◆漢方治療概略:「冷え性」・前編

2021年11月13日

漢方坂本コラム

◆漢方治療概略:「冷え性」

<目次>

〇漢方薬で冷え性はどこまで治るのか

〇冷え性の治す・漢方薬の選び方

■当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
■温経湯(うんけいとう)
■当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
■苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
■人参湯(にんじんとう)
附)八味地黄丸(はちみじおうがん)

〇冷えない体になるための養生

1、筋肉
2、胃腸

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<まえがき>

昨今、漢方薬はとても身近な薬になりました。

多くのCMが流れていますし、ドラッグストアにはたくさんの漢方薬が販売されています。このような市販薬は簡単に手にとって選べるという意味でとても便利です。しかし「どれを試したら良いのか分からない」という声をしばしば拝聴します。

そこで、そのような方々に参考にしていただけるよう、漢方治療の概略がいりゃく(細部をはぶいたおおよそのあらまし)を解説していきたいと思います。

概略はあくまで概略。臨床では確実にその応用が求められます。ただし基本的手法でズバリと治せる方も多く、そういう意味では体調不良でお困りの方にはぜひ読んでいただきたい内容かと。

ただ「何を言っているのか良くわからないぞ」とか、「やってみたけど全然だめ」という方がいらっしゃいましたらその時はぜひ漢方専門の医療機関に足をお運びください。

この場で伝えたいことは山ほどありますが、とてもじゃないけれど伝えきれません。実際におかかりになれば基本どころではない、各先生方が提供される漢方の神髄を体感できるはずです。

「冷え性」の漢方治療概略

冷え性を治したいなら、漢方薬が良い。良く聞く文言だと思います。

ネットで「冷え性 薬」と検索してみれば分かります。漢方薬がずらっと出てきます。

冷え性といえば漢方薬。そう言われているようになったのには理由があります。その一つは、西洋医学ではなかなか改善が難しいからです。

ストレス・食生活・自律神経の乱れ・血液循環の乱れ。西洋医学では様々な原因で冷え性が助長してしまうことを提示しています。ただし様々な原因で起こる冷え性でありながらも、いざ治療薬となると、基本的にはビタミン剤です。

確かにビタミン剤でも治ることもあります。しかし複数の原因がある中で、ビタミン剤しか薬の種類がないというのも、心もとない気がします。一方で、漢方では実に様々な薬が用意されています。これが「冷え性といえば漢方薬」と言われる理由の最たるもので、確かに薬の種類という点においては漢方治療の方に軍配があがります。

冷えはある意味で原始的な症状です。直感的に感じ得る症状であり、かつ非常に古くからさまざまな病のシグナルとして認識されてきた歴史があります。

さらに冷えという現象そのものが、病の原因として捉えられてもきました。感じやすく分かりやすい症状であるが故に、検査機器の無かった時代では冷えという症状を特に問題視してきのです。

そのため東洋医学では今まで多くの薬が開発されてきました。そしてドラッグストアに行けば、様々な冷え性改善の漢方薬が用意されています。

ただし、現実的に冷え性を治すとなると少々難しいのではないかなと感じてしまいます。専門的な視点で見ると、冷え性治療にはある程度の予備知識が必要だと感じるからです

そこで今回は、冷え性に効果的な漢方薬をご紹介しながら、どこまで治るのかという点も含めて解説していこうと思います。

たくさんの漢方薬が用意されているからこそ、正しい知識で上手に漢方薬を使って欲しいと思います。冷え性にお悩みの方にとって、症状改善のための参考にしていただければ幸いです。

漢方薬で冷え性はどこまで治るのか

まず第一に、漢方薬でどこまで冷え性が改善可能なのかという点についてお話しなければなりません。

多くの情報では治る・改善すると記載されてはいるものの、じゃあいったいどこまでという所が具体的にはあまり書いていません。

薬には当然できることと、できないこととがあります。この点を説明することは、私自身は非常に重要なことだと思っています。

まず最初に、冷やしても冷えない体を作ることは当然ながらできません。冬になって冷気を浴びれば、手がかじかんで冷えるということは誰にでも起こります。したがって治療においては、冷たくならないという状態ではなく、冷えにくい状態を目指します

