■症例:脊柱管狭窄症

By 2019年10月12日 コラム

当薬局のように自費で漢方治療を行っている場所には、病院で治る方は来ない。

まず病院で診察を受け、それでもなかなか改善しない。
そういう方にしか、漢方薬局の門戸は叩かれないという現実がある。

病院で改善されない病というと、難病をイメージされると思う。
しかし、病の軽・重に関わらず、そういう病は結構ある。

また病院で治せないものが、果たして漢方で治せるのかと、疑問に感じるとも思う。
実際にそういう方々を救えない漢方は、今の時代に生き残ってはいけない。

漢方は魔法ではなし、神仏による効験でもない。
理をもった医学であり、そういう意味では西洋医学と同じである。

ただ少しだけ視点が違う。その視点は実は単純である。
そしてそういう単純な視点にこそ、漢方の生きる道が残されている。

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67歳、女性。

一カ月前、足の付け根(臀部)に痛みが走った。
病院にて診察を受ける。検査の結果「脊柱管狭窄症」と診断された。

腰の骨(腰椎)が変形し、脊髄が圧迫されている。
臀部の痛みと足裏の痺れは、それが原因だった。

痛み止めを処方され、服用したがそれほど効果がない。
病院ではこれ以上悪くなると手術をするしかないと言われた。

手術はしたくない。薬で何とかならないか。
知人から漢方薬が良いと言われ、保険の牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を飲んだ。

しかし効いている気がしない。
そこで当薬局に来局された患者さまだった。

お体の状態を確認させていただく。
その中で患者さまからご質問を受けた。

漢方薬で骨の変形が治るのでしょうか?と。

至極もっともなご質問である。
痛みの原因は骨の変形による神経の圧迫。
ならば骨が治らなければ痛みは治らないと考えて当然だった。

私はこうお答えした。

現実的に、漢方治療で骨の変形を治すことは難しいかもしれません。
しかし、痛みや痺れを取ることは、おそらく可能です、と。

痛みの原因は骨の変形だけではない。

例えば足の根元をきつく縛れば、下肢は痛み・しびれてくる。
当たり前のことである。輪ゴムで指を縛っても、その指は麻痺や痛みが起こってくる。

つまり血行が悪ければ痛みは起こる。
骨の変形のみならず、血流障害が関与していることでも痛みは発生してくるのである。

実際に多くの脊柱管狭窄症は、常に痛みを発生しているわけではない。
安静にしている時や風呂に入っている時には、痛みが緩和されるという方が多い。

この現象は、痛みの発生が血行状態に左右されている証拠である。
そして経験上、骨の変形による痛みや痺れであったとしても、血流を促すことで痛みが取れるケースが現実的に多い。

私は患者さまの血行状態を見極め、漢方の煎じ薬をお出しした。
始めは7日分である。案の定、一週間で痛みの程度が減り始めた。

薬の調節を繰り返しながら服用を続けてもらう。
2か月後、痛みの程度が3/10になる。
ほとんど苦にならず生活できてうれしい、患者さまがそう言われるのを聞いて私は安心した。

あとは腰に負担のかからない生活を気を付けてもらえれば、いつもと変わらない日常に戻ることができる。
さらに一カ月服用してもらい、その時点で痛みはほぼ消失。
重い物を持ち上げたり、腰に負担のかかる姿勢をしないことを約束してもらい、治療を終了した。

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病には原因がある。
ただし原因が一つであるとは、必ずしも言い切れない。

様々な働きが複雑に絡みあって調節されているのが人体である。
その中で、一つの原因だけが病を発生させていると考えることの方が不自然ではないだろうか。

であるならば、治療とは「どの視点からアプローチしていくのか」である。

細部を診る目も非常に重要である。
同様に、より広く単純な視点を的確に作り上げていくこともまた、重要である。

そしてそういう発想こそが、漢方の生き残る道になる。




■病名別解説:「腰痛・足の痛み・しびれ(脊柱管狭窄症・腰部椎間板ヘルニア・ 坐骨神経痛など)