◆漢方治療概略:「冷え性」・後編

2021年11月15日

漢方坂本コラム

◆漢方治療概略:「冷え性」

<目次>

(前編)
〇漢方薬で冷え性はどこまで治るのか
〇冷え性の治す・漢方薬の選び方
■当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
■温経湯(うんけいとう)
■当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

本編
〇冷え性の治す・漢方薬の選び方

■苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
■人参湯(にんじんとう)
附)八味地黄丸(はちみじおうがん)

〇冷えない体になるための養生

1、筋肉
2、胃腸

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※前編はこちらを参照してください。
◆漢方治療概略:「冷え性」・前編

冷え性の治す・漢方薬の選び方

■苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)

冷えは手足だけでなく、体幹部にも起こります。特に多いのが腰回りやお尻、そこから下半身にかけて冷えるという方が多くいらっしゃいます。

そういう方に服用していただきたいのがこの苓姜朮甘湯です。同じような名前の処方に苓朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)というのがあり、生薬1味だけの違いなのですが、これとは全くの別物です。

腰が冷えると内在的に浮腫みが生じやすくなります。そして腰が冷えるというだけでなく、腰や下半身が重くなったり、人によっては慢性的な腰痛に苦しまれている方もいます。また腰回りというのは膀胱につながる尿管や腎臓に近い場所です。そのため腰が冷えると尿の排泄機能にもしばしば変化が現れ、寒い場所に行くとすぐ頻尿になったり、ちびちびとしてスッキリ出ず残尿感が残ったりするようになる方もいます

これらの傾向があれば、この苓姜朮甘湯を強くお勧めいたします。組み合わせとしても使いやすい処方で、前編で解説した当帰芍薬散と合わせて使うというのも効果的です。

比較的迅速な効果が期待できる非常に良い薬ですので、是非上手に活用してみてください。

■人参湯(にんじんとう)

胃腸の冷えを温める処方といえば、この人参湯です。冷えることによっておこる胃痛や腹痛・下痢に対して即効性をもって効果を発揮する名方です。

使用のポイントはとにかく冷えて起こるという点にあります。冷たいものを食べたり、夜間に寒い思いをしたり、汗をかいた後に体を冷やしてしまって胃腸に来るといった明らかな「冷えきっかけ」を目標にして使うと、そうそう間違えることなく効かせることができます

また冷えによる胃痛や下痢というのは、当然胃腸が弱いという方でも起こりますが、普段から胃腸が丈夫という方であっても起こります。冷えきっかけで起こるものであれば、両者に等しく効果を発揮できるという点が本方のすぐれた所です。

さらに継続して服用しているうちに、冷えにくい状態へと導くことも可能です。つまり一時的に冷えた場合でも、体質改善を目的とする場合でも使えるという点からも、使いやすい処方であるといえるでしょう。

腸を温める処方として有名なものに「大建中湯(だいけんちゅうとう)」があります。この処方は本来、やや特殊な冷えの状態に使う薬ですが、人参湯との鑑別が必要になる時があります。あえて簡単に言えば、人参湯は冷えて下痢する場合に用います。大建中湯はこれとは逆、冷えて便秘してしまう時に効果的な処方です。

附)八味地黄丸(はちみじおうがん)

最後に一つだけ注意してほしい処方を上げておきます。冷え性にしばしば用いられる八味地黄丸についてです。

この処方には附子ぶし桂枝けいしという温性の生薬が配合されていることから、老人の冷え性、特に下半身の冷えに用いられる傾向があります。しかし私の経験では、この処方に下半身を温める効能はほとんどありません

実際に使っても下半身が温まるという方はおらず、また下半身の冷えを目標にしたところでこの薬を効かせることもできません。確かに下肢の浮腫みが取れることもあり、そのために温まりやすくなるという方もいらっしゃるかも知れません。しかし本方で取れる下肢の浮腫みはやや特殊な状態です。老人で冷え性だからという理由だけで使っても、効果が出るとはあまり思えません

特にお年を召した方で、さらに食欲がなくなり胃腸が弱っている方であれば、服用することは避けた方が良いと思います。内包する地黄にはやや胃に重たく当たることがありますので、その点を是非注意していただければと思います。

