〇漢方治療の実際 ~西洋医学と東洋医学との違い~

2020年01月08日

漢方坂本コラム

〇漢方治療の実際
~西洋医学と東洋医学との違い~

<目次>

■漢方治療を受ける前に・是非知っておきたい両医学の違い
■よく言われている西洋医学と東洋医学との違い
■「症状」とは何か?
 1、西洋医学の場合
 2、東洋医学の場合
■西洋医学と東洋医学との本質的な違い
■漢方治療の本質:「症状の裏を読む」
■両医学の違いを知った上で考える「最も良い治療」とは

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■漢方治療を受ける前に・是非知っておきたい両医学の違い

当薬局にお越しになられる患者さまは、多くのケースで既に西洋医学的治療を受けられている方です。その中でなかなか症状が改善しないため、漢方治療をお求めになり当薬局にご来局されます。お身体の状態を詳しく伺っていると、今まで受けられてきた治療に対する患者さま自身の印象も自然と伝わってきます。大抵の方は西洋医学に対して諦めに近い気持ちを持たれていることが多く、今までの苦労を想えばそれも当然のことではないかと感じるものがあります。

患者さまは西洋医学にて改善できなかった症状であっても、東洋医学にて改善できるのではないかという一縷の望みを抱えてご来局されています。そして西洋医学的治療を行わず、漢方治療のみをもって改善へと至ることは実際に起こり得ることです。ただし私は必ずしも西洋医学的治療を諦める必要はなく、両医学を平行して行うことをお勧めする場合もあります。患者さまのお気持ちやお求めに沿うよう治療を行うことを大前提としつつも、今現在の患者さまにとって最も良い治療とは何かをご提案する中で、西洋医学的治療への認識を少しばかり変化させて頂くこともまた必要なことだと思っています。

両者の治療は決して相反するものではありません。時に併用することでお互いの効果を高め合うこともできます。もちろん患われている病や行っている西洋医学的治療によっても異なりますが、改善へと至るための手法として西洋医学を諦めてしまうことは正直勿体ないのではないかと思うこともあります。そこで、まずは漢方治療を受けられる前に、いったい両者にはどのような違いがあるのかということを是非知っておいてください。ご自分が受けられている治療の意味を理解する上でも、それはとても大切なことだと思います。

■よく言われている西洋医学と東洋医学との違い

西洋医学と東洋医学、その違いに関する解説はネットや本などにおいてもたくさん見受けられるところです。まとめると以下のように解説されていることが多いと思います。

〇西洋医学
・病を観る。
・悪いものを取り除く。
・症状ごとに薬が異なる(薬が増えやすい)。

〇東洋医学
・人(からだ全体)を観る。
・自己治癒力を高めて病と闘う力を養う。
・複数の症状を包括して改善し得る薬を使う(薬が増えにくい)。

これらの解説は上手く要約されていると思います。しかし分かりやすい反面、煙にまく解説になってしまっている感が否めません。例えば「からだ全体を観る」とは具体的に何を観ているのでしょうか。ここではより深い解説を試みてみようと思います。これらの違いがなぜ生まれるのかという、より本質的な両医学の違いを解説してみたいと思います。

■「症状」とは何か?

両医学の考え方において、最も根本的な違いは「症状」とは何かということです。身体は病むことによって不快な「症状」を発しますが、その「症状」に対する考え方が逆といっても過言ではないほど異なるのです。そしてこの違いは「病の見方の違い」に帰結します。そして果ては「治し方の違い」となって両医学の差が生まれてきます。詳しく説明していきましょう。

1、西洋医学の場合
まず西洋医学では、基本的に「症状」とは「人体にとって取り去るべきもの」だと考えます。通常身体は正常状態であれば症状を起こすことはありません。したがって何らかの異常事態が体に起こっているために「症状」が発生しているのだと考えます。例えば頭痛や腰痛などの痛みや胃もたれなどは、体が正常状態とは逸脱しているということを示すサインです。したがってその原因を探るべく、レントゲンやMRIや内視鏡などによって病原を探ろうとするわけです。そしてその病原に対して「除く」という治療をもって正常状態に移行させます。

この考え方はある意味で当然であり、一つの理として正しい見方です。胃もたれという症状がある時に、胃酸の分泌を抑える薬や胃粘膜を保護する薬を使うのは、胃酸によって胃が荒れているという病原を取り除く治療であり、その結果取り去るべき症状が消失します。

2、東洋医学の場合
一方東洋医学ではどう考えるかと言うと、「症状」は「人体が行おうとしていることの発露」として捉えています。少し分かりにくいと思いますので、詳しく解説していきます。

まず身体に何らかの症状が発現している場合、東洋医学ではその前提として「体がある状態へと向かおうとしてる」と解釈します。もしそれがスムーズに行われているならば特に問題はありません。しかし何らかの理由によりこれが正常に行われていない状況に陥ると、身体がサインとして「症状」を発生させると考えています。例えば頭が痛いのならば、それは人体が頭部において何かを行おうとしている証拠です。まずその状態が前提としてあり、にも関わらずそれがスムーズに行われていないために、痛みという症状が発現していると考えているのです。

