名医の空気

2022年08月16日

漢方坂本コラム

お盆の休みがあけて、本日から通常営業に戻っております。

皆さま、盆中はいかがお過ごしでしたか。

台風が来ましたね。天候が少々慌ただしかった連休でした。

皆さまが体調を崩されていないか心配しながらも、

私は盆中、基本的に家にずっとおりました。

持ち前の出不精を、いかんなく発揮しておりましたが、

東京時代にお世話になった先生に、久々にお会いする機会がありまして、

漢方談義に花を咲かせたことが、良い思い出になるお盆でした。

押しも押されぬ昭和の大家、大塚敬節先生。

その一番弟子と目された先生に、相見三郎先生がいらっしゃいます。

今回お会い出来た先生は、その相見三郎先生のあとを継いで、臨床に当たられた先生。

相見先生の患者さんを引き継いで、治療に当たられていた先生です。

現在、青山で漢方専門のクリニックを開き、

15年前、私はその近くの薬局で、先生の処方箋を調剤しておりました。

学ぶものがたくさんあり、また勉強会にもたくさん参加させていただきました。

当時の自分はまだ駆け出しで、先生のおっしゃることをノートに取ることで精一杯でした。

穏やかなお顔と、軟かい物腰。

患者さんのみならず、すべての方から慕われるその雰囲気は、一層まろみを帯びていらっしゃしました。

そういう名医とお話をできる機会は、私にとってかけがえのないものです。

今回も、たくさんの知識と逸話、そして臨床のヒントを頂くことができました。

漢方の技は、雑談の中で作られます。

漢方家同士が、軽く話をする。なんてことのない、簡単な会話の中で、漢方の技が作られていくのです。

臨床のヒントのようなもの。理論形成のきっかけに、なり得る種(たね)のようなもの。

だから漢方家の会話というものは、とてもエキサイティングです。

分かる人には分かる。そういう仕掛けが、ふんだんに散りばめられています。

私は師匠との何気ない雑談の中から、

本当にたくさんの知識を得ることができました。

ずっと漢方の話をしているわけではありません。

むしろ漢方とは関係のない、全然違う話をすることの方が多かったように思います。

それでもある時、ポロッと師匠の技のようなものに触れる瞬間があるのです。

おそらくその時の師匠の心持ちには、「気がつくかい?」という、一種の試しみたいなものがあったと思います。

漢方家は、会話を大切にします。

何気ない会話ほど大切です。虚心坦懐、広く平らな心で話を感じ、興味をもって耳を傾けるのです。

今回お会いした先生も、会話をとても大切にされる先生です。

そして私の師匠もまた、会話をとても大切にされています。

会話の中で、技を磨いてきたからです。皆、雑談の中で、生きた知識を教えられてきたからです。

それは漢方家同士の会話だけではありません。患者さまとの会話も、同じです。

何気ない、目的のない会話。そういう雑談から、患者さまのことをよく知るきっかけが、多く散りばめられているものです。

私は治療に困ったときに、わざと患者さまと雑談をするようにしています。

どんな生活をされているのか、日々どのようなことに興味を持たれているのか。

何を考え、何に辛く思うのか。楽しいと思うこと、嬉しいと思うこと、そういう雑談が、ときに治療に直結するヒントを導くことがあります。

なかなか時間が取れないことも多く、そうそう出来ることではないのですが、

本当は、一見治療には関係ないことであっても、私は患者さまのことが知りたいと思っています。

今回、久々にお会いした先生から、改めて話をすることの大切さに、気付かされました。

まだまだ未熟だと感じさせられた一方で、穏やかな名医の空気に、触れることができました。

そしてそれは、名医だからこそ漂わせることができる空気。

機器を使わず、人を把握しようとしてきた漢方だからこそ、

会話に望むその心持ちに、名医の貫禄が表れるのだと思います。



【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら

※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。