□更年期障害 ~漢方治療をお勧めできる更年期障害の特徴~

2022年01月11日

漢方坂本コラム

□更年期障害
~漢方治療をお勧めできる更年期障害の特徴~

<目次>

漢方治療をお勧めできる更年期障害の特徴

1、更年期障害だと断定することが難しい場合
2、ホットフラッシュのみならず様々な症状を併発している場合
3、ホルモン補充療法(HRT)を行うことに懸念がある場合

漢方治療をお勧めできる更年期障害の特徴

「更年期障害には漢方薬が有効です」と、ネットや本にはよく書かれています。

しかし漢方薬を服用すればすべての更年期障害が改善するかというと、決してそうではありません。漢方薬を出されて飲んだけれども改善しなかったという方も、相当数おられるというのが実際の所だと思います。

漢方薬が効かない理由の一つとしては、適切な漢方薬が服用できていないという点があります。

漢方では更年期障害と一口に言っても千差万別の病態が考えられます。したがって単に更年期障害に効くとされている漢方薬を一律的に服用したところで効果は表れません。

さらにもう一点、更年期障害には漢方治療をお勧めできるものと、そうでないものとがあります

西洋医学ではホルモン補充療法(HRT)がしばしば行われますが、この治療によって改善する更年期障害であれば、漢方治療は特に必要ありません。しかし一方で、いくらホルモン補充療法を行っても改善しなかった方が、漢方治療によって改善してくるということも多く存在します

漢方治療はそのようなケースにこそ、強くお勧めすることができます。そして、ホルモン補充療法で改善しない更年期障害には、ある共通した特徴が見受けられます

そこで今回のコラムでは、どのような更年期障害に漢方治療をお勧めできるのか、その特徴を解説していきたいと思います。

「もしかして更年期障害かも・・」と思われている方にこそお読みいただきたい内容です。西洋・東洋を問わず、今後しっかりと改善へと向かい得る治療を選ぶためにも、今回の内容を是非参考にしていただければ幸いです。

1、更年期障害だと断定することが難しい場合

更年期障害は、閉経前から閉経後にかかる50歳前後に発生する病です。

閉経に伴うエストロゲン(卵胞ホルモン)分泌の減少が原因とされている病で、これを発端として自律神経が乱れ、のぼせやほてり、発汗や抑うつ傾向、不眠などの様々な症状が発生してきます。

ただし更年期障害とはそもそも、非常に曖昧な病です。

曖昧だからこそ診断を確定することができず、治療方法をうまく決めていけないというケースがかなり散見されるのです。

まず第一に、更年期に起こる症状であればすべてが更年期障害かというとそうではありません。子宮や卵巣における器質的な問題、また甲状腺などの他のホルモン機能の問題もこの時期に発見されることは良くあることです。

更年期障害は「これらの原因が背景にないのにも関わらず、自律神経失調を中心とした不定愁訴を生じている場合」に診断される病です。閉経に伴うエストロゲン(卵胞ホルモン)分泌の減少が原因とされていますが、なぜ分泌減少の後にさまざまな症状が発生してくるのか、そのメカニズムは現在もなお十分に解明されていないというが実状です。

つまり更年期障害は、なぜ症状が生じているのか、その原因が未だに分かっていない病です。「更年期障害だろう」という可能性に基づいて最後に診断される病、言わば可能性の範疇をなかなか越えることができない病が更年期障害だということです。

したがって更年期障害は、かなり広い病態を包括してそう呼んでしまっているケースが多いと思います。

決まってこの症状が起こりますということが言いにくく、また普通だったら起こらないような症状を併発されていたり、甲状腺の問題も否定できないといったような、診断があやふやになってしまうケースも稀ではありません。

確かにかなり分かりやすく、更年期障害だと断定できるケースもあります。そういう方でれば、ホルモン補充療法は比較的効果を発揮しやすい良い治療です。

しかし上記のように「更年期障害っぽい」という曖昧な状況も多く存在します。「更年期障害かも」と宙ぶらりんのまま、不快な症状を抱えられている方がたくさんいらっしゃるのです

そして私見では、そういう方ほどホルモン補充療法が効きにくいという印象があります。おそらくそもそも更年期障害という病が非常に曖昧で、未だに症状発現のメカニズムが分かっていないのが大きな理由になっているのではないかと感じます。

このケースにおいて、有効かつ的確に効果を発揮できるのが漢方治療です。

更年期障害だと指摘された方々は、多かれ少なかれこのような曖昧な状況の中で治療が進んでいきます。しかし漢方はその治療の特性上、更年期障害という西洋医学的病名にとらわれずに治療することができます

つまり、エストロゲン分泌の減少だろうと、自律神経失調だろうと、さらにそこに甲状腺の問題が絡んでいようと、治療においては包括的にお体を捉えるからこそ、すべてを同時に解決へと向かわせていける可能性があります。

例えば漢方では、血流を促すことでホルモンが働きやすい場を調えつつ、自律神経を安定させるという手法が用意されています。また、胃腸・心臓・肺などの問題を同時に解決することで骨盤内に働きかけ、子宮や卵巣機能を改善していくというやり方もあります。

すべて、西洋医学では治療として結びつけることが難しいようなやり方です。この一種独特な考え方と視点をもって体を調節するという手法が、病名に囚われない包括的な治療を可能にしています。

