漢方治療の経験談「無月経治療」を通して

2022年01月24日

漢方坂本コラム

漢方治療をお求めになる方は、比較的に女性が多いものです。

当薬局でも今まで多くの女性から、治療のご相談をお受けしてきました。

その中で感じるのは、女性はほとんどの方が、大なり小なりの繊細さを抱えていらっしゃるということです。

そして、女性にとって月経はその最たるもの。体の中でも特に繊細な働きであるがゆえに、たくさんの方が月経にまつわる不調を抱えておられます。

数ヵ月、時には数年に及んで月経が閉止している。そういう無月経に悩まれている方は、かなり多いという印象が私にはあります。

無月経にもいろいろあります。18歳以上になっても月経が始まらない原発性無月経と、今まで来ていた月経が来なくなってしまった続発性無月経、そして背景に何らかの病が関与しているものもあります。

様々なケースが考えられるものの、漢方治療においては基本的には単純です。無月経は子宮部の血液の流れがストップしている状態と考える。そして、それを如何に通すのかを考えます。

そう考えると子宮部の「瘀血おけつ」によるものと考えて、駆瘀血剤くおけつざいを第一候補に考えるというのが定石です。

しかし、その定石では難しい場合が多い。昔、父に言われました。「駆瘀血剤で、無理やり来させようとするな」と。確かにそうです。単に血が溜まっているというイメージだけでは、私の経験では改善できないケースがたくさんありました。

子宮だけの問題として片付けてはいけないということです。

確かに無月経は子宮部の血流障害に起因していると思います。桃核承気湯とうかくじょうきとう桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがんなどの駆瘀血剤で改善するものも多く存在します。

しかしその原因を子宮のみに決めてしまうことは間違いです。血がせき止められている理由を、もっと全身に広げた視点で観ることで解決できる手法があるからです。

たとえば消化管活動の乱れが無月経に関与していることがあります。浅田宗伯あさだそうはくは無月経に柴胡桂枝湯さいこけいしとうを使っていて、実際に私もこのやり方で無月経を改善したことがあります。

「婦人心下しんか支結しけつして閉経する者に用ふ」と。これなどは、胃腸活動と子宮活動とがつながっていることを表す良い例だと思います。

胃腸と子宮、両者は構造的にはもちろんつながってはいませんが、実際の臨床においては、胃腸への配慮が子宮に影響を与えることがしばしば起こります。

おそらく、筋肉活動を介して血流としてつながっているのだと思います。そんな治り方をするからです。例えば胃もたれがなくなって便秘が無くなったと同時に月経が来たとか、お腹が冷えて下痢することがなくなったと同時に月経が来たとか、枚挙にいとまなく、そういう経験が多くあります。大腸と子宮とがかなり近く隣接していることを考えれば、私には何ら不思議ではないと思えます。

また消化管だけではありません。心・肺機能の弱りが無月経の原因になっているケースも多いものです。

心肺機能の弱りからくる浮腫みを目標に、しかるべき薬を出し、それが改善されるのと同時に無月経が治るということがあります。

そういう経験を経た後に古典を紐解いた時、「血が動かなければ水を動かせ」という文言を発見した時は、深く合点したと同時に鳥肌が立ったことをおぼえています。

無月経はからだ全体の調節を行うという、漢方治療の特徴との相性が良い病なのではないかと、私は感じています。

ただ、やはり難しいケースもあり、長く時間がかかってしまったケースもあるし、結局治せなかったケースも勿論あります。

時間がかかるケースとしては、ダイエットによる過度な食事制限を行ってしまったことで無月経になった方があげられます。

それでも治せるケースも勿論ありますが、無理なダイエットはしない方が良いです。もしダイエットによって無月経になってしまったら、放っておかない方が絶対に良いと思います。

特に体重が戻らないという方であれば、時間が経てば経つほど治療が長引く傾向があります。女性にとっての繊細な機能であるからこそ、月経の不調はお体全身の不調に関わるものだと理解してください。

通常、西洋医学では状況に合わせて様々なホルモン剤を使います。それで月経が自然かつ問題なく来るようになるのであれば、ホルモン治療はその方にとってとても有意義な治療方法です。

しかし、ホルモン剤を使っても来ない方、ホルモン剤を飲めば来るが止めたら来ない方、またホルモン剤を飲むと副作用が出てしまう方などがおられます。

さらにホルモン剤によってやや複雑な病態を形成してしまうこともあるため、私見では西洋医学的な検査をちゃんと行った上で、漢方治療を先に、もしくは同時に試された方が良いのではないかなと感じます。



■病名別解説:「無月経

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