□起立性調節障害 〜効果的な漢方薬とその即効性〜

■選択される機会の多い漢方治療

朝起きると体調が悪く学校に行けない、また学校に行っても立ちくらみや動悸・頭痛が酷くて授業を受ける事が出来ない、この様な症状が長期的に続いてしまう病を起立性調節障害と言います。最近多くの医療機関が治療の一部に漢方薬を選択するようになりました。

漢方治療には体を自然な状態に戻すというイメージがあると思いますが、起立性調節障害では確かにそう言える部分があります。的確な漢方治療を行うと、朝起きられるようになる、頭痛や動悸・立ちくらみといった症状が改善するというだけではなく、気持ちが明るくなって友達ともうまくいくようになったり、止まっていた身長が伸び始めたりといった、順調な成長を促せるケースが多いからです。成長期という大切な時期の治療方法として、漢方薬が注目されるのは当然の事といえます。

■起立性調節障害に効果的とされている漢方薬・その本当のところ

このように起立性調節障害治療において注目されている漢方薬ですが、実際のところ、その効果はどの程度なのでしょうか?

起立性調節障害では学校の出席日数が足りなくなったり、友達関係が作りにくくなったりしますので、早期の改善が特に望まれます。ゆっくり時間をかけて効いていくイメージの強い漢方薬ではそのあたりが気になるところだと思います。

そこで、今回ネットや本などで紹介されているいくつかの漢方薬を「効果の即効性」という視点で解説してみたいと思います。以下に説明していく処方は全て起立性調節障害に頻用される処方です。自身の経験に基づいて、これらの即効性を検討していきたいと思います。

一点だけ前置きしておきますが、漢方薬の即効性は、その漢方薬が持っている性質と、漢方薬とその方との適合性とによって決定します。つまりどんなに緩やかに効果を発揮する漢方薬でも、その方の状態にぴたりと当てはまっていれば、比較的即効性を持って効果を発揮する事があります。ここではあくまでその処方が本来持っている薬能という意味で、即効性を解説していきたいと思います。

①補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
疲労感や食欲不振など、体力がない方に伴う症状に対して第一選択薬として処方されます。名方と誉れ高い本方は、その薬能が「昇陽挙陥(しょうようきょかん)」と解説されています。「陽気を昇らせて陥ちた気を挙げる」という意味で、起立性調節障害にズバリといった印象です。

私自身もこの名方を多く使用してきました。しかし起立性調節障害においては、残念ながらあまり即効性があるとは言えません。疲労感の回復と食欲増進ということに関しては、確かに効果的だと感じることはありました。しかし、起きれるようになる、立ちくらみが取れる、という所までどうしてもいかないのです。また動悸や頭痛といった周辺症状に対しても十分な回復には至りませんでした。すなわち学校になるべく早く行けるようになるという目標を達成するためには、この処方では緩いという印象なのです。起立性調節障害における血圧の低下を、黄耆・人参・柴胡・升麻による昇堤によって上げる。この考え方は、現実的に見直す必要がありそうです。

②半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
補中益気湯と同じように元気を回復する薬能を備えた本方は、さらに痰飲(たんいん)と呼ばれる身体の水分代謝異常に対しても効果を発揮する薬方です。疲労感・食欲不振・胃の弱さといった元気不足の症状に、めまいや頭痛・耳鳴りなどが併存している場合には、本方が第一選択的に用いられます。

本方を服用すると確かにめまいや頭痛などの症状が緩和されることがあります。ただしここではその即効性という視点で評価していきます。本方の薬能は胃気の弱さ(消化吸収力の弱さ)を回復するという点が最大のポイントです。起立性調節障害では確かに胃気の弱りを介在させている方が多いため、その点に関しては適合すると素早く回復することがあります。しかし起立性調節障害では本方を服用して食欲が増したり、疲労感が取れたとしても、依然として朝起きることが出来ないというケースが多いのです。

おそらく起立性調節障害は、単に食欲が無いから・体力が無いからという理由だけで起こる病ではありません。成長期という特殊な時期における、自律神経的・内分泌的な失調が強く絡んでいる病です。疲労感や食欲不振がある場合に、それらを治療しておくことは起立性調節障害を起こしにくい体質にしていくためにも重要なことです。しかし自律神経や内分泌の乱れをそのまま放っておいてしまうと、いつまでも起立性調節障害自体が改善されないという現象が起こります。

つまり胃気を鼓舞し体力を回復させるという手段だけでは、即効性をもって起きられるようになるとは必ずしも言えません。その点が、上記2処方が充分な即効性を上げることができない理由だと考えています。両者ともに悪い処方ではありませんが、他にも良い処方がある。補中益気湯と半夏白朮天麻湯にはそんな印象があります。

