ちょっと思い出話。
漢方薬の勉強がただただ面白くて、
端から本を読み漁っていた時代。
多分25、6歳の頃だと思うのですが、
本を読むたびに漢方家ってかっこいいなーーっと憧れのようなものを日々感じていました。
その頃の私はまだ患者さまをみてはいなくて、
ただ本の中にある世界に憧れていた。
昭和時代には漢方界のスターが沢山いて、
そういう人たちが残した本から、様々な衝撃を受けては逐一感動していました。
例えば山本巌(やまもといわお)先生の著書『東医雑録』にあるこの言葉、
「カゼは初発(はじめ)に一服で治せ」には心底シビれた。
漢方の基本中の基本である風邪治療、
名医となれば、初めに一発。・・・なんてかっこいいんだと、強い感銘を受けました。
この言葉はけっこう有名で、
当時お会いする先生方も、「漢方家たるものカゼは一服で治せなきゃだめだよ」と公言されていました。
それこそが漢方家としての常識。
私の漢方家のイメージは、こうやって憧れと伴に形作られていったのです。
しかし、一人だけ、
違うことを静かに語られる先生がいらっしゃいました。
「カゼは一服で治せって、あれ、あるでしょう。
あれはね、臨床家の言葉じゃあない。
一服で治すのが臨床家じゃなくて、何服で治すかを見極められるのが臨床家なんだよ」と。
脳天に衝撃を受けたのを、今でも覚えています。
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私の漢方家のイメージは、憧れと伴に形作られました。
何度も何度も塗り替えられる憧れ。
そうやって色濃くなったからこそ、まっすぐに漢方の道を進むことが出来ました。
何服で治せるのかを見極めることこそが臨床家。
師匠に言われたこの言葉は、今思い起こせば当時の私を一変させた大切な名言です。
そしてその先、何度も何度も憧れを抱くことになります。
その一つ一つが重なっていく。そうやって、今の私に繋がっています。