漢方治療の経験談「産後の不調」を通して 2

2024年05月09日

漢方坂本コラム

漢方では、どのような病を治すことができるのか。

私は初学のころ、漢方で治せる病はそれほど多くないだろうなと思っていました。

しかし実際には、そんなことはありませんでした。

西洋医学で十分に改善できない病が、この世には少なからずあり、

それが漢方治療によって実際に改善できるということを、

今まで多く目の当たりにしてきました。

その中でもし、最も漢方治療をお勧めできる病は何かと問われたら、

私は「女性における産後の不調」と真っ先に答えます。

なぜならば、

他の医療よりも有効性が高く、

かつお困りの方が多い不調であり、

さらに治すことが可能であるにも関わらず、

非常に放っておかれやすいという点。

そうであるが故に私は、産後の不調と真っ先に答えます。

赤ちゃん中心の生活の中で、

当然、全神経が赤ちゃんへとフォーカスされている時期。

だからこそ今一度、ご自身の体調を省みて欲しい。

なぜならばそれこそが、赤ちゃんのためでもあるからです。

東洋医学が生まれた漢の時代、

その時からすでに、妊娠中・産後の病の治療方法が存在しています。

その原典『金匱要略』に割かれた記載が二編に及ぶことからも、

古の時代から、妊娠・出産・産後は女性にとって不調を生じやすい時期だと認識されていたことが分かります。

事実、妊娠出産はそれこそ命を落としかねない人生の一大行事でした。

母子ともに正常に妊娠・出産させるという想いは、人類の根本的な願いです。

その結晶として、産婦人科領域の進歩があります。

今では西洋医学に任せておけば、ある程度の安全性が確立された状態で妊娠・出産を行うことができるようになりました。

妊娠・出産はそうです。

しかし、産後は違います。

産後は育児という身を削るハードスケジュールが待っています。

そして妊娠中・出産は、医療が全面的に支えてくれる一方で、

産後・育児はそういうわけにはいきません。

基本的に自分たちだけでやらなければなりません。

寝れない・食べられない・人によっては動けないし排便もままならない、

そういう状態で育児をこなしていかなければなりません。

しかも、そうしなければいけないという責任感が自然に芽生えます。

理屈ではなく本能として芽生える。この責任感さえも、時に自分の気持ちに負担をかけます。

産後、これら身を削る育児を行っている中、

いくら体調が悪いと思っても、普通は「当たり前のこと」として認識されてしまいがちです。

赤ちゃんに起こされて寝てないから疲れて当たり前だ。

こんなに大変なんだから、気持ちが不安定でも当たり前だ。

ご自身も、周りの人たちも、多少の事なら当たり前の事として認識されます。

たとえ病院でも、貧血などの検査上の異常が無ければ、取り立てて治療を行うことはないでしょう。

しかし、違います。

決して当たり前ではありません。

産後の不調の多くは、改善することが可能です。

そして私には、決して放っておいて良いものにも感じられません。

西洋医学が妊娠・出産に力点を置いているのに、なぜ産後にもそれを発揮しないのか、不思議でなりません。

妊娠・出産・産後・育児は、全てが一繋がりです。

一連の流れとして繋がっています。お母さんは生命を削り続けています。

例えば妊娠中に母体に不調が起これば、当然赤ちゃんにも影響が及びます。

産後もこれと全く同じです。お腹から赤ちゃんが離れたとしても、お母さんの不調はまだ、赤ちゃんに多大な影響を与えます。

お母さんは赤ちゃんと見ると、心からこう感じると思います。

この子は私が命に代えても守る、育てると。

身を削る意味がある。理屈ではなく本能としてそう感じる。

だからこそ、知っておいて欲しいのです。

赤ちゃんの身を守り、育てていくには、まずお母さんの体調こそが全てだということです。

残念ながら、お母さんがご自身の身を削りながら、

赤ちゃんを守る・育てることは不可能です。

お母さんの体調こそが、赤ちゃんにとっての全て。

お母さんの母乳、お母さんの鼓動、

お母さんの笑顔や声、お母さんの体温や血流、

それらを赤ちゃんはいつだって感じていて、

それこそが赤ちゃんを形作り、育てる刺激の全てになります。

だからこそ、ご自身の体調を省みることが必要です。

全神経が赤ちゃんに集中しているからこそ、フォーカスを赤ちゃんだけに絞らない。

もう少し広く、赤ちゃんを抱っこする自分自身も含めて見てあげてください。

産後の不調は、放っておくべきではありません。

疲れやすい・眠れない・浮腫みやすい・食欲がない、

イライラする・泣きたくなる・風邪をひきやすい・母乳の出が悪い、

胃がもたれる・下痢をしやすい・便秘しやすい・お腹が張る、

細かいことでも結構です。決して放っておくべきではありません。

漢方治療がお勧めできます。

たとえ症状が無かったとしても、産後というだけで漢方を服用した方が良いと思います。

事実、昔の人たちはそういう飲み方をしていました。

出産したら漢方を飲む。そういう文化・風習があったのです。

産後に飲むべき薬はいくつか種類があります。

そこは基本的に専門家に一度見てもらった方が良いと思います。

産後と言えども人によって状況は千差万別です。

その個人差を見極められる漢方の先生におかかりください。

もう一度言います。

産後にもし体調不良を感じたら、

ぜひ漢方治療を考えてみてください。

ご自身のため、そして赤ちゃんのために。

そしてお二人を優しく支える旦那さまと、

ご家族の未来のために。

育児が楽になると思います。

そしてお母さんが楽なら、赤ちゃんも楽になります。

少しでも体調不良を感じたならば、

ぜひ、漢方治療を考えてみてください。



妊娠中・産後の不調

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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