私が得てきた漢方治療の技とコツを、お伝えするべく始めた「漢方治療の心得シリーズ」。
早いもので20回目を迎えました。
こうやって見るとしみじみと思います。尽きないものだなと。
たくさんの先生方から、
そして、たくさんの患者さまたちから、
本当にたくさんのことを教えてもらってきたのだなと。
感謝しかありません。
20回目ということで、
私が最初に感じた臨床のコツをお話しようかと。
父から一番最初に受けた叱責で、
今では苦い記憶とともに、私の大切な口訣の一つです。
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膝の痛みを訴えていた患者さま。
膝に水が溜まってしまう変形性膝関節症の患者さまです。
私は「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」を出しました。
我ながら、自信を持っての選択だったことを覚えています。
膝の痛み以外にも、
この患者さまは頭痛や立ちくらみを訴えられていたし、
足の浮腫みを気にされていた。
だから、この処方がピッタリだと思ったのです。
苓桂朮甘湯は水を治す薬。浮腫みにも良いし、立ちくらみにも効く処方。
さらに浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』には、
痿躄(いへき:あしの萎え)に良いと書いてある。
いける、と確信に近い気持ちで、
煎じ薬を出しました。良くなるはずです、なんて言葉を添えながら・・・。
今考えると、何と恥ずかしいことか。
ちっとも効きませんでした。
立ちくらみは少しは良くなった。浮腫みも、少しは良くなりました。
でも膝の痛みは全く取れない。
一カ月・二カ月と服用してもらっても、
ちっとも効きませんでした。
その時、言われた父の一言。
「痛みを取る薬を出せ。」
はじめ、何それ?と思いました。けど、
この言葉、とても深い意味のある言葉でした。
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いくら東洋医学の理屈を知っていても、
いくらその方の体質に合った薬を出しても、
痛みを取りたいなら、痛みを取るための薬を出す。
そうしなければ、当然痛みは取れません。
当たり前のことですが、実は結構見落とされがちなのです。
特に、机上の理論ばかりを勉強していた自分には。
患者さまに合う処方を出す、
その意味を、大きくはき違えていました。
それから私は、痛みについて勉強し直しました。
古典を引っ張り出し、文献を引っ張り出し、
痛みについて、漢方ではどう考えて今まで治療してきたのかを、
一から勉強し直しました。
痛みの違い、痛みの程度、それをどう判断して、どう解除していくのか。
患者さまを通して、勉強させて頂いたのです。
そして、痛みを取るための治療を何とか絞り出しました。
患者さまから、今回の薬はいい感じです!痛みが引いています!と伝えられた時、
深く安堵したと同時に、
何て大きな勘違いをしていたのだろうと、自分が情けなくなりました。
私にとって、臨床の第一歩目は、
この恥ずかしさと、気付きです。
20回目を迎えた今、
この恥ずかしさをもう一度、噛みしめたいと思います。
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