冷えない体になるための養生

1、筋肉

冷えを全く感じない方というのはいません。冷感は誰しもが感じる普通の感覚で、寒ければ誰しもが温かい格好を好むものです。

しかしその一方で、確かに明らかに冷えやすいという方もいます。冷えやすい方と冷えにくい方、その違いはいったい何なのでしょうか

冷えやすい方にはいくつかの理由が考えられますが、その最たる原因は筋肉量および筋肉活動の不足です。そもそも体の中で熱を産生する最大の臓器は筋肉です。手足などを覆う骨格筋などの筋肉が活動することで初めて、体は熱を生み、血流が促されることでその熱が全身へといきわたるようになります。

冷え性が男性よりも女性の方に多い理由は、この筋肉量に起因しています。また年齢とともに冷えやすくなるのも筋肉量や日常の筋肉活動が減少するからです。熱を直接生み出すエンジンが弱く・少なくなり、血流が弱まることで冷えやすくなります。したがって、冷え性を根本的に解決するためには筋肉をちゃんと活動させることや、筋肉量を増やしていくことがどうしても必要になります

先に漢方薬では冷えの程度を楽にさせることを目標にすると述べましたが、その理由は、漢方薬の温める効果がその方の筋肉量に依存してしまうからです。筋肉は薬の効果を受け止める器のようのものです。すなわち漢方薬の効果は、あくまでその方の筋肉量によって上限が決まってしまいます

その上限以上の効果を出すためには、どうしても筋肉自体を増やすことが必要になってきます。漢方薬では筋肉自体を増やすことはできませんので、筋肉をちゃんと動かす、そして増やしていくという養生を行う必要があります。

漢方薬はよく体質改善と言われていますが、手足の冷え性に関しては薬だけで体質を改善していくことは基本的には不可能です。筋トレなどの運動をしっかり行うことが重要で、時にそれだけれでも冷え性が改善する方もいます。

とはいえ、お年を召した方や、痛みや基礎疾患がありあまり運動が出来ないという方もいらっしゃるかと思います。その場合であれば、やはり適切な漢方薬を服用していただくことを強くお勧めいたします。程度が楽になるだけでも、日常生活は劇的に変わってくるものです。特に貧血の傾向があったり、胃腸が弱い方では漢方薬によってかなり楽になる方が多くいらっしゃいます

2、胃腸

体を温める最大の臓器は筋肉です。そして筋肉は手足を動かすときに使う骨格筋だけではありません。自分では動かすことのできない内臓を構成している平滑筋も巨大な筋肉組織であり、特に胃腸(消化管)には大変大きな筋肉が備わっています

身体にとって最も冷やしていけない場所は、手足ではなく体幹部です。その体幹部の熱は消化管の筋肉活動によって支えられています。すなわち平素から胃腸が弱く、少食の傾向があり、ちょっとしたことで食欲がなくなりやすいという方は、必ず冷え性へと向かっていきます。

そういう時には手足よりまず胃腸を温めなければなりません。逆に胃腸を冷えすような生活を送ってしまっていると、いくら運動によって骨格筋を鍛えたとしても冷え性は良くなりません。

とにかく、冷たいものの飲食を避けることです。特に胃腸の弱さを感じてる方であれば、夏であっても冷水を飲むことは避けるべきだと思います。夏に冷水で胃腸を冷やした状態で冬を迎えると、いつもより冷え性が強まってしまうことは良くあることです。食べ物も飲み物も、咽を通った時に冷たいと感じるものはぜひとも避けてください。

またよく「食膳」で体を冷やす食物とそうでない食物とが解説されていますが、食物の寒性・温性を考える前にちょっと待ってほしいと思います。

例えばミカンは温性の食物とされていますが、これを冷えやして食べれば当然体を冷やします。常温のミカンなら大丈夫かというとそうでもありません。例えば机の上に置いてあるミカンを服の中に入れ、直接お腹に当てれば冷たいと感じるはずです。それを食べるということは、その冷たいと感じるミカンを直接胃に収めるということです。当然、お腹は冷えていきます。

つまりお腹が冷えやすい方であれば、いくら常温であっても冷たいと感じるものであれば胃に収めるべきではありません。そのため果物を食べるのであれば、少し温めるか、口の中で良く噛むか、量をほどほどにしてください。

食物自体の温性とか寒性とかを言う前に、冷たい状態では食べないということがとても重要です。食膳の考え方を取り入れるのであれば、ぜひ現実的に冷えないような工夫をした上で取り入れていただきたいと思います。



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