➂小建中湯(しょうけんちゅうとう)
子供の病といえば小建中湯、そう言われるほど漢方の業界では使用頻度の高い処方です。ただしその解釈には少し語弊があります。本方は小児の薬という側面だけでは決して論じられません。東洋医学思想の根幹をなす、とても深い側面を持っています。

本方には身体の循環を促し、安定させるという薬能があります。この場合の循環とは、血液循環と置き換えても良いと思います。人は朝起きた後に血行を強め、昼過ぎごろにピークを迎え、その後循環を落ち着けて夜間に向かい、睡眠に導かれるという循環を起こします。本方の本質はその循環の乱れを改善するという点にあります。内包されている生薬は、血行を促す薬と、興奮を落ち着かせる薬とが絶妙に配剤されています。したがってその意図をくみ取って本方を用いると、起立性調節障害において即効性の高い効果を発揮することができます。小建中湯にて改善される症状、すなわち疲労倦怠感や食欲不振、頭痛や動悸、腹痛や不眠、足の煩熱などは、すべて血行循環が安定し、正常に戻るからこそ改善される症状です。

ここで重要なことは、内包されている生薬一つ一つの意図をくみ取る、という点にあります。つまり患者さまごとに、薬能を調節して使う必要があるということです。先生によっては煎じ薬の生薬量を増減したり、エキス顆粒剤の分量や他剤と合方するなどの調節を行います。小建中湯を固定された処方として使うのではなく、あくまで薬方の意図をくみ取って、調節を行わなければその効果を充分に発揮することができません。

➃苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
さらに起立性調節障害に比較的即効性の高い効果をあげる処方に苓桂朮甘湯があります。本方にも血行循環を調節し、安定させるという薬能があります。小建中湯と異なる点は、痰飲(たんいん)と呼ばれる身体の水分代謝異常を改善するところです。

血行循環の不安定さは、身体に水の貯留を招きます。起立性調節障害においては、この循環できていない水を動かすことが治療上非常に重要です。補中益気湯を使ってもなかなか即効性が現れない理由の一つは、補中益気湯ではこの貯留する水を去ることができないからです。めまい・頭痛などの症状を即効性をもって取るには、いかに水をさばくかという視点が重要になってきます。

半夏白朮天麻湯にも痰飲を去る薬能があります。ただし彼方は消化管に元気をつけることでそれを行い、本方は直接血行循環に働きかけることでそれを行います。胃腸に元気をつけるよりもずっと直接的な利水剤に属しますので、その点で即効性に優劣が現れるのではないかと思います。

起立性調節障害に効果的な苓桂朮甘湯ですが、この処方もやはりそのまま一律的に使うだけでは効果が現れません。患者さまに合った調節が必須になります。実際に改善へと向かわせることのできる先生であれば、必ず行っていることであり、そのあたりが腕の違いとして現れてくるという現実があります。また循環を促し痰飲を去るという薬方は、苓桂朮甘湯だけではありません。本方には多くの加減方が存在しており、それらを使い分けることも必須になります。茯苓沢瀉湯・茯苓甘草湯・五苓散などはその代表です。これらは構成は生薬1つ2つの違いでしかありませんが、その小さな違いが効果の即効性に非常に重要な役割を担っています。

■まとめ ~起立性調節障害において本当に改善しなければいけないもの~

東から太陽がのぼって朝となり、西へと降りて夜になる。この地球上に生きている全生命体が、このような世界の理に縛られながら命を謳歌しています。視点は独特かも知れませんが、起立性調節障害はそのような循環に乗ることができない状態が作りだす病だと考えることもできます。

身体の血行循環をつかさどっているのは自律神経です。また内分泌物質は血液に乗って作用部位に運ばれることで初めてその機能を発揮します。苓桂朮甘湯や小建中湯などの漢方薬は、身体の血行循環を改善することで、関節的に自律神経や内分泌の働きを高め、安定させるのではないかと考えています。

実際の臨床経験から得られた率直な感想を述べてみました。私個人の経験に基づくところではあります。したがって他の先生方によっては異なる意見も当然あるのではないでしょうか。先生が100人いたら100通りのやり方がある、それが漢方治療です。今回はさまざまな解釈がある中で、実際の経験に根拠を求めて解説させていただきました。起立性調節障害にお悩みの方々に、一つの意見として参考にしていただければ幸いです。




※起立性調節障害の漢方治療は、下記に詳しく解説しております。合わせお読みください。
〇病名別解説:「起立性調節障害
〇コラム:「□起立性調節障害 ~治療の具体例と治り方~