■症例:起立性調節障害(OD)

起立性調節障害(OD)に悩まれている男の子が、お母さまと一緒にご来局された。

見てはっきりとわかる華奢な体つき。
目に力がない。症状をお伺いする前から、体調の悪さは明らかだった。

13歳、中学一年生。

もともとはサッカー部に所属し、エースとして頑張っていた。

しかしある時、サッカーの遠征で足の靭帯を傷つけてしまった。
そのため2か月間、部活と学校とを休んだ。

体に異変が起き始めたのは、その後からだった。

全校集会、立って話を聞いていた。
その時急にみぞおちが苦しくなり、車酔いのような感覚に襲われ倒れそうになった。

それ以来、急に立つと決まって立ちくらみが起こるようになる。
朝起きるのが辛く、学校に行けない日が出始めた。

病院にかかった。起立性調節障害と診断された。
昇圧剤を処方され、それから一カ月は少しだけ調子が良くなった。

さらに補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が出された。服用すると食欲が出るようになった。
このまま完治できるかなと思いつつ、1か月が経過した。

しかし、依然として体調は戻らなかった。
朝起きると力が入らず、立つとぐらつき、動くと動悸した。

それでも何とか学校には行けていた。
毎朝歯を食いしばりながら、気合いで起きていた。

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起立性調節障害の患者さまを見ている中で、いつも思うことがある。

本人たちの体調不良、これをもし私たち大人が感じたとしたら、どうなるのか。

起きたいのに力が入らない。体がいう事を聞いてくれない。
しかもそれが日常的に継続する。そんな状態を、もし大人が経験したとしたら。

愕然とするはずである。日常生活は必ず一変する。
藁にもすがって治したい、もとの状態に戻したい、必ずそう感じるはずである。

起立性調節障害とはそういう病である。
子供特有の病である一方で、大人でさえ気持ち負けするような強力な不快感と不安感とを必ず伴ってくる。

しかも体が未だ出来上がっていない、小さなお子さまがそれに立ち向かわなければならない。
それを理解されているご両親も、強い不安を抱えた生活を余儀なくされてしまう。

今回の患者さまもそうである。
男の子もお母さまも、何とか治したい・治してあげたいという気持ちで、医療機関を転々とされてきたはず。

最短の道筋で改善へと導く。

そういう治療を、常に心掛けなければならない。

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お体の状態を詳しく伺った。

とにかく起床時、体に力が入らない。
さらに起きると立ちくらみ、動くと動悸が起こる。そして動悸は日中ずっと続いていた。

補中益気湯にて幾分か戻るも、食欲には未だムラがある。さらに大便が安定せず、下痢したり硬くなったりを繰り返していた。
めまいや頭痛もあるが頻度は少ない。夕方になると手足のひらが火照り、夜寝汗をかくのだという。

これらの情報は、私の中でまったく矛盾がなかった。

成長期特有の華奢な体つき。薄っすらと粉を吹くような皮膚表面の乾燥。
望診(ぼうしん:見て把握すること)からおおよそ想定していた状態と、ほぼ重なる情報だった。

あとは如何なる処方をもって対応していくか、である。

胃腸の弱りがありれば、先ずは半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)。起立性調節障害にて頻用されている処方である。
しかし私見ではこの薬の効能は「ぬるい」。最短の道筋にて治療を進めていくならば、適切な処方ではない。

また立ちくらみ・動悸、とくれば苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)。同じく起立性調節障害に頻用されている。
しかし、やはり今回においては適当ではない。患者さまの病態は「痰飲(たんいん:身体の水分代謝異常)」が主では無いからである。

成長期という特殊な状態。
今回の男の子では、これが根本に強く関わっている。

体が日に日に大きくなる成長期、人の一生においてこれほど特殊な時期はない。
身体は自身を大きくするための材料を毎日強く求めている。莫大な需要を常に欲しているというのが、成長期の特殊性である。

この男の子では、明らかその強い需要に対して供給が間に合っていなかった。
身体を作り出す材料が枯渇している。今回の場合、それが体調不良の原因である。

人は成長期においてどうしても供給の不足を呈しやすくなる。
ならば身体の「陰陽」を観る。陰陽の循環を見定め、それを是正するのである。

過剰な陽を落ち着かせ、陰を益す。陰を得た陽は、伸び伸び発動することが出来るようになる。
最も迅速に効果を発揮する。そのためには、そういう治療が必要になる。

最初に出した漢方薬は7日分だった。

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一週間後、男の子に良好な変化が見て取れた。

午前中の具合の悪さが減り、起きられえるようになったという。
寝汗が無くなり熟睡できるようになった。そして起きた時の目覚めが良くなったようである。

ただし寝つきはまだ悪く、動悸も以前としてある。
また起きられるようになったといっても、朝のだるさが全て取れているわけではなかった。

体調の良さを自他ともに感じることができている。

しかし起立性調節障害治療の難しさは、ここからだった。

一か月後、体調の良い日が続いていた。しかし二カ月経った頃、これは、と思う変化が起きた。
一旦止まっていた身長が、また伸び始めたのだという。

陽気が昇り始めた。私は喜ぶとともに、ここからが勝負だと思った。

この身長の伸びは、身体がもともと欲してた需要に他ならない。
今まで供給が追い付かないため、需要が満たされず背が伸びなかったのである。

しかしその需要がいっきに開放されてきた。
すなわち、また一時的な供給不足が起こる可能性が高い。

案の定身長が伸び始めた頃から、体調に乱れが見受けられた。
動いた時の動悸が強まり、頭痛やめまいが見え隠れしているという。

私は薬の調節を続けながら、とにかく供給を満たす治療を行い続けた。
男の子も焦りに負けず、頑張って飲み続けてくれた。

その後、何とか薬方の対応が後手に回らずに済んだ。
はじめの状態に戻ることはなく、階段を一歩一歩登るような治療を行うことができた。

だたし全力で走った時など、やはり動悸や息苦しさが数時間続くことがあった。
それでも5カ月後には、ほぼ日常生活には問題がないという状態にまで落ち着いていた。

そして半年たった頃、最後まで継続していた動悸も消失した。

結局、伸びた身長は7センチに及んでいた。

大分男の子らしい体格になった。
急激な身長の伸びにも関わらず本人はケロリとしていた。

その無関心さが逆に頼もしかった。
この半年間を知る私にとっては、とても感慨深かった。

その後1日分を2日で飲むという減量の仕方で、しばらく続けていただき廃薬。

最後のご来局時、薬局を出ていくその背中は凛々しかった。

男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ。
決して三日でとは言えないが、刮目に値する男の子の成長がまぶしかった。



■病名別解説:「起立性調節障害

■参考コラム:
□起立性調節障害 ~治療の具体例と治り方~
□起立性調節障害 〜効果的な漢方薬とその即効性〜

その他の症例→「コラム 参考症例