石膏という生薬があります。
本草書では「寒性」の薬物に属し、「熱証」を冷ます薬として使われます。
石膏とはその名の通り、鉱物の石膏です。
不思議なことに、石膏を使うことで治まる関節や皮膚の炎症があるのです。
漢方家はこの石膏を、「重い氷」をイメージして使います。
石膏特有の冷えた「重さ」で、張り出さんとする熱の勢いを沈下させるイメージです。
たとえ原因不明の炎症であっても、こういう使い方をすると効果を発揮することがあります。
なぜ効いているのか、その作用機序は未だに明らかになってはいません。
しかし石膏でないと取れない炎症があります。とても大切で、実に不思議な生薬です。
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さらにこの生薬には面白い特徴があります。
薬効がとにかく用量依存的に高まると言われているのです。
熱証が強ければ、一日量をどんどん増やしていきます。
5gでだめなら10gに、10gでダメなら20gに、熱証が強ければ強いほど、その用量をどんどん増やしていきます。
病によっては、1日に100gや200gといった量を使う先生もいらっしゃいます。
どれだけ重くするのか。石膏を使う時は、その用量、つまり「重さ」を正しく合わせる必要があります。
生薬量を増やすというのは、治療者にとっては勇気がいることでもあります。
ですが石膏を熟知している先生ほど、そこを怖がりません。
どんどん増やしていきます。石膏10gと、石膏20gとの違いを経験的に掴んでおられるからです。
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石膏は「重さ」が大切です。
重さ、それがそのまま薬効に直結するからです。
だから怖がらずに増やす必要がある。それが基本です。
しかし、それと同時に大切なことは、
「石膏1gの重さ」を知ることです。
薬は量が増えていくほど、その効果が「重く・濃く」なっていきます。
石膏に限らず、どんな生薬でもそういう特徴があります。
同じ生薬であっても重さ・濃さが異なれば、全く違う効果を発揮します。
同じ生薬であっても用量によって別物になる。生薬が、生きた薬と呼ばれる所以です。
そしてこれは、少ない量においても同じです。
量を減らせば、その薬能は「軽く・淡く」なっていきます。
ここで大切なのは、効き目が弱くなるわけではない、ということ。
あくまでその性質が、軽やかになり、透き通ってくるのです。
病によっては、この「軽さ・淡さ」が必要になるケースがあります。
いくら用量を増やしていっても効かない病が、
あえて少量で使うことで、驚くほどの効果を発揮する時があるのです。
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薬は多量に使うほど効く、というものではありません。
しばしば多量に使われることのある石膏であってもそうです。
その他、黄連や桂皮、柴胡や紫蘇葉、各種エキス剤などもそう。
「少量だけ使うことの妙」があるのです。
淡さの意味を知ること。
重さや濃さと同様、生きた薬として理解するためにはどうしても必要です。
我々日本人に使う場合では、特にそう感じます。
繊細な運用が出来ているかどうか。これが決め手になることがあるのです。
淡さには「馴染み」があります。
軽さには「響き」があります。
生薬には、有機的な薬能があります。
だから、「生きた薬」と書くのです。
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