□血管運動性鼻炎 ~漢方の基本だけでは難しい・独自の考え方と使い方~

2023年11月16日

漢方坂本コラム

□血管運動性鼻炎
~漢方の基本だけでは難しい・独自の考え方と使い方~

<目次>

■血管運動性鼻炎の実際
■血管運動性鼻炎と漢方治療
■漢方の考え方・使い方の変革

血管運動性鼻炎の実際

血管運動性鼻炎という病があります。

別名、非アレルギー性鼻炎とも呼ばれています。

寒い外から暖かい部屋に入ったり、またその逆であったり、熱いものを食べた時や気圧が変化した時など、

急に気温や気圧が変わる際に良くあらわれる鼻炎です。寒暖差アレルギーと俗に言われることもあります。

この病は、病院ではなかなか治らないため一度かかると厄介です。

抗アレルギー薬が効きにくく、全く効かないケースも散見します。

そうなると薬による打つ手がなく、生活改善の指導に止まることが多いものです。

しかし気温や気圧などの自然現象によって起こる鼻炎ですので、基本的には避けようがありません。

この鼻炎は「自律神経の問題」と考えれられています。

治療している中で、確かに私もそうだと感じます。

ただし「自律神経の問題」とされること自体がまた厄介です。

なぜならば、自律神経は現代医学をもってしても未だに分からないことが多いからです。

そもそも自律神経とは、自分の意志で動かせない全ての部位を統括して動かしている神経です。

ものすごい巨大なネットワークであり、未だにその詳細は掴めていません。

したがって適切な薬は開発されておらず、どうしても「生活の中で自律神経を乱さないようにすることが大切」とだけ指導されます。

適切な運動と睡眠、とにかくストレスを避けること。

しかし、運動と睡眠に気を付けていたとしても出る人は出ます。

またストレスを完全に避けることは不可能です。

血管運動性鼻炎は原因に対応する手段がない病。

それが、この病の治りにくさに直結しています。

血管運動性鼻炎と漢方治療

その点、漢方治療では自律神経に効果を発揮する薬がたくさん用意されています。

なぜ出来るかというと、それは今まで培われてきた歴史と経験としか言いようがありません。

細かいことは分からない。しかし、こうすると自律神経が安定するという経験を積み重ねてきたということです。

理論よりも先に手法が作られた医学。その特徴があるからこそ、対応する手段が多く培われてきました。

そのため、血管運動性鼻炎には漢方治療をお勧めできるという記事を至る所で目にします。

ただ私自身は、これも安易に言い過ぎているのではないかと感じています。

確かに効果的な治療を行うことは出来ます。しかし、漢方薬で自律神経を整えるというのは、言うほど簡単なことではありません。

少なくとも初学の頃の私は、漢方薬で充分に自律神経を整えることはできませんでした。

今ではある程度、この病に対するコツのようなものを掴んできました。

それは経験を積んだと言ってしまえばそれまでですが、経験というよりも、考え方を変えたからだと私は思っています。

最初に習う気・血・水の概念や、肝・心・脾・肺・腎などの中医学的概念、また発表法や補法といった治療法に至るまで、

これらをいくら駆使しても自律神経を充分に整えることは難しかったというのが私の現実です。

なぜそうだったのか。それは漢方の教科書には、自律神経とは何かが書かれていないからです。

自律神経を東洋医学的にどう捉えたら良いのか、漢方の教科書には明確な回答が記されていません。

つまり、解釈することから始めなければならないのです。

そのため私はある時から、漢方の概念をもう一度見直さなければならないという考え方にシフトしました。

そしておそらく、実際に治療に当たられている先生方も、この独自の思考の必要性を感じ、実践されているはずです。

教科書には載っていない自律神経への考え方を、東洋医学の解釈をもって自ら作り出しているはずです。

これは血管運動性鼻炎だけに言えることではありません。概念の再考は、誰しもが経験しなければいけない東洋医学の宿命だと思います。

東洋医学では自律神経をどう考え、どう捉えるべきなのか、

今の私には、それについての解答が今のところあります。

患者さまとの臨床経験から学ばせていただきました。

こうすると効くな、という経験が積み重なり、それによってなるほどと思える理屈が少しずつ出来上がりました。

すると、今まで自分が勉強してきた内容とはかなり違うことに気が付きました。

考え方が違う。使う方剤も違う。

前置きが長くなりましたが、今回は具体的にどう違うのか、私自身の見解の一部を示してみたいと思います。

わかりにくい漢方医学の説明です。しかも極個人的な、独特の考え方だと思います。言いたいことは、あくまで漢方の基礎理論に解答は無い、ということ。その一例として、お読み頂ければ幸いです。

漢方の考え方・使い方の変革

まず最初に、血管運動性鼻炎はなぜ起こるのかを紐解きます。

呼んで字の如く、この病は鼻腔の血管運動の乱れによって起こります。

血管は通常、気温や気圧に合わせてその活動を変えます。例えば、気温が低ければ血流を促すように働き、気温が高くなれば逆に血流を穏やかにするようにその活動を変化させます。

血管運動性鼻炎は、これらの活動が順調に働かないために起こると考えます。

気温や気圧の変化に対して血管活動が過剰に、もしくは緩慢に反応してしまう。そうして鼻腔の充血を起こし、まるでアレルギー性鼻炎のようなくしゃみや鼻水を生じると解釈します。

