漢方治療の経験談「気管支喘息治療」を通して

2023年09月14日

漢方坂本コラム

喘息治療には永い歴史があります。

漢方の聖典『傷寒論しょうかんろん』や『金匱要略きんきようりゃく』において、既に喘息治療は記載されています。

さらに我が国では江戸時代にもかなりの治験が重ねられました。その流れのまま、昭和時代でも相当数の治療例が残されています。

その手法は現在においても色褪せないものが多く、先代の教えがそのまま適応できることは大変ありがたいことです。

そういう意味でも喘息は、漢方によって改善しやすい病だと言えます。

喘息における漢方治療の要綱を述べると、漢方では「本治ほんち」と「標治ひょうち」とを分けることが基本です。

「本治」とは喘息を起こさない体へと導く治療です。一方「標治」とは生じている喘息発作を一時的に治める治療です。

先ずはこれを区別しなければなりません。ただし実際には、「標治」は西洋医学でも行うことが可能です。

したがって漢方では「本治」に標準を合わせることが多い。完治に導く「本治」がちゃんと行うことが大切で、現代の漢方治療では「本治」で腕の差が表れるといっても過言ではありません。

喘息の本治薬として有名なのは、柴朴湯などの柴胡剤や、苓甘姜味辛夏仁湯などの甘草乾姜剤でしょう。

これらで良い場合ももちろんあります。ただ、それだけで済むかと言われれば、それは絶対に「否」だと言えます。

そもそも「本治」と「標治」、これらの基本的な違いは何かというと、標治は「病」特異性が高く、本治は「人」特異性が髙いということです。

「標治」ではある程度使うべき処方が決まってきます。喘息発作という状態が、ある程度の範疇で、誰であっても決まった形をもって生じてくるからです。

まず麻黄を使えるかどうかを見極めます。そして喘息発作の勢いを弁別します。さらに発症要因と薬に耐えうる体の状態を鑑みること。時に大黄が必要となることもあります。

いくつかの要素を見極めさえすれば、それによって治療薬は自ずと決まってきます。「喘」という病の特異性が強く生じている分、ちゃんと「喘」治療の流れに乗せて考えることが重要。裏技はそれほど必要ではありません。

標治をちゃんと行えることは漢方の基礎だと言っても良く、逆に言えば、基礎力が試される治療です。特に麻黄の見極めや石膏の有無などは、基本中の基本に属します。

ただし「本治」ではそうはいきません。「人」は非常に個体差が大きく、喘息を生じる根本的な理由は東洋医学的に見れば人によって千差万別です。

その範囲は非常に広く、とてもではありませんが教科書的な「喘」の治療範疇だけではまかないきることができません。

したがって実際の臨床では「喘」の治療から離れて、より総合的に人体を見据えなければなりません。

例えば腹痛の薬として有名な桂枝加芍薬湯で完治する喘息があります。

また頭痛の薬として有名な呉茱萸湯が必要な場合もあります。

また、めまい治療で有名な苓桂朮甘湯や真武湯はもちろんのこと、柴胡加竜骨牡蛎湯や温胆湯、加味逍遙散や桂枝茯苓丸に至るまで、喘息と検索しただけでは想定できない処方を念頭に置いておく必要があります。

ただし、何でも使っていいわけではありません。当然、外してはならないポイントがあります。

胸に起こるというのがまずそのポイントの一つです。したがって選用する薬にも、胸に効かせる機構が備わっていなければなりません。

さらに喘息の病態は、歳を経るごとに複雑化していく傾向があります。大人の喘息では病態が絡み合っているケースが多いものです。

したがって治療はやはり早い方が良く、成長期の時点で対応することが大切だと感じます。ただし難易度は上がるものの、大人の喘息であっても漢方薬を試してみるべきだと思います。東洋医学に精通している先生であれば、その複雑さをシンプルに、要点を突いて、治療する手法を持たれています。

畢竟、喘息は要点さえおさえれば治しやすい病だと言えます。

複雑に絡み合った病態は存在します。ただしそういう時ほど一般的な喘息治療に拘らず、より広い視点で「人」を見るという手法が活路になります。

「本治」・「標治」ともに、漢方では多くの薬が用意されています。放っておくと呼吸困難などの危険性を伴う病だからこそ、要を得た漢方治療を是非お試しいただきたいと思います。

特に私見では、継続使用しているステロイド配合の吸入薬のために副鼻腔炎や上咽頭炎を併発している方が多いと感じます。故に上気道の炎症を生じている方であれば猶更、治療の選択肢に漢方を取り入れるべきだと思います。



■病名別解説:「喘息・気管支喘息・小児喘息

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