非常にありふれたお悩みである便秘。
老若男女を問わず、当薬局でも大変多くの方からご相談をお受けしています。
治したい症状が他にあり、同時に便秘も抱えておられるという方を入れれば、多分相当の数になると思います。
日常に隠れやすい当たり前の症状であるが故に、こちらから伺わないと取り立てておっしゃらない方も多いものです。
便秘というのは、どのような病であっても治療上の核になり得る症状です。
例えば頭痛を改善するために便秘を治す、めまいを治すために便通を良くするという手法が、漢方ではしばしば用いられます。
つまり便秘が改善すると同時に、まったく関係がないような他の症状も良くなることが多々あるのです。
胃腸活動の不具合が、からだ全体に大きな影響を与え得る証拠です。ありふれた症状ではあるものの、決して放っておいて良いものではないと私は思っています。
そして今回、声を大にして言いたいことがあります。
私が今まで経験してきた臨床を鑑みると、最も放っておいてほしくないのが「お子さまの便秘症」です。
子供の時は便秘だった、しかし成長と共に自然と治った、そういう方がいらっしゃることも確かに事実です。
しかし、だからといって絶対に放っておかない方が良いと思います。
小児の便秘は、大人の便秘症と比べ物にならないくらい、体に大きな影響を与えることがあります。
大切なことですので、この理由を説明していきます。
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まず便秘というものは、大腸すなわち消化管活動の不具合によって起こります。
消化管は平滑筋と呼ばれる筋肉で構成されています。その筋肉がスムーズに動くことで、食べて、それを栄養にして、便を作り出し、排泄するという生命活動の中枢を維持しています。
これは、子供・大人を問わず、人間であれば誰しもに共通して言えることです。
ただしお子さまの場合は大人とは違います。消化管活動の大切さが、大人に比べてずっと大きいのです。
なぜならば、子供はまだ体が小さいが故に、大人に比べて体に占める消化管の割合がとても大きいからです。
つまり子供は、その生命活動が消化管活動に強く依存しています。
すなわちひとたび胃腸が乱れれば、それがからだ全体へと大きく影響を与えてしまいます。
例えば、緊張した時に腹痛を起こすことは、大人でも子供でもあることです。
ただし、お子さまが起こす腹痛は、その程度が強力です。脂汗をかき、涙が出て体を震わせるような、からだ全体で表現してくるような痛みを起こしてくるものです。
これはいまだ体が小さいために、消化管の不調がからだ全体を駆け巡るからです。
子供にとっての消化管の不調は、全体を崩し得る大きな波になってしまいます。
つまり子供の便秘は、大人のそれとは意味合いがまったく異なります。
便秘が容易に習慣化しやすく、かつ腸内環境を大きく乱すことで全身症状をどんどん悪化させてしまいます。
例えばアトピー性皮膚炎や鼻炎・中耳炎・副鼻腔炎といった炎症を起こしやすい体を作ってしまうこともあります。
また全身の血流が悪くなり、免疫力が低下して風邪やウィルスに感染しやすくもなってしまいます。
元気なお身体を作り出すためには、こと子供においては消化管活動をどれだけ良くできるかが勝負になるのです。
漢方薬で便秘が改善すると、アトピーの炎症が急速に改善したり、冷え性が治って風邪をひきにくくなったりします。この事実は、漢方治療においてはそれほど珍しいことではなく、ごくごく当たり前に起こることなのです。
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さらにお子さまの便秘症を改善しておくべき理由が他にもあります。
便秘を放っておくことで、本来起こし得る成長を妨げてしまうことがあるのです。
お子さまはこれからどんどん体が大きくなっていきます。骨が伸びて身長が伸びる、同時に体内の臓器もどんどん大きくなっていきます。
目に見えて体積が大きくなるわけですから、そこには材料が必要です。
そしてその材料は食事です。食事を摂り、それが栄養になることで体が大きく成長できるようになります。
つまり、お子さまの成長は消化管活動によって支えられているといっても過言ではありません。
小学校から中学校、そして高校に至るまで、消化管が順調に活動することで、体ができあがってくるのです。
したがって便秘が消化管活動の乱れによって起こる以上は、これを放っておくことはとても危険なことだと私は思います。
本来できるはずの成長を損なう原因の一つになり得る。
特に小学校低学年から便秘がちという子であれば、早い段階で手を打っておくべきです。
そしてさらに、成長は決して体だけの問題ではありません。
心と精神、感情の起伏や、やる気といった精神活動も、成長とともに安定し、育っていかなければなりません。
消化管活動の乱れは、ここも妨げてしまうことがあります。
子供の癇癪や、落ち着きのなさ、神経質、不眠といった症状が、
漢方薬によって便通が良くなることで同時に改善することが、実際に起こり得るのです。
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お子さまの便秘を放っておくべきではない理由、
それは、子供にとって消化管は、大人よりもずっと大きな割合を占める、生命活動に直結する重要な臓器であるということ。
そして同時に、これから成長していくための中枢が消化管であり、肉体形成のみならず精神安定の要にもなるということ。
そういう重要臓器の失調として表れている以上は、便秘を無視するべきではありません。
お子さまの便秘を甘くみてはいけないのです。
そして今回、この小児の便秘を放っておくべきではないと声を大にして言いたかったのは、
比較的、漢方薬で治しやすいからです。小児の便秘は、大人にくらべてそれほど複雑なものではありません。
改善のしやすさと、改善による身体への好影響とを考えれば、便秘ごときと放っておかず、漢方治療を検討するべきだと思います。
これは私だけではなく、漢方家であればおそらく満場一致の見解のはずです。
お子さまが、うんちが出なくて苦しいとおっしゃったならば、その時はぜひ、なるべく早めの段階で漢方専門の医療機関にご相談ください。
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■病名別解説:「便秘」