□寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・後編~

■発表剤を使っても効かない!?最も頻発する失敗

寒冷蕁麻疹にて核になる治療、「発表法(はっぴょうほう)」。甘草麻黄湯を基本とした処方群によって行われるこの手法は、正確に適応すると迅速な効果を発揮します。そして膨疹や痒みが急速に終息していくだけでなく、血行促進の効能が血管活動を安定させることで、寒冷蕁麻疹を繰り返さない状態へと導いていくことも可能です。発表剤を正確に選択し、運用すること。それが寒冷蕁麻疹治療においては基本の基になります。

ただし、発表剤を服用しても効かなかったという方も当薬局にはご来局されます。症状を伺ってみると確かに発表法を用いるべき状態であり、さらにその処方を伺ってみると、確かに適切な発表剤が選択されています。しかし効果がない。これは何故でしょうか?

発表を必要とする寒冷蕁麻疹に発表法をもって対応し、さらに正確な発表剤を選択しているのに効果がない。実はそういうケースは多いのです。それは何故か。理由は簡単で、薬力が足りないからです。

■「発表」の本質

発表とはそもそも身体が行おうとしている体表面への防御反応を助ける手法です。防御反応を血行を安定させることで助け、さらに力を底上げして完全にまっとうさせるために用いる手法です。すなわち、中途半端に行っていては「発表」にはなりません。生体の防御反応を完全にさせ切ることで初めて「発表」になるのです。

発表とは、この手法が提示された後の時代に名付けられた名称です。もとは「発汗(はっかん)」と言います。体にとって不必要なものを、汗をかかせることで体外に排出させるというのがそもそもの着想です。したがって用いた結果、出させた、という現象が必須なのであって、その目的を果たせなければ発汗とは言いません。蕁麻疹においては汗を出させるわけではありませんが、体が受けた刺激による影響を「消失させた」という結果が伴えて初めて発表が行えたことになるのです。

つまり寒冷蕁麻疹においては、発表が必要だと思ったら断じてそれを行わなければなりません。その姿勢が最も重要で、中途半端に行っていても決して膨疹は治まりません。実際にエキス顆粒剤にて治療していても効果が無かったという方に、同じ処方の煎じ薬をお出しして迅速な効果を発揮するということが現実に起こります。もしエキス顆粒剤で治療するならば分量を増やすなどの対応を常に考慮しておかなければなりません。少ない分量のために効果がないことに気付かず、その処方が合っていないと勘違いして処方を変更し続けるという過ちを犯しているケースを散見します。

■「発表」の弱点と注意点

このように、やると決めたら膨疹が治まるまでやり切るという運用が求めれれる「発表法」ですが、いくつかの弱点も持ち合わせています。寒冷蕁麻疹治療において非常に重要な治療方法であることは確かですが、この弱点をしっかりと理解していないと、間違えた時に悪化する、発表法だけに囚われてしまう、という誤治(間違えた治療)を引き起こしてしまいます。発表法はその優位性と注意点とを共に理解しておくことで初めて上手に運用することができます。ここからは「発表法」における弱点を解説していくことで、さらに発表剤の特徴を説明したいと思います。

1.「発表法」の弱点

前編のコラムにて解説したように、「発表法」とは「身体が急激に血流を促そうとしている状態に同調する手法」です。したがって発表剤はその急激さに同調し得る薬能を発現します。つまり発表剤は血流を急激に高める薬能を有し、その分効果も迅速に発現しますが、一方で間違えた時の悪化も急激に進むという方剤です。断じてやり切らなければいけないという側面を持ちつつも、間違えると悪化しやすいという優劣両者の側面を持つ。再三述べているように、的確な運用が必ず行われなければならないその理由がこの点にあります。

また「発表」において核となる麻黄(まおう)という生薬は、心臓の弱い方や胃の弱い方では頻脈や動悸・胃もたれなどの副作用を起こすことがあります。したがって「寒冷蕁麻疹ではとにかく発表」というような一律的な運用は避けなければなりません。さらに心臓が弱い・胃が弱いという表現は分かりやすく言ってそうだということに過ぎません。東洋医学的に見ると「陽不定(ようふてい)」と表現し得る陽気の不安定さを強く起こしている方では、麻黄を避ける必要があります。あくまで漢方の視点から見た判断に基づいて、麻黄の適不適を判断しなければなりません。

「発表法」は寒冷蕁麻疹において非常に有効な手法であると同時に、「発表」を行っても大丈夫という大前提に基づいて運用されなければなりません。これらの点については、歴史の中でも各時代の先人たちが常に注意を喚起している部分です。漢方の基本であると同時に、習熟しなければいけない手法の代表といっても良いと思います。

2.「寒冷蕁麻疹」=「発表法」ではない

さて、寒冷蕁麻疹に対して「発表法」は治療の核となるという話をしてきました。ただし誤解してはいけないのは、寒冷蕁麻疹だから発表法を用いる、というわけではないということです。正しくは「発表法」を用いて治る病態であるから「発表法」を用いるのであって、寒冷蕁麻疹では確かにその状況が散見される、ということに過ぎません。

発表法を用いるべき病態・発表法を用いて治る病態を、漢方では「表証(ひょうしょう)」と言います。先ほど述べたように「身体が急激かつ体表部に、血流を促そうとしている状態」をもって「表証」といいます。さらに麻黄を用いて発表する場合、麻黄の熱性により身体は急激に血流を高めます。したがって皮膚に炎症が強く起こっている場合においては、発表により皮膚症状が悪化する場合もあります。基本的に麻黄をもって発表することで治る皮膚症状とは、熱よりも「水気」が中心となるものです。赤黒い皮膚炎を生じるような熱の濃い症状に対しては、もし寒冷蕁麻疹であったとしても発表法を用いることが出来ません。

