漢方治療のリアル

2021年09月15日

漢方坂本コラム

血液検査、画像検査、

現在のように、あらゆる検査機器が無かった時代。

漢方家は、どうにかして体のことを知ろうとしました。

見えないからこそ観ようとする、分からないからこそ想像する。

現代の医療から見れば、漢方はそういった「盲目的な試み」によって支えられてきたという歴史があります。

そして西洋医学が発展するにつれて、漢方は徐々に排斥の対象となりました。

この漢方の盲目さが「危うかったから」です。

想像で人を治療するという側面が否めない東洋医学。

確かに危うさは否めない。排斥の対象となることもまた、当然のことだったのかもしれません。

しかし、東洋医学は消え去ることがなかった。

西洋医学が国の医学として認められて百有余年、

それでもなお、東洋医学は未だに残り続けているという現実があります。

もしかしたら、この二つの医学は相性が良いのかもしれません。

正しさを、見えるものの中で定義する医学と、

見えないものの中にこそ、正しさを見出そうとする医学と。

別のようでいて、同じなのかも知れません。

そういう相性の良さに、我々漢方家は助けられているのでしょう。

見えないものの中から正しさを見出すのであれば、

漢方家が見るべきものは、「今」だけでは足りません。

相対あいたいする患者さまの、今そこにある体調や症状だけでは理解することができない。

患者さまがここにたどり着くまでの「歴史」を想像し、理解しなければならないのです。

漢方治療において大切なことは、

その方のヒストリーを理解することです。

「今」と「今まで」との間に、矛盾のない線を紐解けるかどうか。

患者さまの「流れ」を理解できた時こそ、

未来を良い方向へ導くことが出来るのだと、私は感じています。

私は今まで、たくさんの歴史を拝見してきました。

患者さま一人一人には、当然ながら、まったく異なる生活とその背景とがあります。

そういう様々な形を、私は患者さまから教えていただきました。

患者さまのヒストリーには、一瞬たりとも目を離せない、刮目かつもくするべき「物語り」があります。

少々不謹慎な例えかもしれませんが、

まるで、その方が主演となっている映画を見させていただいているような。

そういう感動が、誰の歴史であっても必ず介在しています。

だから私は思うのです。

そういう一人一人の物語、そこに登場させていただく「ありがたさ」を。

そして、そこに一時関与させていただくことに、「責任」を感じます。

患者さまの物語は、いつだってリアルそのものだから。まったく嘘のないノンフィクションの世界だからです。

ご来局いただいた時、

どなたであってもその時点で、物語には暗雲が立ち込めています。

その暗雲に、一筋の光明が照らされるように。

私はそういう仕事をしているのだと、最近改めて感じさせていただきました。

その文章は、身を削ることを恐れない強い意志で綴られ、

その方らしい、真っすぐな言葉を投げかけてきます。

どこまも「リアル」な文章。

漢方治療の難しさ、見えないものの中から正しさを導くその風景が、はっきりと描写されています。

漢方家冥利に尽きるというか。

今までこの仕事をしてきて本当に良かったなと。

感じさせていただきました。患者さまと伴にがんばっていくことが「治療」なのだと、再確認させていただきました。

少々恥ずかしくもあるのですが、

皆さんにも、是非ご紹介させてください。

漢方治療、そのままの世界を。

大木亜希子さんに、感謝を込めて。

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