つまり血管運動性鼻炎では、いかに鼻腔の血流を安定させるのかが全てです。気温や気圧の変化に対して、スムーズに活動できる血管活動を目指すことで治癒へと向かわせます。

たとえば、冷えに対して血流がすぐに弱くなってしまう人であれば、桂枝や乾姜が配合された温薬で体を温めることで素体の血流を安定させます。

実際にこの手法だけで治る方もいます。しかし、これだけの手法で全ての血管運動性鼻炎をまかなえるわけではありません。

そもそも、血管活動は身体の自律神経によって調節されています。そして先で述べたように、自律神経は単に温めれば良くなるというものではなく、深く考察された東洋医学理論によってはじめて成しえます。

温薬や寒薬で温める・冷やすという基礎的な手法は有名ですが、理解しやすい分、一方通行の効果しか発揮しません。

自律神経の乱れは取り去るものではなく、あくまで安定させるというバランスの調節が必要です。

そこで、教科書的な漢方理論の再考が必要になります。

温めるとか冷やすとかの考え方を一旦置いて、より広く自律神経を調節するための手法を導き出さなければなりません。

ここからが漢方理論再考の一例です。

まず、考え方を変えます。

私は血管運動性鼻炎を治療する際、気血水や五臓といった概念はほとんど使いません。

もっと現実的に見ます。私が言うところの肺は、東洋医学でいう肺という概念ではなく、実際にある肺を指します。

より具体的に考えることが大切だと知ったのです。

そうみると、身体には自律神経を整える要所がいくつか考えれます。この要所は漢方の聖典『傷寒・金匱』から紐解いたものです。

胸中・心下・腹中・少腹がまずはその基本になります。

胸中とはおそらく肺・心臓・食道・胸膜などを総合的に指しているもので、

心下は横隔膜や胃、時に胆のうや膵臓を含める消化管を指しているように思います。

ただし、大切なことはこれらがどう自律神経に関与しているかを考えることにあります。

例えば肺は酸素と二酸化炭素とのガス交換を行う臓器ですが、漢方ではおそらくそれだけとは考えていません。

自律神経から見た場合に、肺がそれにどう寄与しているかを考える。

そうすると見えてくるものがあります。肺の薬を使った際に、自律神経がどう変化するのかを経験することによって紐解きます。

これを積み重ねることで身体における肺の意味が何となく感じられるようになります。

正確に言えば、肺ではなく胸中。張仲景(傷寒論の著者)がなぜ肺ではなく胸中といったのかにも、少しばかり合点がいきます。

次に使い方です。

例えば鼻炎に良く使われる生薬に「麻黄」があります。

麻黄とは発表薬に位置付けられ、外から入ってきた何らかの悪いものを取り除く時に使います。

この考え方で鼻炎に良く使われます。外に排出しようとする力を助け、全うさせることで、鼻炎をおさめるという考え方です。

例えば鼻づまりに葛根湯や麻黄湯を使ったり、鼻炎に小青竜湯や麻黄附子細辛湯と使うのは、皆さん良くご存じの手法だと思います。

すべて麻黄配合の処方です。ファーストチョイスで良く使われますが、効く人と、効かない人とがいます。

排出させる力を全うさせるという考え方であれば、だれにでも効果を発揮しても良さそうです。

しかし効かない人がいる。この現実をどう受け止めるのかが大切です。

私は、こと鼻炎に関しては麻黄を発表薬としては使いません。

結果的にそう使っているかもしれませんが、少なくとも考え方として発表とは考えていません。

その理由にはいくつかありますが、この発表という考え方が非常に限局的で応用に乏しいというのが理由の一つです。

感染症のように全身の発熱を呈する病であれば良いのですが、鼻炎など局部的な炎症に止まる場合には、発表という概念が使用法にバイアスをかけます。

私の考えでは、麻黄は胸中と心下に働く薬です。

発表というよりは、心下を抑制し、胸中を通す薬と考えます。

逆に分かりにくい言い方になってしまったかもしれません。

しかしそう考えると麻黄は、広く応用できるようになります。

麻黄を使うべき状態とは、心下の旺による、胸中の鬱、と考える。

そしてその傾向が強まるにつれて、麻黄は主として意味を為します。

逆に心下が抑制されていて、胸中が昂ぶっている状態に使うべきではありません。

ここを間違えると悪化することもあります。だからこそ、この考え方は大切だと私は思っています(※)。

そして麻黄が効くと、結果として局所に貯留していた水が去ることで、治癒へと向かいます。

私の中ではかなり具体的なのですが、こう説明すると意味が分かりにくくなることも自覚しています。

おそらく古人は言葉で説明しにくいからこそ、様々な形でこれを表現したのでしょう、と、お茶を濁しておきます。

(※心下悸は心下が高まっている状態ではありません。)

漢方薬は自律神経を整えると言われています。

血管運動性鼻炎は、確かに自律神経を解した血管運動の問題として起こります。

したがってストレスを無くすという非現実的な解決方法ではなく、

漢方薬で自律神経を整えることで、改善を見ることは多いものです。

ただし、自律神経を整えるとは、教科書的な解釈で達成できることではありません。

体の全てが自律神経に関与している。

すべての生薬が自律神経に関与する。

そういう目で、人体や一つ一つの生薬・処方を紐解いていく作業が必要になります。

その一旦として、分かりにくい言い方になってしまいましたが、一つの案を提示させていただきました。

そして実際に治せている先生方も、またこれとは違う独自の考え方で、治療を行っていると思います。



■病名別解説:「アレルギー性鼻炎・血管運動性鼻炎

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