◇養生の実際・春 〜なぜ春に体調を崩すのか・自律神経の乱れと発現しやすい症状〜

2021年03月09日

漢方坂本コラム

◇養生の実際・春
~なぜ春に体調を崩すのか・自律神経の乱れと発現しやすい症状~

<目次>

・春の厳しさ
・なぜ春に自律神経が乱れるのか
1、寒暖差と自律神経
2、寒暖差と「血行障害」
3、寒暖差と「興奮状態」
4、春に起こる自律神経の乱れとその実像
・人を生かすと同時に病ませもする ~気候という強大なエネルギー~

春の厳しさ

春は身体に急激な変化を強いる季節です。

朝の冷え込みと、暑ささえ感じる日中。そして冷たい風に、いまだ暖房を手放せない夜間。

急激な気温上昇と気温低下、そういった温度変化の荒波を常に受け続けなけばならないというのが、春という季節の厳しさです。

人間は常に何らかの刺激を受けながら生活しています。そしてその刺激に対して常に対応しながら、つまり自分自身の状態を変化させながら生命活動を維持しています。

この活動を支えているのは、自律神経という自分の意志とは独立して(自律して)働く神経です。自律神経という身体に備わるスーパーコンピュータがあるからこそ、私たちは当たり前のように日々変化に対応しながら生活することができています。

春の寒暖差は自律神経への挑戦状です。寒暖差という大きな荒波にどこまで耐えられるのか。自律神経の安定感が如実に試されるというのが春という季節の特徴です。

急激な変化に対応し得る強靭かつ安定した自律神経こそが、春を過ごすためには必要になります。しかしこれがなかなかに難しいものです。事実、この季節になると体調・症状を大きく乱してしまうという方が多くいらっしゃいます。

気候という巨大なエネルギーの影響はどうしても拭えないものですが、それにきちんと対応できる自律神経を作り出すことは可能です。今回はまず、なぜこの季節に自律神経が乱れてしまうのかを解説いたします。そしてそこから、どのような症状が発現しやすいのか・悪化しやすいのかについてお伝えしていきたいと思います。

なぜ春に自律神経が乱れるのか

1、寒暖差と自律神経

人は寒いところにいる時、身体を緊張させて熱を逃がさないようにします。具体的には自律神経が血管平滑筋を緊張させます。血管をぎゅっと締めて、体幹部に熱を閉じ込めようとします。

反対に、人は暑いところにいる時、身体を弛緩させて熱を放散させるようにします。自律神経を介して血管平滑筋を弛緩させ、体幹部に熱がこもらないようにするわけです。

つまり、寒いところにいる時と、暑いところにいる時とでは、人体は全く別の活動を行わなければなりません。この正反対さが、自律神経を乱してしまうきっかけを作ることになります。

2、寒暖差と「血行障害」

通常、温度変化がゆっくりと進めば、自律神経にもそれほど負担はかかりません。緊張と弛緩、両者の切り替えはシーソーのようなものです。ゆっくり動けば自律神経も大きく乱れることはなく、慌てず穏やかに調節することが可能です。

問題は、寒暖差が「急激に」進む場合です。

血管が急激に緊張すると、血管壁が過度に収縮して血流がとどまってしまいます。また逆に血管が急激に弛緩すると、血流が一気に停滞してやはり血流が悪くなってしまいます。つまりどちらにしても、急激に血行障害が進んでいきます。そして緊張と弛緩とが急激に切り替わることで、身体の血行不良がどんどん強まっていってしまうのです。

3、寒暖差と「興奮状態」

さらにそれだけではありません。血流の急激な変化は、身体に強い「興奮状態」を導いてしまいます。

身体は冷えに晒されると血管を緊張させるだけでなく、身体を温めようと興奮状態へと向かいます。また逆に温刺激によって急激に冷えから解放され、一気に血管が弛緩して血行が悪くなってしまうと、身体は危険を感じて血流を促そうと頑張り、その結果としてやはり興奮状態へと向かおうとします。

つまり、急激に冷えても急激に温まっても、どちらにしても身体は興奮状態へと向かってしまいます。さらにこの季節、寒暖差によってこれらが急激に入れ替わることで、身体はどんどん興奮状態へと向かい、身体的にも精神的にも様々な興奮性の症状を発現させてしまうことになるのです。