体のさまざまな関連の中から治療法を導くという漢方特有の考え方こそが、難治性の更年期障害を解決する糸口になります。だからこそ、更年期障害だと断定することが出来ない方にほど、この東洋医学独特の視点をフルに活用することをお勧めいたします。

2、ホットフラッシュのみならず様々な症状を併発している場合

ホルモン補充療法(HRT)は効果的な治療方法です。特に更年期障害の中でも発生頻度の高いホットフラッシュに対しては、良い効果を発揮できるという印象があります。

ただしホットフラッシュ以外の症状が複雑に発現しているケースでは、症状が取りきれない場合が多いものです。

抑うつ感やイライラ・不安感・焦燥感などの精神面での症状や、不眠や頭痛・めまい・耳鳴り・肌荒れ・皮膚炎などの身体症状が残ってしまい、いまいち不快感が取りきれないという方が多くいらっしゃいます。

特に以下のような症状を併発されている方に、その傾向があるように思います。

〇頭痛や耳鳴り・めまい・目の充血などの頭部に起こる症状
〇動悸や息苦しさ・胸苦しさなどの胸部の症状
〇胃もたれや便秘・下痢などの胃腸症状
〇不眠や抑うつ傾向など身体の緊張・興奮状態
〇乾燥肌や皮膚炎・蕁麻疹などの皮膚症状

私の経験では、これらの症状はホルモン補充療法だけでは治りにくいという印象があります。しかし漢方治療を行うと、比較的改善していきやすいという印象があるのです。

さらに頭痛があるから頭痛の薬、動悸があるから動悸の薬と分けるのではなく、一種類の漢方薬をもってこれらが同時に改善してくるということがしばしば起こります。

ホルモン補充療法は確かに効果的な治療方法ではありますが、症状を包括的に治療するという意味においては、漢方治療の方が有効なのではないかと感じます

先で述べたように、漢方は更年期に生じるさまざまな症状を包括的に捉える医学です。むしろそうしなければ治療が行えません。包括的に捉えることで初めて的確な薬方を決定できるという宿命をもっています。

したがって様々な症状が発生していればいるほど、体を把握するための判断材料が多くなるということでもあります。ホットフラッシュだけでなく、多くの症状が絡んでいた方がむしろ治療がしやすくなるという傾向さえあるのです。

つまり多くの症状が発生している方にほど、漢方治療をお勧めすることができます。

漢方では「更年期障害だからこの薬」と決まっているわけではありません。様々な症状に東洋医学的な意味を見出し、その関連性を見出さなければ治療を進めていくことができない、ある意味非常に手間のかかる考え方をしなければならない医学です。

しかしこの手間こそが、複雑に絡みあった病態を紐解くときに無くてはならない手法になります。症状が多岐に渡り、取り切ることができないと感じておられる方にこそ、漢方治療を強くお勧めいたします

3、ホルモン補充療法(HRT)を行うことに懸念がある場合

ホルモン補充療法には飲み薬の他にも、塗り薬(ジェル)や貼り薬(パッチ)があります。飲み薬の副作用として血栓症が有名ですが、塗り薬・貼り薬はその副作用が少なく、安心して使うことのできる薬としてとても優秀です。

ただし更年期障害では皮膚の敏感さを伴う方が多いため、貼り薬によるかぶれが問題になることもあります。また人によっては充分に効果を発揮しなかったり、飲み薬や塗り薬を併用しても自分に合う組み合わせが見つからないという方も多くいらっしゃいます。

そしてホルモン補充療法をためらう方の多くが、この治療による副作用を危惧されてる方です。吐き気や浮腫み、時に蕁麻疹などの副作用を経験されている方が実際におられます。

また血栓症を誘発する可能性があるため、心臓や脳の血管に問題がある方ではホルモン補充療法を行うことができません。さらに乳癌や子宮内膜癌など、エストロゲン依存性悪性腫瘍の既往がある方やその疑いのある方、さらに肝機能に問題のある方でも、この治療を行うことができません。

当然ではありますが、そのような方であれば漢方治療を第一選択的に行うべきです。

ホルモン補充療法が出来ないからといって諦める必要は全くありません。たとえ西洋医学的治療が難しい方であっても、漢方治療でも同じように治療が困難かというとそういうわけでは決してありません。

またホルモン補充療法を行えない病が背景になくても副作用が心配という方あれば、まずは最初に漢方治療を試してみるというのも一つの手だと思います。ホルモン補充療法を行わずとも改善を見る方も多く、また先で述べたように更年期障害としてあまり考えられていない症状や、更年期以前からあった不快な症状まで同時に解決することもしばしば経験する所です。

そして私見では、的確な漢方薬を服用していると、ホルモン補充療法の副作用を予防できることもあります。両者の併用も特に問題ないため、まずは漢方治療から行い、さらに治りきらない場合に西洋医学的治療をもって補完するという手順でも良いと思います。

更年期障害は曖昧な病です。だからこそ、治療が後手に回り、いつまでも的確な治療方法が見つけられないという方が多くいらっしゃいます。

そんな時はまずは漢方薬の服用から始めてみてはどうでしょうか。検査をちゃんと行う、そして漢方に精通した医療機関におかかりになるということが大前提ではありますが、この前提をクリアーすることができれば、多くの方が漢方治療によって更年期障害から解放されているという事実があります。



■病名別解説:「更年期障害

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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