□起立性調節障害
~治療の具体例と治り方~
<目次>
■なるべく早く学校に行けるように ~早期改善が求められる起立性調節障害~
■効果的な治療方法とは
■早期改善のために ~治療方法の選択と具体例~
■起立性調節障害・早期改善の難しさ
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■なるべく早く学校に行けるように ~早期改善が求められる起立性調節障害~
頭痛が酷くて起きられない、体がだるくて起きられない、こういった症状を毎日のように繰り返す起立性調節障害は、本人にとっては苦痛の極みです。怠けているという印象を持たれてしまうことの多い疾患ですが、決して気持ちの問題ではありません。学校に行きたいのに体が言うことを聞いてくれない。頭がぼーっとして気力が湧いてこない。体が気持ちを引っ張ってしまうことで、やる気さえ起きてこないというのがこの病の特徴です。
起立性調節障害はこのような病そのものの不快感に加えて、日常活動に強く影響が及ぶ疾患でもあります。早く友達と遊びたい、学校の出席日数が足りない、部活の試合にまでは治したい。こういった当然のご要望にお応えするためには、常に効果の迅速性を考えながら治療を行う必要があります。
■効果的な治療方法とは
漢方の治療方法には大きく2つのやり方があります。「持重(じじゅう)」と「逐機(ちっき)」です。
「持重」とは、変化する症状に惑わされず、病の本質を突き続けるという治療方法です。色々な症状を包括して治療し、同じ処方をしつこいくらいに服用し続けるというやり方です。一方で「逐機」とは機を見て病を逐うという手法です。現状として起こっている症状をまず除き、それを短期間で連続していくことで病の本質に到達していくというやり方です。
どちらの方が改善が早いのか、それはその方に生じている病態によって異なります。重要なことは、改善が早いのはどちらの手法かを常に考えながら治療することです。例えば目的とする駅まで行くのに、同じ路線でずっと行った方が早いのか、それとも乗り換えを駆使して行った方が早いのか、それは混み具合や時間帯によって異なります。それをしっかり考えながら治療を行うということが、早期改善を実現するためにはとても重要になります。
■早期改善のために ~治療方法の選択と具体例~
それではここで「持重(じじゅう)」と「逐機(ちっき)」との使い分けの例を、具体的に見ていきましょう。
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12歳の男の子。夏場の来局である。
三カ月前から急激に身長が伸びた。
それ以来、朝起きると頭痛がして、立つとすぐに体がだるくなって吐き気をもよおすようになってしまった。
しばらく時間が経つと動けるようになってくる。学校に行くとすぐにお腹がへり、そうするとまた体がだるくなってしまう。
起立性調節障害と診断され、昇圧剤でなんとか学校には行けていた。しかし遅刻する日が多くなってきた。
このままでは学校に行けなくなりそうだ。とにかく朝の頭痛と不快感をどうにかしたいとご来局された。
お体の状態を伺うと、なるほどなという印象だった。
身長の伸びによる相対的な体力の不足。現在起こっている病の本質である。
典型的な病態。したがって使うべき処方は明確である。病の根本を立て直し続ける「持重」を行うことが、まず頭をよぎった。
しかし気になる症状があった。咽の渇きである。
家にいる午後6時から11時までの間にしきりに水を飲むという。
その割におしっこが少ない。また最近下痢の傾向もあるという。
明らかに水分代謝異常を示唆する症状である。
この子には「相対的な体力の低下」という土台に、「水分代謝異常」という新しい病態が上乗せされていた。
水分代謝異常は、体に浮腫みを生じさせる。そうすると頭痛も体のだるさもさらに悪化する。
体力を回復させる薬に利水剤を合わせた処方で「持重」を行うという手段もある。
しかし水分代謝異常の状況は、時系列で確認するとここ数週間で急激に発現していた。
であるならば、先ず始めに利水剤単独で水を抜き、その後に体力を回復させる漢方薬に切り替える、つまり「逐機」を行った方が確実に治療が早い。
私は単独で利水剤を出した。
服用して3日後、朝の頭痛と継続していた口渇がなくなった。同時に下痢がなくなり、小便の量が増えたという。
しかしまだ充分には起きられず、そして吐き気もある。
薬を変えるタイミングである。機を見て残る病症を逐う。私は胃腸機能を和し、体力を回復させる薬に切り替えた。
10日後、起きた時の体の調子悪さが和らいでいるという。また頭痛がゼロになり、学校でも調子が良いという。
全体の症状の明らかな軽減を見て取った私は、同処方を継続した。
一カ月後には、体調が8割方良くなった。そして秋になり、涼しい風が吹くようになったころには症状がほとんど消失していた。
■起立性調節障害・早期改善の難しさ
今回の例では、「逐機」と「持重」とを勘案した結果、「逐機」を選択して比較的迅速に症状が消失しました。今回のように、途中で処方を切り替えた方が早期改善できることもあり、また一方で同じ処方で本質を突き続けた方が治療が早い場合もあります。このあたりの選び方は、処方される先生方の感覚によるところが大きいと思います。とにかく一番重要なことは、的確な治療手段を常に選び続けることです。そして処方が的確であることだけでなく、治療手段が的確であることもまた重要だということです。
起立性調節障害では、早期改善を常に念頭において治療を行います。ただしこの疾患特有の難しさもあります。
成長期という特殊な時期に起こるこの病は、急激な成長を起こしている間は常にそのリスクが存在します。例えば漢方治療によって調子が良くなり、一旦治療を中止した後に、また身長が伸びるとともに症状が再発してくるということが良く起こります。事実、先ほど紹介した患者さまも、2か月後に一時調子が悪くなり再度来局されています。しかし一度ちゃんと治療をしておくと、その後の不調もすぐに治る傾向があります。今回の患者さまの場合でも、同じ処方を14日分服用してもらうことで、調子の良い状態に戻られています。
このような成長期の不安定さを先回りして安定させていくために、改善後も漢方薬を継続して服用している方がかなりいらっしゃいます。人体は成長期においてのみ、自らの骨格を急速に成長させることができます。体力を消耗しやすいこの時期に、漢方薬にて体調を維持し続けていると、本来の体を作る能力が充分に発揮されるということは良くあることです。起立性調節障害の治療中に止まっていた身長がまた伸び出した、ということが現実に良くおこるのです。
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※起立性調節障害については以下のリンク先でさらに詳しく解説しています。
ご興味のある方は、是非ご覧ください。
〇病名別解説:「起立性調節障害」
〇コラム:「□起立性調節障害 〜効果的な漢方薬とその即効性〜」