4、春に起こる自律神経の乱れとその実像

では、このような血流障害と興奮状態とが重なるとどうなるのでしょうか。

身体は興奮状態にあると血流を身体外部・上部へと集めようとします。胸や肩甲骨周り、腕や肩や首・また顔面部・頭部に多くの血液を供給しようと働きます。

そしてさらに、この部で血行障害が起こります。胸や背中・顔面部や頭部といった首から上に、血液が停滞することで様々な症状が発現してきます。以下のような症状はその最たる例です。頭痛などの身体的症状のみならず、脳への充血が強まりますので精神面においても興奮性の症状が発現してきます。

〇首から上の血行障害
・頭痛
・耳鳴り
・めまい
・ほてり
・赤ら顔
・不眠
・不安感
・焦燥感(あせり・落ち着きのなさ)
・イライラ

〇胸部・背部の血行障害
・動悸
・息苦しさ
・肩こり

実はこれだけではありません。血行障害は上半身のみならず、身体全体へと波及していきます

上半身に急激に血液が供給されるということは、逆に下へは供給されにくくなるということです。つまり、横隔膜から下である胃・小腸・大腸などの消化管にも急激な血行障害が起こります。そしてさらにその下、骨盤内・下肢などにも血行障害が急速に進んでくることになります

ということは、春の寒暖差によって自律神経が乱れると、からだ全体の血流が悪くなってしまうということです。これが春に乱れる体調不良の実像で、全身に渡る体調不良が顕在化してくる原因なのです。

消化管や下半身、さらにからだ全体に血行障害が及ぶことで以下のような症状が発現してきます。この乱れる症状の範囲の広さが、春という季節の厳しさ・辛さなのです。

〇胃・小腸・大腸の血行障害
・胃もたれ
・吐き気
・腹痛
・おなかの張り
・下痢
・便秘

〇骨盤内の血行障害
・膀胱炎
・排尿痛
・頻尿
・血尿
・痔
・月経痛
・月経前症候群(PMS)
・月経前不快気分障害(PMDD)
・月経不順

〇下肢の血行障害
・足のだるさ
・足のむくみ
・むずむず足症候群
・しもやけ

〇全身の血行障害
・倦怠感
・体の重さ
・やる気のなさ
・各種皮膚炎・湿疹(頭部・面部から陰部・下肢に至るまで)
・蕁麻疹

人を生かすと同時に病ませもする ~気候という強大なエネルギー~

現在、春真っ只中です。これらの症状をまさに今発現させている方、体調を悪化させている方が多くいらっしゃいます。

気候のためにこのような症状が発現し、悪化するという事実をお伝えすると、多くの方が驚かれます。それはきっと、気候というものが私たちにとって当たり前すぎて、その強大さをほとんど意識することがないからではないでしょうか。

気候は、非常に強力なエネルギーの塊です。日本という島国であれば、それを容易に包み込み、飲み込むことなど造作もないことです。気象現象から見たら、我々人間など米粒にも満たない大きさでしょう。古来、あらゆる伝統医学が気候・天候と人との関わりを無視できなかったのには、当然ともいえる理由があったからです。

ただし健康な方であれば、そのような力に左右されず、そして意識することもなく生活することが可能です。逆に言えば、人間はそれほど優れた能力をすでに持っているということ。私たちが気が付かないだけで、すでに私たちは生きていくための力を内在しているということでもあるのです。

自律神経という働きは、強力な力が渦巻く地球上で生きていくために我々に与えられた鎧、しかも未だにそのすべてを解明できていない未知なる鎧です。だからこそ私たちはこの鎧を整えておくことが大切です。人間が生まれながらにして持っている優れた能力だからこそ、それに甘んじることなく整えておくことが必要なのです。

強大にして強力。そのような力が大きく動く春。この時期に体調を悪化させないようにするためには、毎日の心がけが必要です。特に毎年毎年、どんどん寒暖差・気圧差が大きくなっているという印象があります。当薬局におかかりの患者さまにおかれましても、何卒お伝えしている養生をお続けいただくようお願い申し上げます。



参考コラム
春の厳しさ・春の訪れと自律神経
「漢方と自律神経」

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