■麻黄を軸とした「発表法」を用いる蕁麻疹の鑑別

つまり寒冷蕁麻疹だから発表法を用いるのではなく、発表を用いても大丈夫な状態だからこそ発表法を用いるのです。その鑑別が成された上ではじめて発表剤の適応となります。

この辺りの細かな鑑別は、先生方の経験に拠る所が大きく、かなり専門性の高いものです。ある意味で漢方家の腕の見せ所であり、蕁麻疹発生時の詳細な問診や、実際の膨疹の様子を厳密に把握する必要があります。以下に簡単な見極めを上げておきますが、自己判断はせず、漢方専門の医療機関に必ず相談するようにしてください。

最も重要な鑑別点は「発生要因」と「寛解要因」、さらに「膨疹の色」と「隆起の程度」です。以下にその概要を大まかに上げてみます。

【発表法を用いて改善するべき蕁麻疹】
〇寒冷刺激によって起こる。
 注)ただし一部お風呂などの温熱性の刺激によって起こる蕁麻疹の中にもこの手法を必要とする場合がある。
 注)また鞄の持ち手や衣類による圧迫にて起こる場合にも、これらの手法を必要とする場合がある。

〇朝起こる傾向があり、日中に寛解していく。
〇運動により寛解する。
〇白色からピンク色程度の薄い色の膨疹を呈している。濃い赤色や暗紫色がかった膨疹に用いると悪化しやすい。
〇隆起は基本的に低いが場合によっては大きく隆起する場合もある。ただしその場合では膨疹の色が薄いことが条件になる。

■寒冷蕁麻疹・発表以外の手法

寒冷蕁麻疹においては「発表法」が頻用される傾向があります。そしてそれは正しい鑑別に基づいて使用されなければなりません。もし「発表法」は不適と判断されたのなら、その時は違う手法をもって対応します。最後に、寒冷蕁麻疹における発表法以外の手法を簡単にご紹介いたします。

寒冷蕁麻疹では「刺激に対して敏感に反応してしまう生体の過敏さ」が主原因として関与しています。そしてその敏感さは血管活動の不安定さとして表れてくるため、血行を安定させ血流を促すという治療によって、症状を消失させ根治に導いていくことが可能です。さらに寒冷蕁麻疹においては膨疹という真皮上層の浮腫が発生します。すなわち血行を安定させ促すと同時に、身体の水の流れを調節するという手法が必要になってきます。

この時、刺激に対して強く急激に生体防御反応を起こしてしまっている場合には、身体上部や体表部に炎症や水の氾溢(はんいつ)が起こり、かつ膨疹の発生にも勢いがあります。そうであれば「発表法」の適応です。しかしもし刺激に対してそこまで強く反応していないという場合では、体幹部・身体下部に症状が発生しやすく、かつ膨疹の勢いにもそれほどの強さがありません。このような勢いの弱い寒冷蕁麻疹においては、身体の生じようとしている弱い防御反応に同調し得る、穏やかな薬方を用いて治療を行う必要があります。

東洋医学では「身体の水の過剰(偏在)は温薬をもって和す」という大原則があります。刺激に対して緩慢に反応している寒冷蕁麻疹においては、この原則に基づいた治療を行うことで対応することが可能です。温薬を用いて適切に全身の血流を安定させ、さらに浮腫(むく)みの傾向を改善していくことで根治を目指していきます。これらの手法は寒冷蕁麻疹の中でも一時的に生じたものというよりは、寒冷蕁麻疹をいつまでも繰り返しやすいという体質的傾向を改善していく際に(これを「本治(ほんち」という)重要になってきます。

寒冷蕁麻疹に使用されやすい発表剤以外の処方、また本治に適する処方を以下にあげておきます。これらはほんの一部です。患者さまの体質は100人いれは100通りあるといっても過言ではなく、その状態に合った処方を選択できるかどうかが、効果発現のためには必須となります。

・苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)
・苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
・五積散(ごしゃくさん)
・桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)
・防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)
・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
・真武湯(しんぶとう)

など・・・

■寒冷蕁麻疹における漢方治療の実際・まとめ

今回、寒冷蕁麻疹おける漢方治療を前編・後編にわたり、かなり詳しく解説してみました。専門性の高い内容になっていると思います。なるべく読みやすくするよう配慮致しましたが、読むのが大変でかつ理解しにくい部分もあったかと思います。かなりの長文にお付き合い頂きました。最後までお読み頂きありがとうございます。

どこに行っても治らない・寒冷蕁麻疹を治すことは諦めてしまったという方がいらっしゃいましたら、是非漢方治療をお勧めしたいと思います。ただし今まで述べてきたように、かなり専門的な治療を行って初めて改善へと向かうことができます。そのため実際に治療を行うとなると漢方に精通されている先生方におかかりになる必要があります。そういう漢方専門の医療機関に是非足をお運びください。

このコラムが寒冷蕁麻疹にお悩みの方にとっての一助となって頂ければ幸いです。




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※蕁麻疹・寒冷蕁麻疹治療については以下の解説もご参照ください。
■病名別解説:「蕁麻疹・寒冷蕁麻疹