■生薬ラテン名
ASTRAGALI RADIX
■基原
マメ科キバナオウギ Astragalus membranaceus Bunge 又は Astragalus mongholicus Bunge(Leguminosae)の根
■配合処方例
黄耆建中湯
補中益気湯
防己黄耆湯
当帰飲子
など
※生薬の解説は本やネットにいくらでも載っています。基本は大変重要ですので、基礎的な内容を知りたい方はぜひそちらを参照してください。ここではあくまで私の経験からくる「想像・想定」をお話しします。生薬のことを今一歩深く知りたいという方にとって、ご参考になれば幸いです。
黄耆(おうぎ)
補気・利水・托膿の聖剤、黄耆。
元気が無い人の疲労回復薬として、
汗をかきやすい人への止汗薬として、
また治りきらない化膿や傷口を治す皮膚治療薬として、
古くから使われ続けてきた薬です。
始めて聞く人は、
疲労・汗・皮膚と、たくさんの効果があるんだなと思われたかもしれません。
ただし全く別の効能があるというよりは、
ある一つの主とした効能が、様々な薬能を引き出していると考えれれている印象があります。
しかしその主たる効能とは何か、その答えが言う人や時代によって違います。
けっこうはっきりと分かれています。
そういう意味で、黄耆は分かりそうで分かりにくい、解釈の難しい生薬です。
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まずは最もオーソドックスな見解から。
黄耆の主たる薬能は「補気」です。
気を補う薬といえば黄耆。特に中医学的な考え方でいえば、黄耆は補気薬の最たるものです。
『本草備要』では補気薬として最初に黄耆を挙げています。
『衆方規矩』では気虚・肺虚には黄耆を加えるよう指示しています。
黄耆が補気薬であることは、今でも常識として通用していますが、
それを全く言わない人もいました。
江戸時代の名医、古方派の頭目・吉益東洞です。
東洞が書いた『薬徴』には次のように書かれています。
黄耆は肌表の水を主治す、と。
主たる薬能は「利水」だと示唆しました。確かに黄耆は、黄汗や自汗といった汗の異常にしばしば用いられます。
さらに身体に湿気が降りかかることで起こる「湿病」においても、
黄耆は主たる生薬の一つです。防己黄耆湯がそれを体現しています。
補気とはまた違う視点ではありますが、確かに一理ある。
古今東西、ここまで黄耆の薬能にはっきりとした解釈の違いを見せつけた臨床家も珍しいと思います。
「補気」と「利水」。
これらが黄耆にとって欠くべからざる薬能であることに疑いはありません。
しかし私の考えは少し違います。
この二つでさえ、枝葉の薬能に過ぎないと感じています。
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想うに、
補気も利水も、そう言われている意味は理解できます。
しかし両者ともに黄耆の本質を突いているようには思えません。
私には黄耆が身体を「潤している」ように見えます。
体の外側、皮膚の隅々にまで、血流を、潤いを、滲み出させているように思えるのです。
潮が陸へと広がるように、雨水が乾いた水路に流れていくように、
体の内から外側へと血が満ち満ちていく印象。
その結果として、皮膚に滞る水が去り、体が軽くなり、肌に血色が戻って傷口を回復しているのではないかと。
つまり補気も利水も生肌托膿も、「滋潤」という効能がその基盤になっているように私には思えます。
昔いつまでも閉じない傷口に悩んでいた患者さまに、
当帰建中湯を使うも良くならず、
帰耆建中湯にしたらみるみるうちに回復した。その経験を得て以来私は、
枯燥した患部が潤い、生きた肌へと戻ってきたその様子を見て、
これが黄耆の薬能かと驚くとともに合点がいきました。
黄耆はおそらく血を伝えている、潤いをつけていると。
そう思っていたら何のことはありません。
名医から見れば当たり前こと。
驚くことでもない、当然のことだったようです。
曰く「黄耆は則ち滋潤」と。
曰く「能く表を實す」と。
黄耆の薬能を補気とは一切言わず、
それでいて利水も托膿も滋潤・表實の一端に過ぎないと。
後世、古方と時代を経て後に勃興した、
幕末・折衷派の名医・浅田宗伯の言葉です。
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