当薬局のコラムでは、
「よく読まれているコラム」という欄があって、
最も読まれている順に、コラムのタイトルが並んでいます。
日常あまり確認しないものの、
近頃見た時に、おやっと思いました。
「漢方処方解説」が、1位から5位までを埋めていました。
私の処方解説は、ちょっと独特だと思います。
それでも見てくれているんだなと、感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、おやっと思ったのには他にも理由があって、
漢方を調べておられる方々は、
病を調べるよりも、処方を調べることのほうが多いんだなと思いました。
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漢方処方をお調べになる方々は、
おそらく、医療機関で出されたご自身のお薬を調べておられるのでしょう。
もしくは、ご自分で試してみようと思われているのかもしれません。
どちらにしても、気にはなるのは当然だと思います。
漢方薬の名前は、暗号のようなものです。
漢字の羅列で脈絡も感じられません。
私も、初学の時は読むことさえできませんでした。
慣れてくると意味も分かるのですが、
その薬効や使い方となると、本当に理解が難しいと思います。
そういう方々のために、書いているコラムですので、
お読みいただくことは、大変喜ばしいことです。
ただ同時に、少々危惧する所もあって、
漢方処方は、名前が同じだからといって、効果が同じとは限らないのです。
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少し混乱させてしまうことになるかもしれません。
しかし、大切なことですのでお伝えしなければなりません。
漢方処方はたとえ同じ名前であっても、同じ薬であるとは限りません。
この点が、皆さまにとってはとても難しい所だと思います。
例えば桂枝湯という有名な処方があります。
この処方は、使う先生によって効果の出方が全く異なってきます。
○○先生の使う桂枝湯は良く効く。
そういう謎の効果発現が、漢方では往々として起こるのです。
例えば、今まで桂枝湯を飲んでも効かなかったという方が、
○○先生にかかったら同じように桂枝湯を出された。
いやいや先生、その薬は飲んだことがあるし、効かなかったよと。
それでも飲んでみたら驚くように効いた。
そういうことが、現実に起こることがあります。
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この種明かしは、実は簡単です。
同じ名前の処方でも、内容が違うからです。
桂枝湯という処方は、名前が一緒でも全く異なるものが無数にあります。
なら同じ名前にしないでよと思うかもしれませんが、
それが通例というか、漢方では比較的、それが常識なのです。
例えば、主要生薬である桂枝はどこの産地のものを使うのか。
ベトナム産なのか、中国産なのか、
産地によって生薬の効果は全く異なってきます。
またエキス顆粒剤でもメーカーによって効果は変わります。
入っている分量がまず違います。また、その製法にもメーカー独自のものがあります。
そういう細かい部分が、漢方薬では大切なのです。
すべて「有機的な薬である」という側面が、漢方薬をそうさせています。
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処方名というものは、
あくまで目安と思っていただいた方が良いと思います。
今述べたように、同じ名前でも内容が変わるというだけではありません。
処方の解釈や、見る視点によっても、使い方が変わってくるのです。
例えば半夏厚朴湯は、
咽に何かがつまって息苦しいという場合に良く使われる薬ですが、
先生によってはこれを胃薬として使います。
また咳止めとしても使いますし、人によっては手の痺れなどにも使ったりします。
なぜこのように使い方が変わるのかというと、
それはこの薬が「有機的な薬」だからです。
もっと言えば薬が有機的であるということだけでなく、
本質的には、人間が有機的だからです。
人の病を改善するため作られた漢方薬。
漢方薬の本来の目的は、人の有機性に働きかけるという点にあります。
だから、有機的な効能を発揮する薬を作らなければならなかった。
そうやって作られたのが漢方薬、だからこそ、
人によって働き方が違うのは、当たり前のことなのです。
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私は時々、ハサミをカッター代わりとして使います。
あまり褒められたことではありませんが、そうやってもハサミは使えます。
そうできるのは、ハサミを固定したものではなく、違う視点で解釈しようとしたからです。
処方もあくまで道具。
だから、使う人の発想によって、さまざまな使い方ができるものです。
だからこそ、私は処方を知ることは、人を知ることだと思っています。
処方をじっと見ていると、たくさんの人たちが、想像できるものです。
そして、その人たちには、ある共通点が浮かんでくる。
それが、その処方が持つ、本質的な薬能なのです。
難しい話になってしまったかもしれません。
ただ、これが私が漢方処方に感じる、本当の所です。
そしてだからこそ、漢方処方をお調べになられる方々に申し上げたいことがあって、
できれば、自分にあった処方を探すのではなく、
自分にあった人(治療者)を、探していただきたいのです。
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