■生薬ラテン名
CINNAMOMI CORTEX
■基原
Cinnamomum cassia J.Presl(Lauraceae)の樹皮又は周皮の一部を除いた樹皮を桂皮といいまたその若枝を桂枝という
■配合処方例
桂枝湯
桂枝茯苓丸
小建中湯
苓桂朮甘湯
など
※生薬の解説は本やネットにいくらでも載っています。基本は大変重要ですので、基礎的な内容を知りたい方はぜひそちらを参照してください。ここではあくまで私の経験からくる「想像・想定」をお話しします。生薬のことを今一歩深く知りたいという方にとって、ご参考になれば幸いです。
桂枝・桂皮(けいし・けいひ)
シナモン。
この世にもしシナモンが無かったら、
漢方は生まれていなかったかもしれません。
東洋医学において桂枝(桂皮)はそれほど重要な生薬であり、
そしておそらく聖医・張仲景に、最も強烈なインスピレーションを与えた薬でもあります。
平たく言えば、血行を促す薬です。
その主成分たるシンナムアルデヒドには、毛細血管強化の働きがあると言われています。
そして東洋医学では陽気を補う(高める)薬だと言われており、
体を温め、冷えを除く、
さらに血行を上方向・外方向へと向かわせる効能があると認識されています。
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実際にそうだと思います。
質の良い桂枝には、舌がピリピリとひりつくほどの辛味があります。
人によっては顔が火照るほどの辛味ですが、
その辛味から桂枝を服用すると、体がカーッと温まる感覚があります。
しかし、そうであるならば一つ疑問が生まれます。
桂枝は「気の上衝」を治める薬です。
「気の上衝」とは、お腹から上に突き上げてくる動悸やほてりなどを指します。
ドクンドクンと胃や胸が突き上げられ、顔が火照ったり頭痛がしたりする症状です。
桂枝はこの火照りや突き上げる動悸を緩和させる薬です。
東洋医学ではそれが常識とされています。
しかし普通に考えてちょっとおかしい。矛盾があるのです。
気の上衝、つまりあたかも熱が上にあがってくるような症状に、
何故さらに上に持ちあげるような作用を持つ桂枝を使うのでしょうか。
強くのぼせている状態に、桂枝の辛味は逆効果な気がします。
むしろ下方向にさげる薬を使うほうが自然が気がします。
実はこの矛盾、桂枝の薬能を知る上で避けては通れません。
名著『薬徴』に曰く「桂枝、上衝を主治する」と。
吉益東洞もこの点を強く意識していたからこそ、
桂枝の主治を「上衝」と要約したのでしょう。
つまり上衝を治めるという事実そのものが、桂枝の薬能の本質に迫るのだと。
これをどう理解したら良いのでしょうか。
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想うに、
桂枝は陽気を高める薬に非ず、
陽気を「安定させる薬」です。
例えばガスバーナーはネジを締めてガスや空気の入りを少なくすると火が不安定になります。
ボッ、ボッと、火が突発的に噴き出すようになります。
この不安定な火が気の上衝だとするならば、
ネジを開いて火力を強めてあげると、炎は安定する。すなわち上衝が治まります。
桂枝はこのような機序で火を安定させ、上衝を治めているのではないかと。
下腹部・腹部・胃部・胸部・顔面頭頂という一本の大道、
そこに陽気を通すことで、火を安定させる。救ける。
つまり桂枝は、あくまで火が不安定という場において使う薬であって、
すでに火が弱いという時に使う薬ではありません。
故に桂枝は少陰を鼓舞すること能わず、
主たる場は太陽にある。
そして昇発の道が安定すれば、他薬も須らく体を走ります。
諸薬を先導し、体の隅々にまで到達させる。
浅田宗伯曰く「其の意温補に止まらず、要は宣通と嚮導とに在り」と。
そして桂枝は本と解肌と為す。
気の大道を安定させるという薬能こそが、これを体現しています。
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東洋医学から見た人の構造とは、
一本の太い幹が体を貫いていると考える。
その幹たる大道を安定させる薬であるからこそ、
桂枝は衆方の祖たる桂枝湯の名に冠され、
多種多様な加減を許容する薬になった。
そう考えてみると、
なるほど。思い半ばに過ぎます。
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