この理解に基づくと「症状」は単に取り去れば良いというものではなくなります。取り去るよりもむしろ、身体が行おうとしていることを助ける、つまり症状を大切な体のサインとして捉え、それを生じる必要のない状態へと導くという治療を行うことで、結果的に症状を消失させるのです。

■西洋医学と東洋医学との本質的な違い

つまり両医学の根本的な違いは以下のようにまとめることができます。

「西洋医学は消し去りたい症状を消失させる医学」
「東洋医学は身体が欲していることを促す医学」

西洋医学では「症状」を起こしている原因を見極めてそれを取り除くことに終始します。したがって各「症状」に対してそれに直結する治療が可能です。例えば痛みを発生させる原因がプロスタグランジンという物質によるものだと分かれば、それを抑える痛み止め(例えばロキソニン)を使用します。吐き気があればそれを抑える薬を、熱があればそれを抑える薬を使用します。

一方東洋医学では各「症状」をもとに、そこから「身体が行おうとしていること」を見極めます。症状の裏を読まなければなりませんので、「症状」=治療方法とは決してなりません。各症状ごとにこの裏を取っていく作業が治療上どうしても必要であり、そうしなければ実際に効く薬方を決定することができないシステムになっているのです。

■漢方治療の本質:「症状の裏を読む」

さらに異なる症状であっても裏に潜んでいたものが同じであるということがしばしば起こります。例えば頭痛と同時に下痢が起きていたとします。そして両者がなぜ生じているのか、そして身体が何を行おうとしているのかを見極めた結果、それが同一の理由だったということが実際にあるのです。

この場合、症状が複数あったとしても、同じ処方で改善することが可能になります。例えば「五苓散(ごれいさん)」という処方は頭痛と下痢との両者を改善することの出来る処方です。ただし全ての下痢や頭痛に効果を発揮するわけでは決してなく、あくまで「症状の裏」にある状態が同一であった場合、つまり両症状ともに身体が行おうとしている共通の状況の中で発現し、かつその状況が五苓散によってスムーズに促せる状況であった場合にのみ、効果を発揮することができるのです。

つまり、漢方薬は「症状」=「処方」という使い方では効果を発揮することができません。必ず症状の裏に存在している「身体が行おうとしている何か」を見極める必要があるのです。漢方薬は何となくややこしいもの、そう考えらえておられる方が多いと思いますが、その原因は恐らくこの部分にあるのではないでしょうか。頭痛があれば痛み止め、吐き気があれば吐き気止め、そういう薬の方がずっと分かりやすいと思います。ただし漢方薬の特性上、どうしても「症状の裏」を読まなければなりません。

近年、医療関係者の中でもこの違いを認識せずに漢方治療を行っているケースが散見されるようになりました。下痢だったらこの薬、腹痛だったらこの薬と「症状」=「漢方処方」と直結させて治療している状況が良く見受けられます。漢方薬はそのような使い方であっても効果を発揮することがあります。ですから全てが間違いだとは決して言えないと思います。ただし、このような使い方が本来の手法ではないということは知っておくべきだと思います。一律的な使用方法をもし行うにしても、「症状の裏を読む」という手法を行えるのかどうかで、漢方治療の奥行が全く変わってくるのではないでしょうか。

■両医学の違いを知った上で考える「最も良い治療」とは

このように西洋医学と東洋医学とは、「症状」に対してまったく異なる解釈をもって治療を行う医学です。ただし先述のように、だからこそ相反する物では決してありません

どのような症状であっても大なり小なり必ず不快感を伴います。したがって症状を直接的に消失させ得る治療は大変有意義です。さらにその裏にある状況に対してアプローチすることで、症状を生じなくても良い状態へと身体を導く。そうすればスムーズに完治にまで移行させやすくなり、さらに再発を予防することが可能になります。

これらの治療はアプローチの仕方こそ異なりますが、お互いに邪魔するものでは決してありません。むしろアプローチが違うからこそ多面的な治療が行えるとも言えます。今まで効きにくかった西洋薬が、漢方治療を平行することでスムーズに効き出したということは実際に良く起こる現実です。このような現実を目の当たりにすると、西洋医学的治療を諦めた方であっても、漢方治療を行うにあたって西洋医学をもう一度見直して頂くことは、早期改善という目標において少なからず必要なことなのではないかと感じるのです。

ただし各病によって、そして患者さまによって、状況は千差万別です。東洋・西洋に関わらず最も良い治療を模索するというのが一番大切な事なのではないかと思います。東洋医学一本でいく、西洋医学一本でいく、はたまた両者を併用する、どのような選択であったとしてもスムーズに改善へと向かい得る治療を行えていればそれが正解です。その中でこれだけは知っておくべきというポイントを上げるのだとしたら、それはどのような治療を行うにしても必ず「その道の専門家におかかりになること」、そしてご自身と「意志の疎通が充分にとれる医療者におかかりになること」が大切だと思います。

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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