人と処方

2022年09月14日

漢方坂本コラム

当薬局のコラムでは、

「よく読まれているコラム」という欄があって、

最も読まれている順に、コラムのタイトルが並んでいます。

日常あまり確認しないものの、

近頃見た時に、おやっと思いました。

「漢方処方解説」が、1位から5位までを埋めていました。

私の処方解説は、ちょっと独特だと思います。

それでも見てくれているんだなと、感謝の気持ちでいっぱいです。

そして、おやっと思ったのには他にも理由があって、

漢方を調べておられる方々は、

病を調べるよりも、処方を調べることのほうが多いんだなと思いました。

漢方処方をお調べになる方々は、

おそらく、医療機関で出されたご自身のお薬を調べておられるのでしょう。

もしくは、ご自分で試してみようと思われているのかもしれません。

どちらにしても、気にはなるのは当然だと思います。

漢方薬の名前は、暗号のようなものです。

漢字の羅列で脈絡も感じられません。

私も、初学の時は読むことさえできませんでした。

慣れてくると意味も分かるのですが、

その薬効や使い方となると、本当に理解が難しいと思います。

そういう方々のために、書いているコラムですので、

お読みいただくことは、大変喜ばしいことです。

ただ同時に、少々危惧する所もあって、

漢方処方は、名前が同じだからといって、効果が同じとは限らないのです。

少し混乱させてしまうことになるかもしれません。

しかし、大切なことですのでお伝えしなければなりません。

漢方処方はたとえ同じ名前であっても、同じ薬であるとは限りません。

この点が、皆さまにとってはとても難しい所だと思います。

例えば桂枝湯という有名な処方があります。

この処方は、使う先生によって効果の出方が全く異なってきます。

○○先生の使う桂枝湯は良く効く。

そういう謎の効果発現が、漢方では往々として起こるのです。

例えば、今まで桂枝湯を飲んでも効かなかったという方が、

○○先生にかかったら同じように桂枝湯を出された。

いやいや先生、その薬は飲んだことがあるし、効かなかったよと。

それでも飲んでみたら驚くように効いた。

そういうことが、現実に起こることがあります。

この種明かしは、実は簡単です。

同じ名前の処方でも、内容が違うからです。

桂枝湯という処方は、名前が一緒でも全く異なるものが無数にあります。

なら同じ名前にしないでよと思うかもしれませんが、

それが通例というか、漢方では比較的、それが常識なのです。

例えば、主要生薬である桂枝はどこの産地のものを使うのか。

ベトナム産なのか、中国産なのか、

産地によって生薬の効果は全く異なってきます。

またエキス顆粒剤でもメーカーによって効果は変わります。

入っている分量がまず違います。また、その製法にもメーカー独自のものがあります。

そういう細かい部分が、漢方薬では大切なのです。

すべて「有機的な薬である」という側面が、漢方薬をそうさせています。

処方名というものは、

あくまで目安と思っていただいた方が良いと思います。

今述べたように、同じ名前でも内容が変わるというだけではありません。

処方の解釈や、見る視点によっても、使い方が変わってくるのです。

例えば半夏厚朴湯は、

咽に何かがつまって息苦しいという場合に良く使われる薬ですが、

先生によってはこれを胃薬として使います。

また咳止めとしても使いますし、人によっては手の痺れなどにも使ったりします。

なぜこのように使い方が変わるのかというと、

それはこの薬が「有機的な薬」だからです。

もっと言えば薬が有機的であるということだけでなく、

本質的には、人間が有機的だからです。

人の病を改善するため作られた漢方薬。

漢方薬の本来の目的は、人の有機性に働きかけるという点にあります。

だから、有機的な効能を発揮する薬を作らなければならなかった。

そうやって作られたのが漢方薬、だからこそ、

人によって働き方が違うのは、当たり前のことなのです。

私は時々、ハサミをカッター代わりとして使います。

あまり褒められたことではありませんが、そうやってもハサミは使えます。

そうできるのは、ハサミを固定したものではなく、違う視点で解釈しようとしたからです。

処方もあくまで道具。

だから、使う人の発想によって、さまざまな使い方ができるものです。

だからこそ、私は処方を知ることは、人を知ることだと思っています。

処方をじっと見ていると、たくさんの人たちが、想像できるものです。

そして、その人たちには、ある共通点が浮かんでくる。

それが、その処方が持つ、本質的な薬能なのです。

難しい話になってしまったかもしれません。

ただ、これが私が漢方処方に感じる、本当の所です。

そしてだからこそ、漢方処方をお調べになられる方々に申し上げたいことがあって、

できれば、自分にあった処方を探すのではなく、

自分にあった人(治療者)を、探していただきたいのです。



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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

※当店は漢方相談・漢方薬販売を行う薬局であり、病院・診療所ではございません。コラムにおいて「治療・漢方治療・改善」といった言葉を使用しておりますが、漢方医学を説明するための便宜上の使用であることを補足させていただきます。