漢方治療の経験談「不眠症・睡眠障害治療」を通して

2023年03月24日

漢方坂本コラム

漢方に睡眠導入薬はありません。

脳の働きを直接抑制させて、意識をシャットダウンさせるような薬はありません。

したがって即効性をもって眠らせるということは難しい反面、あくまで身体がもともと持つ「眠りへと向かう力」を引き出しながら自然な眠りを導いていきます。

眠りは日中の運動、適切な食生活など、からだ全ての活動が順調に関連した結果として起こります。

漢方ではこの関連に着目します。つまり単に眠らせるという治療ではなく、あくまで体に備わる眠りのリズムを導くという手法を取ります。

したがって、不眠に良く使われている漢方薬を頓服的に服用しても眠れるようにはなかなかなりません。

例えば不眠治療で有名な酸棗仁湯さんそうにんとう温胆湯うんたんとう抑肝散よくかんさんなどを無作為に飲んだところで、眠れるようにはならないというのが臨床の現実です。

そして眠りの改善は生活の見直しにある、というのが大前提です。

故にただ眠りたいという場合、例えば明日は大切な用事があるのでどうしても寝ておきたいとか、旅行による時差ボケでリズムが乱れてしまったので一時的に眠れるようにしたい、という場合であれば、病院で睡眠導入薬を処方してもらうのは有効な一手だと思います。昨今の睡眠導入薬は、副作用の少ない良い薬が多く用意されています。

とはいえ生活の見直しをしても眠れない、日中ちゃんと活動していても眠れない、いくら疲れていてもむしろ覚醒してしまい眠れないという方は実際に多くいらっしゃいます。

そういう方では睡眠導入薬を飲んでも眠れなかったり、また眠れたとしても一時しのぎになってしまい、その場合良い薬が多いとはいえ継続服用は習慣性が気になる所です。

そういうケースでは、やはり漢方治療を一度試されてみるべきだと思います。

適切な生活指導を含めてちゃんと治療を行えば、最終的には漢方薬を含めたあらゆる薬に頼らなくても、自分で眠れるようになるものです。

ただし先で述べたように、単に不眠に良いとされる漢方薬を服用したところで効果は表れません。

これはどうしても仕方がないことで、なぜならばもともと、漢方処方がそういう作られ方をされていないからです。

漢方における不眠治療は、不眠という症状に惑わされないことが実は重要で、お体の状態を総じて把握することで見えてくるものに対してちゃんとアプローチすることが大切です。

そういう意味で不眠治療では、東洋医学的見識の総合力が求められるという印象があります。

例えば、不眠に伴いある種の「疲労感」を伴っていたとします。

普通、疲れれば疲れるほど眠くなるものですが、逆に疲れるほど眠れなくなるというケースがあります。

そうであるならば、まずはこの疲労を取るための手法を考えなければなりません。

疲労といっても多くの状況があり得ます。そこで的確に疲労を把握し、治療を施すことで、結果的に「疲れれば心地よく眠れる」という状態へと向かっていきます。

また例えば、腹いっぱいになれば眠くなるというのは普通のことですが、そういう時の睡眠は質が悪くなります。寝つきは良いのですが、眠りが浅くなります。

腹いっぱいになってすぐ寝たら、夜中に起きてしまったり、朝起きても疲れが取れていないということは良くあることです。

であるならば、すぐに胃に負担が生じてしまうような胃腸機能の乱れがある方ではどうなるのか。自然と眠りが浅くなるという現象が起きてきます。

そういう場合、胃腸の乱れを取ることで眠りが良くなるということが実際に起こります。つまり眠れないという症状に着目する前に、胃腸機能の乱れに着目しなければ治らない不眠もあるのです。

その他にも、漢方では各部身体の関連から導き出される多くの不眠治療があります。

体のここがこうなっていると眠れなくなるぞ、という身体のメカニズムを経験的に多く集積し、その理論が形となったものが漢方処方です。

つまり、漢方における不眠治療薬は、そういうメカニズムの把握の上で使わなければ効くはずがありません。

もし、本当にただ眠れないというだけなのであれば漢方治療は難しいでしょう。

ただ、そういうかたの方が少ないと思います。何らかの体の不調から眠れなくなっているケースが大半だと思います。

昔、ある先生から不眠治療は難しいという話を聞かされました。

確かにその通りと思う場面はあるものの、現在の私の感覚ではそこまで言うほど難治ではないという印象もあります。

ただし生活の見直し、というのは治療の前提条件になることは間違いありません。

また昼夜逆転の仕事を長く行ったためにどうしても眠ることができないとか、お年を召した方の不眠というものは確かに難しい不眠に属していると思います。

ただ実際には、睡眠薬を飲まなくても眠れるようになったという方も相当数いらっしゃいます。

これは私だけの経験ではなく、漢方を専門に扱っている医療機関であれは同じだと思います。

やってみる価値はある、というのが私の印象です。

見立てが重視される病である以上、漢方に精通した医療機関におかかりになるべきだと思います。



■病名別解説:「不眠症・睡眠障害

〇参考コラム
□不眠症・睡眠障害 ~漢方薬で治しやすい不眠の特徴~

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