関東では、2月らしい雪。
と言えばそうですが、今回の雪雲はゆったりと大地を覆う、重い重い低気圧でした。
雪が降る前の先週から、徐々に体調不良を訴える方が多くなり、
それが先週末に爆発します。そして雪が降ってしまえば、比較的安定へと向かっていきました。
今までのコラムで散々お伝えしたきたことですが、天候の波(気温や気圧の急激な変化)は自律神経に負担をかけます。
自律神経が安定している方なら問題ありません。しかし普段から乱れやすい方・敏感な方であれば、それは強く体に影響を与えます。
自律神経は身体の様々な活動を調節している器官です。自律神経が関与していない部分は無い、と言っても過言ではありません。
したがって自律神経の乱れといっても、実に様々な症状が発生します。そして最も弱い部分に症状が出ます。
例えば胃腸活動が弱い方であれば、真っ先に胃もたれや胃痛、腹の張りや下痢・便秘として表れ、
また心肺が弱い方であれば動悸や息苦しさや不整脈、また頭部血流が乱れている方であれば頭痛やめまい・耳鳴りを助長させます。
そして何より苦しいのが、これら身体症状と同時に、精神的にも症状を悪化させるということです。
不安や焦り、ソワソワとした落ち着かなさ、またイライラや抑うつ感、不眠にいたるまで。
身体症状の助長と精神症状の悪化。これらが同時に来る、というのが自律神経失調の最も厄介な側面です。
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数週間前に最も気になっていた症状は改善した。でも違う症状がまた悪化してきている。
今度はこちらの方が気になってしょうがない。治したくて治したくて、いてもたってもいられないような絶望感に打ちひしがれる。
自律神経失調に伴う精神症状は、こういった「普段なら放っておけるような症状を放っておけなくなる」という形で発現します。
気になって仕方がない、苦しくて仕方がない、些細なことでも気になって仕方がない。治らないのではないかと不安で焦り、絶望を感じる。
これは、身体的な症状の問題というよりは、「放っておいても良いような、それほど重大ではない症状を、放っておけなくなる」という精神症状に強く起因しています。
この肉体面と精神面とが並行して起こるのが自律神経失調です。即ち、自律神経が整ってくれば、このメンタル面も自ずと落ち着いてくるものです。
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そもそも自律神経とは、身体が意識しなくても勝手に動いてくれている神経です。
つまり、意識することなく、放っておいても働いてくれているのが通常状態です。
すなわち放っておけなくなるという症状は、めまいや頭痛・動悸といった自律神経症状と同一線上にあります。
自律神経失調が緩和していくのと同時に、このような精神的傾向も解決していきます。
自律神経失調が治ってくると、皆さんはどのようなメンタルになると思いますか?
私の今までの経験では、患者さまはこう言われます。
「不安はあるけど、そのうち平気になるから前より楽です」
「動悸やめまい・耳鳴りが起こることもあるけど放っておけます。無い時もあるので」
「そういえば、最近眠れているかもしれない。気になりませんでした」
皆さん放っておけるようになるのです。
それが則ち、症状が軽くなってくるということです。
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私の考えでは、自律神経が完璧に作動している、一切不安定にならない人間はいないと思います。
自律神経というのは体を変化させる神経です。すなわち、変化することが常であり、正常だということです。
その中で、完璧な変化を繰り返しているという人はいないと思います。どこかで変化に不安定さが出るものです。
そういう意味で自律神経失調というのは、体に致命傷を負うような深い病ではなく、あくまでありきたりな、当たり前に起こる可能性のある浅い病です。
ただし不快感が強い、というのが特徴です。
いきなり、前触れもなく、体の至るところに、不安や焦りといった精神症状を伴って、発現してくる病だからです。
さらに病院にいっても手のほどこしようがありません。検査で問題が見つからず、気にしないでいいよと言われる。しかし不快感が強いあまり、とてもじゃないけど放っておけずにはいられません。
ただ、治す術のある病だということは、知っておいてほしいと思います。
そして生活のリズムが崩れていたり、食事が乱れていたりすると、誰にでも容易に出てくる病でもあります。
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私が思うに漢方医学というのは、この自律神経の働きと、乱れの解除を、独自の視点から突き詰めてきた医学です。
『傷寒論』を始め、さまざまな古典に記載されている概念は、おそらく自律神経の働きを包括しています。
深く読めば分かるようになっている。『傷寒論』の序文にはそう書かれています。
簡単ではありませんが、術はあります。何千年も前から大切に残されてきた概念の中に、そのヒントが確実に残されています。
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■病名別解説:「自律神経失調症」