漢方治療の心得 25 ~一両の重み~

2021年09月24日

漢方坂本コラム

石膏せっこうという生薬があります。

本草書では「寒性」の薬物に属し、「熱証」を冷ます薬として使われます。

石膏とはその名の通り、鉱物の石膏です。

不思議なことに、石膏を使うことで治まる関節や皮膚の炎症があるのです。

漢方家はこの石膏を、「重いこおり」をイメージして使います。

石膏特有の冷えた「重さ」で、張り出さんとする熱の勢いを沈下させるイメージです。

たとえ原因不明の炎症であっても、こういう使い方をすると効果を発揮することがあります。

なぜ効いているのか、その作用機序は未だに明らかになってはいません。

しかし石膏でないと取れない炎症があります。とても大切で、実に不思議な生薬です。

さらにこの生薬には面白い特徴があります。

薬効がとにかく用量依存的に高まると言われているのです。

熱証が強ければ、一日量をどんどん増やしていきます。

5gでだめなら10gに、10gでダメなら20gに、熱証が強ければ強いほど、その用量をどんどん増やしていきます。

病によっては、1日に100gや200gといった量を使う先生もいらっしゃいます。

どれだけ重くするのか。石膏を使う時は、その用量、つまり「重さ」を正しく合わせる必要があります。

生薬量を増やすというのは、治療者にとっては勇気がいることでもあります。

ですが石膏を熟知している先生ほど、そこを怖がりません。

どんどん増やしていきます。石膏10gと、石膏20gとの違いを経験的に掴んでおられるからです。

石膏は「重さ」が大切です。

重さ、それがそのまま薬効に直結するからです。

だから怖がらずに増やす必要がある。それが基本です。

しかし、それと同時に大切なことは、

「石膏1gの重さ」を知ることです。

薬は量が増えていくほど、その効果が「重く・濃く」なっていきます。

石膏に限らず、どんな生薬でもそういう特徴があります。

同じ生薬であっても重さ・濃さが異なれば、全く違う効果を発揮します。

同じ生薬であっても用量によって別物になる。生薬が、生きた薬と呼ばれる所以ゆえんです。

そしてこれは、少ない量においても同じです。

量を減らせば、その薬能は「軽く・淡く」なっていきます。

ここで大切なのは、効き目が弱くなるわけではない、ということ。

あくまでその性質が、軽やかになり、透き通ってくるのです。

病によっては、この「軽さ・淡さ」が必要になるケースがあります。

いくら用量を増やしていっても効かない病が、

あえて少量で使うことで、驚くほどの効果を発揮する時があるのです。

薬は多量に使うほど効く、というものではありません。

しばしば多量に使われることのある石膏であってもそうです。

その他、黄連や桂皮、柴胡や紫蘇葉、各種エキス剤などもそう。

「少量だけ使うことの妙」があるのです。

淡さの意味を知ること。

重さや濃さと同様、生きた薬として理解するためにはどうしても必要です。

我々日本人に使う場合では、特にそう感じます。

繊細な運用が出来ているかどうか。これが決め手になることがあるのです。

淡さには「馴染み」があります。

軽さには「響き」があります。

生薬には、有機的な薬能があります。

だから、「生きた薬」と書くのです。



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