経験との真っ向勝負

2021年09月10日

漢方坂本コラム

使える処方と、そうでない処方。

漢方治療を行っていると、処方に使える・使えないの別があるということに、気が付くようになります。

この病だったら、この人だったら、この処方が使える。すなわち効く、と。

患者さまとの問診の比較的早い段階から、そういう処方が想定できるようになってくるのです。

経験を積み重ねることは、やはり重要です。自然とそれが分かるようになってきます。

しかし近年、私はそこにこそ一つの問題を感じています。

この感覚は、必ずしも治療にとって有益にならない時があるからです。

「使える処方」を知ることは非常に大切なことですが、

「使える」という感覚だけに頼ってしまうと、失敗することがあります。

「使える処方」は私が経験的に「使えるようにした処方」ということに過ぎません。

そして「使えない処方」は、私が未だ「使い方を知り得ていない処方」でもあります。

経験を拠り所にするということの難しさがここにあります。

経験は強い武器であると同時に、自分を縛る縄にもなります。

経験を積むということは、大切である一方で、

自分を不自由にする第一歩目でもあるのです。

そうであるならば、良い治療者の条件は「変化を繰り返すことができる」ということです。

経験は経験で大切、しかしその経験に拘泥こうでいすれは、変化は止まります。

「新たに変化を繰り返せる状態」こそが、最も治療効果を上げやすい状態だと思うのです。

だから「使える処方」を直線的に想定しない。

大変であっても、問診の中で必ず紆余曲折を経ながら、解答へとたどり着かなければなりません。

「すぐに解答にたどり着かないからこそ、深みが出る。」

確かイチローだったと思います。深くうなずくことのできる口訣です。

多分、この感覚は業種が違っても感じるものなのではないかなと。

先を予測できるようになった時だからこそ、突き当たる壁だと思うのです。

正しさを模索することの難しさを痛感しています。

私は「保守的」な考え方をする方だと自覚していて、

そのことは早い段階で、師匠にも気づかれています。

「坂本くんだから言う、変化し続けなければダメだよ」と。

ことあるごとに、言われてきたのです。変化し続けることが、大切なんだよ、と。

3年前に言っていたことを、臆面もなく捨てること。

今も同じように言っていたら、それは嘘だということ。

止まっていては、本物にはなれないということです。

たびたび言われてきたこの訓示は、経験を重ねる毎に染み入るようになってきました。

経験の蓄積と不自由さ、これをどう両立していくのか。

「使える処方」という、積み重ねた経験との真っ向勝負。

それが、これからの自分に求められているようです。

痛感しました。

わたくし、本日42歳になります。



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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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