つまり改善が見込めるのはあくまで程度であって、昔にくらべて手足や体幹が冷えにくくなったという状態へと導きます。

具体的に、漢方治療によって冷えが改善していく方々はこう表現されます。

〇お風呂に入っても体がなかなか温まらなかったのが、すぐに温まるようになった。
〇お風呂から上がって髪を乾かしているうちにすぐ手足が冷えてしまっていたのが、ちゃんと布団までもつようになった。
〇体が冷えるとすぐにお腹が冷え、腹痛や下痢を起こしていたのが無くなった。
〇首回りが寒くてしょうがなく、夏でも首に何か巻いていたかったのが平気になった、など。
〇中には平熱が高くなったとおっしゃられる方もいます。

このように、漢方で目指すのは冷えを感じていたその程度が楽になり、日常生活であまり気にならなくなってくるという状態です。当然寒い思いをすれば冷えてはしまいますが、いつもに比べたらずっと温まりやすいという実感を得ることが、冷え性治療のゴールになります。

実は漢方薬だけでなくあることを養生として行っていただくと、さらに体が冷えにくくなっていきます。この点については最後(後編)に解説いたします。次は、実際に漢方薬をどのように選択したら良いのかを説明していきたいと思います。

冷え性の治す・漢方薬の選び方

■当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

冷え症治療において有名な処方です。セリ科の植物が多く入っていますので、セロリが好きという方であれば一度試してみると良いと思います

当帰・川芎というセリ科の植物によって血行を促すというのが効果の主軸です。また身体の浮腫みを去る薬能があり、その効果も冷え性改善に一役買っています。

浮腫みは水の膜を体の表面に貼っているような状態です。したがって浮腫みがあるだけで体は冷えやすくなります。そのため冷え症治療においては浮腫みを取ることも同時に考えていく必要があります。そういう意味で本方は、血流促進と浮腫みの改善という両面から冷え症を改善していくことができます

ただしやや胃腸に負担が出ることがありますので、もし服用後に胃もたれや下痢が起こるようであれば止めた方がよいでしょう。またこの処方で顔の火照りや頭痛が起こるという方もいます。したがってもともと胃腸の弱い方やのぼせ・ほてりが気になる方であれば慎重に服用してください。

■温経湯(うんけいとう)

経(経絡・子宮)を温めるという名の通り、身体の血行を促して冷え症を改善する際に用いられる処方です。月経不順や月経痛に用いられることが多く、婦人に使う漢方薬として様々なところで解説されている有名処方です。

そこで、ここでは少しだけ他とは違った視点で、当帰芍薬散と比較しながら説明してみたいと思います。

当帰芍薬散が浮腫みに対する配慮を持つ処方であるのに対して、本方は血流促進という側面が強く、血に潤滑油を入れ込んで滑りを良くしながら血流を促すという効能のイメージがあります。

そのため両者の使い分けは冷えの程度というよりも、東洋医学的に見た場合の「血の質」によって判断します。当帰芍薬散はどちらかと言えば「水っぽい血・うすい血」という状態に適応し、温経湯は「濃い血・乾いた血」という状態に対して効果を発揮する処方です

総じて温経湯が適応する方は食欲旺盛です。比較的胃腸が丈夫で、味の濃いものが好きだったり食べ過ぎる傾向などがあります。つまり濃い食事によって血が濃くなっているという印象です。そういう方で月経痛などの問題があり冷え症、という方では一度お試しいただくことをお勧めいたします。

■当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

長ったらしい名前として有名な当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、厥冷けつれい」と呼ばれる手足の冷えに対して作られた由緒正しい冷え症治療薬です

この薬によって痛みや痺れを伴うような強い冷え症を改善した経験が何度もあります。男女はあまり問わず、急激に冷えるという点がポイントになると思います。

急に冷え込むと決まって手足が冷たくなり、かじかんだ指を動かしていても全く温まらないというような冷えに対して効果を発揮することが多いものです。本方の冷えに対する特殊性は呉茱萸ごしゅゆという生薬にあります。この呉茱萸が入っているために、急激におこる冷えを即座に温めることが可能になります。

とても飲みにくい薬ですが、人によっては問題なく飲めるという方もいます。そしてそういう方ほど、この薬が合いやすいという印象があります。そしてこの薬が効く方にはある体質的な特徴があるという印象があります。しかし、その点については文章ではなかなか表現することが難しいというのが本音です。

少々マニアックな処方ですのでなかなか手に入れることが出来ないかもしれません。しかし市販薬としても売られていることがありますし、効くときには迅速に効果を発揮する処方でもあります。冷え性にお悩みの方であれば、知っておいて損はない処方だと思います。

後編に続く・・・



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