どうにか改善したい。
その一心が、言葉の節々に滲んでいたことを今でも覚えている。
50代女性。酒さ様皮膚炎。
強い顔面部のほてりが、軟膏でも、抗菌薬でも、ツムラの漢方薬でも、治る気配をまったく見せない。
お体の状況をゆっくりと聞かせていただいた。強く感じられたのは、不安感だった。
お顔の症状である。隠しようもない。
焦り、不安にさいなまれてしまうのは当然のことと言っていい。
酒さ様皮膚炎と診断されて以来、患者さまは必死に皮膚治療を行ってきた。
西洋薬も漢方薬も、とにかくありったけの皮膚治療を行ってきた。
私は、これ以上皮膚の治療に縛られていても改善しないと断言した。
皮膚を含め、からだ全体の症状がそれを示唆していたからである。
まず緊張を取る。
そして、そのために内蔵を温める。
たとえ時間がかかったとしても、それが最も着実に皮膚を改善していく手段だと説明した。
患者さまには一抹の不安があったと思う。
顔の熱を取りたい時に、身体内を温めるという一見逆の治療である。
しかし患者さまは治したいという一心で、その治療を納得してくれた。
そして、漢方治療がスタートする。
始めの数週間は、効果を感じることのできない日々が続いた。
しかし服用すると体が温まり、良く眠れるとおっしゃられた。
私は密かに手ごたえを感じた。この漢方薬を押し通すべきだ。
そしてその後の治療は、波を打ちながらも順調だった。
一か月で顔の赤みが6/10になる。やがて4か月で1/10になった。
根本から治す治療である。時間がかかることは覚悟していた。
しかしフタを開けてみれば、今回のケースでは比較的スムーズに改善へと向かうことができた。
今回の成功を導くことができた要因は何か。
皮膚の治療を捨て、体の治療を行ったことはその一つであったと思う。
しかし最も大きな要因はそうではない。
患者さまが強い焦りや不安を抱えながらも、毎日しっかりと服用を続けてくれたことにある。
ほとんど気にならないレベルに症状が落ち着いた時、
患者さまは「先生のおかげです」と言ってくれた。
とても嬉しかった。ただ私は同時に思った。病を治したのは、患者さまの覚悟であったと。
患者さまが不安と向き合い、日々がんばってくれたからこそ、私は尽力させてもらえたのだ。
だから本当に感謝を伝えたいのは、私なのである。
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■病名別解説:「酒さ・赤ら顔」
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