「漢方と自律神経」

2019年01月26日

漢方坂本コラム

自律神経失調症には漢方薬が良い。ネットや本でそう説明しているものを良く目にします。

確かにそうだと思います。西洋医学治療によって改善できなかったものが、漢方薬で改善していくパターンが多いと思います。

では漢方薬はどのようにして自律神経の乱れを安定させるのでしょうか。この点に関して説明されているものが少なかったので、簡単にですがご説明したいと思います。

まず最初に、自律神経とは何かを説明していきます。

「自律神経」とは何か

身体は自分で動かせる部分があります。手や足、目や口、舌などです。

ただし自分で動かせない部分もあります。心臓や腎臓、胃腸や血管などです。

これらの部位は自分でコントロールしなくても勝手に動いてくれています。心臓を、ずっと自分で動かし続けることは無理です。勝手に動いてくれるから、生命を維持できています。

このように自分の意志とは関係なく、自動的に、自律して動いてくれているのが自律神経です。したがって自律神経は自分で動かせないすべての部分を動かす神経です。

そして人体が興奮・緊張した時に働く自律神経を交感神経、反対にリラックスしている時に働く自律神経を副交感神経といいます。

両神経は同時に高まるということはありません。一方が高まれば一方は収まるというシーソーのような関係を持っています。そして人体はこの両神経を交互に高めながら、休むことなく働かせ続けています。

■未だ不明な部分が多い「自律神経」

そもそも人体の中で自分で動かせる部分は、ほんの一部です。その他のすべてを動かす自律神経は、巨大なスーパーコンピュータのようなものです。

現在、研究によって細かい所でどのように働いているかは徐々に解明されてきました。しかしすべてが解明されているわけではありません。そのネットワークはあまりに複雑で、現代医学でもまだまだ謎に包まれています。

したがって自律神経失調と一口に言っても、自律神経の何が・どのように失調しているのかは掴み切れないのです。とにかく自律神経が乱れているのであろう、という状態です。

そのため治療方法も対症療法に止まり、西洋医学的には治療が難しくなってしまいます。また自律神経の失調に対して抗不安薬を使用することがありますが、仕方ない場合があるとはいえ、あまりお勧めはできません。

そもそも自律神経は末梢神経(脳以外の体に働く神経)の一つで、あくまで体に働く神経です。したがって神経のおおもとである脳(中枢神経)に働く抗不安薬は、例えるならキーボードを打っても文字が出にくくなったパソコンの主電源を落とすようなものです。細部がどうなっているかわからないために、些細な乱れに対しても主電源を落とすしかないのです。

東洋医学では「自律神経」をどう捉えるか

東洋医学では、わからない所をわかるためにイメージで補うという手法を取ってきました。

単なるイメージでは非常に曖昧です。そんなイメージで治療していくのは危険極まりありません。しかしそのイメージに基づいて治療を行い、改善へと向かった結果を集積していく。それを何百回も何千回もかけて検証していく。そうやって正しいイメージだけを、何年もかけて作り上げたものが東洋医学です。

東洋医学には自律神経という概念はありません。しかし身体が興奮したり、リラックスしたりするという現象は当然昔からありました。そしてそれを陰陽というイメージで大きく捉えました。そうすることで、これが上手く循環していない場合にどのように解除したら良いのかという手法を、多くの臨床経験より導きだしました。

■「自律神経」の乱れを調える「要所」

継続した緊張・興奮状態(交感神経が働き続けている状態)を鎮めるためには、これを継続させている要所の気を静めます。心気・腎気・胃気・肝気・肺気、これらはこの要所を指しています。

気とか五臓とかの話が出てくると、いっきに難しくなるような気がします。しかし実はごく単純なことを言っているだけです。

例えば、胃薬を飲んでみたら、胃のもたれが取れた。その時にスーッと気分が良くなった。何となく気持ちも楽になって、その夜良く眠れた。こういう経験は日常的に転がっています。

日常的過ぎて誰も気に留めないようなことかも知れません。東洋医学ではこれを「胃気を和す」といいます。胃の活動を楽にさせたことで、副交感神経が立ち上がり、交感神経が落ち着いたのです。

東洋医学は難しいことを言っているようですが、実はこういう人間の何でもない経験が積み重なって治療方法が確立してきたものです。

難しいことを難しく解釈するのは当たり前ですが、難しいことを簡単に解釈するのには時間がかかります。漢方薬が自律神経の調節を得意とするのは、自律神経失調という現象を簡単に解釈する手法を持っているからです。

漢方家は難しいことを簡単に解釈することの重要性を知っています。どこまでシンプルに、どこまで単純に、人の体を解釈できるのか。実はそんな所に漢方家の腕前が出たりします。



<自律神経の乱れと関連する病>
自律神経失調症
過敏性腸症候群
酒さ・赤ら顔
多汗症・臭汗症・わきが・すそが
パニック障害・不安障害
心臓病・動悸・息切れ・胸痛・不整脈

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