ここ近年、ライフスタイルの中に「漢方」を取り入れる方が、
増えてきているように感じます。
特に、感度の高い方々に、その傾向があるようです。
当薬局は「病や症状を治療する」という側面に特化した漢方薬をご提供していますが、
確かに漢方という世界は、そういう狭い範疇だけで利用していては、勿体がありません。
病とまではいなかくても、ちょっとした不調を未然に防ぐイメージ。
仕事のパフォーマンスを維持するために、睡眠の質を向上するために、
肌や髪の調子を整えるために、気持ちの浮き沈みを整えるために。
漢方を利用した日用品を、日々の生活に取り入れることで、
生活の質を向上・安定させる。
そういう目的がもっと世に広まっても、私には何ら違和感がありません。
しかし今まで、
漢方がライフスタイルに寄与してきたかというと、私には少々疑問です。
確かに世の中には、様々な漢方薬が市販されています。
お化粧品や整髪料の中にも、生薬配合というものはたくさん見受けられます。
しかし、それらを単に利用することと、ライフスタイルに漢方を取り入れることとは、
違うもののように、私は感じます。
漢方には、もっと人の生活を豊かにする可能性がある。
そしてこれからの時代だからこそ、必要な豊かさだと、私は思っています。
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ライフスタイルに漢方を取り入れる。
その本質はおそらく、「自分の体を知る機会を作る」ということです。
様々な情報にあふれたこの時代、
大多数の人が、同じ方向に流されやすい時代、と言い換えることもできます。
これが体に良いと、ひとたび情報が発信されれば、
多くの方がそれに向かって突き進む。
既にそういう時代であり、これからもその流れは、どんどん色濃くなっていくでしょう。
しかし人間は、ひとりとして同じ人はいません。
目や鼻は口はあります。しかし、同じ顔の人がひとりもいないのと一緒です。
胃や肺や腸はありますが、これらの機能は誰ひとりとして同じではないのです。
この個人差を見極める医学が漢方であり、
現代だからこそ、これを日常的に利用する価値があると私は思うのです。
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例えば漢方には、その方に合っていると飲みやすく感じる、という不思議な特徴があります。
必要な人にこそ入りやすい。
たとえ他の人には違和感のある香りや味だったとしても、
その方に合っていると、「良い香り」と感じることが多いものです。
つまり基本的に、こういう症状なら一律的にこの薬が良いという考え方はありません。
あくまで、その人が本質的に求めているものを探します。
その人だからこそ、薬になるという考え方。
私はこの特徴を利用することこそが、
ライフスタイルに漢方を、漢方の考え方を、取り入れる意味だと思っています。
多くの情報に惑わされず、自分の体を知ること。
それを知った上で、自分に必要な養生を守り、自分に必要な香りを取り入れること。
それこそが、漢方がライフスタイルに大きく寄与できる側面であり、
自分自身を見つめ直す、落ち着いた時間、
情報化社会に逆行するこの時間こそが、
漢方が提供できる豊かさだと、私は思います。
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誰しもが目にする情報に、それほど価値は無いのではないか。
大多数に向けて発信されている情報ほど、自分には向けられていないのではないか。
そういう違和感を感じておられる方々が、
今、漢方に目を向けられているという印象です。
生薬という有機的な素材が持つ、その人だからこそ染み込むという不思議な力。
昔から日本に存在していたこの力を利用する手法が漢方であるからこそ、
感度の高い方々が、漢方に注目されているのではないでしょうか。
当薬局の漢方は病を治療することに特化しているため、
なかなか間口を広げることが出来ず、限られた方にしかご提供することができません。
しかし、この漢方の特徴を利用し得る、本質的な漢方を理解された方々に、
お茶や薬膳といった形で広く、「漢方の考え方」を広めていっていただけること。
朝起きて、一日の始まりに、
少しだけゆっくりとした時間を過ごす。
いつもはコーヒーか紅茶だけど、
時には趣向を変えて、漢方の香りを立たせ、体に染み込ませてみる。
溢れた情報から距離を置いた、そんなライフスタイルが、
求めている人たちに、ぜひ届いてほしいと思います。
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