。
爽やかに感じさせてくれる秋ではありますが、爽やかに感じるのはあくまで自分の体。
体調をしっかりと管理することで、初めて気持ちよく感じることができる。だからこそ、油断することなく生活を律し、秋を楽しんでください。
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