漢方治療の経験談「自律神経失調症治療」を通して

2021年07月24日

漢方坂本コラム

現在、漢方治療を行う医療機関の多くが「専門分野」を打ち出す時代になりました。

不妊症治療を専門としたり、皮膚病治療を専門としたり。

各先生方がそれぞれ得意とする分野を専門的にみるという形。患者さまにとっても、おかかりになる上でわかりやすいと思います。

一時代前では、あまり見られなかった傾向です。漢方家は病を選ぶことがそれほど出来ませんでした。

どこへ行っても治らず、最後の最後になって初めて漢方を選ばれるという患者さまが多かったからです。今のように漢方が広く認知されている時代とは違い、漢方治療にたどり着く患者さまが自体が、昔はそれほど多くはありませんでした。

だから、当時の漢方家は何でもみました。治せるかどうかはともかくとして、どんな病であろうが一縷いちるの望みをかけて漢方治療を行いました。

昭和漢方の書籍からは、先生方のそんな気概を読み取ることができます。格闘技で言えば、無差別級といった所でしょうか。それが良いことかどうかは置いといて、とにかく漢方を生業とするならばそうでなければやっていけないという時代があったのです。

そしてどうやら当薬局は、そんな古い時代のスタイルを未だに続けているようです。

ご相談の内容が多岐に渡るのです。世代交代を経てもあまり変わりません。

婦人科・消化器・皮膚・整形・心療内科・循環器・自己免疫疾患・脳神経内科など、実に様々な病にお悩みの患者さまがご来局されます。おそらく、大都市に比べて漢方専門の医療機関が少ないという理由もあると思います。

父からこの薬局を受け継いだ時、私はこの病種の広さに本当に苦労しました。

各疾患で治療方法が当然変わります。そこに対応していくだけで、毎日いっぱいいっぱいという状態でした。

ただ、ある時から何となく自信がついてきました。

努力の甲斐あってか、各疾患ごとの治療方法が分かってきたからというのは多分あるでしょう。

しかし、自信がついた理由はそれだけではないと思います。

疾患毎の治療を頭に置きながらも、疾患にとらわれず、人を観ることができるようになってきたからだと感じています。

漢方では同じ薬を様々な病に使います。

例えば大柴胡湯だいさいことうは便秘の薬(下剤)として有名です。しかしその他にも、胃痛や胆石症、更年期障害や月経前症候群、片頭痛やニキビなどにも使います。

そういう運用が可能であるということは、一見全く異なるこれらの病にも共通する何かがある、ということです。

そういう病の見方ができるかどうか。各疾患にとらわれない、人の見方というものが漢方治療ではどうしても必要になってくるのです。

おそらく、自律神経です。

漢方薬が主として整えているもの。それは身体の自律神経であり、そこから派生する血行循環です。

辛いものは体がカーッと温まる、酸っぱいものは体がキューッと引き締まる、そういう単純な実感から体の変化を紐解いてきた、

そうやって体の様々な場所が関連し、作用し、反応し合うことを知っていったのだと思います。

人が生きている間中、必ず働き続ける活動。そしてどんな病であっても、必ず関与してくる活動。

そういう全ての活動が統括して機能する働きを経験的に紐解いていった結果、

西洋医学でも未だ解明しきれていない自律神経活動を、独自の視点から解き明かしてきたのではないかと感じるのです。

自律神経失調症には漢方薬が良いとされています。

これは、確かにそうだと感じます。不安感や動悸、めまいといった西洋医学では太刀打ちできない症状であっても、漢方薬をもって改善することが確かに可能です。

なぜそんなことが出来るのか、不思議に感じられるかも知れません。ただし私から言わせれば、そもそも漢方薬は自律神経を媒介として効果を発揮する薬なのです。

自律神経抜きでは漢方は効果を発揮できません。そして自律神経を調節するからこそ、あらゆる病に対応することができます。

自律神経には要所がある。漢方によって調節するべき着眼点がある。

それが分かってきた時、私はどのような病であっても漢方理論を駆使できると感じられるようになりました。

それが、私に自信を持たせた理由だと思います。

自律神経が関与していない病はない。だからこそ、様々な病を改善し得る可能性が、漢方薬には秘められているのだと感じます。



■病名別解説:「自律神経失調症

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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